【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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平穏なる港町⑥

「試験は持ち込み禁止です」

 

 (なばり)洋平(ようへい)は講義が終わるというその間際に解き放たれた、教授による恐怖の呪文によって文字通り凍りついた。

講義や教授によって試験の様式は変わるものだが、傾向からして自身の考えを書かされる形の出題が多い。問題そのものが膨大なため、これまでの講義で作り続けてきたノートや参考資料程度のレジュメ等の持ち込みが可となるものがほとんどだ。実際隠もこれまでにそんな試験を受けてきた。とはいえ、持ち込み不可の試験をこれまでに受けてきた事が無いという訳でもない。問題は別にあった。

 

「俺この講義まともに受けたためしが無いんだよなぁ……。ノート書いてる時より寝てる時間の方が長い気がする」

 

 そうなると試験の参考になどこれっぽっちもならなそうな役に立たないノートではあるが、それでも有るのと無いのとで臨みやすさというものがかなり変わってくる。例えるならば、最後の最後の望みを絶たれたようなものだった。

 

「考えてもしょーがねぇ。今日はひとまず基地に戻るか」

 

 本日の最低限の仕事は終えられた。それによって抱えることとなった謎も出来る限り解決させたい。そんな思いが、ジェノサイドの帰りたいという気持ちを強くさせる。

いつも通り空の移動が可能なポケモンをボールから出すと慣れた動きでそのポケモンの背に乗り、瞬時にその姿を消した。

 

 

「おいハヤテ、ハヤテいるか?」

 

「ハヤテきゅんはここにいるぞっ! 誰にも渡さんっ!」

 

「いや純粋にキモい」

 

 基地に帰って真っ先に広間へ赴いたジェノサイドは、普段通り数人の構成員で固まっている空間に向けそう叫ぶ。答えたのは筋肉質な体をした、ジェノサイドにとっても特に頼りにしている仲間のケンゾウだった。その傍にハヤテが居る。ハヤテはギャグだと分かっているとはいえ、ケンゾウの距離感が近すぎるその想いに嫌がっているようである。

ケンゾウの元をすり抜けるようにして離れたハヤテは、そのままジェノサイドの元へと来る。

 

「なにかご用でしょうか?」

 

「まぁな。今日奇妙なメガストーンを見つけたものでな。少しお前の意見が聞きたくて」

 

「ふむ?」

 

 広間の中の長いソファに座ったジェノサイドは向かい合った先でしゃがんでこちらを眺めているハヤテに例のメガストーンを渡した。

 

「どう見える? 俺にはミュウツーのメガストーンにしか見えないんだが」

 

「これは……。どう見てもミュウツナイトですね。ゲンガナイトに色合いが似ているのでそれかもと思うかもしれませんが、リーダーは既に手に入れていますし、こちらはゲンガナイトほど暗く濃い色でもありません。やはりミュウツナイト、それもYの方ですね」

 

 ミュウツーという単語を聞いてこの空間内のほとんどの人間がこちらを振り向く。ケンゾウに至ってはすぐ傍にまで寄って来ていた。

 

「あぁ。これはつまり……どういう事だろうな? ミュウツーのメガストーンがあるって事はメガシンカが可能だってことだろ? だけどミュウツーは……」

 

「我々では扱うことが出来ない伝説のポケモン……ですね」

 

 この事についてはこの場にいる誰もが理解していた。

現実世界で使えるポケモンとは、常にゲームデータ内の"手持ちのポケモン"が反映される。ゲームデータとこの世界が何らかの形でリンクしている"らしい"からだ。

そのため、彼等は頻繁に手持ちのポケモンを変えなければならない作業に明け暮れる訳だが、その時にゲーム内では簡単に入手出来る伝説のポケモンたちを手持ちに入れ替えても、どういう訳かこの現実世界では反映されない。一部のポケモンだけがこの世において使う事が出来ないのだ。

 

「ですが、完全に、という訳ではありません。以前リーダーが戦ったバルバロッサは伝説のポケモンを使いました」

 

「何故か、は未だに分からないけどな」

 

「なので"特殊な条件下"においては行使可能かと思われます」

 

「んん? その特殊条件てのは何なんだ?」

 

 気になったのか、ケンゾウが会話に入り込んできた。ハヤテはジェノサイドと二人きりで話していたかったためか、若干だが嫌そうな顔を見せた気がした。

 

「分かるわけないでしょーが。僕もリーダーも誰も分からないよ。仮説上の話ってだけ」

 

「あー、なるほど」

 

「……」

 

 二人のやり取りを見て、ジェノサイドは黙り続けていた。特殊な条件下、というのはあながち間違いではないのかもしれない。絶対に理由があるはずなのだ。だが、その理由が分からない。

 

「分からねぇなぁ。分からねぇ事だらけだよ」

 

 場所は変わり、談話室で暖炉の熱を浴びながらジェノサイドはミュウツナイトYを手に持って眺める。

そんな彼の元に淹れたばかりの紅茶を持ってきたレイジが笑顔のまま尋ねてきた。

 

「また何かあったご様子で」

 

「まぁな。ただでさえ権力闘争に頭を悩ませているところに、別ベクトルの別問題がやって来たんだ。いい加減頭が痛くなる」

 

 そう言いながら差し出された紅茶をジェノサイドは受け取った。

その時彼はミュウツナイトYをテーブルに置く。円形のそれは少しの間テーブルの中で揺れた。

 

「またお綺麗なものを。そちらは?」

 

「ミュウツナイトY」

 

「ミュウツー……」

 

 顔にはあまり出ていない様子だったが、レイジも内心驚いたようだった。やはり共通して思い起こされるのはひとつしか無いようだ。

 

「使える……のでしょうか?」

 

「いや、分からねぇ。試したいけど試せねぇしな。そもそも伝説のポケモンが簡単に使えるのもそれはそれでヤバいだろって。どいつもこいつも災害級のポケモンだぜ」

 

「今こうして使えない理由も、それかもしれませんね」

 

 淹れたてだからか、紅茶はかなり熱かった。ジェノサイドはそれと格闘しつつ、ちびちびと飲む。タイミングを同じくして、談話室の扉が新たに開かれた。もう一人誰かが入ってくる。

 

「げっ、またあんたが居る」

 

「此処は公共スペースなんだがな。まぁいいや、丁度三人揃ったし。明後日の金曜千葉の夢の国に行くぞ」

 

「はい?」

 

「えっ、はぁ? はぁ!? なんで?」

 

ミナミとレイジの二名が狼狽えた。理由も無しに突然決められると誰だってそうなるものかもしれない。

 

「どうした? そんなおかしい話か?」

 

「ウチが言うのもなんだけど、ちょっと飛躍し過ぎている気がするんだけど……」

 

「お義父さんが許しませんよっ! そんな事!」

 

「……ん? おい待てお前らなんか勘違いしてねぇか? あれだぞあれ。メガストーンの探索な」

 

 それを聞いて目が点になる二人。その顔は共通して拍子抜けだと言っているかのようだった。

 

「あのぅ……ジェノサイド様らしいと言えばらしいのですが……」

 

「そうよ……。なんで普通に遊びの誘いじゃないのかなあって。……って待って、さっきなんて言った? レイジも連れてくって言わなかった!?」

 

 あまりにも大きく反応するのでミナミ自身聞き間違いをしたのかと思ったほどだった。それを見たジェノサイドも言い間違いをしたのかと一瞬錯覚してしまう。

 

「言ったぞ。だって仕方ねぇじゃん。夢の国の中にメガストーン二つあるみたいだしよ」

 

「だとしても何でレイジを!? 理由は?」

 

「理由か? そうだな、範囲が広いからお前が迷子にならないよう、ここは保護者的ポジションをと思ってな……」

 

 少し間を空けた後にジェノサイドの顔に枕が飛び込んできた。普段からレイジ相手に投げているせいかコントロールは正確だった。見事に顔面へとジャストミート。反動に耐えきれず椅子ごと後ろへと倒れた。

呆れたのか怒ったのか、ミナミはそのまま談話室を出て行ってしまった。レイジもその後を追う。

誰もいなくなったタイミングで枕を剥ぎ取り、ジェノサイドは起き上がる。幸いにも紅茶はテーブルに置いておいたので二次被害は発生していなかった。

 

「馬鹿にしたつもりじゃなかったんだけどなぁ……」

 

 自分以外の誰も居ない静かな空間で、ジェノサイドは倒れた椅子を元に戻し、改めて紅茶を愉しむこととした。

 

 

 日付は変わり、二十日の木曜日。ポケモンの新作を明日に控えた今日は、普段通り大学に行きつつメガストーンを探す予定となっている。

 

「地図を見る限り……メガストーンの反応は五つ。その内一番近くて二個、だが都心部だな……」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)最強のジェノサイドであっても、同一のメガストーンを手に入れる事は出来ない。それはつまり、何人(なんぴと)であっても示される反応は二十八が上限だ。これまでにメガストーンを取り尽くした彼の手元には極小となった反応が、それも相当距離のある物しか残らなくなったのだ。

そんな彼に一番近い反応は新宿駅周辺にひとつ、あと一つはどうやら東京タワーの近くにあるようだ。

 

「講義なんて無かったらちょっくら東京観光とかしたかったんだけどなぁ。まぁしょうがねぇ。俺は学生だし、もう少しこっちに力入れねぇとなぁ」

 

 講義開始を告げるチャイムが鳴り響く。既に講堂の席に座って教授が来るのを待っていた彼は、ひとまずスマホをしまった。これから一時間半、分かりにくい講義が始まる。

 

 

「おひーるやすみは浮き浮きぼっちー」

 

「どんな替え歌だ。ってか、いいともは今年の三月に終わっただろ」

 

 午前の講義を終えた隠はコンビニで適当に買ってきた昼食を手にしつつ自身が所属するサークルの部室へとやって来る。サークルであるにも関わらず部室を与えられたのは、去年の秋に大学側に申請し、それが通ったお陰らしい。何故通ったのか、何をしたのかは隠にとっては一切謎ではあったが、どうやらこの部屋は元々空いていたものらしく、そこに割り込んだもののようだった。

そんな部室にて、隠の他に樋端(といばな)(かける)が一人で弁当をつついていた。替え歌を歌っていたのも彼である。

 

「あっという間だったなーって。もうそろそろで今年終わりだよ」

 

「本当に、時の流れは不思議だね」

 

 部室には一人用の小さなテーブルしかない。樋端が使っている以上割り込む訳にはいかないのと、隠が買ってきたのは菓子パンとカロリーメイトだ。わざわざテーブルを使うまでもなく、その辺の空いている椅子に足を組んで座るとそのまま食べ始めた。

 

「なぁ樋端。俺この後メガストーン探しに行ってくるわ」

 

「レンやっぱり今日のサークルには来ないのか。XY最後の日だぞ?」

 

「本当は皆と対戦とかしたかったんだけどなぁ。だがこの調子だと明日までには何とかなりそうだからこの機会を逃したくねぇってのが本音だ」

 

「ふーん、残り幾つだっけ。てか、メガストーンって全部で幾つあるんだ?」

 

「お前ちゃんとゲームやってねぇだろ……。メガストーンは全部で二十八、俺が持っている総数は二十三個。残りは五つだな」

 

「もうそんないったのかよ……すげぇな」

 

「お前もその気になればキーストーンとメガストーン持てるんだから少しは意識してもいいと思うけどな」

 

 隠は言いながら複雑な気分になった。樋端は確かにポケモンをプレイしている人間の一人だ。やり込み度が違うので隠はおろか佐伯(さえき)よりも実力は低いが、周囲に公言しているように彼はウルガモスを使うのが巧みだ。ゲームの世界を超えてこの世にウルガモスを召喚する事も可能ではある。しかし彼は一般人だ。樋端だけではない。佐伯も大三輪(おおみわ)穂積(ほづみ)も四年の先輩たちも皆が一般人である。わざわざ現実世界にポケモンを"呼び出して行使する必要性が無い人々"なのだ。隠とは違う世界の人間たちである。メガシンカという戦力を確保すること自体ナンセンス極まりない。成り行きとはいえ穂積にアブソルナイトを受け取らせたのは余計だったかもしれない。

 

「メガシンカかぁ……気が向いたらな」

 

「それがいいよ。それでいい」

 

 自分で勧めておきながら消極的な態度を表した樋端に対して、隠は内心ホッとした。

 

 

時が進み、午後の二時半。

講義を終えた隠は青ざめた顔色のまま教室を出た。

 

「ノートを見た限り三十分しか授業聴いてない……残りの一時間ずっと寝てたって言うのかよ……」

 

 その衝撃で完全に目が覚めた隠だったが、終わった事は仕方が無いと気持ちをメガストーン探索に切り替える。

この時間にもなると彼のように、一日の講義全てを終えた学生もチラホラと現れる。

構内にあるバス停から形成されたバス待ちの行列は既に長くなっている。自分はポケモンを使うので無関係だとその列を眺めていた隠は、

 

「あっ、レンだー。やっほー」

 

 聞き馴染みのある友人の声に意識が移った。

 

「大三輪か」

 

 同級生にして同じサークルに所属している女子部員の大三輪(おおみわ)真姫(まき)。最後に会ったのは横浜で遊んだ時以来だ。

 

「サークルまで時間あるよね。今って暇?」

 

「いや、悪いけど今日はパスするわ。どうしてもやりたい事があってな」

 

「ふーん……。レンって最近あんまりサークル来てくれないよね」

 

「すまんな。ここ最近"こっちの方"でも忙しくて」

 

 あまりこの手の話題は口にはしたくなかったが、大三輪も隠の事情は知っている人間である。サークル全体で許されている風潮がある今、この程度ならば問題は無いと判断した。実際大三輪も表情を大きく変えることはしない。

 

「ふーん。そう言えばあの子は元気?」

 

 あの子だけでは伝わらないので誰かと隠は尋ねると、大三輪は横浜に一緒に来ていた女の子と答えた。そうなると答えはひとつしかない。ミナミだ。

 

「あいつね。あいつは元気だよ。むしろ良過ぎるぐらいだ」

 

 そう言って痛みを思い出した錯覚がしたためか、隠は額のあたりを摩った。レイジ同様適当な理由を付けられて枕を投げられる回数が増えた気がする。だが、そんな動きをしても大三輪に伝わるわけがない。そもそも伝えようという気にならないのだ。

だが、彼女は隠を見てニヤニヤしている。

 

「付き合ってるの?」

 

「ねぇよアホ」

 

「じゃあ何でわざわざ横浜に来たのさ。なんでずっと二人で行動してたのさ。ほら、さっさと答えなさーい」

 

 彼女らしい反応だった。大三輪という女は自分が恋愛とは無縁な癖に他人の恋愛事情を面白がる傾向がある。ことある事にその手の話題でからかいに行くこともあるので物好きでない限り彼女の前で恋愛の話をしないのが暗黙の了解となりつつある程だ。そんなんだからお前は彼氏が出来ないんだという本音をぐっと抑えて隠は鬱陶しそうにしつつもこれまで多くの人に披露した答えを淡々と述べる。

 

「じゃあミナミちゃんって……」

 

「そうだ、深部(ディープ)集団(サイド)の人間だ。今は俺の組織に所属している。その辺は深い訳があるんだよ」

 

「ほほう、じゃあそれについては突っ込まないでおく!」

 

 隠はこの瞬間察した。今日のサークル、コイツが絶対に変な噂を流すだろうなと。

 

「じゃあ俺、急いでるからこれで帰るな。じゃーなー」

 

「ばいばーい」

 

 彼女に背を向け、大学の敷地を抜けるとリザードンをボールから出してはその背に乗り、とりあえずな感覚で空から近くの駅まで移動し始めた。

 

 

 新宿に着くのに四十分は掛かったことだろう。大学からだと長い距離になるので電車でやって来た。電車内はそこまで混んでいる訳では無かったが、駅はそうにもいかない。

 

「うわぁ……やっぱり人多いよなぁ」

 

 新宿駅。東京駅と共に都心を代表する顔であり、世界一の利用者数を誇るこの駅は常に喧騒に包まれており、静寂というものを知らない。田舎で育った隠にとって、都会特有の騒がしさは好きではなかった。余裕というものを感じられない。

加えて、駅構内は複雑な造りをしている。

これまで頻繁に新宿駅に行くことの無かった隠にとってはちょっとしたダンジョンである。

 

「よく分かんねぇってこの土地……。まぁいい。駅にはあるとは思えないしとりあえず地上に出よう、もうこの際どの方面でもいいや……」

 

 流石に人一人が歩けるスペースは存在しているが、油断していると誰かとぶつかりそうになる。人の波を避けつつ、隠はまずはじめに「都庁方面」とある方向に進んで行った。

 

 

「やれやれ、今年の冬も寒そうだ」

 

 白くなったため息を吐きながら、暗くなりつつある夕刻の風を浴びてその男は外に誰も居ない事を確認するために外に出た。

純白の礼服を着用し、標高一二五二メートルの地点から見下ろすかのように下界を眺める"特別な"神主、皆神(みなかみ)

彼は神奈川県伊勢原市の大山の山頂にて、ポケモンのメガシンカに必要なキーストーンを管理している。

 

「彼は……果たして上手くやれているでしょうか。(わたくし)が気にする程でもありませんね」

 

 山頂には自分以外に誰も居ない。それが分かった皆神は安堵して社務所へと入ろうとする。そのタイミングで、一人登山客がゆっくりと木の棒を杖代わりにして登って来た。

 

「申し訳ございません。本日の営業は終了となりました」

 

 皆神は言いながら目を細めた。やって来た男の身なりが怪しい。着物のような、長い一枚布で出来た衣類を身に纏っていた。瞬時に察する。この男は深部(ディープ)集団(サイド)の人間だ。

 

「もう俺様より他に誰も居ない。遠いところからはるばるやって来たんだ。頼む、キーストーンをくれ」

 

 ここまで丁寧に登ってきたらしかった。男の息が乱れている。

 

「では、身元の証明となる物のご提示と、所属団体をお教え頂けますか」

 

 皆神のそれは意識せずに聞いていれば"表の世界"でも通用しそうなフレーズだった。だが、カモフラージュさせているだけでその言葉の意味はどれも"裏の世界"つまり、深部(ディープ)集団(サイド)の人間に対して向けられたものでしか無かった。万が一のための予防線のようなものだ。

男は組織の名が刻印されたドッグタグを手渡しつつ、自身の組織の名を告げる。

 

「……何ですって?」

 

 皆神はそれを聞いてほんの一瞬肩を震わせた。自分が今対応している人間が、ごく普通の深部(ディープ)集団(サイド)の人間でないと知ってしまったせいだ。その来訪は、あまりにも予想外すぎた。

 

 時と金を引き換えに、皆神は男にキーストーンを渡した。光り輝く丸い石を手にした男の背中を見送りつつ皆神はひとつ思案に耽る。

 

「どうやら私が想定していた以上に火種は燃え上がりそうですね……。今の彼をぶつけるのも面白そうですが……果たして乗ってくれるでしょうか」

 

 男の姿が見えなくなると皆神は改めて社務所へと入る。

中を暫く歩いて目に留まったのは、休憩スペースに設けられたテーブルの上に置かれた(しゃく)だった。目を凝らせば、細かい字で何かが書かれているのが分かる。

 

「ですが、まずはこちらからですね。可能性としてはこちらの方が高い」

 

 それは、人の名前と住所らしきものが書かれているようだった。皆神という男はキャラ作りのためなのか、それとも本当に古風な人間となるためなのかは定かでは無いが古代に則って笏をメモ帳代わりに用いている。

 

「彼らを従えるのは貴方だけです。頼みましたよ、ジェノサイド様」

 

 その顔に、不敵な笑みが浮かんだ。

 

 

「やべぇ、泣きてえ。最初からこうすりゃよかった……」

 

 恥ずかしさと怒りで隠洋平は顔を真っ赤にさせてメガストーンを握りしめながら人の波を眺めていた。

彼は今新宿駅の東口にあるスタジオ、新宿アルタ前に居る。ちなみにここに至るまでに二時間が経過していた。適当に都庁前までやって来た隠はなんの手掛かりも無いまま、"新宿といえば『いいとも』"というイメージのまま空を突っ切って此処にやって来た。駅を通過するのが当たり前ではあるのだが、彼はそれを放棄した。迷うからだ。

 

「思えば樋端が昼にいいともの歌歌ってたな。最初からそれを念頭に置いておきゃよかったのに……」

 

 自分の考えと行動の甘さに落胆する隠は、改めてついさっき手にしたメガストーンを見つめた。明るい緋色。その色合いの石はひとつしかない。

 

「ゲーム上では配信限定だったバシャーモナイトか……。現実世界ではそんなもの関係ねぇってか」

 

 ポケットモンスターX・Yにおいてバシャーモナイトは通常プレイでは決して手に入らない代物だ。期間限定の配信でないと手に出来ない。メガシンカしたバシャーモの特性は"かそく"になるため、隠れ特性のバシャーモが無くともその恩恵を受けられることになる。

 

「とは言うが道具枠を失ってまで"かそく"を手にしたいか、となると最初から隠れ特性でいいじゃんてのが実情だよなぁ。だがそれはゲームでの話だ。現実ではどうなるかな」

 

 そう呟いて隠はメガストーンをしまう。

今日のノルマはまだ終わっていない。地図で次の目的地を探る。此処から東京タワーはそこまで離れた位置にある訳ではないようだった。

決心した頃には既に隠は空を飛んでおり、そして目的地に到着している。

 

 その背にはライトアップして一際輝いている赤い電波塔がある。だが、隠はそちらではなく、本来足を踏む大地にその意識を集中させている。

東京タワーをぐるりと一周し、芝公園のある方向で街灯の光とは別に輝く、自然のものとしても人工的なものとしても妙な光源を捉えた。

 

「これでノルマ達成かな」

 

 隠はしゃがんで光を掴んだ。これまでに何度も感じた、メガストーンを手にした時にしか感じられない感触が伝わる。

 

「よし。お目当ての物品ゲット。ミュウツナイトXだな」

 

 達成感を感じて隠は冷たいアスファルトの上に直に座った。

これまで騒動に巻き込まれることが無いことに安堵した。ここで何も無いとなると明日の探索も無事に終わりそうだ。そうなれば後は新作のゲームにありつける。特に今回は思い出深い第三世代のリメイクだ。今から楽しみで仕方が無い。

 

「ミュウツーに対しての問題が終わった訳じゃないけど……でも存在する以上、そして手にしてしまった以上詮索は無意味だよなぁ。もういいや。真っ直ぐ帰ろ」

 

 脳内に微かにサークルの景色が浮かんだが、今から行っても誰も居ないのは明白だった。どう頑張っても大学に到着する頃には八時を過ぎる。名残惜しい気もするが今一番大事なのはこちらの方なのだ。組織の戦力増強の為には避けられない。そう自分に言い聞かせて隠は近くの駅である赤羽橋(あかばねばし)へと向かって行った。

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