【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
遂にこの時が来た。
冷静に考え、振り返ってみると信じられないことばかりだった。
人や考えによってはチートと評されるかもしれないポケモンを相手に、あと一歩のところまでやって来た。二体のポケモンを、チートに塗れた伝説のポケモンを倒したその現実が妙に誇らしくも感じる。
ジェノサイドは長く息を吐く。
これまでの疲労により乱れた呼吸を整え、内に宿る意識を叩き起すために。
「お前さんの強さは……」
バルバロッサの声だ。追い込まれた状況とはいえ、その声は落ち着いている。ジェノサイドが抱いているように、彼もまた勝利を手にしたと思い込んでいるのだろうか。
「正直なところゾロアークだけだと思っていた。お前さんはこれまでに打ち勝ってきた難敵はどれもゾロアークの前に倒れたからな」
「結局はテメェの油断かよくだらねぇ。散々"うつしかがみ"とか言う機械を介して〜だの何だの言っておきながら、結局はテメェの手心で決まるもんだったのかよ。ポケモンじゃなくてテメェだけを見ていれば良かったってかぁ?」
「私の意思も介在しているに過ぎんと言うことさ」
ランドロスが鏡から姿を現した。
手足が露わとなり、普段の人型の姿から一転して動物のような、それでこそどこか白虎を想像する威圧的で堂々とした様は、視線を移す度に身が縮まるような思いがする。
ランドロスはこのバトルで何度か戦っている。しかし、ここまでに一度として攻撃が届いたことは無かった。
だが、今回ばかりは当てられる自信がジェノサイドにはあった。いや、当てるしかないのだ。
「ところでお前さん、いい加減次のポケモンを出したらどうなのだね? コジョンドの"とんぼがえり"はまだ終わっとらんよ」
「そんなん一々言わずとも分かってるっつーの」
ジェノサイドは最後に賭けに出た。
ランドロスが相手では体力一のゾロアークも、相性の悪いコジョンドでは勝てるとはとてもだが思えない。
だが、ジェノサイドにはまだ使用していない最後の一匹が残っている。
そのポケモンは訳ありであるがゆえに、これまで使う事が出来なかったのだ。
「あとはお前だけが頼りだ……頼んだぜ、リザードンっ!」
ジェノサイドはモンスターボールを天高く放り投げた。
†
時刻は八時を大幅に越している。
もしも今日が普段と変わらない日で何事も無い一日であれば、今頃はこのメンバーで近くのファミレスかラーメン屋あたりで夕飯を取っていたことだろう。
だが、今日に限ってそんな事はなかった。
ジェノサイド改め
やはりと言うか、空模様に変化は無い。金色に輝いているため、外がまるで昼のように明るく、眩しいほどだ。
「先輩、もう帰る時間過ぎてますけど……どうします?」
「うーん……もう少し、もう少し待ってみようよ」
二年生の
もう少しと言って既に二時間は経っている。それまで隠から連絡も無ければ変化らしい変化も見当たらない。
果たして隠の言葉を信じて良いのだろうか。外が危険かどうかなど最早誰も分からないでいる。
「さーせん、先輩。俺飲み物買ってきます」
「うん。いいよ、行っておいで。廊下の自販機で買うんだよ」
どこか不服そうな表情を浮かべながら
穂積は自販機の前に立つと迷うこと無くコーラを選んだ。ボトルの落下音が静寂に包まれた廊下に無駄に響き渡る。
彼がコーラを飲むタイミングは決まっている。煙草を吸うときだ。
「悪い佐伯、ちょっと付き合ってくれ」
指で合図する穂積はそのままその階の非常階段のある方へ、つまり外へと出た。
佐伯は少しばかり警戒しているようだった。
外に出て風を浴びた二人は予想以上の心地良さに少し感動した。
どこか天国をイメージするような金色の空から降り注ぐ光は、秋になりかけの今であるにも関わらず"暖かさ"を感じる。風も寒すぎず気持ちが良い。これで"外は危険"と言われても信じられないくらいだ。
穂積は決まりの動作の如く煙草を吸い始めた。
佐伯は喫煙者ではないものの、このように彼と語らう場面が多いので既に慣れている。穂積自身喫煙に慣れているからか、非喫煙者には最大限の配慮をしているつもりだった。煙ひとつ浴びせることはしない。
「レンの奴……何なんだろうな?」
ボソッと突然穂積は呟いた。
「何って……何に対して?」
「アイツ、俺らと会う前からジェノサイドとか……えっと……」
「
「そうだ、それそれ。そこに居たんだよな?」
「……みたいだね」
佐伯は
予想だにしないところから現れた"未知"にストレスが募ってゆく。
「何を考えてアイツはそんな事してたんだろうな? アイツそんな事するような奴なのかよ?」
「それは……こっちもよく分からないな。レンの高校時代の話なんてまず聞かなかったし」
「……ぶっちゃけると俺は、お前らとは出遅れていると思っている」
話の流れをぶった切る唐突の告白だった。
初めて聞いた時は驚くこともあったかもしれないが、今となっては最早彼の口癖のようなものへと変化している。佐伯は、これを彼が抱いているコンプレックスのようなものだと解する。
「お前や大三輪、
「そ、そんな事ないって! 誰もそんな事思ってないよ!」
佐伯は理解した。今この場は隠を糾弾したり批判したりする場ではなく、自身をフォローしてほしい場なのだと。
「なら……いいけどさ」
佐伯は本来であればこう言いたかった。
隠に対して得ている情報はお前も自分も変わらない、と。年数など関係ない。皆立場は同じなのだ、と。
「こっちだけじゃない。それは皆同じだと思うよ。"なんでレンが
隠洋平。
パッと見クールで大人しいと思いきや、友人といる時は大いにはしゃぐ子供っぽい男。そんな彼が何故裏社会に近しいような世界で生き、更に頂点に立っているような人間でいられたのか。
誰もがその事実を受け入れられずにいるし、ゆえに知りたいと思っている。
「さっき佐野先輩も言っていたけど、とにかく話をしないと。レンと話をしてお互い理解しないときっと絶対に解決しないよ」
「そう……だよな。アイツが全部正直に話してくれるかそれは分からないが……まぁ、それについては俺も賛成だよ。……ったく、早く帰って来いよっつーの」
穂積は眩しい空を見上げる。
天国とは案外こんなものかもしれない。吐き出した煙が光の中で消えゆくのを見つめながら、心の中ではらしくない想像をしている自分が居た。
†
ジェノサイドはポケモンが飛び出し、空になったボールをキャッチする。
彼の前で凛々しい竜が翼を羽ばたかせつつ着地した。
バルバロッサはそれを見て虚を突かれたような顔をしたあとに堪えきれなかったのか、小刻みに身を震わせつつ軽く笑う。
「なんの……つもりだね?」
「見て分かるだろ、リザードンさ」
「お前さんは何をしようとしている? 私の記憶が正しければだが、お前さんのリザードンは確かゲーム上ではメガシンカをする個体だったような気がするのだが?」
バルバロッサが笑うのも無理はなかった。他愛もないバトルであればどうでもいい事だが、今は世界そのものを秤に掛けている"かもしれない"重要な戦いでもあるのだ。
そこにメガシンカを期待して挑むというのはあまりにも無計画で無謀で、それでいて挑戦的である。
何故ならば。
「メガシンカという現象はこの世界では確認出来ていないのだぞ。一部を除いてあらゆる道具がこの世にも反映されるものの、メガストーンやキーストーン……そしてメガシンカに必要なデバイスもこの世には未だ存在しないし反映されない! ゲームでは使えるメガシンカはこの世界では使えない。この意味がお前さんには分かるか!?」
ゲームで本領を発揮出来るポケモンはこの現実世界ではその通りにならない。
ポケモンの世界とは違うこの世界ではメガシンカが果たせないのだ。
そしてこれこそが、ジェノサイドが挑んだ賭けであった。
リザードンにはゲーム内で"リザードナイトX"を持たせている。あとは、この世界に呼び出すことでどのような反応を見せるのか、他の道具と同様反映されるかが注目のポイントだった。
しかし、何も変わらない。変化が見られない。
通常色のリザードンが、そのままの姿で佇むのみだ。
「それが……お前さんの望んだ結果なのだな」
バルバロッサの勝利宣言に反応するかのようにランドロスが雄叫びを上げ、今にも"げきりん"を放とうとしたその瞬間。
「いや、成功だよ。バルバロッサ」
異変は突如として起こった。
リザードンの全身が輝き出した。
自然のエネルギーを大量に吸収しているようだった。
それだけではない。ジェノサイドの右腕もリザードンに呼応するかのように同様の光を放っている。
ゲームを深くやり込んでいる者ならばそれが何なのかは分かる。
その光景は、まさしく"あれ"と酷似している。
光に包まれたリザードンは溢れたエネルギーを外に撒き散らし、遺伝子を模した二重螺旋のエフェクトを放つ。
体色も大きく変わり、漆黒の竜が姿を現した。
「まさか……、お前さん……嘘だ」
バルバロッサは絶句した。
信じられないものを、決して存在してはいけない光景が眼前で繰り広げられているせいで。
紛れもなくそれはメガシンカだった。
メガリザードンXが、確かにそこに居た。
彼方で歓声が沸き起こった。
見ると、戦闘を眺めていたハヤテら仲間たちがメガシンカを果たしたリザードンに対して反応しているようだ。
「よかった……! 道具を持たせてデバイスもこの時までに間に合わせたけど上手くいったみたいだな……」
「有り得ない……っ! 一体何をしたと言うのだ! 未だ発見も観測も成されていない現象を……何故お前さんが操れるのだ!」
「俺が史上初を成し遂げるってのがそんなにおかしいのか? テメェ……誰と戦ってんのか分かってんだろうなァ?」
「やかましい!」
バルバロッサのランドロスは動いた。
彼の叫びに応じてそのポケモンは自身の爪を燃やす。
怒りを身に纏ったランドロスが一瞬で姿を消したかと思うと、既に眼前に迫っている。
「お前さん如きが……この世界を、世の理を……そして私の夢を……否定するなぁ!」
バルバロッサは我を忘れていた。まるでランドロスと意思を同一としているかのように。
竜の爪がリザードンを捉えた。その動きは"こだわりスカーフ"でも巻いているような神速を思わせる。ジェノサイドもリザードンもその動きにはついて行くことも、反応することすらも出来ない。
間に合うか間に合わないかの次元では無かった。
認識した時には既に攻撃が決まっている。
メガシンカに沸いたのはほんの数秒前だったはずだ。
だが、その希望や喜びは一瞬で葬られる。
彼らは、呆然と眺める事しか出来なかった。
だからこそ、目の前の光景に理解出来なかった。
リザードンの手が、ランドロスの爪を不自然なまでに"掴んでいる"ことに。
「なっ……?」
初めに異変に気付いたのは伝説のポケモンを操る老人だった。
「ランドロス……? 何をしているのだ……」
たとえ未知の世界であるメガシンカを果たしたリザードンであったとしても、所詮はリザードン。能力が強化されたランドロスには到底届くものでは無い。
「手を……止めるな……っ! リザードンを切り裂け、ランドロス!!」
しかしその声は、その叫びは"彼"には届かない。
「ごっめーん、言い忘れてた事があったわー」
ジェノサイドは大きく顔を歪ませた。
一定の感情が昂り、それまで有るはずのなかった"余裕"を生み出す。その声色は歌っているかのような口ぶりだった。
ランドロスを拘束したリザードンの周囲の空間が物理法則を無視する形で歪みだした。
そしてその光景を、その現象を、バルバロッサは知っている。
「……!?」
だが、その現象は本来であれば有り得ないものだった。
それがたとえ、"メガシンカしたリザードンに化けたゾロアーク"のものだったとしても。
「どういう……ことなのだ……?」
「これで終わりだ、バルバロッサ。お前は俺たちに見事に化かされた」
瞬間。
"げきりん"のダメージを受けて耐えたゾロアークによる"カウンター"が炸裂した。
攻撃力の高い自身の力を倍にして返されたランドロスは、反動でゾロアークの手元から離れ、大きくその身を吹き飛ばされると岩壁に深々と突き刺さる。
長かった戦いが今、幕を閉じた。
†
最早誰も異変を異変と感じなくなった同時期。また別の異変が起こった。
「えっ……えっ!? なに!? 何があったの!?」
教室の中で誰かが叫んだ。
佐野が釣られて空を見る。
「戻ってる……?」
眩い光が、黄金色の空が瞬く間には消えていた。
窓を開け、外の景色を見てみる。
漆黒の空と、月の光で存在感を増している流れる雲と、そして僅かに輝く小さな星があるのみだった。
時刻は夜の九時に近付いている。本来の夜空を取り戻した。そんな風に見えた。
「まさかレンの奴……何かしたんじゃねぇの!?」
「それはまだ……分からないけれど、とにかく連絡しないと! レン君、無事だよね!? 僕達もう帰って大丈夫だよね!?」
佐野は震える手でスマホを操作する。LINE越しに通話を試みるも、隠が出ることは無かった。
†
世界は元に戻った。
地上を埋めつくしていた花は全て枯れ、雪を乗せた風は止み、空を彩った天国は消滅していた。まるで、一睡のうちに見ていた夢のように。
「待て……待つんだ……ジェノサイド……」
バルバロッサは足の弱くなった老人のように
「お前さんのゾロアークは……化けたというのか……? 死に体のゾロアークが!! 何故!!」
「少し考えば分かるだろーが……。まぁ、俺もすぐには気付けなかったがな」
ジェノサイドはゾロアークの入るダークボールを掲げる。闇夜に溶けて輪郭が消失する。
「俺のゾロアークが……俺の命令無しに勝手に動くことがあるのはお前なら知っているよなぁ?」
「そ、それは……いや、だとしてもだ……」
「ゾロアークはあの時に化かしたんだよ。周囲のモノ全てを。トルネロスも、お前も、そして俺も」
コジョンドに化けたゾロアークのイリュージョンが見破られた。その時トルネロスの"ぼうふう"を受けて瀕死寸前となってしまった。
それが、このバトルを構成していた全てのモノの認識だった。
「だが、実際は違っていた。ゾロアークはあたかも自分がお前のトルネロスの"ぼうふう"を受けたかのように惑わしていたんだよ。実際はノーダメージ。だから"きあいのタスキ"も残っていたし体力もこの時まで満タンだった。それだけだ。ゾロアークをボールに戻した時初めて知ったよ、俺も」
「だからお前さんはあの時不自然な笑いを……」
そこから先は全て演技だった。
ジェノサイドはメガシンカを確立する事も無ければ、メガストーンもキーストーンもデバイスも、全てが嘘の空っぽの虚ろでしかなかったのだ。
「ふっ、……はは……。そんな莫迦な……」
バルバロッサの全身から力が抜けた。同時に、台座に鎮座していたはずの"うつしかがみ"も派手な音を立てて転がる。
「バルバロッサ、ここからは真面目な話だ」
ジェノサイドは言いながら背後をちらっと見る。そこには、何が起きたのか理解が追い付いていない仲間たちが控えている。
「私を……裁くのかね?」
「そうだ。お前は俺を含め組織を裏切った。そう解釈している」
風が吹き荒れる。冷たく鋭い自然現象は時折二人の会話を遮りさえもする。
"天国"が消えた分、元に戻ったはずなのに今までの異変に慣れていたせいで逆に違和感に感じる。
「これも……裏切りになるのかね?」
「そこが気になる点だ。お前は別に組織そのものに対して背信行為をした訳じゃない」
「お前さんは……そう思うか」
膝から崩れ落ちたバルバロッサは俯き、こちらを見ようともしない。声も低く、絶え絶えだ。ジェノサイドは意識を集中させてなんとか聞き取ろうと必死になっている。
「組織内で裏切り者が出た場合、結社に任せる事は出来ない……。ゆえに組織内で事を終わらせる。裏切りは断罪。例外無くな。お前さんが過去に言った事じゃないか……」
ジェノサイドという組織は過去に大きな裏切りと反乱が発生した。その際の犠牲も大きかったが、二度とこのような事態を生まないためにも、組織の名を冠したジェノサイド自らが発した取り決めだった。はずだった。
「だが、俺は人を殺さない」
正確には"殺せない"だった。ジェノサイドという物騒な名を得ているにもかかわらず、彼は一人として人の命を奪う事はしない。いや、出来ないのだ。
たとえ、相手がどれほどの悪人であったとしても。
「そしてお前には……恩がある」
「今更何の恩があると言うのだね?」
「これまで共に……組織を指導してくれたことだ。……それだけじゃない。"あの時"俺の命を救い、この世界を教えてくれたのもバルバロッサ、お前だった」
鼻で笑ったような鼻息が聞こえた。口角が若干上がっているらしいところを見るとバルバロッサがそうしているつもりのようだった。動きが小さすぎてそうには見えない。
「だからバルバロッサ。お前は全部話せ。お前がここまでしたワケを、その理由を……。お前の目的を隠すことなく全てハッキリと言うんだ」
「言わなかったら……どうなる?」
バルバロッサはここで初めて顔を上げた。
皺だらけの、疲れきってはいるがどこか清々しい目をしている。
「言うまで粘る」
「お前さんらしい……」
バルバロッサは再び鼻で笑う。それからゆっくりと立ち上がった。
「良いだろう。その代わり……私が今から話す事を全て受け入れることだ。いいな?」
「受け入れる……? そういう抽象的なふざけた表現はやめろ。誰が聞いても理解出来る説明をするんだ」
「私の目的は昔から変わらんよ……。私は……戻りたかっただけなのだよ、元の……世界へ」
「てっ……テメェ、だからそういう意味の分からねぇ言い方はやめろって言ってんだろうが!」
手を出したくなる衝動を抑えつつ、しかしジェノサイドはバルバロッサの元へ走る。
これもある種の脅しのつもりだった。
「だから……言っているだろう……? 受け入れろ、と。私の夢は……昔から変わらんのだよ……。元の世界、元の、仲間たちに……」
ジェノサイドは彼の様子がおかしい事に気付く。やけに呼吸が乱れている。
彼が走り、両腕を差し出したタイミングとバルバロッサが前方に倒れ込んだタイミングはほぼ同時だった。
ジェノサイドはその腕に、遥かに歳を離した老人をだき抱える格好となる。
「バルバロッサ? ……おい、バルバロッサ」
呼び掛けに応じない。その目は深く閉じられ、開くことも無い。眠ったような顔をしていた。
呼吸も心音も腕には伝わらない。その腕に感じるのは、普段よりも重く感じる彼の身体の重量のみだった。
様子がおかしいと判断した仲間たちも駆け寄る。
ハヤテを含めそこに居る誰もが自分とバルバロッサの名を何度も呼んでいた。
「リーダー、何があったのですか?」
「ハヤテ……。すまん、しくじった」
ジェノサイドは振り返り、最も信頼している仲間の一人であるハヤテを認識する。
「バルバロッサの野郎……死にやがった」
†
戦いが終わって何時間経っただろうか。
ジェノサイドとその仲間たちはそこから離れる事はなかった。
山頂へと刺さる冷たい夜風を浴びながら、闇に覆われた漆黒を見つめている。
「リーダー……。一体何があったのですか?」
「分からねぇ。分からねぇまま何もかもが終わっちまった」
バルバロッサは寿命を迎えたようだった。
戦いの直前もその最中も、頑強そのものであったのに、終わった途端にその生涯を終えてしまった。
「なぜ……このタイミングで?」
「分からねぇ。この戦いが相当の負担だったのか、それとも……」
あまりにも都合が良すぎる最期のように思えて仕方が無い。バルバロッサという一人の道化が仕組んだ壮大な芝居だったのか、世界を巻き込んだ大袈裟な自殺だったのか、それとも、死期を悟った老人がせめて最後にと夢を叶えようと足掻いた結果だったのか。
真相は、夜空を染める闇に等しい。
「分かったことは……いや、ハッキリとした事じゃないが……"うつしかがみ"がこの世に突然湧き出るほど世界そのものの本質が変わっている"かもしれない"ってことと、バルバロッサが、元の世界に帰りたがってたってこと……くらいかな……?」
「元の世界とは……何の事でしょうか?」
「分からない……分かるわけがない」
ハヤテの問いにそうとしか答えられない自分が惨めに感じた。
世界を巻き込みかけた、迷惑でしかなかった騒動の果てに得られたものがこの程度だと思うとやるせなさすぎて仕方が無い。
悪い意味で脱力感を覚えたジェノサイドは目を瞑り、息を吐いて岩に寄りかかる。
無心になり、その顔に風が浴びせられる。
「俺たちも……」
どれ程の時間が経ったのか自分でも分からなかった。
数時間かもしれないし、ほんの数秒だったかもしれない。
ジェノサイドは真っ直ぐ立ち上がる。
「俺たちも帰ろう。俺たちの世界へ」
渦巻く未練を置き去りにして、彼等はその場を後にした。