【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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夢の国の悲劇③

 パレードの気配は無かった。辺りは静まり返っているからだ。

現れた人影には、見覚えがあった。それだけではない。ジェノサイドにとっても、ミナミにもレイジにもそれは因縁のある存在だった。

 

「なぜだ……」

 

 ジェノサイドは声を震わせる。動揺の印でもあった。あまりの"有り得なさ"の連続で精神が追いつかない。

対象とは直線距離でおよそ八十メートルほどは離れている。声を上げ、その名を叫ぼうとしたジェノサイドだったが、更なる異変のせいで喉まで出かかったものが引っ込んでゆく。

 

 その男の周囲に、黒い壁が形成されだした。

その一つひとつが小刻みに蠢いており、異常な光景ではあるものの、異能だとか、特別な力などで生まれたものでは無かった。

黒い壁の正体。それは。

 

「どういう事……? あれ全部人間……?」

 

「この前かち合った時にも奴の背後に控えていただろ。あの野郎、その数を大きく増やしてきやがった……」

 

 無意識に歯軋りをしていた。ジェノサイドは怒りに似た感情を募らせ、そしてそれは咆哮となって表れる。

 

「どういうつもりだ……五百城(いおき)、テメェ!」

 

 ジェノサイドらが対峙しているその先に。

五百城(いおき)(わたる)が、黒いスーツに全身を包んだ己の部下を大勢引き連れてこのテーマパークにまでやって来たのであった。

 

「待って、どういう事!? なんで五百城がココに居るのよ!」

 

「俺に聞くなそんな事! 分かるわけがねぇだろ! 分かりたくもねェ!」

 

 ジェノサイドは落ち着きを失っているが、ミナミはそれ以上に動揺していた。呼吸が乱れ、その眼差しは恐怖の対象を見ているかのようだった。

こういう時、彼女のような人間には何を言っても無駄である。どれだけ大きく叫び、その惑いに抗おうとしても全て徒労に終わる。

何故、知らない、の応酬を暫し二人の間で繰り広げたのち、ジェノサイドがいい加減喉が痛み始めてきたと思い始めたのと同時期に、遥か上空から破裂音が響いた。

三人が肩を震わせ、反射的にそちらを見上げる。

それは、五百城の放ったルカリオの"はどうだん"らしかった。断定出来ないのは、既に音の正体が消滅していたからだ。だが、その音の真下、その地上には技を放つために構えていたルカリオが佇んでいる。

呆然とする三人を嘲笑するかのように、五百城が前面へと躍り出た。

 

「素晴らしいだろぉ!? これが僕の実力でもあり、僕の仲間たちの凄さでもあるのさ。キミたちを探すことくらい、片手を振るだけで成されるのさ」

 

 五百城は上機嫌であった。ジェノサイドらを見つけられたから、だけに留まらない。自身の人間としての強さを誇示できている事に(よろこ)びを感じているためだ。

 

「だからってよぉ、家族恋人友達で溢れているはずのこの平和な夢の国にわざわざやって来るこたぁねぇんじゃねぇのか!?」

 

 いつまでも動揺しっ放しではいられない。ジェノサイドは負けじと叫ぶ。

 

「フン……。相変わらず甘い男だなジェノサイド。キミはここのアトラクションを貸し切ることが出来る制度をご存知であるかな?」

 

「はぁ? 待つのが嫌だからって何万、何十万と積めば果たせられるアレか? 脈絡が無さすぎて気持ち悪ぃんだよてめ……」

 

 ジェノサイドはてめぇ、と呼ぼうとして言葉を詰まらせた。その代わりに、まさか、と言う疑念を含めた感情が湧き立つ。

現在、見渡す限りにおいてだが、他に人の姿が無い。あれだけ無数に存在していたはずの自分ら以外の来場者が消えている。

 

「まさかお前……貸し切ったのか!? この敷地ごと……その全てを!?」

 

 そうとしか考えられなかった。強制的に排除したとなればその痕跡も見られるはずだが、そういった類のものは一切見られない。自分たち以外の来場者を対象に、一時的に退場を求めたのかもしれない。

しかし、それは本来有り得ない。

この地における貸切とは、閉園後の時間帯が対象となる。平日の真昼間などという、普段の利用時間内にてそれが認められる訳がないのだ。

 

「流石は議員サマ。と思わないかい? 僕の手に掛かれば、国際エンターテインメントそのものを取り込む事も難無く出来るってワケ。僕をだぁれだと思ってるのかなぁ!? 凄いよねぇ!? ねぇ、凄いって言ってよぉ〜」

 

 あまりに気分が高揚しているのか、五百城は言いながら身体をくねらせている。それを見たジェノサイドは冷や汗を大量にかいた。

頭おかしい、と。

 

「やっぱりアイツは狂ってる……。俺たちを見つけ出すため"だけに"恐らくだが何千万という額の金を放り投げるなんてどうかしている……」

 

「ジェノサイド様、確かにそれも恐ろしいばかりですが、だからと言って居場所を突き止められるとは思えません。彼はどのようにして、今日こちらに私たちが居ることをご存知になったのでしょうか……」

 

 レイジが耳に寄せて呟く。それを聞いてなるほど、とジェノサイドは同調する。そしてその理由を尋ねるためにもう一度叫んだ。

 

「簡単なコトさ! 僕以外に、君を付け狙っている議員を見つけてね、ソイツを脅迫……じゃなかった。情報の提示を求めた結果、キミがメガストーンを集めている事を知った。あとはメガストーンの在処を調べていけばいい。その調査を続けた結果、舞浜駅にて君の姿を確認した目撃情報を手にしただ、け、さ!」

 

 メガストーンは一個人につきひとつしか手に入れられない。その特性を五百城が逆手に取ったのだろう。その地点における、ジェノサイドの目撃情報が皆無な場所をピックアップして洗い出していけば、気が遠くなる作業である事には変わりはないものの、答えには行き着くことも不可能ではない。

 

 つくづく、自分の居る世界は異常だと改めて認識して戦慄した。

彼のような人間が結社、またの名を中央議会という名で深部(ディープ)集団(サイド)を束ね、支配しているのに加え、その環境に身を置きながらもそんな彼を始末して欲しいと懇願する者も自分の傍には居る。

 

「分かってはいた……。俺はこれまで数え切れない程の、数えたくもない程の苦しみや悲しみ、理不尽な光景を見てきたから分かるんだが……やっぱりこの世界は、狂っている。狂気じみている」

 

 ジェノサイドのその本音に、二人の善良な裏の世界の住人が軽く反応した。

 

 そんな三人の様子を見てぼんやりしている、と解されたのだろう。五百城の数百を超える部下たちが走って来た。それらは、何も持たない人間もいればモンスターボールを手にしている者もいる。

彼らに捕まってしまえば、どうなるかは想像に難くない。

 

「おい……このままだと死ぬぞ今回は割とマジで! オンバーン!」

 

 二人に忠告しつつジェノサイドは叫んでボールを投げる。ダークボールからはその色に似合う黒い龍が空を舞う。

 

「目の前のヤツらを来させるな、"りゅうのはどう"」

 

 人間の視覚ではそれを認識出来ない。

だが、その技が放たれたあとの残留したエネルギーならば辛うじて見える。

オンバーンの全身から放たれた"それ"は地を這うように走っては、迫り来る五百城の部下の集団、その先頭を担っていた全員を吹き飛ばす。

 

「な、なんか平然とやっつけちゃっているけどさぁ! なんで五百城はここまで追い掛けてくるのよ!? 普通そこまでする?」

 

「喋ってる暇あったら戦うか逃げるかしろミナミ! そもそもアイツらを普通の人間と思うこと自体が間違いだ、考えを改めろ。……そうだな、奴としては解散したと決めたはずのお前らの財産目当てか、気に入らない俺を抹殺するかのどちらか、若しくはその両方かもなぁ!」

 

 推測しつつジェノサイドは再びオンバーンに"りゅうのはどう"を指示する。

どれだけ五百城の人間をポケモンの技で飛ばしたとしても、際限なく再びやって来る。単純に火力が足りない。

それを理解しているジェノサイドは悶え、苦悩する。

 

「このままじゃ押し負ける……おいお前ら、ひとまず距離作りたいから逃げるぞ。入場ゲートの方角を目指すんだ。その間に俺は二体目、三体目のポケモンを……」

 

 後方の安全を確認しつつポケットを探ったジェノサイドであったが、その案はミナミによって遮られる。

 

「ちょっと待って、五百城も入場ゲートから来ているんだよね? 待ち伏せされていないっていう確証はあるの!?」

 

「ミナミお前……」

 

 普段ロクに意見を言わないはずなのに、と内心少しだけイラッと来たジェノサイドだったが、それには一理あった。推定で百人以上の人員を動かしている五百城だ。単純なまでの真正面からの突撃に拘っているのだとしたら、それは逆におかしい。もっと多方面に動いていると見るべきだ。

 

「くっそ……どうする……? 今なら誰も並んでいないし、アトラクションに乗りつつシーの全景確認するとかしてみるか……? バカデカい絶叫マシンもあるしな。いや、降りた先に待ち伏せされてたらそれこそ終わりだよな、クソが! いい案が思い浮かばねぇ!」

 

 とにかくまずは逃げなければいけない。

ジェノサイドが五百城らに背を向けようとして走り始めようかと構えたその時。

レイジが二人を庇うようにして前へと突如として躍り出た。

 

「レイジ……? お前何を……。いや、とにかくお前も走れ! 逃げるぞ!」

 

「必要ありません」

 

 レイジは冷たい声でそれを拒否する。

そして、女のような細いその手からひとつのボールを放り投げた。

 

「頼みます、サーナイト」

 

 ジェノサイドとミナミを守るようにして立つレイジと、ほうようポケモンの名を体現するかのようなその凛々しいポケモンは彼の前へと姿を現す。

 

「"サイコキネシス"」

 

 レイジのサーナイトと、迫る敵との距離はまだ離れている。そのため、技の範囲が狭まった。

走る黒い群れの先頭集団だけが、その動きを封じられているようだった。遠目からだと不自然に人間の体が固まっているように見える。サーナイトの放った技の影響だ。

 

「おいレイジ、奴らの動きを止めてくれるのは有難いんだが……それからはどうするんだ?」

 

「こうするんですよ! サーナイト、そのまま飛ばしてください!」

 

 レイジは叫びつつ右腕を振るった。それを確認したサーナイトは、動きを止めた人間その全てを直線上に弾くように吹き飛ばした。

サイコパワーにより運動エネルギーを書き換え、佇んでいる状態の人一人からでは得られないような力が生まれ、その結果大規模な衝突から生じた将棋倒しが起きる。

結果として、五百城の部下の多くが倒れてゆく。

 

「すげぇ……」

 

「普段のバトルで扱うやり方を少し応用させてもらいました」

 

「その手があったか」

 

 涼しい顔を見せるレイジに、ジェノサイドは感心しつつも引き気味だった。例えば、彼が溺愛するミナミが絡んだ問題を起こしてしまえば笑顔で殺してきそうな勢いと狂気が垣間見えた気がしたのだ。

 

「さぁて、このまま全滅でも試みてみましょうか!?」

 

「待てレイジ、奴らが体勢を立て直す前に逃げてとにかく奴らから離れよう。周囲の状況も確認しつつ、入場ゲートの安全が分かり次第こんな所さっさとおサラバして帰る。それでいいな?」

 

「ウチも……できればウチもそうしたい!」

 

「若……」

 

 愛するミナミの懇願を聞いたレイジは、それを聞きつつ、敵が起き上がったタイミングで再度サーナイトの"サイコキネシス"を打つ事で敵の力を更に削いでゆく。

 

「そ、それならば仕方がありませんね! 出口目指して行きましょう!」

 

「俺が何度も言って聞き入れなかった癖に、一度ミナミが言うだけでこの違いか……」

 

「そ、そんな事ありませんよジェノサイド様! 私は私で色々考えながら戦っていた訳でして……例えばほら、こちら」

 

 そう言うとレイジはミナミにひとつのモンスターボールを投げ渡す。

 

「これ……キルリアのボールだよね?」

 

「左様でございます。そちらのキルリアは移動技"テレポート"が備わっております。馬鹿正直にゲートを目指さなくとも、そのポケモンを使えば一瞬で外に出られますし、場合によっては駅の前まで行けるかもしれません」

 

「お前、そんな便利なポケモンあったら最初から言えよな!?」

 

「申し訳ありません、ジェノサイド様。しかし私もこう見えてポケモントレーナーの端くれ。久々のバトルに血湧き肉躍る、というやつでして……」

 

「もういい、十分だろ。雑魚相手にオラついてないでさっさと行くぞ」

 

 今回の逃走劇に終わりが見えてきた。その安堵からか、ジェノサイドに余裕が蘇る。すると、いつまでも戦っているレイジの動きに無駄が見えてきた。自然と普段の口調で、軽くあしらう対応へと変わってゆく。まるで自分が戦場にいるかのような感覚が、ほんの刹那に等しいタイミングの間に限り失せたかのようだった。

それは言い換えれば油断でもあった。

 

 ミナミがキルリアを呼び出し、一息ついたタイミングでレイジが攻撃を一旦止め、サーナイトをボールに戻し、こちらに駆け寄る。同時期にジェノサイドもオンバーンをボールに戻した。

"テレポート"で逃げ切れると思い切ったせいでジェノサイドは周囲の確認を怠っていた。ほんの一瞬の虚を衝くタイミング。自分らが無防備になると気付くまでもなく。

 

 クロバットの足に掴まり、空を移動していた五百城が自分らの頭上に居る事に、ジェノサイドは遅れて気が付いた。

綺麗な海を背景に、五百城は左手でクロバットの短い足を掴み、右手で何かをこちらに向け構えている。それが拳銃であると察知した時には既にもう弾丸は発射されていた。

 

「……!」

 

 一言も発する暇もない。

頭上故に狙いが外れたのか、それとも初めから狙っていたのか、その弾は真っ直ぐとレイジの胸へと突き刺さる。

その時まで、レイジは瞬間として全身に渡った痛みの原因が何だったのか分からなかった。

衝撃と痛みで、レイジは倒れる。

 

「おい、レイジっ!」

 

 ジェノサイドがそのように叫んだタイミングで"テレポート"が発動された。

不思議と銃声は遅れて響いた。ような気がした。

 

 三人は入口からやや離れた場所に移された。

発動の瞬間にこそレイジは倒れたものの、それも"テレポート"の範囲内だったからか、倒れた状態のままレイジも一緒だった。

ミナミはそれを見て初めて異変に気が付く。

 

「レイジ……? ねぇ、どうしたのレイジ!」

 

 レイジは起き上がらない。

自慢の純白の礼服は、胸を貫いた弾創で穴が開き、黒く焦げ、自身の血で赤黒く染まっている。地面に倒れたせいで土と砂利とで薄汚くなる。

ミナミが呼びかけ、何度身体を揺さぶっても反応は無い。目は閉じられ、力が抜けたようにその口も半開きになったままだ。

 

「起きて! ねぇ、起きてよ! 起きてってば……」

 

 無惨なまでのその光景を見て、ジェノサイドは茫然としていた。そうするしか自分には出来なかった。

彼の意識に響くのは、ほんの少し前に聞いた銃声と、ミナミの発する啜り泣く声だけだった。

 

 

 楽しい思い出として終わるはずだったこの日は、思ってもみなかった最悪の結末を迎えることとなってしまった。ルカリオナイトを除いてメガストーンをコンプリートしたはずのジェノサイドには、喜びという感情が一切湧かない。この後にポケモンの新作である『オメガルビー』、『アルファサファイア』を楽しむ気力などあるわけが無かった。

 

 ジェノサイドとミナミは基地への帰還を果たした。だがそれは、望んだ結果ではなかった。

レイジはその後病院に運ばれたが、結果は分かりきっていた。彼等は深部(ディープ)集団(サイド)という裏の世界の人間ではあるが、この世に生きている以上、表の世界の人間の一員でもある。こういう時は彼らに限らず表の世界のサービスを利用するのだ。かと言って何があったかは決して表には出ない。ゆえに表の世界のメディアが深部(ディープ)集団(サイド)の情報を流すことはまず無い。

だが、知りうる限りの情報は漏れてしまう。

ジェノサイドは確認していないので噂程度の認識ではあるのだが、あの後"速報"という形で舞浜のテーマパーク前で男が倒れている、程度のニュースが流れたようだった。

 

 ジェノサイドはまず、一人で広間に寄った。

そこには、外で何があったのかも知らずにいる平和な仲間たちが、いつも通りゲームをするなどして各々平和に過ごしている。ほぼ全ての3DSから、懐かしい響きのBGMが流れている。

あまりにもジェノサイドが沈痛な面持ちをしているせいであろうか、一部の仲間たちが察したため徐々に方々から流れてくるBGMが小さくなり、いつしか音は完全に消えた。

 

「リーダー……。えっと、その……お疲れ様です」

 

 なんと言えばいいのか戸惑っているハヤテがまず声を掛ける。

ジェノサイドの様子がおかしい事に最初に気付いたのも彼だった。メガストーン確保の報告も無ければ、新作購入の自慢も無い。何より、一緒に行動していたはずの仲間の姿も見えない。

 

「リーダー……、お身体の具合の方は……」

 

「お前ら、今から大事な話がある。この基地に居る、非戦闘員を除く全ての構成員を此処に集めろ。今すぐにだ」

 

 ジェノサイドはハヤテの言葉を遮る。彼が戸惑っているのは重々承知していた。有難みすらも感じている。だが、今はあらゆる感情を押し殺し、冷徹でいなければならない。そうでなければ、精神が先に音を上げてしまう。

暫くすると、仲間が一箇所に集まった。

ジェノサイドはざっと彼らの顔を見て、それから告げた。

 

「今日、仲間が死んだ。俺のミスだ。そいつは……保護を求めて此処にやって来た奴だった。だが、俺のせいで死んだ……。理由については、既に分かりきっていると思うが、五百城に関わるものだ」

 

 

 次にジェノサイドは別の人物へと連絡を始めた。その相手とは、ほんの数日前に連絡先を交換した結社の人間、神々廻(ししば)(まこと)だ。

 

「……もしもし」

 

 ジェノサイドはスマホを耳に当てると、声を落とす。周りには誰も居ないが相手が相手のせいか変に意識しているせいかもしれない。

 

『もしもし。(なばり)……洋平(ようへい)君かな?』

 

 アポ無しの連絡だったせいか、相手も少し動揺しているようだった。自分の名を告げた声は自信が無さそうに聞こえる。

 

「できれば"ジェノサイド"と呼んで欲しいものだが」

 

『いやいや、済まないねぇ。ところで……私に連絡を寄越すとは、何か良からぬ事でもあったのかな? これは嫌味で言っている訳ではないのだが、私も多忙を極めている身であってね。まずは別の形での連絡を欲しかったところで……』

 

「それは申し訳ないと思っている。だが、急な用事でな。幾つか聞きたい事があるが、時間は?」

 

『あまり余裕とは言えないねぇ』

 

 ジェノサイドは舌打ちしたくなる気分だった。五百城は相対した時に直接名を出さなかったが、別の議員の存在を匂わせた。それについて問い詰めたかった。ジェノサイドの中では、五百城が脅迫した人間というのは神々廻だと思っている。そうなれば、レイジが死んだ一因に彼が関わる事になるが、しかし彼に責任を追わせる訳にもいかなかった。追求したとしてもそれは遠因であり、直接の原因ではない。それはジェノサイドも分かっていた。

 

「正直俺は……アンタの例のお願いには無関心だった。俺にはどうしても、どんなに悪い奴でも人は殺せない。そう決めている」

 

『それは分かっていたよ。そして、断られるかもしれないと私は思っていたよ。……それが、何かあったのかな?』

 

「今日、仲間が死んだ。五百城に殺された」

 

 電話の向こう側が静まった。神々廻が絶句しているのはその顔を見なくとも容易に想像出来る。

 

『そ、それは……。とても辛い思いをしたね……。私たちが先生を止められなかったせいだ、申し訳ない』

 

「いや、俺が油断したせいだ。俺が最後までしっかりしていれば……止められたはずだ」

 

「……」

 

 ジェノサイドは今基地の中の談話室に居る。普段この部屋を利用しているレイジとミナミは今は居ない。暖炉も点けていない。部屋は静寂そのものだ。その部屋で、ジェノサイドは普段愛用しているロッキングチェアに腰掛けた。静寂ゆえに木の軋む音が響く。

その音を聞きながら、ジェノサイドは深く呼吸した。そして、それを合図に決意する。

 

「でも俺は考えを変えたよ。俺も決めた。五百城は……何処に居る? どうすれば奴を殺せる? その方法があれば……奴に関わる情報があれば、すべて教えて欲しい」

 

 もう決して他人の命を奪いはしない。ジェノサイドはそう強く決意していた。

その決意が今日、揺らいだ。

 

 二年ぶりだろうか。ジェノサイドが人に対して殺意を芽生えたのは久々のことだった。

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