【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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平穏なる港町②

 休日になると普段は遅い時間に起きるジェノサイドだったが、今日は珍しく早く起きることが出来た。あらかじめ自分に暗示していたせいだろうか、目標の時間ピッタリだ。スマホのアラームといったものは何も使っていない。

 

 今日は十一月の十六日。日曜日だ。

以前、大学サークルで日曜に皆で集まることが決まっていた。この後ジェノサイドは友人たちと横浜へ行く。その為に早起きしたのだ。

ジェノサイドは部屋にある時計を見た。朝の七時。特に理由も無く目標の時間としたものの、これといってやれる事が無い。食堂に行けば朝食を用意してくれるかもしれないが、もしかしたらまだ準備中かもしれない。そう思うと中々部屋から出られなくなる。

 

 ジェノサイドは机の引き出しからプラスチックの小物入れを取り出した。中にはメガストーンが幾つか入っている。ジェノサイドはケース越しに新たに手に入れたメガストーンを強く眺めた。

昨日は何も予定が無く暇だったので、一日をメガストーンの探索に費やした。お陰で昨日だけで五個も集まった。

 

「これまでに手に入れたメガストーンはギャラドス、サーナイト、ジュペッタ、ヘラクロス、フシギバナ、リザードンY、ヘルガー、フーディンか……有用なのもあるけどハズレも多いな。メガシンカは種類多いから仕方ねぇけどさ」

 

 一人呟くとジェノサイドはケースを机の引き出しに戻した。最初こそはこの引き出しに鍵でも付けようか悩んだが、この組織には自分の部屋に勝手に転がり込む不届き者や、引き出しを勝手に開けたり物を盗るような非常識な人間は居ない。これだけでいいのだ。

変化は他にもある。机の上に、白い杖が置いてある。杖と言っても歩行用のそれではない。三十センチメートルほどの大きさで、手に持って振るったり、黒板を指したりする時に使う指示棒のような代物だ。手で握る部分にキーストーンが嵌め込まれている。組織の人間に作らされた、メガシンカに必要なデバイスだ。

 

「……」

 

 時間稼ぎをしたつもりだったが、五分ほどしか経過していない。それは、あまりにも退屈すぎた。

 

「しゃーねぇ。とりあえず行くか」

 

 ジェノサイドは特に何も持たず部屋を出る。

 

 食堂に入ると、自分以外の利用者は一人だけだった。それも、テレビ近くに陣取っては画面を凝視している。

この組織の人間たちは自分に似て早起きは苦手のようだ。

 

「あれぇー? レン君? こんな時間に珍しいねー。おはよう、どうしたの?」

 

「秋原……お前もう準備してたのかよ早ぇな。」

 

 調理場からひょっこりと顔を出してこちらに声を掛けてきたのは秋原(あきはら)友梨奈(ゆりな)。ジェノサイドにとっては今となっては数少ない、高校時代から交友関係を持った友人の一人だ。

彼女は組織ジェノサイドの非戦闘員ではあるが家事が得意なため、食堂で日々構成員のために料理を振舞っている。

 

「悪い秋原。朝飯ってまだ出来てないよな?」

 

「うーん……。目玉焼きで良ければすぐにでも。ご飯付ける?」

 

「トーストで頼む」

 

 親子のようなやり取りを交わしてジェノサイドは適当に目に付いた席に座る。

その途端、ジェノサイドは物思いに耽る。

 

 今日の横浜での集合時間は十一時。なんでも、昼は中華街で済ますらしい。ジェノサイドはどのタイミングでメガストーンを探そうかとか、五百城(いおき)あたりが邪魔して来ないかなどと余計なことばかりを考える。

 

「はい、どうぞ」

 

 秋原が席まで調理済みの朝食を持って来てくれた。塩胡椒が振られた目玉焼きと綺麗に切られたトマトとレタスが添えられている。トーストも一緒だ。

 

「早っ。もう出来たのか」

 

「そんなもんでしょ」

 

 体感では二分と経っていなかったようにも感じられたが、そんな事は無いようだった。ジェノサイドはすぐに食べ始める。

 

「今日は何処かへ行くの?」

 

「あぁ。大学の友人たちと遊びに。横浜まで行ってくるわ」

 

 見ると、秋原は隣に佇んで食事しているジェノサイドを眺めている。ちゃんと仕事しろとからかいたくなったが、生憎自分以外に食事を待つ人は居ない。

 

「そう、仲良いんだね」

 

「かもな。友人の中にこっちの方であまり遊んだ事がない奴がいてさ、折角だからと何人か巻き込んで散策する事にしたよ。あ、あとそれとミナミ連れて行くわ。大した事じゃないんだけど念の為にね」

 

「ミナ……ミ……? 誰それ」

 

 秋原の嘘偽りないその反応を見てジェノサイドは少し笑いそうになった。とは言え、交流が無ければ知らないのも無理は無い。彼女は組織の人間とはいえ、私用を除けば食堂から出た姿を少なくともジェノサイドはほとんど見たことがなかった。その人は最近入って来た深部(ディープ)集団(サイド)の人間だと伝えておいた。

 

「それって大丈夫なの?」

 

「問題無いでしょ。身分隠せば見分けなんて付かないし。ちょっと用があって一緒に居なきゃいけなくてな。まぁ、大した用じゃない」

 

 秋原は何か言いたげな、不満そうな表情を一瞬見せるがジェノサイドはそれに気付く事は無かった。ご飯もそろそろ食べ終わるという頃に秋原がコーヒーを飲むか尋ねてくる。

 

「ホットを一杯頼もうかな」

 

「元からそれしか無いよ今日は」

 

 そう言って戻った秋原だが、既に淹れていたのかすぐにこちらにカップを持ってやって来る。

 

「思ったんだけど、今日はレン君が案内する感じ?」

 

「そうだな。横浜在住の奴も居ることには居るが、俺だって案内出来る。何度か来た事あるしな」

 

「最後に横浜行ったのって……」

 

「ゆーて三年前の春だけども」

 

「行ったよね、高校のみんなで。楽しかったなぁ……」

 

 三年前の五月。二人は学校の行事で横浜に行っている。その時の記憶が未だ鮮明に残っているのだ。

 

「あれから色々あったよね、私たち」

 

「あぁ。本当に。……本当に色々あった……」

 

 二人だからこそ分かる。秋原はジェノサイドほど当事者でないにしても、その事情については痛い程分かるのだ。

 

「さてと。あまり準備が滞っていると遅れるし、俺はミナミ起こしに行ってくるわ。時間あったら何かお土産買ってくるよ」

 

「ありがとう、レン君」

 

 コーヒーを飲み干し、テーブルに置くとそう言ってジェノサイドは食堂を出た。

 

 

「おや、おはようございます。ジェノサイド様」

 

「いつからここはお前らの部屋になったんだよ……。まぁここに居ると思って来た俺も俺だが」

 

 ジェノサイドは彼等が居るだろうと読んで談話室へとやって来た。自分好みの部屋に模様替えしたはずなのだが、いつの間にかミナミとレイジに奪われている。彼等が此処にやって来た時に部屋を充てたはずなのだが、何故か二人はこの部屋で生活している。確かに、この部屋には他には無いシャワールームなどがあるため、特にミナミが好んで使っているのは容易に想像出来る。尤も、本来この部屋は誰もが利用出来る共用スペースだ。そのため、今のジェノサイドみたいに突然他人が入ってくることもある。レイジはそうでもないが、ミナミは当初嫌な顔をしていたらしい。今は慣れたようでそんな反応も無いようだが、そもそも元からこの部屋を利用するのがジェノサイド本人ぐらいしか居なかったのだから大きなトラブルなど起きるはずもなかった。

 

「てか、お前起きるの早いな。いつもこんなもんか?」

 

「若が起きれば私も起きます。私が若を守る最後の砦のような存在ですからね」

 

「それをヤツも自覚していればいいがな……」

 

 レイジは自信満々と言いたげに笑顔を魅せた。二人の仲がどんなものかまだよく分からないジェノサイドではあるが、レイジが思うほどミナミも彼を溺愛している訳ではなさそうだ。

 

「んで、そのお前が守るべきミナミの姿が見えないんだが……」

 

「決まっているじゃないですか、あちらですよあちら」

 

 そう言ってレイジはシャワールームを指す。

 

「あいつこんな時間から風呂入ってんのかよ。これから出掛けるとは伝えていたからその為か?」

 

「若は一日に二回は入りますよ。どんな日でも必ず。ところで今……」

 

「おいおい、あまり長風呂されると困るんだけどなぁ!? 大丈夫なんだろうな、俺はちゃんと伝えたぞ今日の予定について!」

 

「何処か行かれるのですか? 若と一緒に?」

 

 レイジは若干笑顔を引きつらせる。遮られても尚尋ねるところを見るに、その見た目以上に必死なようだ。

 

「あぁ、まぁな……。お前には言ってなかったなそう言えば。これからミナミ連れて横浜行ってくるわ。どうしてもミナミの手を借りたいもんでな」

 

「デートですか!? デートなんですね!? 若いお二方がそんな若者に人気のデートスポットに行かれるとは! お義父(とう)さんはそんな勝手許しませんよっ!」

 

「デートじゃねぇよ! 俺の大学の友人も一緒だわ! ……てかお義父さん呼びを自分からすんな気持ち悪ぃ」

 

「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはなぁぁぁぁぁぁい!」

 

「勝手にエキサイトしてんじゃねぇ! いい加減黙れ!」

 

 会話に熱くなりすぎたせいか、二人とも荒く息を吐く。ジェノサイドとしてはこのやり取りがネタだと思いたかったが、レイジはどう思っているのかが不明瞭だ。仮に本気で言っていたとしたらその愛はかなり強く、重いものとなる。

 

「人生に一度は言ってみたくてですね……」

 

「物好きにも程があるだろ。てかお前、仮にだぞ? 仮にミナミが結婚するってなったら今の台詞言うのか?」

 

「言うかもしれませんね。言いたくなるかもしれませんね」

 

「あ、あぁ……そう……」

 

 レイジの想いに負けたジェノサイドはドン引きし、会話も大人しくなって暫く経った頃にミナミはやっと風呂から上がった。

 

 

「今日横浜行くって言わなかったっけか?」

 

「聞いてたよー。だから準備したんじゃん」

 

 一切悪びれる様子の無いミナミにジェノサイドは心の中でため息をついた。その原因は時間にある。

 

「あのなぁ、基地から横浜まで電車で二時間弱は掛かるんだよ。それで集合は十一時。遅刻するかしないかのギリギリなんだわ今」

 

「あれ? ポケモンで行かないの?」

 

「こんな季節に東京の西から神奈川の東までとか無理に決まってるだろ……外の目も気になるし」

 

 二人は今、基地のある林を抜けて駅へと向かっている。珍しく交通機関を使う理由はたった今ジェノサイドが述べた通りだ。

 

「ポケモンを使うのってそんなにダメなの?」

 

「ダメって程じゃないが、世間一般からするとポケモンを好きなように操れる俺たちを見る目は羨望や憧れとかよりも恐怖の方が強い。俺たちからしたらそうでもないが、そういう人たちからすると珍しいんだよ俺らは。深部(ディープ)集団(サイド)自体かなりの少数派(マイノリティ)だからな」

 

「ふーん。あまり気にした事無かったかも」

 

「ったく……」

 

 会話が続かない。無言の時間が多い気まずい雰囲気の中、二人は駅に着き、少し待って目当ての電車へと乗り込んでゆく。

 

 目的地に着いたのは集合時間を数分過ぎた頃だった。案の定他に遅れた者はなく、皆が(なばり)を待っている。

 

「あー……ごめん皆。ちょっと遅れた」

 

「いつも通りだろ。普段より若干早いかもしれない」

 

 樋端(といばな)(かける)がやや強めに隠の肩を何度か叩きながら笑う。見れば確かにそこに居る誰もが笑っているか、呆れているか、そもそも興味を示すことなく誰かと会話しているかのどれかだった。気にする程でもないのかもしれない。

 

「そうなると、これで全員か。……あれっ? 先輩?」

 

 見れば、自分たち二年生で作られた塊とは別に、もうひとつ別の塊があった。自分らよりふたつほど学年が上の先輩たちだ。

 

「やぁレン君。暇だったから皆で来ちゃったよ」

 

 大柄な身体を揺すりながら波多野(はたの)幸宏(ゆきひろ)が声を掛けてきた。特徴的なハスキーボイスですぐに彼だと分かる。

佐野(さの)宏太(こうた)篝山(かがりやま)淳二(じゅんじ)の影に隠れがちだが、彼はこのサークルの現会長だ。それに見合ってかポケモンも強い。少なくとも佐野よりは強いとの噂である。

 

「波多野先輩。少しなら来るかと予想はしていたんですけど……まさか全員ですか……」

 

「うん、あまり無い機会だしね」

 

 そう言う波多野の後ろにはサークルに所属している四年生全員が居る。名里(なざと)桃花(ももか)が隠にも聴こえるように二年生だけのイベントだったのに、などと言っていたがそんな事を言いつつも彼女も嬉しそうにしている。

 

「桃花の言う通り、本当は二年だけで集まる予定だったんだよね、すまんな。皆来る事になっちゃって」

 

 自身の彼女である名里の代弁でもするかのように篝山がやや申し訳なさそうに謝るが、このサークルの二年も四年も基本大らかである。気にする人間など居ない。

 

「別にいいですよ。先輩たちもあと数ヶ月で卒業ですし、皆と居られる内に一緒に居ましょうよ」

 

「レン君……優しいのう」

 

「……とりあえず向かいましょうや」

 

 しんみりしている篝山を躱して、隠は今回の主役と勝手にイメージしている五郎川(ごろがわ)(ひろし)に声を掛ける。

 

「お前中華街とか初めてだっけ? とりあえずそっちから行こうぜ。その為に桜木町じゃなくて関内(かんない)駅に集まったもんだしな」

 

「それは良いんだが……レン、ひとついいか? その子は誰だ? 彼女?」

 

 恐らくここに居る誰もが思っていたであろう事柄を、五郎川が代表して尋ねた。"その子"とは当然ミナミの事だ。サークルの人間たちはミナミはおろか、彼の深部(ディープ)集団(サイド)での人間事情の一切を知らない。

 

「あー……。まぁ友達だ。今日はちょっと散策以外にも個人的に目的があってな、それで……」

 

「てめええええええ! オメーも彼女かよおぉぉぉぉぉ! しかも予告無しに連れて来てんじゃねぇよぉぉ! ノロケやがってぇぇ!」

 

「だァから彼女じゃねえって言ってんだろうがァァァ!」

 

 男子校のようなノリを穂積(ほづみ)裕貴(ゆうき)から振られた隠はデジャブを感じつつ絶叫する。ジェノサイドとしての、基地での佇まいと真反対のものを見せつけられたミナミはただただ固まるのみだった。

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