【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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夢の国の悲劇

八王子から舞浜は遠い。必ず何処かで乗り換えなければならないので、二時間は掛かった。

今日は約束通り、ジェノサイドとミナミ、レイジの三人で夢の国のテーマパークに行く日だった。平日の金曜なのでジェノサイドは大学の講義を遊びの為に休んだ事になる。もっとも、彼からすると組織の戦力増強とも言えるメガストーン探索のためなのでサボったという意識は無い。

 

 朝の八時に電車に乗り始めたせいで途中かなりの満員電車に巻き込まれはしたものの、特に問題も無く三人は無事に到着する事が出来た。

 

「おーし、着いたぞー。千葉県なのに東京の遊園地に」

 

「あまり言うと千葉県に喧嘩売ることになりますよ?」

 

 遠出であるにも関わらずいつもの白装束に身を包んだレイジが早くも疲れを見せ始めた顔から苦笑いを浮かべる。ちなみに今回の遅れの原因はミナミではなく、彼だった。寝坊である。

 

「しっかし、東京の西からの移動だと遠いな。やっぱり主要都市に支部だ何だって名前付けて小さい基地作ろうかな……」

 

「なんの意味があるんですか、それ」

 

「お前はいちいちうるせーなー。ただの妄想だから良いじゃんかよ」

 

 レイジとジェノサイドの二人のやり取りを眺めていたミナミがうんうんと頷く。彼はこの時気付きもしなかったが、この瞬間ジェノサイドとミナミは「レイジはウザい」と内心意見を一致させていた。

 

「どっちから行こうか、ランドとシー……。まず此処から歩かなきゃだが」

 

「徒歩だとどれ程掛かるのでしょうか?」

 

「んー、十分程度かな。まさか歩けないなんて言うんじゃねぇだろうな?」

 

「流石に馬鹿にし過ぎです」

 

 ジェノサイドとレイジで軽く笑いあっている中、冷静な面持ちでミナミが二人に声をかける。

 

「……ねぇ待って。メガストーンってその二箇所に、それぞれあるんだよね?」

 

「アプリを見た感じ……そうだな。それがなにか?」

 

「二箇所だよね? それってつまり入場料取られるって事だよね?」

 

「うん?」

 

 それだけ言うとジェノサイドは気が付いてしまったのか突如として黙ってしまう。

 

「サイトを見た感じ、年間パスポートでもない限り一日に両方のパークを行き来する事が出来ないって……つまりそういう事だよね?」

 

「うっわマジかー、そうなるかー。ヤバい」

 

 彼のお財布事情を知っている者ならば何がヤバいんだこの金持ちが、と怒りたくもなるかもしれないジェノサイドの言動だったが、一番の問題はそこではなかった。

彼の手には片方のワンデーパスポート、つまりどちらか一箇所の入場料分しか持っていなかったのだ。

 

「い、いちいちここの入場料って高ぇんだよ……。仕方ねぇ。ここはゾロアークのイリュージョン使ってあたかも入場したように見せかけるしか……」

 

「ポケモンをガチの犯罪に使うな」

 

 ミナミの声色に殺意が篭もる。

もしも今この場に悪逆の限りを尽くした深部(ディープ)集団(サイド)の人間が居たならば失笑していたかもしれないが、ジェノサイドもそうではあるが、他の二人も犯罪行為に加担した事は無いらしく、それはつまり"きれいな深部(ディープ)集団(サイド)"の人間たちだけが今この場に居るのである。

深部(ディープ)集団(サイド)とは、何も犯罪行為が全てではない。クリーンに生きる事も不可能ではないのだ。

 

「分かった分かったって。ったく、冗談だよ……」

 

 そのようなやり取りをして、三人は歩く。途中で広く、大きく、そして煌びやかな建物が前方に現れた。

 

「ジェノサイド様、あちらは?」

 

 これらの情報に疎いレイジが尋ねてくる。

 

「あれは同じ世界観のホテルだな。俺はその手の話題に興味無いから詳しくは知らないけど、好きな奴はあそこで一泊してからランドに行ったりするんだぜ。高校時代好きな奴とか居てさ〜」

 

「あー、なんか分かる。あんたってそういう女の子の横ですました顔してその子たちの会話盗み聞きしてそうだよね」

 

「俺をなんだと思ってやがる」

 

 軽く舌打ちしたジェノサイドは二人を置いていくようにずんずんと歩く。彼の歩行ペースは普通の人々と比べるとやや早い。

そんな彼の足は入場ゲート手前で突然止まった。

既に人の塊が形成されていたからだ。

 

「うっ……わぁー。やっぱり混んでるね」

 

「入場すらもままならぬとは……相当ですね。流石世界のエンターテインメントです」

 

 入場ゲート、つまりそこから敷地内に入るためだけに既に大行列が出来ている。ジェノサイドとしてはアトラクションに乗る事が最大の目的ではないため、複雑な心境だった。そんなジェノサイドは列に並びつつ二人を眺め、おそるおそる質問した。

 

「あのさ……一応聞くけど、折角来たわけだしさ、なにか乗りたいアトラクションとかあるか?」

 

「アトラクション……ですか」

 

 返事に困ったレイジがミナミに視線を移す。そんなミナミも特に悩む素振りも見せずに、

 

「んー、別にどっちでもいいよ」

 

 と答えた。

 

「うわ出たよ女のどっちでもいい……。その答えが一番悩むんだが。俺は単純にメガストーン探しに来ただけだし、その間お前らは何か乗っててもいいじゃん? ここまで滅多に来ないもんだろ」

 

「それウチも困るんだけどなぁ。ウチ別にコレに興味ある訳でもないし」

 

「私としては……若と一緒であれば別に……」

 

「今なんか言った? すごく気持ち悪いのが聞こえた気がしたんだけど」

 

「……気のせいですよ」

 

 ジェノサイドは頭を抱える思いだった。二人に任せても話が進展しない。

 

「おいおい、俺が決めてもいいのか? 言っとくけど、俺はメガストーンゲットが最優先だから激混みなランドは石取り次第スルーするぞ? 何かに乗りたいとか、時間に余裕が、とかだったらこっちと比べて若干空いてるシーになるぞ? それでもいいのか? ってか今日平日の癖に何でこんな混んでんだよお前ら全員何やってんだ……」

 

 あんたこそ学校サボって何やってんだとミナミがボソリと呟く。

ジェノサイドがあまりにも悩むのでその姿を見兼ねたレイジがやや声を上げて二人の意識を自分に向けさせた。

 

「では、こうしましょう。ジェノサイド様、貴方はメガストーンの探索に集中なさってください。その間私と若で此処を楽しんでまいります!」

 

「なんであんたと二人でアトラクション乗るのよ」

 

「では、誰と乗りたいのですか?」

 

 薄々思ってはいたがそれが妥当だとジェノサイドも感じていた。度々ウザい面はあるものの、彼らよりも一回りほど年長者であるレイジが頼もしく見える。

チケット売り場までの距離が徐々にだが狭まってゆく。動く列に気を取られていたせいでその後のミナミの、レイジからの問い掛けに対する返事である「皆と一緒がいいなと思っただけ」という声があまりよく聞こえなかった。

 

 

 改めて人数分のチケットを購入し、ランドに入った三人。

レイジはマップを見ながら言った。

 

「さて、と。何から行きますか? 若!」

 

「結局乗るの!? 待って、待ち時間どの位?」

 

 レイジはよほど嬉しいのだろうか、普段よりもテンションが高めだった。まるで非日常の世界を目の当たりにしてはしゃぐ子供のそれだ。

ジェノサイドはミナミの反応を見て結局楽しみたかったんじゃねぇか、と心の中で呆れた。

彼にとって、どれほどの時間を費やしても女の扱いに慣れる事は無さそうである。

 

「乗りたいやつがあったらファストパス発行しとけよ。それでも並ぶ事に変わりは無いが、普通に待つよりはかなりマシだ」

 

 この中で唯一経験のあるジェノサイドが初心者に向けるような口振りでアドバイスをした。

そんな三人は、美しい佇まいの巨大な城を通り抜けると二手に別れてゆく。

瞬間、ジェノサイドの中でスイッチが切り替わる。遊びに来たような感覚から、作業をする気持ちへと変化する。そうでもしないと周りの雰囲気に圧されてやる気が削がれ、何も出来なくなるからだ。

 

「とりあえず……目標時間は二時間。その間に俺はその敷地内でメガストーンを探し、手に入れる!」

 

 強い決意を持って自ら人の流れに飛び込んだ。

メガストーンを探すためには足元を常に見ていなければならないが、とにかく人が多い。

その分足が多いために見えにくい上に誰かと接触する危険性もある。特に子供が多いため余計に気を付けなければならない。

 

「予定よりも少し時間が掛かってもいい。まずはチラ見する感じで行くか……」

 

 ジェノサイドが予定時間を二時間にしたのには理由があった。

ほとんどのアトラクションの待ち時間と一致するのだ。理想としては、二人が楽しんでいる間に見つけ出す。ファストパスを発行してからすぐにそのアトラクションには乗れない。なので、三人の間に時間のズレは生じない。そして早々に切り上げてシーへと移動する。そうでもしないととても一日では終わらなそうな、そんな気配がしたのだ。

 

 しかし。

 

「だーめだ……。全っ然見つからねぇ」

 

 計画というものは常に想定外が付き纏うものであり、全て上手く行く場合は段取りがしっかりと整っている場合である。

現場での一発勝負においてはイレギュラーが常だ。

ジェノサイドは適当なベンチに座って項垂れていた。もうとっくに予定の二時間は過ぎている。と言うよりかは途中で精神的に疲弊して諦めてしまった。今はその休憩中だ。

 

「本来だったら休日に行こうと思ってたけど絶対混むしそれに今日がポケモン新作の発売日だし可能な限りやれる事やって次に進みたいと思っていたからわざわざ大学休んでまで来たのに……これじゃ俺だけ大損した気分だ……」

 

 心の中でそう呟いたジェノサイドは、ふと自分の前を通り過ぎてゆく他の来場客たちの顔が目に留まった。

小さい子供を連れた母親、エネルギーが有り余っているからか、無駄にはしゃいでいる男子高校生の集団、カチューシャを頭に着けて手を繋いで歩いている制服姿のカップル。

その誰もが皆、笑顔だった。

ジェノサイドはその光景を見て平和を感じる。

そして、願うならば自分も"そっち側"に回りたいと心のどこかでは望むものの、それが叶う事は決して無い。それは分かりきっていた。

 

「俺は……決めたんだもんな。こういう世界を保つために……ジェノサイドで在り続けるんだってな」

 

 自身が深部(ディープ)集団(サイド)という裏の世界にあり続ける事で、彼らの世界を乱そうとする人間を駆逐する。自分が居続ける事で、世界は保たれる。それでいい。そうやってジェノサイドは納得するしかなかった。させるしかなかった。

 

「そうとなれば……いつまでもこうしちゃいられねぇな」

 

 改めて決意したジェノサイドはベンチから立ち上がる。もう十分に休んだお陰で体力は回復しているはずだ。

 

「たとえ今が苦しくても、明日の夜になれば笑い話のひとつにでもなる……! 苦しみが続くのは今だけ。今頑張ればそれでいいんだ」

 

 バチカン市国並の広さを持つ敷地だが、それらのことを思うと、組織のことを思うといつまでも腐ってはいられない。

ブーツを履いたその足からは、普段のスニーカーとは違う足音があたりにこだました。

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