【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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霊峰の戦い④

 ジェノサイドはトルネロスを前に歯噛みした。

"ぼうふう"は止み、辺りは静かになってもジェノサイドの中の敗北の予感は止まらない。

ゾロアークの目論見がバレたことで、このポケモンとコジョンドが手持ちにある事がバレてしまった。

ゾロアークも工夫次第では手持ちに含まれないポケモンに化けることも出来るようだが、バトル以外での面倒事を避けることと、少しでもゲーム上のルールに則りたいという彼なりの気持ちの問題があった。そのため、手持ちのポケモンに限定して化けることを自分のルールとしている。

 

(どうする……)

 

 ジェノサイドは悩んだ。

今ここで存在が明かされているコジョンドを使うか、体力が一だけ残されたゾロアークを駆使するか、それともこれらとは別の大きな賭けに出るか。

どれも勝利には直結しない、無謀な戦略だ。

 

「お取り込み中すまないが、お前さんはこんな時でも勝つことを考えているのかね?」

 

 こちらを伺うような、バルバロッサの低い声だ。雑念が混ざってジェノサイドは考えるのをやめる。

 

「……何が言いたい?」

 

「お前さんは運良く私のポケモンを一体倒した。運が良いことにな。お前さんの手持ち六体と、私の手持ち三体という差がある事にはあるが、今のところいい勝負だと思っているな? 私はそうは思わないが」

 

「そんなに伝説のポケモンが倒されたことがショックだったか? 強がりもいい加減にしろ」

 

「私が言いたいのはそんなつまらん事ではないさ。……お前さんは今この状況においても、勝つ事を考えている。そうだろう?」

 

「だったら何だよ。おちょくってんのか?」

 

「有り得ないとは思うが……そうだな。万が一だ。万が一お前さんが勝ったとしよう。勝ったとしたら……その後はどうする? どう立ち回る?」

 

「……」

 

「お前さんは私を許すだろうか? お前さんの信念に背く行為を私はした訳だ。お前さんからしたらな。そんな私を……お前さんはこれまで通り組織に迎えてくれるだろうか? お前さんが許しても、他の仲間たちは許してくれるだろうか? 果たして……これまで通りとなるだろうか。全部水に流して無かったことにしよう、などとなるだろうか? どうもお前さんにはその気が感じられない。何度も教えたはずだ。戦いというものはその後の展望も隅々(すみずみ)に渡るまで考えておかないと失敗、もしくは泥沼化すると。忘れたのではあるまいな?」

 

 ジェノサイドは気分が悪くなった。

ここまで自分らや仲間、そしてこの世界を嘲り見下した人間が、この期に及んで仲間ヅラしている。

確かにジェノサイドはバルバロッサにはお世話になった。これまで何度も助けられた。だからその分助けたいと何度も思った。

だがこの男は、ジェノサイドという人間が何をしたら強く怒り、全てを投げ打つ覚悟で挑みかかって来るか、という特性を知りながらこんなふざけた行動に出た。とてもではないが許せるはずがない。

 

「私をお前さんたちがどう対処するか……それはいいとしてだ。これからも今までのような生活が、世界があると思うか? 甘ったれるなジェノサイド。深部(ディープ)集団(サイド)最強と言われたお前さんにとって未だに足りないものを教えてやろう。"覚悟"だ」

 

「覚悟だぁ? お前俺の隣に居ながら何も分かっちゃいねぇんだな。これまでに何人死んだよ? どれだけの仲間が死んだ? 高校で知り合った友達も死んでいったじゃねぇか。……なのに覚悟が足りないだと? 戦いひとつで何を得て何を失うか……そんなもん何年も前から知り得てんだよぉ!」

 

 叫びながらジェノサイドはポケモンをひとつ選んではそのボールを思い切り投げる。

そのポケモンは、勝ち目のない三つの選択のうちどれにも当てはまらないものだった。

 

「その程度の認識だからこそ何も知らない、足りていないと言っているのだよ! 少しは考えるといい。この戦いで私が勝った場合をな」

 

 ジェノサイドが繰り出したポケモンはエレザード。

正直このタイミングでは相性を除けば少々場違いなポケモンである。

だが、ジェノサイドにとっては思い入れのあるポケモンだ。常に対応ソフトである『Y』で対戦の際によく使う存在であるからだ。

 

「そんなモン必要ねぇ……。今ここでお前を止めなければ……"アイツら"の世界も壊される……。それだけは絶対に許せねぇし決して見過ごせない! テメェのふざけた目的だとか意味不明な主義主張になんぞ付き合ってられるか! それに全く関係の無い人間たちが……巻き込まれてたまるか!」

 

「ふむ、流石はジェノサイドだ。揺るがない……な。だが少しは頭の片隅にでも入れておくといい。お前さんが勝ってもこれまでの日常は戻らん。だが、私が勝っても私はお前さんを許そう。私は私のなんとしてでも叶えたい夢が果たせられればそれでいいのだからな」

 

「……もういい」

 

 ジェノサイドは腕を振るう。エレザードは呼応して走り出した。

身体は小さいがその分身軽で小回りが利き、そして素早い。

トルネロスなどとは比べ物にならない速さだ。

 

「そのまま懐に突っ込め!」

 

「させんぞ」

 

 トルネロスは大きな翼を広げるとゆっくりと羽ばたいた。

たった一回の動作では何ともないが、それが何度も重なると風の壁が出来、そしてそれは"ぼうふう"となる。

エレザードの進みは徐々に衰えてゆく。いずれ風に乗せられ、巻き上げられるのも時間の問題だろう。主導権を奪われてしまえば今度こそ何もせずに終わってしまう。

 

「姿勢だ! 姿勢を低くして風を避けるんだ!」

 

 それまで二足歩行で駆けていたエレザードは、そう言われて上半身を地面ギリギリにまで屈めては四足で進む。しかし、それでも隙間の無い風の塊の合間を縫うなどは不可能だ。

 

「"きあいだま"」

 

 バルバロッサがエレザードの進む方向へ指を差す。トルネロスは躊躇いも見せずに自身の気を込めた力の塊とでも呼ぶべきエネルギー弾を発射した。

ノーマルタイプを持つエレザードにとっては致命的だ。ジェノサイドは躱すよう指示しようとしたが、それよりも前に"きあいだま"は着弾する。

 

 エレザードの進む数歩先の地面へと。

固い土の上で爆発したそれは、大地をひび割れさせ、裂けさせ、抉る。

その衝撃はエレザードにも伝わる。

前方からの突風に加えて爆発が重なり、エレザードは遂に地上から足が離れた。

吹き飛んだエレザードはそのまま"ぼうふう"に巻き込まれ、遥か上空へと巻き上げられてしまう。

 

「クソっ……このままじゃエレザードも……」

 

 二度も自分のポケモンがトルネロスに弄ばれるのを眺めるというのは屈辱でしかなかった。

黙ってやられる訳にはいかない。

何も考えずにジェノサイドは叫んだ。

 

「エレザード! "10まんボルト"だ! とにかく放て!」

 

 無策であるのは承知だった。だが、思い付く限りの抵抗を続けなければ負けるのみだ。仮にトルネロス含むバルバロッサのポケモンが絶対に勝てる動きをするならば、その前提である対戦相手であるジェノサイドの"必ず負ける動き"を覆すしか無い。その前提に、トルネロスなどのポケモンにとって、"とても理解出来ない人間の思考"というものを強く訴える。些細な抵抗そのものも有効であると信じるしか無いのだった。

 

 エレザードの放った電撃は風の塊に掻き消されることはなく、辺りに撒き散らされる。

ジェノサイドの足元で輝けば、"うつしかがみ"の付近で落雷することもあれば、バルバロッサの足元で破裂音を立てることもあった。

 

「まさかお前さん……勝ち目が無いと分かって直接私や"うつしかがみ"を狙っているのか……?」

 

 それはバルバロッサにとっても恐怖の対象だった。

夢を叶えたいはずの自分がポケモンの技を生身で受けてしまえば無事では済まない。下手をすれば死んでしまうかもしれない。だからこそ、何としてでも自分の身は守らねばならない。それと同様に、"うつしかがみ"も破損させる事だけは避けたい。世界そのものが変化しているその証拠にして、己の目的が果たせるであろう重要なヒントが此処で失われてしまえば、バルバロッサにとっては勝負に負けたことと同等である。

 

「トルネロス! 一旦攻撃はやめろ、"ぼうふう"を起こすな!」

 

 バルバロッサはすぐに命令する。トルネロスもそれを受けて翼の動きを止めた。

風に乗ったエレザードも一旦は空中でピタリと止まると地上へと急降下していく。

 

 トルネロスの元へ。

 

 エレザードは足場を失った分自由度は低いものの、一直線へとトルネロスに突き進んでは電撃を放つ事が出来ればそれは問題では無い。対してトルネロスは無防備だ。

ジェノサイドからして見れば、バルバロッサが自ら作り出した隙でしかない。

 

「決めろエレザード、10まん……」

 

 ジェノサイドはなにか思いとどまるかのように、呪文の詠唱のような技の命令を止める。

バルバロッサにも動きがあったからだ。

 

「馬鹿め、こちらの事情を忘れたか」

 

 バルバロッサはチラリと"うつしかがみ"へと目をやった。タイムラグの無い交代である。

残りの控えであるランドロスを繰り出してしまえばエレザードの電撃はじめんタイプを持つこのポケモンには無効となる。隙を突いた攻撃が一転してガラ空きとなる。

 

 しかし。

 

「待てよ……何故今お前さんは命令を止めて……?」

 

 バルバロッサは不自然に命令を止めたジェノサイドを見る。

そして、彼は過去の記憶を思い出そうと懸命に頭を搾った。

ジェノサイドの行使するエレザードの技構成が何だったかを。

 

「まさか……"めざめるパワー"か!?」

 

 ついぞ確証を得られなかったが、今のジェノサイドならば、今のエレザードならば、トルネロスはおろかランドロスにも有効なこおりタイプの"めざめるパワー"を打ってきてもおかしくは無い。バルバロッサはそう判断した。

トルネロス自体には大したダメージは与えられないだろうが、交代先のランドロスにとっては痛手だ。

 

 交代は取り消す。トルネロスは場に留める。

バルバロッサがそのように念じるだけでそれは反映される。意に反して状況が変化するということは無い。

そして、それを見たジェノサイドも確信した。彼は叫ぶ。

 

「エレザードォ! そのまま放て、"10まんボルト"だ!」

 

「なんだと!?」

 

 バルバロッサは耳を疑った。

だがもう遅い。

エレザードの全身から稲妻が解き放たれた。

最高速で飛ばされた電撃はトルネロスの全身へと文字通り刺さる。

それを受けた伝説のポケモンは絶叫した。

 

「お前さん……っ、まさか……読んだのか? 交代読みの更なる読みを鑑みて……ポケモンではなく、私を見たと言うのか!?」

 

 それはポケモントレーナーの、戦う者としての(さが)なのだろうか。

数多の戦いを経験した戦士である自分そのものを見破られたことに、強い屈辱と衝撃、そして敗北感を感じる。その思いは、"負けてたまるか"という強い気持ちへと変化してゆく。

 

 バルバロッサが受けた衝撃は計り知れなかった。

自分よりも大きく歳を離した子供のような人間に、一瞬ではあるが超えられてしまった。

皮肉にも、これまで自分が育ててきた人間に。

 

 トルネロスが倒れてしまう。

だが、その限りなく絶望に近い不安は杞憂に終わった。

 

 ジェノサイドは見た。

全身が痺れながらも、大きく翼を広げて咆哮する、朱雀の如く伝説のポケモンを。

 

「くそっ……! やっぱり火力が足らなかったか……」

 

 自分でも相当な無茶に走っているとは自覚していた。だが、今の自分にはこのポケモンをぶつけるしか方法は無かった。仕方が無かったとしか言いようがない。

 

 再び悩むジェノサイドは、ふと感じた。

季節外れの熱が、暑さが漂っていると。

 

「……なんだ、これは……?」

 

「私を超えんとするその姿勢……大いに恐れ入った……。だが」

 

 電撃は消え、代わりに白煙が舞うその中からバルバロッサの皺を含んだ声が響く。

 

「お前さんはまだ甘い」

 

 それはポケモンの技のひとつ、"ねっぷう"だった。

ジェノサイドのエレザードの特性は"かんそうはだ"。ひとつでも多くのダメージソースを減らす代わりに、ほのおタイプの技の受けるダメージが増えてしまう特性だ。

加えて、エレザードは耐久が高いとは言えない。

トルネロスほどの火力を受けてしまえばどうなるか、考えなくとも結果は見える。

 

 熱を帯びた波が襲いかかる。

ジリジリと焼けるような痛みを受けながらも、エレザードは文字通りの熱風を受けて引き摺られる。

 

 エレザードはジェノサイドの足元まで転がった。既に倒れている。

これでジェノサイドは手持ちポケモン六体の内三体を失ってしまった。残るは体力が一しか無い瀕死寸前のゾロアークとコジョンドと、例のポケモンだ。

 

「お前さんの強さはゾロアークだ。お前さんを深く知る人間ならば、強い選択を強いられることだろう。ゾロアークを使うか、使わないか。仮に使った場合、どこからどこまでが幻影なのか。そもそも今自分が見ているものは現実か幻か。戦いとは別な圧迫感に襲われる。それがお前さんの何よりの強みだ。だがゾロアーク一強ではすぐに限界が来る。それは重々承知していたのだろう。工夫次第ではその強みは別のポケモンでも活かすことが出来る。……だが、まだ甘い」

 

「……?」

 

 自分でも自覚に至っていない点を突かれると戸惑いを覚える。それをしかも敵から告げられるのだから尚更だ。

どうやら、ジェノサイドは自分の全てを理解してはいないようだった。

 

「……何が可笑しい?」

 

 バルバロッサは肩を小刻みに震わせて小さく笑うジェノサイドを見た。

人生経験豊富なバルバロッサから見ても、その意図が掴めない。

 

「分析ごくろーさん……。誰が甘いだぁ? テメェこそ甘いこと言ってんじゃねぇよ」

 

 ジェノサイドの腕が目にも止まらぬ早さで動く。

辛うじてボールをトルネロスに向けた事だけは分かった。

ボールから何かが出る。だが、動きが速すぎて実体が掴めない。

そのポケモンはトルネロスに触れたようだった。

トルネロスも苛ついたのだろうか、翼で叩こうとするが空振りに終わる。そのポケモンは一瞬にしてボールに戻る。

代わりに姿を見せたのはコジョンドだった。正真正銘本物のコジョンドである。

 

「お前さん……今何かしたな?」

 

「あぁ。ゾロアークにひと仕事させてもらったぜ。こんなタイミングだとトルネロスも攻撃しかしねぇよなぁ?」

 

「なるほど……"ふいうち"か」

 

 今の不可視の動きもどうやら幻影のようだった。

ボールから放たれたゾロアークはトルネロスに"ふいうち"を打ち、反撃が来る前にボールに戻った。攻撃を受けてしまえば倒れてしまうからだ。

 

「そのコジョンドで何が出来ると言うのだね?」

 

「こうすんだよっ!!」

 

 コジョンドも高速で動き出した。

トルネロスの前に姿を現したコジョンドは、奇妙な構えを見せている。

 

「"ねこだまし"!」

 

 コジョンドはトルネロスの眼前で手を打った。

純粋な攻撃が来ると錯覚したトルネロスはダメージを受けつつ怯む。

 

「奴が動く前に畳み掛けろ! "とんぼがえり"」

 

 コジョンドは眼前から離れない。

そのまま身を翻した体当たりを敢行するとジェノサイドの持つボールへと吸い込まれていく。

トルネロスも疲弊しきっていた。

エレザードからの弱点技と、ダメージ自体は大したことはないものの、立て続けに対応不可の技を二つ三つと受けるとその体力も限界を迎えてしまう。

 

 トルネロスは大きな地響きを立てて遂に倒れた。

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