【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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メガシンカ発現③

 敵意が感じられない。

気を集中させたジェノサイドは直感ながらそう結論づける。

 

「お前は……」

 

 言いかけたジェノサイドだったが、それを察してか純白の和服の男が笑顔を絶やさずに口を割る。

 

(わたくし)は此方で神主をしております、皆神(みなかみ)と申します。とは言え、正式なものではなく貴方たち向けのものになりますが」

 

 柔和な表情と声色から漂う不穏な影。

ジェノサイドはそれを決して見逃さない。

 

「俺たち向け? それはつまりお前も俺と同じ……」

 

「はい。深部(ディープ)集団(サイド)の者でございます」

 

 ジェノサイドは呆れる思いだった。

神社という神聖な場においても、深部(ディープ)集団(サイド)の闇の手が蠢いている。穢れを赦さない世界が穢れに満ちている。その事実にジェノサイドは失望しかけた。

 

「いえ、そういう訳ではございません」

 

 意を察した皆神が突然否定する。どうやら、この男は心を読み取る力があるようだった。

 

「元々この社には正式な神主がおります。ですが……どういう訳かこの社にも深部(ディープ)集団(サイド)出身の参拝者が現れるようになりました。"本来の"神職の方々にご迷惑をかける訳にもいきません。そこで抜擢されたのが私ということでございます」

 

 この世界は、二分されている。

ポケモンとは無縁の人々も含めて、一般の人と呼ばれる人間たちによって作られ、日々営まれている"世間"とも"社会"とも呼ばれている表の世界。

ジェノサイドのような、ポケモンを行使して裏稼業に生きる裏の世界。

表の世界と裏の世界は相反するものであり、決して交わってはいけない領域だ。

そのような接触を避けるために設けられたのが、今ジェノサイドの目の前に立っている男ということになる。

 

深部(ディープ)集団(サイド)の人間が神頼みねぇ……。一番似合わないと言うか、そういうのとは無縁な世界だと思うんだが?」

 

深部(ディープ)集団(サイド)の人々も元々は"あちら側"から来られました方々です。何気なくお祈りをされたり、大事な局面の前では御参りもされますでしょう? それらと同じ感覚かと。それからこの社は歴史も古く、古来から山岳信仰という側面からも……」

 

 営業トークなのだろうか、皆神は社伝を語り始める。あまりにも長々としているのでジェノサイドはその話をほとんど聞かず意識も別の方へと向いていた。

 

「あの……聞いておりますでしょうか?」

 

「悪い。何だっけか……。確か最近になって色々変化が起きたとかなんとか……」

 

「話聞いていませんね……。そのような話題は一つとして挙げる事は無かったのですが」

 

 皆神はため息をついた。

神聖な土地を踏んでいる以上参拝目的か、少なくとも畏敬の念くらいは抱いていてもいいものだが、目の前の男からはそれが感じられない。明らかに自分が深部(ディープ)集団(サイド)の人間だと公表してから態度が変わっている。

 

「まぁ、それも良いでしょう。では、貴方の目的は……」

 

「メガシンカ。それに関わる物品が無いかと思ってやって来た」

 

 ジェノサイドは山頂の開けた土地を眺めながら言った。そこは、かつてジェノサイドとバルバロッサが戦った地点である。当然だが今は何も無い。"うつしかがみ"は戦いの後回収している。

 

「成程、貴方も"それ"をお望みという訳ですね……」

 

「まぁ、そういう事だな。って待て。貴方"も"ってなんだ。まるで他にも居るみたいな言い方じゃねぇか」

 

 皆神の細い目がより細くなった。ジェノサイドも仕草では表さないものの内心身構える思いである。恐らくだが、この後何かがある。長い間戦いに身を投じたジェノサイドの中で冴える勘がそう訴えている。

 

「……少々宜しいでしょうか。お見せしたいものがございます」

 

 そう言った皆神はこちらの返答もなしにさっと背を向け社務所のある方へと歩き出した。やや遅れてジェノサイドは一歩後ろをついて歩く。

 

「二ヶ月ほど前でしょうか。此方で大きな争いがありました」

 

「……」

 

 ジェノサイドは念の為、自分がそれに関わっているとは言わないでおいた。皆神に心が読める能力があればこの事実も知り得ているかもしれないが、この状況下で自分からでしゃばりたくは無かったのだ。

 

「その日は夜であるにも関わらず昼のように明るくなったと言います。白夜など、この日の本の国では観測されません。となると、人智を超えた"なにか"があったと言うことになります」

 

 皆神は少し歩いては立ち止まる。身を屈んで木片を拾った。戦いの余波を浴びた社務所か本殿のものかもしれない。掌でクルクルと回したかと思うと投げ捨てた。

 

「ところで……貴方様はいつまでお黙りになるおつもりで?」

 

「やっぱり知っていたのか」

 

 ジェノサイドは舌打ちをして皆神を睨んだ。

 

「私は目撃者の一人ですから。ですが、"ただの"目撃者ではありません。今の私ならば、あの戦いの本質と、それらが与えた影響。それら全てが見通せます」

 

「流石は神に仕える人だ」

 

「お名前はジェノサイド。貴方様がこちらの世界で名乗っている名前で間違いありませんね?」

 

「一応見た目は特徴の無い大学生を意識しているんだがな……」

 

「ジェノサイド。それは、この世界における王者にも等しい存在であるとお見受けされます」

 

「どうだかな。俺はただひたすらに戦いに勝ちまくっただけだったんだがな」

 

 皆神が社務所の前で立ち止まる。そして、両手でゆっくりと扉を開けた。

 

「さぞお辛いことでしたでしょう。二ヶ月前。貴方様は此方でお仲間だった方と戦いました。あまり知られていませんが、あの戦いを鎮められた事で今現在、こうして世界が保たれております」

 

「奴は言葉を濁していたが、やっぱりそうだったんだな」

 

「あの力は人智を、世の(ことわり)を超えていましたから」

 

 扉をくぐったジェノサイドは、そこで靴を脱ぐよう指示される。滑らかな木の床が足裏を冷ますかのようだ。

 

「貴方様のお仲間……バルバロッサは少々特殊な方法で本来使えるはずのない伝説のポケモンを行使されました。それが完全なるオカルトな方法であったか、そうでないかは断言出来かねますが……とにかく、それにより世界そのものが少しだけ変質してしまいました」

 

「変質だと? 特に変わった様子は見られないがな。どこがどう変わった?」

 

「こちらです」

 

 皆神は一つの扉の前で立ち止まる。この建物の奥にそれはあるようだった。

 

「その一件以来、どういう訳かこの社の境内……いえ、この山の範囲内ではありますが妙なモノが発見されるようになりました。それも無数に」

 

 ジェノサイドは何となくだが想像出来た。だが、問題はもっと別なものにある。それは皆神も察していた。

 

「原因は今をもって不明です。どうしても分からないのです。因果関係が見られません。なので、我々は伝説のポケモンを無理矢理に扱った事で"世界が変質した"と結論づけるしかなかったのです」

 

 皆神は扉をゆっくり開けた。見た目に反して重い音が響く。

部屋から冷気が伝わってきた。

 

「ご覧下さい。こちらが、大量に発掘されたキーストーンでございます」

 

 その部屋には空間を囲むようにショーケースが並べられており、皆神はそれを指している。

見ると、布が敷かれており、その上に透明な石が鎮座してあった。それは不可思議なまでに眩しい光を放っている。

 

「これが……キーストーンと呼ぶべき物なのか……? ゲームでしか見たことないから何とも言えない」

 

 それは予想していたものよりもずっと小さかった。丸い石は二センチメートルほどしかない。だが、それがケース内にずらっと並べられている。百個以上はあるだろうが二百個までは無いようだ。

皆神はガラスを取り外してはその中のひとつを掴み、それをジェノサイドに見せる。

 

「先の戦い以降になって発見されるようになったキーストーンでございます。不思議なことに、私は特に公表などしている訳ではないのですがそれ以降、深部(ディープ)集団(サイド)の人間を名乗る者たちが連日参るようになりました。私は断る理由も無いので、余程のことが無い限り全ての方々にこちらをお渡ししています」

 

 そう言って皆神はキーストーンによって輝いている右手を差し出している。受け取れということだろう。

 

「これからの深部(ディープ)集団(サイド)の戦いはより熾烈なものへと変わっていく事でしょう。今まで通用していた強さが、昨日までの最強が明日も最強とは限らないものへと成ります。数多の人間たちが、このキーストーンを手にすることによって」

 

 ジェノサイドは右手を見つめるだけで、まだ受け取ろうとはしない。

 

「じゃあお前は、自分が元凶である事を自覚しているんだろうな?」

 

「勿論でございます。だからこそ、私は貴方様に期待しているのです」

 

「期待だと?」

 

「はい。今回貴方様が戦いを鎮められたように、これから訪れるであろう災禍をも止められると信じてのことです。私はこれまでお気持ちと引き換えにこちらを渡してまいりましたが、貴方様には特別で無料で差し上げます」

 

「がめつい奴め……」

 

 その言動に反して笑顔でいるのが一層不気味であった。皆神は催促するように右手を時折振る。

 

「じゃあそもそもの話、なんでこんな石を配るんだよ。激化するって分かっているのなら、戦いが起こるくらいならいっその事秘匿しちまえばいいだろそんな物」

 

「それでは貴方様が来られないかもしれない。逆に、こちらの石をどなたにもお渡ししなければただひたすらに時間だけが過ぎていってしまうかもしれない。それでは駄目なのです。ハッキリと申し上げますと、どうしてもこの石を貴方様にお渡ししたい。と言うだけのことなのです」

 

 皆神がそう言うのでジェノサイドも断る訳も無ければ理由も無い。彼が小さく笑ったあとにジェノサイドは彼の右手の中の石を握る。

 

「じゃあ貰ってくぞ。いいんだな? 俺が持っていっても」

 

「ええ。躊躇する位なら、はじめからどなたにもお渡しすることはありませんから」

 

 

 社務所を出ると既に陽は落ちていた。空は闇に染まりつつある。

 

「メガシンカを駆使したくば、他にキーストーンを抑えるデバイスと、個々のメガストーンが必要になります。メガストーンについても報告が相次いでおりますので、見つける事は可能かと思われます」

 

「可能って言ってもな……限度ってもんがあるだろ。なんの手掛かりも無しに少なくないメガストーンを全部集めるとなると大変な作業になるぞ」

 

「……と言う声が多数ありました」

 

「ん?」

 

 言いながら皆神は袖の中に手を入れゴソゴソと探る。若干の間を空けて取り出したのはスマートフォンだった。それまで笏を手にしていたせいで古風な姿にメカニカルなアイテムが混ざると強い違和感がある。

 

「そういう時はこちらを! 私が作りましたスマホのアプリ。その名も『メガ石Go!』。位置情報を利用したアプリでございます」

 

「そのクソダサいネーミングどうにかならなかったのか……」

 

 引き気味になりジェノサイドは自分のスマホでアプリの検索をする。ご丁寧に有料アプリとしてストアに登録されていた。

 

「キーストーンや個々のメガストーンからは特殊なエネルギーが生じておりまして、それらを探知する地図アプリという名目で運用しております。それから、注意事項としましては……」

 

 皆神はメガストーンのあり方について述べ始めた。メガストーンは全国に散らばっており、数も無数に存在している。地図アプリである程度反映はされるものの、誰もが手に入れられる代物なので現地に赴いた際には実物が残っていない場合もあること、しかし数に限りがあることは現段階では確認されていないので再度探せば入手は可能とのことだ。

 

「出現場所に縛りみたいなものは無いのか?」

 

「無いようですね。これまで公園であったり施設内にあったり、川や森といった自然の中、道路などなど……。共通点は皆無です。あまりにも不自然なので、人の手が加えられていると考える方がおかしいくらいです」

 

「一般の人でも触れてしまう可能性があるのか……」

 

 それはそれで危険ではないか、とイメージが脳裏をよぎる。しかし、たとえジェノサイドであってもどうにも出来ない話だ。

 

「メガストーンは現在三十個ほどございます。全てを入手……されるかは貴方様にお任せしますが、その過程で多くの衝突がある事でしょう。どうかご武運を」

 

「俺を誰だと思ってる。深部(ディープ)集団(サイド)の頂点に君臨するジェノサイド様だぞ?」

 

 わざとらしく作り笑いをしてはそう言い捨てて彼は山を下りた。その足に迷いは無く、すぐに彼の姿は見えなくなる。

皆神はジェノサイドが立ち去ってもなお、それまで彼が立っていた部分を見つめている。

 

「その最強の名が何処まで、何時まで通用されるかは分かりかねますが……彼ならばやってくれるでしょう。お願いします。この世界の危機は未だ去ってはおりません」

 

 足元を見ると、細かい木片が散らばっている。戦いの余波を浴びた建物の保全状態が少し気になるところだった。どのように修復しようか、そもそも修復作業が必要かどうかを考えながら、皆神は薄く小さく笑う。

 

「バルバロッサとの戦いは、まだ終わっていませんから」

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