【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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第三章『深部消滅篇』
メガシンカ発現


 部屋が揺れた。

大きな振動である。一人の青年は地震かと思い、目を覚ます。

目が開けられたことで、自分が居る空間の情報が入ってくる。横になっていた身体を起こすことで、よりその情報は多くなる。

彼は自分の部屋に居た。自身が所属、立ち上げた組織。その基地にて作られた、あまり広くない部屋だ。

その部屋に窓は無い。基地そのものが地下に作られているせいだ。

 

 東京都八王子市。都内北西部に位置する、自然が多く残るこの街のとある林。その中に棄てられた工場、その跡がある。その地下に、組織の人間百人から二百人ほどの人間を集められる空間を、彼は作り上げた。

 

 ジェノサイド。

"裏の世界"において、その名を知らない者は存在しなかった。

深部(ディープ)集団(サイド)。その裏の世界を、人はそう呼ぶ。

その裏世界、深部(ディープ)集団(サイド)において頂点に位置し、存在するだけで情勢そのものを、世界全体を左右させるほどの影響力の強い人間へと彼は成ってしまっていた。

 

 事の始まりは四年前に遡る。

二〇一〇年。この年は決して忘れられない一年となった。ポケモンがこの世において実体化したのである。

非力な人間とは比べ物にならないポテンシャルを秘めたその存在を、人間は有難がり、日常の(たす)けとする一方で、手頃な武力として悪用する者も現れる。

そのような無頼なる人間の及ぼす治安の悪化を防ぐ為に、自警団のような存在として彼らが生まれたのだ。

その果てにおいて、本来の意義も目的もとっくの昔に失ったはずの彼は、いつしか莫大な強さと富を手に入れ、Sランクなどという不可解な称号をも手に入れ、この世界における最も命を狙われる存在として化した彼は。常に命と金を狙われる、暴力の世界に全てを委ねた彼は。

 

「おめーらうるせええぇぇぇ! こっちは寝てたんだよ! 静かにしろや!」

 

 仲間たちが集まり、なにやら騒いでいる広間へと駆け上がると、そう叫んだ。

 

「お前らなぁ! この広間で皆して集まるのは良い。別に構わねぇことだ。だがこの部屋の真下に俺の部屋があるって事を忘れんな!」

 

「いや、そう言われましてもリーダー……」

 

 彼の怒りに反応したのは広間の真ん中で格闘技か相撲でも取っていそうな構えをしている、彼の部下の一人ケンゾウだった。

坊主頭で筋肉質という、"強い男"を思わせる彼はその見た目に反してか細い、弱々しい声で答える。

 

「これだけ広い部屋だと……暴れたくなるじゃないですか!」

 

 意味が分からなかった。

瞬間にしてジェノサイドの脳は動きを停止した。

寝ぼけていたせいで細くなった目が、余計に細まる。

あまりにも、予想の斜め上を突き抜けた返事でついポカンとした。

 

「……はい?」

 

「ですから……」

 

 確かにケンゾウの言う通り、この部屋は広かった。今見るだけでも構成員の二、三十人ほどが此処に居る。ちょっとしたホールに居るような大きな空間がそこにはあったのだ。

 

 考えてみれば、この部屋を含めた基地全体も相当に広いものだった。地上こそは今にも崩れそうな廃工場でしかないが、その地下一体が彼らの住処となっている。正に秘密基地だ。

この地下には、広間に加えて同等の広さを有する食堂や、それらを囲むように設けられている廊下、暖炉付きの休憩部屋である談話室、そして個々人の部屋までもが存在する。流石に全員分の部屋は無いが、工夫次第では幾らでも出来そうだった。

 

 それはそうとして、寝起きでボサボサになった髪を掻きながらジェノサイドは尋ねる。

 

「んで、何してたの?」

 

「リアルポケモンファイトっす!」

 

 聞いた自分が馬鹿だった。

そう思うしか無かったジェノサイドは、直後にそれに混ざることとなった。

 

 

「って事が昨日あった」

 

「揃いも揃ってバカなのかな?」

 

 翌日。ジェノサイド改め(なばり)洋平(ようへい)は自身の通う大学の構内で友人と会うと、早速この話を披露した。返しが正論なのでそれ以上言い返すことは出来ない。

 

 裏の世界ではジェノサイドと名乗っている彼ではあるが、"表の世界"では何の変哲もないただの大学生である。講義のある日に限っては裏の身分を隠して勉学に励んでいる。

隣を歩く友人は同じサークルに所属している、佐伯(さえき)慎司(しんじ)だ。

 

 数ヶ月前に発生した事件のせいで、隠はサークル所属の友人や先輩たちから大きな不信感と敵意にも似た何かを生み出してしまったが、その直後に起きた騒動とその顛末(てんまつ)によって彼は許されたようだった。何かが起きた訳では無いが、誰もその話題をしなくなった。

表面上では隠が深部(ディープ)集団(サイド)の人間であると判明する以前の空気に戻っていた。そのお陰で、一時はサークル脱退も考えていた隠も後ろめたさを感じることなく彼らと接する事が出来ている。

 

「それよりもさ、レンに伝えておきたいことがあって」

 

「なんだ、告白か? 生憎俺は女子が好きな訳だが……」

 

「仮にこっちが告ってきたとして、嬉しいの?」

 

「すまん冗談だ……」

 

 隠は友人らからは"レン"と呼ばれている。中学時代にやらかしたテストの珍回答が元となったあだ名だが、それで呼ぶよう彼は周りに呼び掛けている。お陰で本名よりもこの名で呼ばれる身となってしまった。

 

 佐伯も特徴的な人間である。眼鏡を掛けた高身長で自身でも認めるほどの大人しい性格の人間なのだが、一人称が"こっち"である。お陰で彼との会話は分かりやすくてやり易い。隠は常々そう思っていた。

 

「サークルに常磐(ときわ)先輩っているでしょ? 先輩から聞いたんだけど……」

 

「あぁ、やけに俺らの世界に詳しい人だよな。あの人ホント何なんだろうな?」

 

「ま、まぁ、とにかく……先輩が言ってたことなんだけど、メガシンカってあるじゃん?」

 

「あぁ。ゲームで使えるあのギミックだよな」

 

「それがこの世界で使えるようになったんだってさ!」

 

「なに?」

 

 隠は反射的に聞き返した。今自分は幻でも聞いていたのか、それとも佐伯が話の内容を理解して真面目に話しているのかを。

 

「それは……おかしいんじゃねぇか? だってメガシンカは……それだけじゃなく、関連するギミックやアイテムがこの世には反映されてないんだ。誰かが意図的に手を加えない限りそんなものは有り得ないと思うんだが?」

 

「うーん……それに関してはこっちもよく分からないんだけど、どうも先輩の知り合いでメガシンカに成功した人が居るらしいんだって」

 

 にわかには信じ難い話だった。

メガシンカが成立しないことは、隠が身を持って証明させている。

数ヶ月前のバルバロッサとの戦いにおいて、ジェノサイドはゾロアークの"イリュージョン"を駆使して誤魔化したことがあったが、逆を言えばそのように表現しないと成し得ない動きのはずだ。

この世界でポケモンが実体化した。それだけで言えばそれ以上の変化は起こりようが無い。

しかし。

 

「世界そのものが……変わっていっている……としたら?」

 

 隠は半ば無意識に呟く。

 

「ん? なんだって?」

 

 うまく聞こえなかったのか、隣の佐伯が聞き返そうとするも隠はそれに答えることはしない。余計な混乱を生みたくないからだ。

 

「とりあえず……メガシンカは俺も興味があるな。常磐先輩に尋ねてみるしかないな」

 

「でも今日は水曜。サークルは休みだね」

 

「そう言えばそうだった……」

 

 隠はスマホを開いてカレンダーを確認する。

彼らが所属するサークル『Traveling!!!!』はその名の通り旅行サークルではあるのだが、特別な日でない限り旅行はしない。普段は毎週月曜日と火曜日、木曜日に特定の教室に集まっては各々自由な時間を過ごすという、ゆるい集まりだ。

先輩に個人LINEを送るのも気が引けるので、これ以上の事は今日においては出来ない。

隠はひたすら時が過ぎるのを待つしかなかった。

 

 

 翌日。

隠はその日の講義すべてを終えると、いつもの教室へと向かった。片手には講義で使う教科書やノートが入った手提げの鞄、もう片方にはお菓子の詰まったビニール袋がある。

 

 サークルの活動場所となる教室の扉は開いていた。そこには見知った人の顔がある。

お菓子の袋をその辺の机に置き、直後としてそれに群がる友人の姿を横目に、隠は先輩の元へと向かう。

 

「こんちはっす、先輩」

 

「よう。レンか。どうした? バトルの申し込みか? 悪いが今、佐野(さの)とやり合ってるからその後で……」

 

「いえ、そっちではなくてちょっと聞きたいことが……」

 

「んあ? まぁそれもバトルの後にしてくれや」

 

 暫くしていると、自分の座る席の近くに自分より学年が二つ上の先輩が二人ほどやって来た。

一人は常磐(ときわ)将大(しょうだい)。もう一人は佐野(さの)宏太(こうた)

何故佐野まで来たのかよく分からないが、隠にとって一番親しくしてもらっているのが彼なので、聞かれる分には何の問題も無かった。

 

「聞きたいことって?」

 

「えっと、バトルどうでした?」

 

「僕が負けちゃったよー。常磐強ぇもんな」

 

 佐野が軽く笑いながら言った。どうやら実力で言えば常磐はこのサークル内ではかなりの上のものらしい。

 

「聞きたいことってそんなの?」

 

「いや、それとは別で……。えっと先輩、"メガシンカ"って分かります?」

 

「今更すぎんだろそんな事!」

 

 常磐は大いに笑う。後輩の隠が深刻そうな面持ちで言うので何事かと身構えていたくらいだ。

 

「ゲームの話じゃなくて、どうも実体化したとかで……」

 

「あぁ、そっちね」

 

 話が長くなりそうなのを肌で感じたのか、常磐は隠と机を挟んで向かい合うようにして、つまり隠の前の席に座りだした。

 

「俺もこの目で見た訳じゃねぇが、どうも今のこの世の中で、実体化したポケモンを使ってメガシンカを成功させた奴が居るらしい」

 

「詳しく聞かせてください! 俺としても信じられないというか……有り得ないというか……」

 

「何となくだが想像はつくぜ。その気持ち」

 

 常磐はスマホのゲームを例えに出した。アップデートという名の更新があればゲーム内の世界や環境は変わる。しかし、この世界、この世においてそのような概念があるはずもないが故に、新しいギミックが反映されるのはおかしいと。だからお前の言いたい事は分かるとその様に代弁した。

 

「そうです。ただでさえポケモンがどんな理由や目的、どんな原理で動いているのかも分からないのに……。誰もそんな説明出来る筈が無いのに……」

 

「まぁそれは関係無いって事なんだろ。だが、メガシンカとは言わずここ最近お前の身の回りで何か変わった事は無かったか?」

 

「変わったこと……」

 

 そう尋ねられた隠は、記憶を頼りにあらゆる事象を思い出そうとした。

とは言ったものの、すぐに思いつくのはここ最近営んでいた日常生活と、その裏で繰り広げていた組織間抗争ぐらいしかない。

だが、数ヶ月のスパンで見てみるとまた違った景色が見えてくる。

 

「九月の話になりますけど……"うつしかがみ"が発見されたり、その力を使って俺の仲間だった奴が伝説のポケモンを使ってましたね……。本来使えないポケモンなんですけど。メガシンカみたいに」

 

「正にそれだ。ってかモロ関わってそうな出来事ばかりじゃねーか」

 

 常磐は含みを持った笑みを浮かべる。

彼は直接的な表現をあえて避けているようにも見えるが、"それ"は隠には何となくだが伝わる。

 

「俺が戦った場所は神奈川県の大山ってところです。そこに行けば……何かがある、とか?」

 

「かもな。俺の知ってる話ではその山でメガシンカした訳では無さそうだが、まぁヒントくらいはあるだろ」

 

「ありがとうございます。時間見つけて行ってみますよ」

 

「おう」

 

 そう言うと常磐と佐野は席を立った。

会話に混ざる事は無かったことで何故佐野まで寄ってきたのか結局分からずじまいだったが、そこまで深い理由は無いのだろう。

この日最大の目的を達成した隠は、いつも通りポケモンのゲームを開くと育成を始めた。

 

 

「ただいまー。誰か居るか?」

 

 ジェノサイドが基地に帰ったのは夜の十一時を過ぎた頃だった。

基地は木々が生い茂る林の中にあるせいでどっぷりと深い闇が広がっている。

はじめの頃は得体の知れない恐怖に怯えた事もあったが、この生活を続けて四年も経つといい加減慣れてくる。

基地の中の広間に着くと、彼の部下の一人ハヤテが出迎えた。

 

「お帰りですか、リーダー」

 

「いつもの時間通りさ。飯は食って来たから俺の分はいらないよ」

 

「それを見越して用意はされてないと思いますよ」

 

「ならいい」

 

 ジェノサイドは数歩広間を歩くと、適当にその辺に置かれている一人がけのソファに座る。

 

「突然だけど、明日大山に行こうと思う」

 

「また急ですね。何かあったのですか?」

 

「何かあったって程のことじゃないが……」

 

 ジェノサイドは今日あった出来事をハヤテに話した。裏の世界に生きるハヤテやジェノサイドが知らなかった情報を、表の世界に生きる人間が知り得ていたという点が気掛かりではあったらしく、終始ハヤテは唸る。

 

「その話は……本当なのでしょうか? 何かしらの罠の可能性も……」

 

「先輩に限ってそれは無いだろ。まぁ、この手の情報に少し詳しい人ってのが気になるがな」

 

「僕も明日ご一緒しましょうか?」

 

「いいよ別にそこまでしなくても。仮に何かあった場合の対策ぐらいなら俺一人でなんとでもなる」

 

 ジェノサイドの相棒は"イリュージョン"を駆使するゾロアークだ。幻影さえ魅せてしまえば、並の人間を倒す事も、逃げる事も造作もない。

 

「お前はお前でやって欲しいことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「この組織内に居る人間限定でいいから、この手の話に詳しそうな奴等を集めて情報を集めて欲しい。それと、俺が仮にメガシンカに関わるアイテムを手にしたときにそれを解析出来そうな奴も揃えておいて欲しい。そういうグループと言うか……班を作りたいと思ってる」

 

「未知のアイテムを調べ尽くせる人間がこの世に居るかどうかすらも怪しいでしょうが……分かりました。やれるだけの事はやってみます」

 

「ありがとう。バルバロッサが居なくなった今、お前らが頼りだ」

 

 二ヶ月ほど前、ジェノサイドは長きに渡って親しくして来た盟友とも言える存在を亡くしている。

そのせいで組織の運営にも支障をきたす不安もあったが、結局それは杞憂に終わり、今現在問題無く活動を続けるに至っている。

 

「じゃあ俺もう寝るわ。明日も色々あるしな」

 

「おやすみなさい、リーダー」

 

 日中は騒がしく多くの仲間でごった返すこの広間も、夜中ともなれば嘘のように静まり返る。

そんなポッカリと空いた空間において、ハヤテは敬愛するリーダーの背中を目で追い、見えなくなると自分も寝るために自室へと移動し始めた。

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