【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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メガシンカ発現④

 キーストーンが手に入った。

ジェノサイドは改めて眺めてみる。石の中央部分にDNAの二重らせんを模したような模様が刻まれており、非常に綺麗である。これはメガシンカのシンボルだ。

 

 ジェノサイドはたった今到着した基地の地下に作られたひとつの扉の前に立っている。扉を通して騒ぎ声が微かに聞こえる。その先は広間だ。また騒いでいるのだろう。

何も言わずに扉を開けた。開く音と人の気配に、部屋にいる人間全員が一斉に振り向く。見たところ彼らはゲームで対戦をしているようだ。対戦者を囲む塊が二つ出来ている。

 

「あっ! リーダーどこ行ってたんすか!? 帰りにしては遅すぎますよ!」

 

 手に持っていたゲーム機を放り投げ、人の塊を掻き分け、そのように叫びながらケンゾウが寄って来る。

 

「わざわざこっちに来なくてもいいだろ……」

 

「答えて下さいよ! どこ行ってたんすか?」

 

「分かった分かった。言うからとりあえずアレ。あれどうにかしろ。お前の3DS勝手にいじってんぞあいつら」

 

 疲れ気味なのか、淡々とした口調でジェノサイドはケンゾウの後ろを指す。観戦者だった構成員たちがケンゾウのゲーム機に触れて勝手に操作しようとしていた。

 

「いやいや今答えてくださいよってオメーら何やってんだやめろーー!」

 

 ケンゾウの情緒が安定しない。それまで興味津々だったジェノサイドを捨てて彼らの元へ戻ろうとする。それを見た皆が笑う。

 

「それで結局、何処に行ってたんですか? リーダー」

 

 再び対戦で燃える集団の輪から離れた、一人の背の小さい構成員が声を掛けた。名前さえも知らない人だ。

ジェノサイドはそれに無言で答える形でポケットに手を突っ込みながら彼等へと近付く。

 

「いいかお前ら。俺は今日コレを取るために帰りが遅くなった。見て驚くな? ほら、キーストーンだ」

 

 まるで大学において自身が所属しているサークル『Traveling!!!!』に居る時のような高いテンションだった。自分で気が付いていないだけで自然と興奮しているのかもしれない。

そう言いながらジェノサイドは手に持った小さな石を掲げる。

それを見るやいなや、方々から歓声が上がっては部屋にいる人"全員"がこちらに駆け寄って来た。有無を言わさずジェノサイドは揉みくちゃにされる。

 

「見せて見せて!」

 

「もっと近くに寄せてください!」

 

「お前邪魔だどけバカ」

 

 時に揉まれ、時に払いのけようとして空を切った平手が誰かの顔や体に直撃する。

痛い思いをしつつ自分が今ここで宣言したこと自体が間違いだったと悔やみつつ、あとで見せるから落ち着けと叫ぶことしか出来ない。天下のジェノサイドも数の暴力には弱いのだ。

身体の細いジェノサイドは人と人の間の細い空間に活路を見出すと、身をくねらせ翻して波をくぐり抜ける。

彼が逃げたと知ると残念そうな声が上がるも、それを無視してジェノサイドは部屋から逃げた。

 

「危なかった……小さいから気を付けないと失くすよなこれ……。そしたらヤバいじゃ済まねぇよなぁ。また山登りに行くなんて勘弁だぞ俺」

 

 こういう時は自室に篭もるのが一番だ。皺だらけになったシャツを整えながら廊下を歩く。

皆が皆キーストーンについて興奮していたが、まさかここまで騒ぎになるとは思わなかった。それまで有り得なかった現象や力が身近なものになったのだからそれも仕方なかったのかもしれない。

神社には大量にキーストーンがあったのだから、おまけにあと二、三個は貰うべきだったと若干後悔しつつ静かに自室の扉を開けた。

 

 

 キーストーンを手に入れてから休日を挟み、月曜日。

ジェノサイドは(なばり)洋平(ようへい)として大学に向かっている。キーストーンはハヤテの尽力によって寄せ集められた技術開発を担当とする者たちに預けている。

 

「今日はサークルあるけど、天気もいいしメガストーンの探索やってみようかな」

 

 空を見上げながら隠は呟く。雲ひとつ無い晴天だ。好きなサークルに行けないのは少し残念だが別にそれは痛くも痒くもない。むしろ、組織の戦力確保のために必ず必要なことだ。どう見てもサークルよりもこちらが重要である。

そういう意味では大学の講義も全部放り投げたいところだが、生憎とそういう訳にはいかない。

 

 

「えっ、キーストーンを手に入れた!?」

 

 珍しく声を上げたのは隠と同学年にして友人の一人であり、同じサークルに所属している佐伯(さえき)慎司(しんじ)だった。最近眼鏡からコンタクトレンズに変えたようで印象がかなり変わっている。元から顔は整っている事が分かっていたものの、改めて見るとその顔は綺麗だった。

 

 時刻は昼休み。彼らは学校の文化祭終了後に新たに設けられた部室に集まっては昼食を食べていた。部活でないのに部室を与えられた事の意味が分からないが、どうも部屋が空いていたところを部長が申請したらしく、それが通ったらしい。

 

「元々怪しいと睨んでいた場所をピックアップしたらドンピシャだったよ。だから入手自体はかなり楽だった」

 

 隠は部室をぐるっと眺めた。そこまで広い空間では無いが、二年生は隠と佐伯の他に二人いる。あとは先輩がチラホラ居る程度だ。

隠は彼らと会話をする。

ポケモンとは縁の無い御巫(かんなぎ)や他の先輩たちにとってはどうでもいい話で実際聞いてもいないが、佐伯や他の先輩たちには関係があると言えば関係あるもののようで、熱心に聞いている。話の内容柄どうしても深部(ディープ)集団(サイド)が絡むので話すかどうかはかなり悩んだところだが、結局話したい衝動が勝ったので今こうして話している。

しかし、彼らが深部(ディープ)集団(サイド)と関わりを持って欲しくないので一部事実とは異なる表現を混ぜる。

 

「じゃあレン君、どうやって入手したの?」

 

 隠のあだ名に君付けで呼ぶのは佐野(さの)宏太(こうた)しか居ない。

隠ら二年とは学年がふたつ上の四年生の先輩。十一月も始まったこの時期にこうして部室に来ているという事は来年の内定は既に決まっているのだろう。

関西地方出身の彼は他の先輩たちとはノリが良く、明るく陽気な性格をしている。身長は隠とほぼ同じくらいだが、体型はかなりガッシリとしている。単に太っているだけかもしれない。しかし強そうにも見える。

だが、彼の良いところはその性格だった。

陽気でノリが良いのに加えて、彼は誰とでも仲良く接する。特に輪に入れずに一人で居る子には自ら率先して声を掛ける。隠もそんな彼の優しさに救われた一人なので、こうして仲がかなり良いのだった。

そのように慕っている先輩の前で隠し事をするのは良心が痛む思いだが、こればかりは仕方の無いことだった。

場所を隠す代わりに事実を話す。

 

「"俺たちのグループ全体"からしていわく付きな場所がありまして……。昨日行ってみたんですけど、案の定他の組織の奴等も来ていたみたいで既にメガシンカゆかりの地として有名になってたっぽいです。なんか普通に、そこに居る人と話をして貰ってきました」

 

 言葉を濁したが、それが深部(ディープ)集団(サイド)だと分かったようで、佐伯は不安そうな声を上げる。隠が他の組織の人間から狙われているという事実は以前の騒動の時に知ったものだ。

 

「レンそれ大丈夫だったの?」

 

「大丈夫だったよ。途中で他の連中と出くわすなんて事は無かったし。別に"こっちの"人間の全員が全員その情報を把握している訳でもないし、時間の都合もあったしな」

 

 情報を知る深部(ディープ)集団(サイド)の組織は恐らくだがまだ少数に留まっているはずだ。でなければあの日に誰かと遭遇していてもおかしくはない。もっとも、それは今限定の話で今後は事実を知る組織も増えていくだろう。

それに、余程のことがない限り冬が近付きつつあるこの季節の中で標高千二百メートルの山を登ろうなんて普通は考えないだろう。軽いハイキングを通り越して登山である。軽い気持ちで行けば遭難してしまう。隠としてはそれらを含めての昨日の行動だったのだ。

 

「って事で今日はサークルパスしてメガストーン探しに行ってくるわ。何かあったら宜しくな」

 

「えっ……。でもレンそれは危なくない? 狙われているんでしょ?」

 

「うーん。確かに不安っちゃ不安だけど大学でもなければ基地でもない所にいきなり俺がいる訳だからな。事前情報が無ければバレるとは思えないし。偶然でない限りは大丈夫だと思うけどなぁ。それに、探さなきゃすべて始まらないし、かと言ってそれが怖いからって部下に全部押し付けるのも可哀想じゃん?」

 

 佐伯のこの気持ちは、今ここに居て事情を知る者たちの代弁でもあった。しかし隠は楽観的である。それが彼の本性であり真の性格かもしれないが、危機感が無さすぎると彼等は思ったことだろう。

 

「でも危ないよ? 絶対に目立たないでね」

 

「わざわざ目立つかよ! 一応これでも無個性で特徴皆無の大学生のつもりでいるんだがなぁ」

 

 そう言う隠の服装は確かに特徴が無かった。白と紺のボーダーシャツの上に薄緑の薄いパーカーを着ている。下は青のデニムだ。

そこまで言って隠は昼食に全く手を付けていない事に気付く。喋りすぎたせいで時間を浪費した。彼は急いで食べ始めた。

 

 

 退屈な講義がやっと終わった。時計を見ると十五時前だ。外を歩くには丁度いい時間である。

 

「じゃあね。お疲れ」

 

 隠はこの講義を一緒に受けていた友人に一言掛けて足早に教室を去る。とりあえず今は早く大学から出たかった。

構内を歩きながらスマホを開く。大山の神主、皆神(みなかみ)が作ったメガストーンを探す地図アプリだ。

地図は広範囲であれば反応も多いが、自分の姿が分かる範囲まで拡大すると反応は極わずかとなる。

 

「反応はひとつ……。この近くだとあの公園か……」

 

 それは、隠も知っている場所だった。

と言うのも、隠の通う大学の周辺は住宅が多く並び、それでも土地が余っているので公園の数も多い。多摩のニュータウンはそんなものである。

彼も暇な時間を見つけては、近くの公園にフラッと立ち寄っては時間を潰すなんてことはよくあることだった。

 

「どうせ取るだけなら後は暇だしな。公園内でゆっくり休んだ後に帰るか」

 

 場所を確認して隠はスマホをしまう。同時に取り出したのはオンバーンが入ったダークボールだ。

此処が大学構内だと言うことを忘れているくらい大胆にそれを投げる。

オンバーンが元気良く飛び出し、隠はそれに飛び乗った。

あっという間に大学が遠ざかってゆくが、地上付近で何やら怒鳴り声が聞こえた気がする。

そう言えば、今大学では以前にポケモン絡みの騒ぎがあったせいか監視と罰則が厳しくなったとかいう話があった気がしたのを彼は思い出す。

 

「ったく、誰だよ……そこまで騒いだアホは……」

 

 風を浴びながらそう呟く。

その原因が自分だということに全く気付いていない隠であった。

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