【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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解散令状②

 意識が遠のいている。目の焦点がはっきりしない。頭もぼーっとしているようだった。

時間が経過していくにつれて徐々に、はっきりとしてゆく。明瞭になってゆく。

ジェノサイドは横たわっていた体を起こす。どうやら少しの間寝ていたようだった。視界に映った景色には見覚えがあった。自分の部屋だ。

部屋に灯る蛍光灯の光に覚めたようだった。寝落ちでもしたのか、それは点けっぱなしだったかもしれない。

 

 扉の平行線上にはあまり大きくない机があった。大学で使うためのファイルが二枚と、基地での生活を初めてから一切勉強していないのを物語るほどの、一度として使っていない筆記具が置かれている。思えば、ジェノサイドはこの部屋で勉強した事など無かったかもしれない。それが道具にも表れている。

机は大きくない代わりに、縦に長かった。上部には小さな本棚が備え付けられており、中には大学で使う教材や教科書の他に参考書から、自著であることをアピールしたかったからなのか教授本人から半ば強制的に買わされた書籍や自伝までもが並べられている。当然ほとんど読んでいないので新品同様の綺麗さだ。

 

 目を机から他に移す。

部屋の真ん中には安物の椅子が一脚。壁の一部分はクローゼットと一体となっており、私服は全てこの中にある。

そして、扉のはすむかいにベッドがあった。

こうして見ると、空間いっぱいに家具を置いているようだった。実際彼の部屋の広さは六畳ほどだ。組織の長の部屋としてはかなり狭い方だろう。

もっとも、この基地の小部屋は共用のものでない限りはこの広さらしい。変に気取らないのが彼らしい部分でもあった。

 

 ベッドの上で考え事をしていると、誰かがノックをした。長い間共同生活をしていると足音やノックの音だけで誰か分かってしまう。ハヤテだ。

 

「あれっ、もしかして寝てました?」

 

 返事を聞いてハヤテは扉を開き、彼の姿を見るなりそう発した。

 

「まぁ、ちょっと眠くてな」

 

 ジェノサイドはぱっちりと目覚めたにも関わらずわざとらしそうに目を細めては擦る仕草をした。ハヤテはそれを察してか知らずか、見届けてから部屋の中に入る。よく見るとその手元には数枚の資料があった。

 

「とりあえず……」

 

 ハヤテはクリップで簡単に留められた紙を二、三枚ほど捲る。

 

「先ほどリーダーが会われた"赤い龍"という組織について調べてみました。どうやら実在する組織のようですね。Aランクと高いレベルではあります」

 

 鼻で笑いたくなった。深部(ディープ)集団(サイド)の世界において上位のランクに位置しているとされるAランクも、"最強"からしたら格下にしか見えない。とはいえそう頻繁には会う存在でもない。少し珍しい鳥か昆虫に遭遇するのと同じレベルだ。

 

 時計を見る。

ジェノサイドが長池公園でメガストーンを探してから三時間は過ぎていたようだった。既に外は夜だ。

寝る前の記憶が断片的に蘇ってくる。ジェノサイドは今日起きたことをハヤテたちに伝え、調べるように命令していたはずだ。

その調べ物とは。

 

「事例がかなりあります。リーダーの言われた脅迫文とほぼ同じ内容の文書があらゆる組織に送られているようですね。その組織らに今のところ共通点は見られません。ランクも活動拠点もバラバラ。完全にランダムですね。何を基準に選んでいるのか全くもって不明です」

 

「ランダム……ね。益々イタズラくせぇな。その……何とかっていう人間は何とも思わねぇのかな? 自分の名が勝手に使われている訳だし。騙っている奴を徹底的に調べてしまえばこんな呪いの手紙の騒動も終わりそうだがな」

 

「いえ、イタズラでは無いかと」

 

 ハヤテの声と紙が捲られるパラパラという音が同じタイミングで放たれる。彼は今ジェノサイドの話を聞き、内容を理解して考えた上で資料と符合させようとして否定した。器用な男である。

 

「残念なことにイオキ ワタルという男は実在しており、実際に本人の意思で調査という名目で脅迫文を送り続けて組織を解散させているようですね。目撃情報もあります」

 

「じゃあ肩書きは」

 

「出回っている文書の通りですね。中央議会下院議長……。間違いなく結社の人間です。かなりの大物の議員ですね」

 

 ジェノサイドは目だけをギョロリと動かしてハヤテの持つ紙を捉えた。興味もやる気もない。だが、その眼差しだけは本物だった。

脅迫文には"強制執行"という物騒な単語も含まれていたはずである。

 

「それから、強制執行についてなのですが……」

 

 ハヤテは言葉を詰まらせる。もしかしたら言い難いことなのかもしれない。

 

「この強制執行なのですが……相当にエグいものでして、どうやらこの脅迫文に従わなかった場合は深部(ディープ)集団(サイド)全体として……即ち結社にとっての反乱分子として解釈されるみたいで強制的に排除されるようです。財産は全て没収、住処も奪われ、悪質な場合は該当組織の構成員は皆殺しにされるようで……。まるで存在そのものが無かったことにされる勢いですね」

 

 想像以上だった。

いくら平気で命を奪い合うような、人の道を外れた獣しか存在しないこの世界だとしても、そんな世界を作り上げた結社がそこまで過激な行動に走るものなのかと信じられないでいる自分が居た。

 

「いや……奴等ならやりかねないかもな」

 

 冷静に考えれば。

元々ポケモンを悪用して治安を脅かす連中を絶やすために作られた深部(ディープ)集団(サイド)だ。その目的が達せられた後になって個々の組織同士を争わせるように誘導したのも、そんな世界を生み出したのも紛れもない結社だ。

元々ジェノサイドのような、深部(ディープ)集団(サイド)に属する組織を設立するには結社の援助の下、かなりの金が動くことになる。その為設立以後は結社に対して組織の活動で得た利益は幾らか献上しなくてはいけない事になっている。これはジェノサイドとしても同じで例外は存在しない。

結社からすると、現状はそんな組織が増えすぎている。その分結社側の利益も期待できるが、出費も馬鹿にならないほど大きくなっている。

 

「俺が多くの組織に狙われる理由だが、この世界で一番強いというのもそうだが、それはつまりこの世界で最も財産を手にしているという事でもあるな。組織を相手取って戦い、勝てばその組織の財産が丸ごと手に入る。だが全部じゃねぇ。その財産の四割は結社に払わなければいけない事になっている。……んだが、四割取られても有り余るほどあるだろう。そう思われてっから俺には敵が多いんだ」

 

 ジェノサイドは忌々しそうに自分語りを始めた。ハヤテは嫌な顔はしない。どれも事実だからだ。

 

 ジェノサイドはもしも、と考えた。

もしもこの呪いの手紙が自分に来たとして仮に無視をしたとすると、このイオキ ワタルという人間はジェノサイドの人間を皆殺しにするだろう。本来は他の組織の手助けもあって四割得られる利益が、他組織を介さないことで十割となる。利益の回収としては無駄が無いし、上手くいけば新たに生まれる組織誕生の抑止に繋がる可能性も期待出来る。

野蛮で卑劣で強権的だが、手段としては有りだ。

 

「外道にも程があるな。まぁこんな世界を作り出した連中がマトモな人間な訳がねぇのだが、だからって殺すことを厭わない時点で俺らと何ら変わりゃしねぇ。むしろクソさで言えば奴らの方が最低だろうな」

 

 相変わらず言葉が過激で強いだけのジェノサイドだった。彼は命を奪うことまではしない。深部(ディープ)集団(サイド)最強という肩書きを利用して強い言葉を乱用して恐怖感を与える癖がここに表れているのだ。

ハヤテはそれをよく知っている。だから何も言わなかった。

 

「ところでリーダー」

 

 ハヤテは持っていた資料をくるくると丸めた。見たところ発表は終わりのようだ。

 

「なんだ? まだ言いたい事でもあるのか?」

 

「いえ、それ程のことではないとは思うのですが……」

 

 ハヤテは視線を落とす。躊躇しているようにも、モジモジと恥ずかしがっているようにも見える。

 

「基地の外の敷地に……見慣れない二人組があるのですが」

 

「……」

 

「まさかですが、あのお二方が"赤い龍"ですか?」

 

「……」

 

「もしかして、連れてきちゃいました?」

 

「……」

 

「なにか答えてくださいよ」

 

「……らない」

 

「聞こえませんよ?」

 

「分からないんだもん……こういう時どうすればよかったのか……。無視しても付いてくるしよぉ。すっげぇ困ったような、弱ったスズメのような目してこっち見てくんだもん! なぁ、どうしたら良かったんだ?」

 

「だからって基地の前まで連れて来ないでくださいよ!」

 

 珍しくハヤテは声を上げた。安全保障からして絶対に行っていけない行為を目の前の男はやらかしたのだ。バルバロッサというリーダーの片腕が居なくなった今、自分がリーダーや組織を支えなければいけないという思いが強まりつつあるためか、ハヤテはジェノサイド相手でも強気にならざるを得ない。

 

「いや俺だって最初はあいつらの言葉信じてなかったよ!? 今の今までイタズラに振り回される頭の悪い奴らとしか思ってなかったよ!? でも凄い必死に訴えてくるしさぁ……結局あいつらの言ってる事全部本当だったけどさぁ!」

 

「だからって連れて来ていい理由にはなりませんから。もういいですよ……。いつまでも外で待たせる理由もありませんし呼びに行きましょうか」

 

 ハヤテはジェノサイドの許可も得ずに勝手に歩を進める。階段を上り、廊下を歩いて外に通じる重い扉を開けた。

外界と通じた瞬間、冬が近づきつつある季節の冷気がどっと押し寄せた。同時に景色も映る。

林に囲まれた自然の中で二人組が佇んでいた。

 

「お待たせして申し訳ありませんお客様。たった今我がリーダーから許可をいただきましたので、どうぞこちらへ」

 

 そう言ってハヤテは地下に通じる道を示し、譲る。

二人のうち白装束を着た背の高い男が真っ先に反応した。安堵からか駆けていた。

もう一人はポケモンを出して何かをしているようだった。よく見るとキノガッサに"やどりぎのタネ"を命じている。植物でも増やそうとしているのだろうか。

 

(わか)! 何をしているのですか? さぁ早く!」

 

 部下から若と呼ばれたミナミは急いでポケモンをボールに戻すと鉄の扉に向かって走った。

二人が吸い込まれてからハヤテは周囲を軽く見回してからゆっくりと重い扉を閉じる。

 

 

「んで? お前らはどうして欲しいの?」

 

 ただっ広い広間と同じ階である地下一階に置かれた談話室に、ジェノサイド、ハヤテ、レイジ、そして"赤い龍"のリーダーのミナミが揃う。

木目調の壁紙、異国風の絨毯、ほの暗い照明、天井にも届く高い本棚、そして暖炉が揃っている、あまりにもレイアウトの本気度が違いすぎるこの部屋に彼らは集まった。ジェノサイドが普段この部屋を利用する時は一人の時か、そんなタイミングでハヤテやケンゾウが割り込んでくるパターンが多かったりもする。その為どこか窮屈にも感じてしまう。

 

「望み通り話も聞いてやったし、基地にも入れてやった。他には何を求める?」

 

 未だ心の中に残る敵意の残滓(ざんし)のようなものを吐き出す態度でジェノサイドは臨む。

彼の性格とまではいかないが、深部(ディープ)集団(サイド)の人間と接触する時はどうしてもこうなってしまうのだ。それは四年という時間が生み出してしまった癖とも言えるし、護身術とも悲劇とも言えた。

 

「はい」

 

 応じたのはレイジだった。ここに至るまで何故か彼しか喋っていないように感じる。

 

「いや……はい、じゃなくて」

 

「はい」

 

「……」

 

「ご理解頂けたかと思いますが、いま深部(ディープ)集団(サイド)は異常な議員によって振り回されている状態です。これが一時の暇潰しとか、ただの我儘であれば良かったのですが……こうなってしまえば身の危険も感じてしまいます。実際に私たちにもそれが向けられてしまいました。私たちはこんな所で倒れたくはありません。死にたくありません。だからこそ、私たちは欲しかったのです。保障が」

 

「それで絶対に倒れる事も無ければ死ぬこともない、絶対的な安全が保障される俺の元へとやって来たわけか」

 

 レイジはそれに無言で頷く。

 

「そりゃそうだもんな。俺らはこの世界の頂上に位置するSランク。中々壊れないもんな。と言うより壊れたらマズイよな。けどお前、場所間違えてるぞ。ジェノサイドに避難してそれで安全って訳にはいかない。最強故に俺らは多くの連中から狙われているんだ。その矛先がお前らにも向く。此処は決して深部(ディープ)集団(サイド)で一番安全な場所なんかじゃない。むしろ、一番危険かもしれないんだぞ」

 

「いえ、それはありません」

 

 偽りに近い敵意を放つジェノサイドに臆することなく、レイジは彼に強く熱い視線を投げる。逆にジェノサイドが目を逸らしたくなるほどだった。

 

「仰る通り、こちらは深部(ディープ)集団(サイド)最強の組織ジェノサイドの秘密基地であります。外敵から身を守るために生活上の空間をわざわざ地下に設けている。お陰で外から見れば工場にしか見えません。見事です」

 

 ハヤテはじろりとジェノサイドに不穏な視線を放った。連れて来たせいで見破られたじゃないか、と。

 

「ですがジェノサイド様。それは誤りです。此処は世界一危険な場所ではありません」

 

「ふむ?」

 

「そうでは無いのですよ。もしかしたらジェノサイド様。貴方にその自覚が無いだけなのかもしれませんが」

 

 言ってレイジは椅子から立ち上がった。四人が一箇所に固まっているものの談話室は狭くもなく、かと言って広くもない。暖炉から火が焚かれているので部屋は暖かい。

 

「この世界で頂点……Sランクであるという事実は何を意味していると思われますか?」

 

「何をって……言われてもな」

 

 人差し指を立てて説明したそうにしているレイジの反応に困ったジェノサイドはハヤテと顔を見合わせた。"彼は"疑問を浮かべた顔をしている。

 

「すっごく強いなんていう単純なものではないのです。深部(ディープ)集団(サイド)で一番と言うことは、この世界のバランスを保っている存在でもあると言えるのですよ」

 

「バランス? 俺がか」

 

 レイジははい、と頷く。

 

「貴方は先ほど多くの存在から狙われると申されましたが……それは正確ではありません。それは組織ひとつを狙ったものと言うよりはジェノサイド様。貴方を狙っただけのものが多いのではないのでしょうか」

 

 この世界の人間は組織のジェノサイドを狙うのではなく、"人間"のジェノサイドを狙う者の方が多い。レイジはそう言いたかったし、ジェノサイド本人も気付いてはいた。と言うより、この話は以前大学の教授相手に自ら披露したものだ。だからジェノサイドはレイジが言いたいことを何となくだが理解していた。悟られたくはないので知らない演技をし続けているが。

 

「貴方という存在だけでも、この世界にとっては財産なのです。ジェノサイドという大国を持つボスに、深部(ディープ)集団(サイド)一というブランド。そこからイメージされる莫大な財産。何でもありなこの世界で、歩く宝物を見つけてしまえば誰だって手を伸ばすと思いますよ? 普通ならば」

 

 歩く宝物と呼ばれていい気はしなかった。なんて自分は損な役回りなんだと自分自身に嫌気が差してくる。それを初対面の人間に言われるのが、たとえそれが事実であったとしても個人的には良い気分にはなれない。

 

「ですが、貴方の正体はジェノサイドという最強の組織の一員。余程な酔狂な人間でない限り組織を相手取って戦おうとする人間はまず現れないのではないでしょうか?」

 

「一理ありますね。それに、ジェノサイドという組織があるだけで抑止にも繋がる、と」

 

「そういうことです。そして、それこそが私たちが最も求めていたものになります」

 

「お前たちが俺を支持する事で正しい存在だと周りから見られたいって事か」

 

「それも有るといえば有りますが……」

 

 長い間立ちっぱなしだったレイジはミナミとジェノサイドを見比べた後に用意された椅子に座った。思えば、何故彼が立ち上がったのかその理由がよく分からない。

 

「言ってしまえば、ジェノサイドはそこらにある小さい組織よりも戦いの頻度は少ないはずなのです。勿論今の話ですよ? 過去についてはその限りではありません。それと、リーダー個人に対しては別として。こちらは過去とは変わらないものかもしれませんね」

 

 ジェノサイドは小さく舌打ちをしてテーブルに置かれたコーヒーカップに手を伸ばす。中には熱いコーヒーが満たされている。

 

「要するに、これは極端かもしれませんが、ジェノサイドという組織がこの世界に、深部(ディープ)集団(サイド)に存在し続けていることで今のこの環境を生み出しているのです。私の言った危険でない場所……という意味がお分かりになりましたでしょうか」

 

 ジェノサイドは理解している。

同時に、ハヤテはあっと声を漏らす。

 

「あなた達が此処を選んだ理由……。それは深部(ディープ)集団(サイド)が最も懸念している、"環境の崩壊"を避ける為に絶対に起こりえない、我々に対する脅迫や解散を避けるため。つまりイオキ ワタルの魔の手から必ず逃れられる環境を求めてのことだったのですね!」

 

「その通りです! ご理解頂けて恐悦至極であります」

 

 結社は馬鹿ではない。噂によれば現職の国会議員も絡んでいる世界だ。つまりエリートが存在する場。そんな彼らが絶対にしないこと。それは、この環境を維持し続けているSランクの破壊だ。

五百城(いおき)(わたる)という人間が繰り返しているのは強制的な組織の解体。環境の破壊である。

対象が小さな組織であれば影響は極小であるだろうし、生じる問題も懸念する程でもない。だが、それがジェノサイドとなるとそうもいかない。

ジェノサイドの消滅は深部(ディープ)集団(サイド)の消滅。ひいては、自分たち結社の、中央議会の消滅を意味する。

 

 それらを理解しての、赤い龍からの"望み"だったのだ。

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