【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE 作:暁色の王冠
来た時と同様、真っ直ぐ基地へと戻ったジェノサイドはまず集められるだけの構成員を広間に集めると、
その主な内容は、
「突然のことで戸惑っているかもしれない。だが、現に多くの
ジェノサイドは聴いている者全員にその声が届くよう語尾を強め、叫ぶ。それに反して広間は静まり返っている。
二十人から三十人は集まっているにも関わらず、皆が口を噤んでいる。誰一人として動こうともしなかった。
「どうした? お前ら。組織のリーダーとしての命令だぞ」
自分の命令に従おうとしない光景。
これを見てジェノサイドは若干不安になった。彼はこの景色を過去に見ているからだ。
それだけではない。仮に組織ジェノサイドの構成員百人ほどの人員が揃わないとなった場合、全体の戦力が大幅に落ちる。呼応して集まった
仲間の裏切りも怖いが、それ以上に作戦の失敗が恐ろしかった。
「ひとつ……よろしいですか」
人混みの中から自信の無さそうな気弱な声が響く。
構成員の一人リョウだった。地味ながらも洒落込んでいる構成員が多い組織の中でスポーツ刈りの頭をした彼はある意味特徴的だった。
「まず初めになんすけど……俺は何も知らされていなかったっす」
「悪ぃ。一連の流れについては誰にも話していなかった。昨日までやってた勧誘も、俺が一人で決めて俺が一人で行動していたことだ」
「そういう大事なことは俺たちに言わなきゃ困ります」
「……すまねぇ」
ジェノサイドの悪い癖であった。これと決めた事は極力一人で達成しようとする。その方が確実であるためだ。どこかでダメだと判断して初めて仲間に頼る。仲間にあまり迷惑を掛けたくないという優しさと、仲間が加わることで不安定化してしまう懸念、つまり仲間に対する小さな小さな不信感のようなものが心の奥底にて蠢いているのだ。
それは、四年もの年月を経て醸成された危機回避の能力でもあった。特定の誰かが悪いという訳ではない。
ジェノサイドはそれをある程度自覚しつつ謝った。
「あとで訳は話す。だが今はいつまでもこうしてのんびりしているわけにはいかないんだ。だから頼む。無茶かもしれないが……戦ってくれ。共に」
ジェノサイドが話すと周囲が静まる。この空気が彼は苦手だった。自分以外の誰かが話す時は幾分か賑やかであるからだ。
「分かりました。……ひとつ確認いいですか?」
リョウが了承を求めてきたのでジェノサイドは無言で頷く。
「今度の相手は誰ですか? 五百城と言うことは……敵は結社ですか?」
返答に困る質問だった。少なくとも間違ってはいない。もしもジェノサイドが悲劇を迎えること無くこの場面に立ったとしたらきっと明言は避けただろう。
だが、今は違う。
「そうだ。敵は
顔には出さないがジェノサイドの緊張はピークを迎える。これで全員が離れたらその時点で作戦は失敗だ。だが、今のジェノサイドではこのように言うことしか出来ない。
「相手は結社……。それってつまり……」
人混みの中から再び小さな声が聴こえた。その声はさっきのものと同じだった。
ジェノサイドはその発言に同調し、反射的に「反逆だ」と言いそうになった。
だが。
「これまで搾取して来た……結社の"支配からの脱却"ってヤツだよなぁ!!」
リョウはそれを許さない。彼は突如叫んだ。
彼は続けざまにこう言う。
「自由のための戦いってヤツだよなぁ!?」
まず、リョウが叫ぶこと自体珍しい光景だった。構成員の中にはひどく恐ろしく感じた者も居たかもしれない。
だが、ジェノサイドという組織はそんな軟弱な人間だけが集められたものではない。
それに呼応し、ジェノサイド以外の全ての人間が理解を示した。この瞬間、組織ジェノサイドの面々の想いはひとつとなったのだ。
次にジェノサイドは食堂へと寄った。
広間の次に人が集まりやすい場所でもあるためだ。
時間の都合もあってか普段ジェノサイドが利用している時と比較すると人は集まっている。
そこでジェノサイドについて来ていたハヤテとケンゾウが現況の説明を始め、そこに居る者たちに行動を促した。
その話を聞いて普段通り食堂で仕事をしていた
「レン君……戦うの……?」
「悪いな、秋原。今日まで隠してた。だけど決まった事だ。少し出掛けてくる」
「ね、ねぇ! 大丈夫なの……? 今日は少し様子が違う気がする。本当に……本当に大丈夫だよね?」
高校の時から一緒だった彼女はジェノサイドに対し特別な想いを抱いているようで、その表情からは恐怖が滲み出ていた。目もうっすらと潤んでいる。
「大丈夫だ。……いや、本当は少しマズいかもしれない。だけど今度ばかりは戦わないとダメだ。仲間だって死んでいるし、それに……」
意図的に目を逸らし続けていたジェノサイドは秋原の顔をチラッと見た。今会話をしている相手が本当に彼女なのか、その確認がしたかった。
「お前が過去に巻き込まれたアレ。あれが少なくとも関わっている。それを終わらせてくる。長く続いた血の因縁を……ここで断つ。そのための戦いだ」
食堂にはミナミも居た。偶然だったかもしれないが、ジェノサイドにとっては絶好のタイミングに思えた。ジェノサイドはほとんど食が進んでいないミナミを呼ぶ。
「頼みがある。お前は今回はここで残れ。色々と思うものがあるかもしれないが、お前だからこそコイツのような非戦闘員を守ってやってほしい。頼んだぞ」
ジェノサイドは小さく笑いながら今にも泣きそうな秋原を指した。一方的な命令だったのでミナミとしても思うところはあったようだが、今彼女の気持ちは沈んでいる。一つひとつの感情の発現が遅い。ジェノサイドは彼女からの反応が来る前にその場を去った。
地上に出ると既に準備を終えた構成員たちで溢れていた。
移動できるポケモンを配置し、今にも指令を待つ者が居れば、車庫から車やバイク、果ては自転車を持ってきて待機している者も居る。
そう言えば、とジェノサイドは自分が戦いの概要を説明しただけで目標地点が何処かまでを言っていなかった事を思い出した。
「みんな、準備はいいか。今俺らが集めた
ジェノサイドの合図と共に仲間たちが一斉に動き始めた。空を飛ぶポケモンの羽ばたく音でその場が埋め尽くされる。意識せずとも彼らの動きが一致する。その正確さはまるで軍隊のようでもあった。
先に移動した仲間たちを見送ったジェノサイドは気を取り直しては振り向く。そこにはハヤテとケンゾウが居る。
「さてと。俺たちも動くぞ。今回は自然を装う。俺たちで今から車庫に停めてある車に乗るぞ。運転は俺がする」
ハヤテとケンゾウは互いに顔を見合わせた。これまでにジェノサイドが自動車の運転をしていたところなど見たことが無かったため違和感が強かった。
車庫には共用の自動車が何台か停められているが、今はかなりの自動車が使われていた。端に置かれていた軽自動車にジェノサイドは目をつける。
「ま、待ってくださいリーダー! 本当にリーダーが運転されるのですか?」
「なんだ、ハヤテ。俺のウデが信用ならねぇってか?」
ジェノサイドはうすら笑いを浮かべつつ車の鍵を差し込んでエンジンをかけた。スマートキーでないところを見ると少し古い型の車のようだ。
「い、いえ! そうではなくて! ただ……リーダーが運転されているところを見た事が無かったので……。あの、免許などはお持ちでしょうか……?」
そうは言いつつもハヤテも車の助手席に座る。後ろの広いスペースはケンゾウが独占した。その自動車自体街でよく見かける軽のワゴンだ。
「それなら安心しろ。俺はこう見えて講義の合間や、サークルの無い日の放課後なんかの時間を使って教習所に通っている」
「それなら安心……ん? 通って"いる"……?」
「そろそろ期限迎えそうでヤバいからまた行かなきゃなんだよなー。あ、でも仮免許までは取ったから安心してくれ」
「か、仮免って……それ無免許運転じゃないですかー!」
車から降りようかと付けたばかりのシートベルトを外そうと悩みあたふたしだしたハヤテだったが、それとは無関係にアクセルを思い切り踏むジェノサイド。
非力な馬力の自動車から搾り取るようなけたたましい排気音が響く。
ジェノサイドによる、世の中に対する反逆が今、始まった。