【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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第4話

 

 時間はそれより少し遡る。

朝七時。宮殿の中にでも居るかのように思わせるほどの広大な食堂の中、眩い明かりに時折目を細める"彼"がいた。

 

「地下にあるから陽の光を浴びられない。それは仕方ない。……が、その代わりかなにかなのかもしれないが少し眩しすぎやしないか?」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)最強と言われている組織にして、その名を自身に冠している男。即ちジェノサイド。

彼は、その名声に恥じぬ広々とした空間でゆっくりと朝食を食べていた。

 

「そう思うのならば……少し暗くしても良いが、単に寝起きでそう思うだけなのでは?」

 

「俺もそう思うよ。だからこのままでいい。……それで? 話って?」

 

この空間に居るのはジェノサイドだけでない。そこにはもう一人の、明らかに彼よりも年配の男が傍に立っていた。

 

「例の物品についてだ」

 

 バルバロッサ。

いかにも偽名のようにしか聞こえない名だが、"この世界"においては本名を名乗る方が珍しいくらいだ。初対面の時は戸惑いこそしたが、今となってはそんな感情はとうの昔に失せている。

だが、異質なのは名前だけでなかった。

白く長く蓄えた髭、遥か西方の地域の土着民族が着ていそうなイメージの、摩訶不思議な柄で彩られたガウン。明らかに日本人離れした顔立ち。

その全てが現実離れしている、そんな男だ。

 

「何だっけかな。写し鏡……か?」

 

「そうだ」

 

 ジェノサイドはこの男と知り合ってもう四年になる。それだけでない。ジェノサイドという男がこの世界に踏み入ったきっかけそのものが、そこからあらゆる手引きを施しサポートしてくれたのも、今日までのあいだ果てのない戦いを続け、常に勝ち続けてこれたのも、この男の存在あってだった。

まさに、右腕と評すべき人物だ。

 

「本来ゲーム内でしか存在し得なかった物品アイテムが、どういう訳かこの世界にも顕現しているようだ。その調査をした上で、可能であれば回収してもらいたい」

 

「意味が分からないな。ゲーム内のものと同じ道具? どうせどっかの物好きが時間をかけて作ったオモチャみたいなもんだろ。そんなの相手にするだけ意味無いって」

 

「見た目や名前が同じだけでない。性質も同一とされているのだよ」

 

 語尾に微かに気迫が残っている老人のその言葉に、ジェノサイドは一瞬だけ思考を固めた。意味をしっかりと理解するために。

 

「性質……だと? いや、」

 

 有り得ない。そう断言するしか無い。

 

「ゲームでの"うつしかがみ"の効果は伝説のポケモンのフォルムチェンジを可能とする道具。そうだよな?」

 

「そうだ。間違い無い。正確にはその伝説のポケモンとはトルネロス、ボルトロス、ランドロスの三体を指すのだが」

 

「だったら尚更有り得ねぇな。バルバロッサ、アンタなら俺の言いたい事が分かるよな」

 

 バルバロッサは優しく目を閉じると軽く頷く。

 

 この世界には大きな制約がある。

ジェノサイドが今バルバロッサの隣でパンを齧り、コーヒーを飲んでいるこの間にも、世界のどこかではポケモンが人間と共に活動している。

だが、それは、持ち主となる人間のセーブデータがあってこそであり、現実に姿を見せるポケモンは持ち主が所持しているゲームのデータがそっくりそのまま反映されているのだ。

しかし、その中での制約。

 

「理由は分かってはいないが、この世に生きるすべての人間はどういう訳か"伝説のポケモンを呼び出す事が出来ない"でいる。どれだけゲーム内でそういう類のポケモンを集め、手持ちに含んでいたとしても、まるで大きな制限が掛かっているかのようにそのポケモン"だけ"操る事が出来ねぇんだ」

 

「そうだ。そのため、我々の世界はおろか、"表の世界"でも伝説のポケモンを拝む事は決してない」

 

「だからこそ、使える前提が必須なそんな道具がこの世にあること自体不可解だ」

 

「しかし、現にそういった報告がある」

 

 ジェノサイドは反応に困った。

ただでさえこの世にポケモンの姿が確認されているだけでもおかしいのに、更にその理由も原理も分かっていないときているのに、それ以上に理解が追い付けない事柄を提示されても、理由なく首を縦に振ることなど出来る訳がないのだ。

 

「ジェノサイド。少し考えてみるんだ」

 

「考えてるよ」

 

「この世界には理由が不明なものが沢山ある。未確認の生物や物体、現象、体験、歴史、起源……。挙げたらキリが無いだろう」

 

 ジェノサイドは内心、また始まったと心の中で舌打ちをした。彼も暇では無い。この後も用事が控えている。

 

「今はそれにポケモンが含まれてしまった。ただそれだけの事だ。しかしそのポケモンのみに焦点を当てるとまた更に違ったモノが見えてこないか?」

 

「すまん、バルバロッサ。俺あまり時間が無いんだ」

 

「まぁまぁ、最後まで聴いてくれ。ポケモンが現れた理由、その原理、それだけでない。何故我々は伝説のポケモンが使えないのか? 何故ゲーム上では存在するメガシンカが使えないのか?」

 

 最後の単語を聞いてジェノサイドは初めて意識を彼に傾けた。メガシンカというシステムはジェノサイドも気に入っているものという単純な理由からだ。

 

「当然答えは分からない。しかし、お前さんは今その分からない問いに対する手がかりを得られるかもしれないのだよ」

 

「その手がかりが写し鏡って訳かよ……」

 

「逆に考えてみるんだ。今我々は特別なポケモンを使うことは出来ないが、この道具が実在していると仮定して、仮にだ。仮に三体の伝説のポケモンをお前さんが使いこなせるようになるとすると……」

 

 今以上の最強を、より多くの、より強大な戦力を手にする事が出来る。

それは、常に最強という立場に置かれている彼からすると何よりも望んでいる存在だ。

 

「ったく……朝から憂鬱な気分になってくる」

 

「とにかくだ、その物体の詳細を調べてもらいたい。偽物なら偽物で良し、本物ならば持ち帰って良しだ」

 

「場所は? おおよその場所なんかは分かっているんだろうな?」

 

「勿論だとも。神東大学だ」

 

「なに?」

 

 ジェノサイドは耳を疑った。ほんの少しの間だけ夢と現実を混同したのかと錯覚したと思い、反射的に聞き返す。

 

「写し鏡は神東大学にあるようだ。正しくは、考古学の教授が発掘した物品らしい。私の手元にある資料にはそうある」

 

「何でよりにもよって"表の世界"の人間が……」

 

「我々が思っているよりも、二つの世界は混ざり合っているという事なのだろう。そういったモノは案外"表"にあるものさ。ちなみにこの情報に偽りは無いと断言しよう。"こっち側"に近しい者……いや、親しい者と共有した資料に拠るものであるからな」

 

「お前にとって親しい人間? 誰だそいつは」

 

「お前さんには関係の無い話さ。若い頃の戯れが由来でな」

 

 白髭の老人は、かつての自分の記憶を洗ったのか優しく笑った。恥ずかしいエピソードでも思い出しているかのようだ。

 

「頼めるかな?」

 

「……仕方がねぇ」

 

 最後まで気が進む事は無かったが、当初自分が思っていた以上に厄介な問題らしいようだ。

所在地にも心当たりがあるし、何より"表の"人間が触れかねない。そうなった場合、どういった結末を迎えてしまうのか、過去に悲劇を経験したことのあるジェノサイドだからこそ、その想像は容易だった。

 

「やってやるよ。ハッキリとダミーだったと知らしめてやるためにな」

 

 一部のアンダーグラウンド的な都市伝説においては危険なテロリストだと噂されているジェノサイド。

だがその実態は、誰よりも平和を愛し、それに焦がれる一人の純粋な男でしかなかった。

 

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