【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
意見を交わした結果、"赤い龍"は組織"ジェノサイド"に合流するという答えで一致した。しかし、その動向には注視するようにというジェノサイド直々の命令も付随している。
「やっとリーダーもお気付きになりましたか。他所の組織の方を平和裏に呼び込むことに潜む危機というものに」
「いや違う。あの白い方。俺アイツちょっと苦手かもしれん」
「えぇ……」
その気持ちは分からなくはなかったが、ハヤテの求めていた意識の高そうな意見が無いだけに内心ガッカリする。
「そう言えば二人の姿がねぇな。どっか行ってるのか?」
「荷物を取りに行くために一旦元々あった基地へ戻るそうです。あと、残りの構成員のお迎えなども」
「あー、そっか。そういやそんな事言ってたなさっき。もう出たのか、早いなー」
ジェノサイドが心ここに在らずのような意識が向かない、まるで他人事のように呟いていたのはスマホをいじっていたためだ。あまりにも熱心に画面を睨んでいる。
「あ、あの……リーダー。何をされているのですか?」
「ん。メガストーンの確認」
「まさか今から取りに行くつもりですか!? 確かに今朝は二つほど欲しいとは仰ってましたけど……えっ、今からですか?」
「そうじゃねーよ。って言うかそれだけじゃない。奴ら二人の基地の場所はさっきの話で聞いた。その近くにメガストーンが無いか地図アプリで見ていただけだ」
「な、なるほど……」
大山の神主、
「俺が今懸念しているのは」
ジェノサイドが俯いていた顔を上げた。確認が済んだのかスマホをポケットに仕舞う。
「今日に限って二人に『呪いの手紙』に書いてあるような"強制執行"が適用されるかどうかなんだ。こういう、大事な場面に限って何か嫌なことってのは起きるもんだからな」
「その強制執行自体よく分からないものですしね。一体誰が現地で"執行"するのかとか、それに関わる手続き等も、僕たちは何も分かっていない……」
「別に気にする事はねぇだろ。無いとは思うが今日俺がそんな場面に立ち会ったら撃退ついでに色々聞いてみてやるよ」
あまりにもさらっと言ったのでスルーしそうになったハヤテだったが、確かに今ジェノサイドは"撃退する"と言った。結社の人間を相手取ることを前提に、である。あれほどにもレイジの事を苦手だと明言したり、話を聞く際も不機嫌になる彼ではあったが、既に二人に対して仲間意識が生じている。つまり、守る気満々という事だ。
彼のこういう部分があるからこそ、ハヤテを含む、組織ジェノサイドの人間は皆彼の事が好きだった。
ある人は「ツンデレ」と評し、ある人は「素直じゃない」と言い、またある人からは「オラついてるだけ」など散々な言われようなジェノサイドではあるが、実際彼は実力も高く強いのでそれ"込み"で愛されているわけである。
「お気を付けて」
「おう」
談話室を出て廊下を抜け、地上に通じる扉を開ける。外に出ても思ったほど寒いとは感じなかった。既に廊下が冷えきっているためだ。
ジェノサイドは赤い龍の基地の場所を改めて確認する。東京都に接する、神奈川県内の某所。そこの一軒家。
「そこまで遠くはねぇな」
ポケモンに乗った空の移動では二十分程度で到着する距離だった。この時期の移動である。抵抗はあるが有効な方法はこれしか無い。他の手段では回りくどく、時間も余計に掛かるし非効率でしかない。そう思うようになってしまった以上、ジェノサイドは余程の例外を除いては空旅をするしかなくなってしまったのだ。
ポケモンの背に乗り、空を漂いつつ風を浴びるジェノサイドはもしも可能であれば「ギブアップ!」と叫びたくなった。
とにかく苦痛なのだ。
「く、くそ……。寒い、かなり寒い……。なんかもう手に熱が伝わってねぇんじゃねえかってくらい寒い……ちくしょう、どうにかなんねぇのか……」
そう言ってはジェノサイドはブツブツと呟きながら手の甲をさすっている。こんな事を言ってはいるが掌にはじんわりと熱が篭っている。そんな訳が無いのだ。
主を乗せているオンバーンはこおりタイプが弱点のポケモンであるためか、強い拒否反応を示す程ではないが、寒さが苦手なようで若干我慢をしているような、堪えているような表情を見せている。あくまでもポケモンにおける弱点とはバトルのみでのもののようだ。
メガストーンはどうやら赤い龍の家の近くにある寺の敷地内にあるらしい。
まず先にメガストーンを手に入れてから赤い龍と合流する。安全だと分かればそのままジェノサイドの基地に戻る。
言うだけならば簡単ではあるが、行動を移すとなるとそうにもいかない。特に、ジェノサイドはメガストーンを見つけるまでに苦労している。その場に到着して済むことではない。
「まぁいい。次のお寺は長池公園ほど広くは無いし、ササッと済ませちまおう」
ジェノサイドは凍える気持ちを押し殺して地上を睨んだ。
†
その玄関は、決して広くはない。人一人が出入りするための境界線だ。これがもし、例えば業務用の搬入口ともなればどれほど楽だろうか。
レイジは、家の中から船舶で使うための大きめなスーツケースや鞄を運び、あるいは背負いながら何度も出入りする構成員たちを見ながらそう思った。その誰もが疲労のため苦悶の表情を見せている。
(申し訳ありません、皆さん……)
せめて一人は周囲の状況のための監視役が欲しい。重い物を運んでいる正にその時にイオキ ワタルがやって来たら逃げられない。
レイジはそんな状況下で家の中には入らず、周辺の様子を探っていた。
自分の背後で呻き声がする。レイジははっとして振り返った。
見ると、構成員の一人が大きめのスーツケースを組織が所有するミニバンのトランクに積めたところだった。単に重かっただけらしい。
それから、構成員たちはその場から動こうとしなかった。まるで今回の仕事は全て終わったとでも言いたげに。
「これで全部ですか?」
「えぇ。元々何も無かったですしね。個人で使う分の……例えば服とか生活用品とか。それらを纏めてしまえばもう済んでしまいます」
レイジに反応したのはたった今荷物を車に運び終えた大柄な男性だった。赤い龍という組織はジェノサイドと比べるとかなり規模が小さい。あちらが二百人に満たない程度の構成員が居るのに対し、こちらはレイジ自身を含めて六人しか居ない。実際はもっと多くの人間が居たが、解散令状に恐怖を感じて脱退した者が何人かあったためだ。
このままでは、仮に解散令状の問題を乗り切ったとしても組織としての今後の継続が果たせない。それもあって、今回ジェノサイドの元へ避難する事になったのだ。単にイオキ ワタルから逃げるため"だけ"にジェノサイドを頼った訳ではない。
玄関を覗き込むと、丁度そのタイミングでリーダーであるミナミがやって来た。
「終わりましたか?」
「……うん」
これで全員揃った。
予定通り二手に別れて移動を開始する。
その時、突如として上空から不自然な冷たい風が降りてきた。
見つけるのに苦労した。メガストーンではなく、彼らを。
メガストーンは予想に反して簡単に見つけられた。目的地である寺だが、当初は日が沈んだのもあって門が閉ざされ、入れないものかと思っていたものの、運が良いことにまだ開かれていたお陰で境内に入る事が出来た。
そして、夜ともなるとメガストーンの放つ不思議な光がよく目立つ。敷地も広いものでもなかったので、一つ目の時と比べてかなり楽に入手出来た。
問題はレイジたちだった。
まず、今ジェノサイドは見知らぬ土地の上空に居る。そこから地図で大雑把な位置を見つけられたとしても、周囲は住宅地。家しかない。
そこから、少しでもヒントになりそうなものを暗い空の下探し続けたのだ。
「よう、やっと見つけた」
「ジェノサイド様!?」
「大体この辺かなと思って回り続けていたら、特徴的な姿をしたヤツを見つけてな。近寄ってみたらお前だった。とりあえず見つけられてよかった」
冷たい風の正体はジェノサイドが乗るオンバーンの羽ばたきであった。
一時は遂に結社の人間に見つかってしまったのかと震えたレイジであったが、その不安も
「わざわざありがとうございます。丁度今荷物を運び終えたところです。今から移動を開始します」
「どのようにだ?」
距離が離れて聞き取りにくかったジェノサイドはゆっくりと降下し、地上に着地する。
オンバーンはその時に一旦ボールへと戻した。
「あそこに赤いミニバンがありますよね? あれは私たちが所有する車です」
「見たところお前ら含めて六人……か。じゃあ車で来るんだな」
「いえ、六人の内四人です。あとの二人……私と
「空でか? 空で移動と言っても距離があるぞ。それに寒い。あまりオススメは出来ないが……いっその事お前らが車に乗ったらどうだ?」
「いえ、それは出来ません」
レイジはさも予定通りとでも言いたげにごく自然に首を振る。
「車がロケットランチャーなどで攻撃されたらひとたまりもありませんから」
「……」
ジェノサイドは言葉を失った。あまりにも突飛で、非現実的なそれに返す言葉が見つけられない。返事そのものが無意味なのかもしれない。
「これも全て若を守るためですから!」
「あのさぁ、お前さぁ……考え過ぎかもしれんがもう少し有り得そうなビジョンにしようぜ。まだ車を特定されてポケモンで攻撃される、とかなら分かるけどよぉ……」
「お相手は結社の人間です! そういう物を持っていてもおかしくはないという私の想像に基づいています!」
「……」
やはり返事は無意味なようだった。
説得しても無駄なのを悟ったジェノサイドは彼らと共にまずは赤い龍の構成員たちが乗ったミニバンを見送る。目的地の情報は既に共有されているため問題は無い。
「さて、私達も向かいますか」
「俺らがロケランで狙われると考えたことはねーのかよ」
「まさか……。手ぶらで丸腰の私たちをわざわざ狙います? 狙うとするならばより財産的価値のある車を狙うと思うのですが……。私ならそうします」
「いや、せんでええ! つーかアイツらがそんな物騒なモン持ってるわけねーから!」
ジェノサイドは内心、何をふざけているんだとノリツッコミをかますと気持ちを切り替えんとオンバーンの入ったダークボールを空へと向ける。
「ふむ……。ならば実際に持って来た方がよかったかなぁ? まぁそんなもの持ってるわけがないんだけどね。でもいいな。今後の参考にさせてもらうよ」
知らない人間の声だ。
その場に居たジェノサイド、レイジ、ミナミがほぼ同じタイミングで体を構え、声のする方へ顔を向ける。
知らない人間、知らない男。
だが、彼が何者かは察しがつく。
「お前……。お前か。あのふざけた呪いの手紙をバラ撒いている暇人が」
「礼儀がなってないなぁ君ぃ。僕を誰だと思っている?」
「結社の……方……ですよね」
どこか余裕のあるジェノサイドの口振りとは裏腹に、脇に立つレイジの声は震えていた。
そうなるのも仕方が無かった。正面に立つスーツ姿の男は、仲間と思しき大柄な男を数人従えて構えているのだから。
「その通り! 正解正解だぁい正解!! ワタクシこそが結社改め"中央議会"の"下院議長"の
ここで会うには最悪としか言えない存在と、遂に衝突してしまった。