【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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同志諸君よ、立ち上がれ③

 八王子(はちおうじ)から南平(みなみだいら)は電車で移動すると三十分は掛かる。しかし、ジェノサイドたちにはポケモンがいる。速度の制限も障害物という問題が皆無な大空を自由自在に飛び回ることが出来るのだ。

そのお陰でおよそ十五分ほどで目的地に到着した。

 

 そこは、ジェノサイドの基地と同じような廃棄された工場の跡地だった。

今の基地と違う点は地下に何もないところと、三階建ての建物がポツリと置いてある点、そして敷地内のほぼ全てが何も無い平原であることだった。

その平原の上に、どういう訳か多くの人間が集まっている。

 

 敷地の裏を回り、裏口から建物に入った三人は三階の窓から外の状況をおそるおそる見つめる。窓のガラスは割れていた。

 

「リーダー……これは一体なんでしょ?」

 

 ケンゾウが引きつった笑みをジェノサイドに向ける。反してジェノサイドは終始落ち着いていた。

 

「俺が集めた。この三日間いろんな奴に声を掛けててな。目的はひとつ。五百城(いおき)の野郎をぶっ殺す。それだけだ」

 

 ジェノサイドは非常階段の扉を少し開ける。その瞬間に二人に向かって振り向いた。

 

「いいか、俺が合図するまでそこを動くなよ。別に警戒している訳じゃないが、今集まっているのは俺らと同じ深部(ディープ)集団(サイド)の人間だ。念には念を、ってな」

 

 ハヤテとケンゾウに向かって小さく微笑むとジェノサイドは扉の先の避難通路へと躍り出た。

それを見た、集められた人々が歓声にも似た声を発する。

ジェノサイドは目が悪いわけでは無い。

集められた連中が建物の真下にいるので三階という高さからでもある程度それぞれの顔は視認出来る。

しかし、そのほとんどが知らない顔だった。恐らく、ここに居る大半の人間は噂か何かを嗅ぎつけてやって来た連中なのだろう。そのようにジェノサイドは適当に推理した。

 

「よう、おはよう。みんな。まずは一言。来てくれてありがとう」

 

 ジェノサイドの声は大きい方では無い。多くの人間に対しマイクも無しに自分の声を伝えるのは至難の業だ。

だから、工夫した。ジェノサイドはその頭上に一匹のポケモンを放つ。

とりもどきポケモンのシンボラー。

カラフルな彩りをした、トーテムポールのような原始的な宗教で見られそうな姿をしたポケモンが空を漂う。

そのポケモンの力を使ってジェノサイドの声量を調節する。言わばスピーカーだ。

 

「信用もクソも無かっただろう。人によっては、突然俺がやって来て怪しい書面置いて来て、しかも内容が"結社の人間を共に殺そう"だからな。それで金を贈るって言われても普通は信じちゃくれないだろう。だが、お前たちは来てくれた。俺はそれに感動している。感謝するよ、みんな。本当にありがとう」

 

「そんなんはイイからよぉ。これから何をするかとか、いつ金を寄越すとかよぉ。そっちを話せよ。それ以外興味ねンだわ」

 

 突然不満げに叫んだ男が現れる。

ジェノサイドは声のする方を見た。何処かで見たような男だ。恐らく過去に戦った人間だろう。

どこか育ちの悪いアウトローぶった中学生のような声のリズムに、ジェノサイドは内心不快感を覚えたが顔には出さない。どれだけ"イヤな奴"でも今だけは味方でないといけないのだ。

 

「それについては今から説明する。上を見てくれ」

 

 その声の主含め多くの人間が増幅された声を聴いて見上げた。その先にはシンボラーがいる。

 

「それは俺のポケモンだ。そいつのお陰で俺の声が皆にも届いている。ま、それだけじゃない。今からコイツがお前たち全員を数える。そして今から、視覚含めあらゆる感覚を俺と共有する。シンボラーがお前たち一人ひとりを視認したとき、俺もまたお前たちをカウントしているって訳だ。それで人数を把握する。把握次第希望者には報酬を渡そう」

 

 宣言した途端、会場が湧いた。

参加者一人につき三十万円を贈るという大きすぎる魅力が彼等を呼んだのだ。むしろ一番の目的と成っている者もいるに違いなかった。

 

 シンボラーから情報が送られた。ジェノサイドの目には、その脳内には、シンボラーの見た景色が広がっている。

上空から見た、無数の人間たち。

その一人ひとりがカウントされる毎に自動的にマーキングされてゆく。例えるならサーモグラフィーの映像。それがジェノサイドの目と脳に流れている。

シンボラー自体は空中で何事も無いかのように静止していた。そう見えるだけで、実際にはサイコパワーを周囲に放っている。攻撃性は無いので悪影響は無い。

 

 映像が送られ、集まった人間を数えながらジェノサイドは今見えている世界が非常にシュールである事に気付いた。

集められた誰もが、律儀に自分の言ったことを守っている。信頼の欠片も無い、人によっては誰よりも憎い仇同然の人間が偉そうにしている場で、である。

ジェノサイドからするとそんな彼らを受け入れているように見えて実は半信半疑だった。油断していれば自分がやられるかもしれない。集められた人達を信じきっていない自分がいた。だからこそ、自分の言うことに真面目に従っている彼等が不思議でならないのだ。

まるで、自分以外の別の何かの力が働いているがために利口に"させられている"かのように。

 

「計測が……終わった」

 

 ジェノサイドは目元を指で押さえながら言った。普段とは違う脳の使い方をしたようで若干疲れたようだ。ジェノサイドは真上に漂うシンボラーを見る。シンボラーも彼を見て目が合った。互いを繋げていた"情報"が切れた事を確認すると、シンボラーは悠々と空を舞いはじめた。

 

「今日此処に集まったのは百五十七人……か。まぁそんなもんかな。希望者には今報酬を払う。ただし」

 

 再び盛り上がる下の世界。だが、湧く前にジェノサイドは言葉を意図的に詰まらせる。

 

「これからの任務を全うし、生き残った者には更に三十万渡そう」

 

 恐らくだが、今この場で金だけ受け取ってトンズラする者もいるだろう。ジェノサイドとしてはそれは想定済みだが、それだと面白くない。はじめの三十万は報酬の全てではなく、"捨てるためのお金"だとすればまだ許せる気がしたのだ。

 

「今ここでお金だけ受け取って戦いに参加しなかったとしても、それでいい。逆に、今三十万受け取ってこの後の戦いにさほど参加せずとも戦地に居るだけみたいな、あまり活躍が無かったとしても、それでも構わない。そういう時でも追加の報酬は払う」

 

 周囲は再びザワついた。

現時点で、ジェノサイドが彼等に払う報酬の総額は四千万を超える。仮に全員がこの後の戦いに向かうとするならば倍の額となる。

 

「テメェに払えんのかよ、それだけの金」

 

 聞き馴染みのある声がした。その声の主を確認してジェノサイドは一瞬だけ薄く笑うと自信をもって返事した。

 

「当たり前だろ。俺を誰だと思っている? 自分の組織に……どれだけの金を蓄えていると思っている? これまでどれだけ無数の戦いを繰り広げたと思っている。嘗めるな。そして心配するな。実を言うと既に報酬は支払い済みだ。確認出来る人間は口座を見てみると良い」

 

 どれほどのお金を持つジェノサイドでも、今この場で全員に配っていたらそれだけで日が暮れてしまう。ジェノサイドはあえて参加者たちに選択させるように考えさせ、しかし実際には手配を済ます。心理を突いた彼なりの作戦だった。

ちなみに支払いに関しては神々廻(ししば)の協力を仰いでいる。結社の人間ならば深部(ディープ)集団(サイド)のそういう情報など知り得ているに決まっている。

 

「さて、そういう訳だから次に、五百城討伐に向けた作戦を発表する。……と言っても、お前たちの好きなように動いてくれ。指定の場所さえ守っていれば基本自由行動とする。指定の場所は三つ。八王子、立川(たちかわ)、そして多摩(たま)の三箇所。それぞれの街に、結社の人間が集う議会場がある。そこを攻撃しろ。その何処かに、五百城は居る。居なくとも彼に関する情報は得られるはずだ」

 

 

 徐々に人の数が減ってゆく。誰もが悩んでいるようだった。

スマホの銀行のアプリで確認出来た人間なら良いとして、それが出来ない人間からすると本当に報酬が振り込まれたのか分からずにいる。

そんな中これから生きるか死ぬかの戦いを迫られると非常に悩ましいものがあるようだった。

 

元Aランク組織『フェアリーテイル』のリーダー、ルークはそんな者たちを軽蔑するかのような目で眺めてはジェノサイドが立っていた建物へとゆっくりとした足取りで近付く。

そこへ、聞き慣れた車の排気音が鳴り響く。

 

雨宮(あめみや)か……」

 

「お前も来たのか、って顔してんな。奴は言った。組織ひとつではなく、人一人に金払うってな。わざわざ俺らの寄場に来てまでな。だったらやるしかねぇだろ」

 

 ジェノサイドがルークに会いに公会堂に赴いた際、その場にいた一人。つまり、ルークの仲間である雨宮が自身の車を操りながらやって来た。

 

「いいのか? お気に入りなんだろ、その車」

 

「無理はしねぇよ。命の次に……いや、命よりも大事なこの車だ。せいぜい指定場所へ先回りして連絡するとか、お前のような誰かを乗せるとか、それだけの事しかしないと決めている。俺は直接は戦わねぇ」

 

「お前らしいな」

 

 ルークはニヤリと笑ってその車を眺める。

深い青色のスポーツカー。彼は車についてよく分からないので"スポーツカー"とよく一括りにするが、その度に雨宮が「FDだ。せめでRX-7と呼べ」といつも訂正を求めてくる。どうやらそういう車種のようだ。

 

「ジェノサイドの野郎はどこかな。少し奴に用がある」

 

「今この場で殺して何千万か盗るってか?」

 

「ちげぇよ。アイツはこの後どうするのか聞きたいだけだ」

 

「……乗れよ。あの建物まで行きたいんだろ」

 

 雨宮は助手席を指した。ルークは無言で頷いてそれに乗る。

青色のスポーツカーが建物の入口近くに着いた頃と同じタイミングでジェノサイドは仲間を二人連れて外へ出た。

 

「待てジェノサイド。お前何処へ行くつもりだ」

 

「ルーク、やっぱりお前は来てくれたんだな。……それから、彼も」

 

 ジェノサイドは喜びを顔に表しつつルークと雨宮を指した。指された二人は馴れ合う気がないので嫌そうにする。

 

「いいから答えろ。テメェは何処へ行く気だ」

 

「まずは基地へ戻る。そこで人員を整理して……俺は立川の議会場に行くつもりだ」

 

「基地だと? じゃあ此処は何なんだ。慣れた風に見えるから此処がお前の基地だと思ったんだが」

 

「此処は"元"基地だ。色々あって三年前に棄てた」

 

「八王子と立川と多摩とか言ったな? 場所さえ決めていればあとは自由って……お前本気で言ってんのか? いいのか? そこまで自由にやらせてよ」

 

「あぁ。構わない。これまで五百城が好き勝手やってきた報いだ。それを結社の連中に知らしめる」

 

「金については……」

 

「何度言わせる気だ。既に振り込んだって言ったろ。協力的な結社の人間に助けてもらった。その為振り込まれた相手の名前が俺じゃなくなってるかもしれんがな」

 

「嘘じゃねぇよな」

 

 ルークの目が鋭くなる。嘘だったら承知しない。今この場で殺してやる、とでも言っているかのようだった。

 

「嘘だと思うならこの場で確認してくれ。出来なかったらコンビニなりにでも言って口座見てこいよ」

 

 大金を失ったはずのジェノサイドであるのに、どこか余裕を含んでいそうなその言動にルークはイラついた。その証拠として舌打ちだけして雨宮の車に乗り込む。

二人を乗せた青のスポーツカーが走り去るのを見届けると、ジェノサイドは後ろに控えているハヤテとケンゾウを見てはにかんだ。

 

「よし、俺達も動くぞ。動ける奴とそうでない奴とで分けないとな。前の戦いを参考にすると百人から二百人は動かせるんじゃねぇかな?」

 

「そ、それは構わないのですがリーダー……。本当に大丈夫でしょうか? 彼等に全て任せてしまって……。全員が全員ではありませんが、敵として戦った者も居るのでしょう?」

 

「正直俺もそこについては少し不安ではあるが、奴らの動きを見る限り俺以外の力が働いているのは明らかだろうな。多分神々廻あたりからも声が掛かってんだろ。そうだとしたら裏切りやバックレが思ったよりも少ないかもしれないな」

 

 ジェノサイドのいい加減早く行くぞ、という声に二人は従う。

行きと同じく空を飛ぶポケモンに乗って三人はひとまず自分らの基地へと戻った。

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