【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
夜が明けた。二〇一四年の十一月七日。金曜日。
この日ジェノサイドは基地の食堂で一人悩んでいた。それを見かねたのか、それとも単に出来上がった朝食を運びに来ただけなのか、一人の構成員が彼の元へやって来る。女性だ。
「どうしたの? 何か考えごと?」
「お、おう……。
「深刻そうな顔してるの珍しいなって思ってた」
彼女とは高校の頃からの付き合いだった。そして、元々はと言えば
そんな彼女、
「大学の講義に行こうか山登ろうか迷ってた」
「ええっ!? それって迷うことなの? レン君って時々よく分からない事言うよね……」
まともな人間ならば誰もが言いそうな反応だった。ハヤテなど、事情を知り尽くしている一部の人を除いたらの話だ。もっとも、当のハヤテも「学校はサボるな」と言うかもしれないが。
秋原は非戦闘員とはいえ、組織"ジェノサイド"を取り巻く環境の一切を知らないという訳ではない。二ヶ月前に起きた戦いのこともある程度の事は把握しているはずだ。かと言って、自分ほど最新のポケモンにのめり込んではいない彼女にメガシンカ云々について語っても、恐らくだが完全に理解する事は出来ないだろう。なので、ジェノサイドとしてはそのように言うしかなかった。
「授業はきちんと出た方がいいと思うけど……」
「やっぱりそうだよな。今日の講義は昼前のコマにひとつだけだし行ってからにするか」
「それだけなのに何でサボろうって思ったの!?」
「出来るだけ早く山登りたいなと思って」
これだけ聞くと熱心な登山家である。秋原は明るい笑顔から一転、引きつった苦笑いを浮かべている。
「そ、そんなに重要なんだ……ね」
「あぁ、重要だ」
ジェノサイドはそう言うとコーヒーを一口啜る。思ったほど熱くはなかった。
「この組織のこれからを二分させる程のものになるかもしれねぇからな」
数分後。軽めの朝食を終えたジェノサイドはトレーと食器を流しの手前の台に置くと、目の前で洗い物と格闘している秋原を眺める。
「ごちそうさま。ここに置いとくからお願いな。それと、今日の成果は今夜中にも分かるかもしれねぇから乞うご期待な」
「ナニソレ。行ってらっしゃい」
彼女は慣れたような笑顔で彼を見送る。思えば、二人が会話をしたのはかなり久々であった。
†
昼前の講義は十一時前に始まる。
ジェノサイド改め
自分がいつも座る席の隣には、
しかし、隠の意識は講義には向かない。彼の頭の中は大山へ行くことと、メガシンカの事で既に一杯だ。
程なくすると、講義を担当する教員が教室に入ってくる。チャイムが鳴り終わるのと同時に、抑揚の無い声で講義を始めた。
隠にとってこの時間は苦痛でしかなかった。はじめは面白そうだと思っていたこの講義も、蓋を開けてみれば真面目一本の退屈な内容のものでしかなく、面白味を感じられない。いつもならば聴いているフリをしながらノートを取っているのだが、今回はそれすらもしない。意識がそこまで向かないからだ。
(メガシンカに必要なアイテムって何だろう……? キーストーンだよな? メガストーンだよな? あと、キーストーンを埋め込むデバイス的な物もだよな。ゲームの主人公はメガリングとか言うの装着してるしな……)
隠の座席は窓際である。教員と、彼が説明しているプロジェクターには目もくれず隠は外の景色をボーッと見つめてはそのように考える。
しかし、意識がフッと戻ったような感覚を覚えるとプロジェクターに写った日付を見て今日が十一月の第一金曜日だという事に気が付いた。
そう言えば、と隠はポケモンの新作『オメガルビー』と『アルファサファイア』の発売日が近付いている事を思い出す。
(どっち買おうかな……)
今この世に現れているポケモンとは、持ち主のゲームのデータがそのまま反映されている。たとえ最新作が出たとしても今現在『ポケットモンスターY』で育成したポケモンを転送してしまえば何の問題もない。あとは暇を見つけてゲームを進めるのみである。
流石に講義開始時点からあらぬ方向を見ていたせいであろうか、隠のそのような態度に気が付いたからか、教員はそちらをチラチラ見ては時折睨むようになった。
†
「レンさぁ、ずっと何してたんだ?」
講義終了後、隠の隣に座ってた友人がニヤニヤしながら尋ねてくる。
「ん? 何で」
答えになっていない答えを隠は返すと、友人は一層笑みを強めた。
「いや、だからさ……。先生が明らかにレンを見ながら授業進めてたんだぞ。んで、肝心のレンはずっと外見てたよな。気が付かなかったのか?」
その通りで全く気付かなかった。とはどこか言いにくかった。意識が集中し過ぎると周りの視線や反応が気にならなくなる性分らしい。
「あー、あれかー……」
隠は少し考えた。会話の相手は
「この後どうしようかなーって。山とか登りてぇなぁって」
「ん? 何だよそりゃ。意味わかんねー」
本日二度目となる"不可解なモノに遭遇してしまった微妙な反応"を受け取ることとなった隠であった。
その後、友人は午後も講義があるらしく、コンビニの前まで歩くとそこで別れた。
†
先月と比べて少し肌寒い。
冬が近付いて来ているのを日に日に感じている隠は、シンプルなシャツの上にジャケットを一枚羽織る。
本来であればこの日は一日の講義を終えたことになるのでポケモンに乗って直接基地まで帰るか、大学から出ているバスに乗って駅まで向かい、そこから基地の最寄り駅まで交通機関で移動するかのどちらかであるのだが、今日だけは違った。
「頼むぞ、オンバーン」
隠は大学の裏門を出て人気のない裏道まで歩くとポケモンを放った。ここまでする理由は、構内でのポケモンの使用は一切禁止されているからである。注意から免れるためだが、たとえ即座にポケモンに乗ってその場から飛んで行ってしまえば注意のされようが無いので気にする事でも無いのだが、念には念をである。
「この前行った山まで頼む。分からなかったら時折指示出すからな」
隠はそう言っては飛び乗る。オンバーンは元気よく返事をし、翼を大きく広げた。そして、瞬く間に空へと浮かぶ。
目指すは
到着には三十分ほど掛かったようだった。やはりと言うか、長い時間一定のスピードを保てないのは人間もポケモンも同じようである。モンスターとは言われてはいるものの、このような一面を垣間見ると怪物と言うよりは自然界に生きる動物のようである。
「ご苦労さん」
下社まではケーブルカーなどの連絡手段が通じており、通常の参拝客は下社に集まる。本社は信仰心の篤い参拝客であったり、登山家が参るのがほとんどだ。
恐らくだが、バルバロッサが戦いの場に山頂を選んだのもそういう人気の無い点が絡んでいるのだろう。隠は今更ながらそう考えた。
隠はオンバーンに労いの言葉を掛けてボールへと戻す。
この山の頂に来たのは二度目だが、心境には大きな変化がある。
以前は戦いのために赴いた。だから他に集中するものが無かった。今回は違う。大きな違いとして、景色を楽しむことが出来た。
「ん?」
そこで、小さな違和感に気が付く。
参拝客の多くは下社に集まる。その対応のため、社務を執り行う神職の方々もそちらに集まり、社務所などもそこにある。
しかし、隠は今山頂にて祀られている本社と共に、社務所らしき建物もその目に捉えていた。
中腹にあるのならば、存在する必要の無い建物だ。
「そういう神社……なのかなぁ」
「はい、その通りでございます。理由があるからこそ、存在しているのであります」
背後から冷たい声がした。
時間の問題からか、平日だからか。しかしどういう訳か此処には自分以外に人は居なかった。そのせいで突然響いた声に、隠は内心強く驚く。
それだけでない。隠は思ったこと全てを口に出したわけではない。心情の一部を吐露したに過ぎない。にも関わらず、背後の声は全てを見透かしている。そんな気がしてならなかった。
振り返ろうか悩んだ。もしも背後の人間が得体の知れない存在であったとしたら。
もしも、敵対する
そう思うと迂闊に動くことは出来ない。
「誰だ?」
「どうかこちらをご覧になっていただけないでしょうか。私わたくしは敵ではありません。この社の者です」
そのように言われて何度騙されてきただろうか。片手にゾロアークのボールを握る。振り返ると同時に化ける作戦だ。
深呼吸をして即座に身体を回転させる。
そこには。
新品と見紛うほどの純白の礼服を着用し、手に