【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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同志諸君よ、立ち上がれ②

 ジェノサイドはそう言いながら一枚の紙を取り出した。その紙には文字がズラズラと並べられているが、どうやら五百城(いおき)(わたる)を倒すための決意表明などが書かれている。だが、注目すべきは一番下の欄だった。そこには「協力者には金一封を与える」と書かれている。

 

「マジなのか、お前は」

 

「じゃなかったら……俺はここには来ない」

 

 一連のやり取りを見て周囲に居たルークの仲間も寄って来てはその紙を眺める。

 

「この……金一封てのは何だ? 協力者? お前、まさか一人ひとりに金配るつもりか?」

 

 誰もが気になる疑問にルークの仲間の内の一人が尋ねる。それにジェノサイドは躊躇う事無くスラスラと、まるでカンニングペーパーを頭の中に叩き込んだかのような、予定されていた文句を一言一句間違える隙間すら無いように綺麗に答える。

 

「あぁ。一人ひとりに与えよう。気になるのはそこか?」

 

「いくらだ」

 

「金額のことだろう? そうだな……。逆に幾ら欲しい? 俺としてはこの戦いの参加者一人ひとりに三十万出すつもりではいるのだが」

 

「なんっ……、テメェいい加減な事言って俺達を騙すのも大概にしろよ!」

 

 ルークは怒鳴りながら椅子から立ち上がった。元々ジェノサイドとは敵同士の間柄だ。最初から良いイメージは無い。そんな人間が、まるで適当な調子で、更に金で釣るような言動を放った事に強い怒りを覚えたのだった。

 

「一人に三十万だぁ? "ひとつの組織に"、ならまだ分かる。流石にこの世界最強のテメェでも……クソふざけた事ぬかすのは辞めろよな。自分の財力ひけらかしてんのか? それとも金で人間釣って使い捨てようってか? いい加減死ねよテメェも……。もうテメェの顔も見たくねぇし声も聞きたくねぇ。とっとと消えろ」

 

「此処に居るのがお前も含めて五人……。となると百五十万か。問題ないな。いいよ、出すぞ。それくらい」

 

「テメェ今人の話聞いてたのかよ……」

 

 怒鳴りながら冷静さを取り戻したのか、苛つきながら再び椅子に座るルークとは裏腹に冷静に、そしてどこか余裕さえも浮かべているジェノサイドはまたも躊躇いを見せずにスラスラと大きな額を提示してみせる。

それでも彼は信用していないようで、見かねたジェノサイドは上着の胸ポケットから小さい紙切れを出すとテーブルに置いた。

 

「約束手形……なんてカッコつけた真似は出来ねぇが、その代わりとして受け取ってくれ。俺の書名、判子、そして金額。全て事実だけを述べている」

 

 丁寧に「一人につき三十万円也」と書かれている。それをルークはおそるおそる警戒しながら手に取った。

 

「実はイリュージョンで書いた偽物でした、なんてオチだろどうせ」

 

「んな訳ないだろ。何度も言わせんな、いいか。俺は本気だ。本気で五百城を殺しに向かう。そのためにはお前たちの力が、協力が必要なんだ。あ、あと答えなんだが別に今言わなくていい。その紙の裏に、ある場所の住所を載せておいた。……水曜だ。来週の水曜日。四日後を決行日とする。その時にその指定の場所に来てくれ。待ってるから」

 

 渡したい物は渡した。言いたいことも言った。もう用はない。ジェノサイドは無防備にも、嘗て戦った人間を前にして背を向ける。

 

「待てよ、テメェ誰に対してモノ言ってんのか……分かってんだろうな?」

 

 ルークは最後まで悪態をつく。分かっているに決まっているジェノサイドはあえて無言を貫く。

 

「テメェを殺しに掛かろうとした……敵だぞ? そんなのを前に金寄越すなんて言ってみろ。この場で殺されないとか思わねぇのかよ?」

 

 ジェノサイドはその声を聞いてその主に対し情けなさを覚えた。これほどの心の弱い人間が無謀にも自分に挑んできたのか、といつかの勇姿と照らし合わせて強いギャップを感じつつも、すぐにそれを自身の頭の中で否定した。

違う。彼は弱い人間ではない。彼を弱くさせたのは目の前で仲間を惨殺した五百城なのだと。

直後にその感情は哀れみへと変わる。

 

「思わねぇな。俺もお前も……五百城に仲間を殺された被害者だろ。それに、これから戦う"仲間"を疑う訳にもいかねぇだろ。リーダー失格だそんなの」

 

 そう言ってジェノサイドはルークらが居た公会堂を去る。無防備を晒したにも関わらず攻撃をして来なかったところを見るに、若干の手応えを感じた。

 

 

「疲れたぁー。もう今日は動きたくねぇ……」

 

 自ら務める組織の基地に戻ったのは日が暮れたあとだった。

あれから彼は何ヶ所か巡り、同じように条件を提示してスカウトした。その中にはルークと同様以前戦った者も居れば、全く面識のない人間も居た。

 

「リーダー。今日は朝から出掛けていたようですが……どちらまで?」

 

「んー、まぁ色々とな」

 

 広間にある大きなソファーに倒れ込んで半分眠くなりつつあったジェノサイドに、仲間のハヤテが心配そうに声を掛ける。ジェノサイドは彼を含め仲間の誰にも今回の予定は告げていない。

 

「色々って……。あまり派手に動くのは辞めてくださいよ? リーダーはその……結社の人間に目を付けられてしまったのですから。それに、その……レイジさんが亡くなった後でもありますし……」

 

「分かってるよーだ」

 

 わざとらしいとはっきりと分かるくらいに頭を搔く仕草をしつつソファーから派手に起き上がっては広間の隅に置かれている小さい冷蔵庫の方まで歩く。それを空けてジュースの入ったペットボトルをひとつ掴んだ。そのペットボトルには律儀に"リーダー専用"と書かれた紙が貼られている。その紙を剥がし、大きい部屋の割には小さいせいですぐに溢れてしまうというクレームをよく聞くゴミ箱に放り投げてはそそくさと広間から出て行った。

 

「今日だけで多分七箇所くらいは回った……。水曜まで時間はあるし、今日会った奴らが適当に話広めてくれるだろうから明日はそこまで頑張らなくていいかな。あとは無事集まってくれるか、だな。それとも明日はもっと工夫してみようか? 前金渡すみたいな感じで」

 

 廊下で独り言を呟いていたジェノサイドは通り過ぎようとした部屋の扉が突然開いた事で立ち止まる。そこからミナミが現れたのを見た。

昨日の出来事が余程ショックだったのだろうか既に病人のようにやつれ、完全に元気を無くした姿をしている。

彼女は元々短髪のためそれ程でもないが、整えていないのが丸分かりだった。大きな寝癖が付いているかのように乱れている。

 

「よう、ミナミ」

 

「あっ……レンか……」

 

 か細い声だった。初対面の頃、彼女の声は小さかった記憶があったが、それよりも小さい。その声色に生気が篭っていないようだった。聴くだけで不安になってくる。

 

「飯ちゃんと食べてるか……? いや、お前の様子が見られただけでも十分だよ」

 

 それだけ言うと立ち去ろうとする。顔には出さないがこの時ジェノサイドは緊張していた。こんな状況でどんな風に声をかけていいのか、分からないからだ。

これまでに親しい人を失った仲間は数多く居た。そんな場面には何度か出くわした。だが、それらは皆同性の人間であった。それなりに励ましさえすれば良かったのだが、今回はただでさえ慣れない女性が相手である。しかも、常に一緒にいた仲間がその対象だ。迂闊な事は言えない。

非情にも見えたかもしれないが、こうするしかないと思っての行動のつもりだった。

 

「あっ、そうだ。今日何人かに声を掛けてきたよ。上手く行けば全員誘いに乗ってくれるかもしれない」

 

「誘……い?」

 

「ミナミ、俺はやるぞ。何人か集めて俺は……五百城を殺す。レイジの仇をこの手で取ってやる」

 

 ミナミの前を通り過ぎ、背中を見せつつジェノサイドは言った。彼女の顔を見ようとは思わなかった。いや、見られない。こんな時に見せる彼女の顔がどんなものか、想像したくなかった。その表情によっては自分の決意が揺らぐかもしれないと危機感を覚えたためだ。

 

「そう……。あんたは、行くんだね。戦うんだね……」

 

「あぁ。決めた。たとえ誰に止められようとも、俺は進むと決めた。だからお前も止めないでくれ」

 

 自分の背後の空気が揺らいだ。ミナミが手を挙げ、こちらに近付いているのかもしれないと肌で感じる。

それに応じてジェノサイドも前に進む。今は彼女を突き放すと決めたのだ。大事な仲間を失ったとしても、特別扱いだとか、特別な感情を得ようとか、そういう思いは彼には無かった。

ジェノサイドの体に触れようとしていたミナミの手は宙に漂う。

 

「もうウチは……これ以上何も失いたくない」

 

 彼に触れたかったミナミは何かしらを察したのか、そこで諦める。代わりに、声を振り絞る。

 

「俺もだ」

 

「死なないでね……?」

 

「誰も死なせねぇよ」

 

 その声を聞いてジェノサイドは静かに歩き、自分の部屋へと向かった。彼女の最後の声を聞いて胸が痛くなりそうだった。明らかな涙声だった。意識せずともペットボトルを握っていた手の力が強まる。ミシミシと鳴った音を聞き、ジェノサイドは我に返った。

 

 

「今日も居ない!?」

 

 寡黙で大人しい性格の佐伯(さえき)慎司(しんじ)は珍しく驚く仕草を見せた。

そんな珍しい光景を見た、彼の話し相手である樋端(といばな)(かける)五郎川(ごろがわ)(ひろし)は若干苦笑いした。樋端に至っては肩を震わせている。

 

 水曜日の正午。彼らは今大学に居る。揃いも揃って友人が少ないためサークルの部室へとやって来た次第だ。

 

「レンって先週の金曜も、一昨日の月曜も休んでいなかった?」

 

「あぁ。火曜には俺と同じ講義が二つあるんだが、その内の午前のやつには来なかったな。午後は一緒に受けたけど」

 

 樋端と(なばり)洋平(ようへい)は同じ学部に所属している。大学二年生ともなると前年と比べて自由度は上がるものの、まだまだ講義が一緒になる機会は多い。樋端はそれだけ言うとコンビニで買ってきた菓子パンを貪り食う。

 

「ってかよぉ、レンの奴って単位大丈夫なのか? あいつ確か今年になっても毎日来てんだろ? それってさ、単位に余裕があんま無いからって事だよな。それなのにこんなに休んでて大丈夫なんか?」

 

 五郎川の問いに佐伯は深く唸る。

 

「どう……なんだろうね。正直こっちは分からないな。昨日のサークルで見た感じ元気そうではあったけど……」

 

「アイツ適当に講義休みつつサークルにはちゃっかり来るのな」

 

 五郎川はあまりの可笑しさにニヤニヤしながらサラダを頬張る。

 

 彼等の所属するサークルは毎週月曜、火曜、木曜の放課後の三日間だけ活動している。活動と言っても彼等のサークルは旅行サークルなので連休や特別な用事を前に控えている時意外は適当に過ごしているだけの緩い空間に過ぎない。

 

「佐伯から見てどんな感じだった?」

 

「うーん……。特に何とも。いつも通りには見えたけどなぁ。あ、でもメガストーンがあと一個でコンプリートするみたいな事は言ってたかな。だからこれまでみたいに無理して時間作らなくて済むとも言ってたし……」

 

「それだったらさ、余計に今日休んでる意味が分かんねぇな。俺ちょっとノート見せてもらいたかったのになぁ。しょーがねぇけどさー」

 

 先週の金曜日という特殊な場所が絡む時以外で隠はサークルや空き時間を投げてメガストーンの探索に走る事はあっても、これまでに講義を投げることまではしなかった。

メガストーン残り一個という状況で彼の取った行動の意味を、彼等は理解出来ずにいた。

 

「今のレンに、メガストーンを集める事以上に必死になれる事柄ってあるのかなぁ?」

 

「ぶっちゃけ佐伯もそう思うよなぁ」

 

 樋端はそう言って相槌を打つ。

 平和な世界の中で平和な会話を繰り広げる彼等には到底想像出来ない世界がその裏側にはあった。結局のところ、隠と彼等とでは住む世界が違うのだ。

 

 同時刻。

軽く眠っていたジェノサイドは目を開けた。

早朝に一度目が覚め、そこから意識があったためか浅い眠りを続けていたお陰で気分はとても晴れやかだった。

 

「そろそろ……時間かな」

 

 時計を見ずに感覚だけを頼りにジェノサイドは時間を読む。ある程度時刻を予想したのちにスマホを見た。時計のズレはほとんど無かった。二分ほど違っていた程度だ。

 

ジェノサイドは起き上がって普段の服に着替えると広間へと移動する。そこへハヤテとケンゾウの二人に声を掛けた。

 

「お前ら、今すぐ俺について来てくれ。ちょっと寄りたい場所がある」

 

 これから何が起きるのか全く知らされていない二人は呑気にオメガルビーとアルファサファイアで遊んでいる。そこにジェノサイドが横槍を入れる形となった。しかし、リーダーの命令である。彼らは文句のひとつも言わずにそれに従う。

 

「どうかされましたか?」

 

「お前ら、今から南平(みなみだいら)に向かうぞ」

 

 その地名を聴いた二人はギョッとして目を見合せた。

その名前には馴染みがある。嘗て基地を置いていた街の名前だ。今居る八王子(はちおうじ)から見て隣町に位置する。

 

「り、リーダー……なんでそんな所へ……?」

 

 ケンゾウが弱々しく尋ねる。彼にとっても、彼だけでなくとも昔からいるメンバーにとって"そこ"は苦い思い出の地だからだ。

 

「それは着いてから話す。今は黙ってついて来い。だが、いいか? 絶対にビビるなよ」

 

 ジェノサイドが放った鋭い視線に、二人は息を呑んだ。

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