【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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叛乱

 八王子から立川の移動はそこまで時間を費やすものでは無い。

正午を過ぎた頃なので道路は混んではいるものの、一時間もあれば到着は可能だ。

 

 一方、ジェノサイドらは二時間掛けて無事立川にある議会場へと辿り着くことが出来た。

 

「さ、さーってと……。着いたぞーお前ら」

 

 ジェノサイドはハザードを点滅させて車を車道の左端に寄せて停める。

議会場の敷地の傍にまでやって来た。乗り込む前の確認と作戦会議だ。

 

「二人とも見えるか? あの白い建物が結社の連中の集まる議会場だ」

 

 ジェノサイドはそう言いながら助手席の窓越しに建物を指した。

その先には白く塗られた現代的な建物がある。

無駄を一切排除した、質素な建造物だった。有り余る財を抱えた集団の建物とは思えないほどだ。まるで、省けるものは全て省いて出来るだけ安く造りましたとでも言いたげな建物だ。

 

「これから俺たちは、この車で敷地に入る。もう既に中では他の仲間たちも乗り込んで戦い始めている頃だろう。出遅れた形となったが、立場上何もしないわけにもいかねぇし決めるところは決めるぞ。何か連絡事項はあるか?」

 

 言いたい事を一気に早口で済ませたジェノサイドは助手席に座ったハヤテと、後部座席にゆったりと座っているケンゾウの顔を交互に見た。

 

「と、とりあえずは……」

 

 ハヤテが小さい声で呟く。

 

「とりあえずは、もう……僕はリーダーの運転する車には乗りたくないですね……」

 

「……」

 

 ジェノサイドは黙りつつも苦笑いを浮かべる。

 

「出遅れた、と仰いましたがそれが何故なのか……リーダー、お分かりですよね?」

 

「そ、それはあれだ……道路が混んでたから……」

 

「運転がヘタクソすぎるからですっ!」

 

 珍しくハヤテは叫んだ。ここまでの心の叫びを聞いたのも久々である。

 

「なんなんですか!? 速度は常に三十キロですし、たまに出して四十。しかも何度も右左折でつっかえますしお陰で寄り道回り道ばかりの全くスムーズでない移動でしたよ!」

 

「そ、それは悪かったけどさぁ……この辺の街走りにくいんだよ……。二車線が暫く続くと思ったら突然左折専用レーン現れるしさぁ。普通直進と一緒にするだろ?」

 

「街のせいにしないでくださいっ!」

 

 救いを求めてジェノサイドはチラリとケンゾウの顔を伺うも、彼は彼で無言で俯いた。口には出さないが概ねハヤテと同じ気持ちなのだろう。

 

「本当にリーダーはこれまでの幸運に感謝してくださいね、これで警察に止められていたら詰んでたんですから! 怪しまれなかっただけでも運が良いんですからねっ!」

 

「どんだけ俺の運転貶したいんだよお前……」

 

 話すべきことは終えたので移動を再開した。ハザードを消し、再び車を移動させては議会場の駐車場へと侵入する。

だが、律儀に此処に停めるつもりはジェノサイドには無かった。

彼はそのまま駐車場に停められている車たちをスルーすると、建物へと通じる歩行者専用の歩道を、つまりは車が通ることを想定していない狭い道へと乗り上げるように走らせた。

 

「り、リーダー……? 何をなさるおつもりで……?」

 

 ジェノサイドは今後の詳しい動きについては一切教えていない。不規則に揺れる車の中で無駄に長く感じる時間を過ごしたその果てに、遂に標的が見えてきた。

 

 それは、広い通りだった。

この敷地内に恐らく正門とでも呼ぶような本来の入口があるのだろう、そこから建物入口へと続く一直線に伸びた通りが現れた。

車は向きを変え、建物を前方に見据えて睨む。

 

「お前ら、最後に確認だ。このまま行っていいよな?」

 

「それはそのままリーダーにお尋ねします。いいのですね?」

 

 ジェノサイドは気持ちを落ち着けるためなのか、車のギアをニュートラルに変え、サイドブレーキを引いた。時折アクセルを踏み、空ぶかしをする。辺りに誰も居ない広い空間に、ひたすら軽自動車特有の浅い排気音が響く。

 

「……何故俺に聞く?」

 

 ジェノサイドはハヤテに対し疑問に疑問をぶつけた。

 

「リーダーは……。これまで一貫した戦いを続けられていました。それは、"誰も殺さない"という戦いです。そして、それは今回もなさるおつもりでしょう。……それは可能ですか?」

 

 ジェノサイドはハヤテの言いたい事が分かったようだった。いたずらにアクセルを踏む足を止め、車の天井を見つめるように顔を上げ、しばし考える素振りを見せる。

 

 ジェノサイドはこれまで、どれほどの悪人に対しても決して"命を奪わない"戦いを臨んできた。そして、それは今後も変わらないだろう。

だが、今回となればそれは途端に難易度が跳ね上がる。今回共に戦う人間は、外部から連れてきた者も含まれる。これまでのように、ジェノサイドが束ねる仲間たちだけでの戦いではない。

それはつまり、統制が効かない事をも意味していた。

ジェノサイド自身それを見越して、場所さえ守れば自由に動いて良いとほんの数時間前に宣言している。

この戦いにおいては、ジェノサイド以上に結社に恨みや怒りを抱いている者も居ることだろう。そんな人間に「結社を叩く」と言えばタガが外れることなど容易に想像出来る。

 

 それはつまり、ジェノサイドの目の前で凄惨な光景が展開される、という事だ。

 

「別に構わんさ。流石の俺も、部外者に命令出来る力は無い。きっと今も、そしてこれからも……結社に所属しているからという理由だけで理不尽に死ぬ人間は出てくるだろう」

 

 だが、と言ってジェノサイドは呼吸を置いた。

 

「俺はそういう奴らを止めない。五百城(いおき)が現れなかったら起きなかった悲劇だ。それを結社に知らしめる。俺も今回部外者たちを集めた長として、そこんところのケジメは付けなきゃならねぇ。だから俺は止めないし否定もしない。肯定もしないがな」

 

 ジェノサイドは再びアクセルを踏み始めた。轟く排気音は、まるでジェノサイドの決意の表れであるかのようだった。

 

「だから俺も今回は普段とは少し違うやり方でいく。いいか、お前ら。タイミングを見計らってこの車から脱出しろよ。今の内にドアのロック解除しとけ」

 

「……は?」

 

 一瞬何を言っているのか理解出来なかったハヤテであったが、ジェノサイドが今まさにギアを操作しようとする手を見て全てを理解した。

 

「リーダー……まさか、この車ごと建物に突っ込むつもりで……?」

 

「いいか、抜けるのはケンゾウが先な。お前は身体がデカいしそれでトチったらアウトだからな、余裕を見て車から抜けろよ。何なら今降りてもいい」

 

「は、はぁ!? リーダー、流石にそれは無茶ッスよ……」

 

 ケンゾウが言いかけたところでジェノサイドはギアを変え、更にサイドブレーキを解除しアクセルを思い切り踏んだ。

あまりにも強く踏みすぎたせいでタイヤが軽くホイルスピンしつつ、そこまで瞬間的に速度が出るものなのかと錯覚する程のスピードで駆け出した。

目の前のガラス張りの壁が迫る。

ジェノサイドがケンゾウに対し早く出るよう急かすと、何かを叫びつつ後方の巨体は転がるようにして地上へと出ていった。当然後部座席の左ドアは開きっぱなしだ。

 

「次はお前だ、ハヤテ」

 

「そもそもこんな事する必要ないでしょーがあぁぁぁーー!」

 

 ハヤテも同様に叫びながら外へと飛び出した。あまりにも車がスピードを出しているせいか、街中で見掛ける救急車の如くドップラー効果を起こしてフェードアウトするかのような彼の声だった。

二人が出て行ったのを確認したジェノサイドは、車が壁と衝突するその瞬間、インパクトが発生するギリギリ手前でドアを思い切り開け、飛び出した。

 

 綺麗に均されたアスファルトの上で何度も身体を回転させられ、やっとこさ起きたところで見たものは、軽い地響きでも起きたかのような轟音を轟かせて激突した自動車の姿だった。

間髪を容れずにジェノサイドはすぐに次の行動へと移る。右手で強くボールを握りつつ、施設に向け全速力で走った。

 

「五百城……姿を、見せろぉ!」

 

 突然制御を失った車が突っ込んで来たと思ったら、今度は一人の男がモンスターボールを投げつつ叫ぶ。

それは、異様な景色だった。

今この場において普段通りの業務を進めていた連中からすると、そのように見えた。

そして、それだけに留まらない。

 

 既に場所を特定し、乗り込んだ連中が施設内に居た人間に対し無差別に攻撃を仕掛けている。

当然結社の連中は五百城(いおき)(わたる)などのような例外を除くと、その道に通じてはいない。ポケモンを使えない人間が多いのだ。

そのような人間は兵器と化したポケモンに対し為す術がない。一方的に蹂躙されてゆくのみだ。

 

 戦闘が行われているロビーをジェノサイドは周囲を警戒しつつゆっくり歩く。

今この場に五百城というメインターゲットがいてもおかしくはない。

 

「五百城はどこだ!」

 

 ジェノサイドは再び叫ぶ。しかし、それに通じる答えが返ってこない。

ジェノサイドは近くで転がっているスーツ姿の中年男性を見掛け、その肩に手を乗せる。

その男は全身を震わせ、身体を起こされた反動で目を合わされた。ひどく怯えており、一瞬だけ合った目はそれ以降逸らされ、焦点が合わなくなる。

 

「おいお前、答えろ。五百城渡はどこだ」

 

 ジェノサイドの問いに、その男は答えない。よく見ると唇を小刻みに震わせている。

 

「聞こえなかったか? お前……」

 

 言いかけたところでジェノサイドはその男がもう片方の肩を怪我している事に気が付いた。怪我自体は大したことは無い。恐らく鋭い爪を持ったポケモンに軽く引っ掻かれたのだろう。スーツの生地が裂かれ、わずかに血が滲んでいる。

 

「なんでこんな事になってしまったか、ってか?」

 

 ジェノサイドは作り笑いを浮かべる。

 

「お前は何も関係無いさ。こんな目に遭うのも、そういう怪我をするのも理不尽以外の何物でもない。お前は運だけが悪かった。今日この日までに結社に所属しており、今日この場に居てしまった。それだけさ」

 

「あ、か……金……」

 

「金? 金ならいらねぇよ。お前の生命もいらねぇ。俺は他の連中と違って優しいからよ、俺だけはお前を助けてやるよ。その為に答えてもらおうか、五百城は何処だ」

 

 男は震えつつ首を何度も横に振った。死を覚悟しているかのような必死なまでの目を見る限り嘘はついていないようにも見える。

そもそも、この男は何者なのだろうとこの時ジェノサイドは思った。結社に所属する議員かもしれないし、そうでなくただこの議会場で働く雑務担当の一般人なのかもしれない。

それらも含めてまずは対話すべきだったかと若干後悔したジェノサイドはその反応を見て小さく唸る。

 

「そういう反応は求めてねぇんだわ。せめてさぁ……お前も何か喋れよ。じゃねぇとこのまま捨ておくぞ。ほら、見ろ。あそこでポケモン使って暴れてる奴居るだろ」

 

 ジェノサイドは周囲を見回した末に、クリムガンを使ってひたすらに物を破壊して回っている男を見つけ、指した。

 

「あいつにお前を差し出したらどうなるだろうな、まぁ死ぬだろ。あいつの結社への恨みは相当だからな……」

 

 その男自体はジェノサイドも知っている人物だったが、彼がどう思っているかまでは知らない。それらしい嘘を平然とついてみせる。

ちなみにその男とは、以前大学の構内で戦いを繰り広げたハバリと名乗った男だった。あの時はダーテングを使ってはいたが、今はどうやらそのポケモンは控えているようだ。

 

「し、知らない……」

 

 男は振り絞るようにしてか細い声を出した。

 

「知らない……私は……い、五百城さんが何処で何をしているかは……」

 

「じゃあ此処には?」

 

 男は再び首を横に振った。

此処にはいない。そう言っているようだ。

 

「あっそ」

 

 そう言うとジェノサイドはそれまで掴んでいた肩を突き飛ばすように放しては男を放置し、その場を去った。

その対応について、何やら喚いたようだが周囲の破壊音に紛れてなんと言っているのかよく聞こえない。

今度はジェノサイドは適当に暴れているだけの背の低い男を捕まえる。

ポケモンを使役しているところを見るに、"こちら側"の人間のようだ。

 

「おい、お前。今どんな状況だ」

 

「あァ? テメェ邪魔すんじゃ……。あっ、お前、ジェノサイド……か?」

 

 こちらに振り向くなり態度が急変した。

ジェノサイドはその男を知らなくとも、向こうは自分を知っているようだった。

 

「悪いな。遅れた。だからイマイチ状況が分からねぇ。今どうなってる?」

 

「い、今は、さぁ……。目当ての人間も居ないらしくて、とりあえず……暴れてる感じ……かな」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)最強とも評される人物を前にして、その男は緊張しているようだった。声がたどたどしい。

ジェノサイドは先程転がした、スーツ姿の中年男性のいる方向とを交互に見てはため息を吐いた。

 

「やはり、此処には五百城は居ねぇみたいだな」

 

「へ? へぇ……そ、そうか……」

 

 ジェノサイドは悩んだ。此処に五百城が居ないとなるとこの場に留まる意味が無い。無駄に破壊行動を繰り返すなど、それまで自分たちが始末してきた暗部(ダークサイド)の連中と何ら変わりは無い。今すぐに不必要な行動を止めさせ、次の行動に移るべきである。

 

「よし、一旦退却だ。外に出ろ。これを此処にいる仲間たちに知らせるんだ。いいか、これはジェノサイドの命令だぞ」

 

「う、うっす」

 

 背の低い男は走り始めると、近くに居る深部(ディープ)集団(サイド)の人間たちに声をかけては回り始めた。声を掛けられた人間は少し離れた所に佇んでいるジェノサイドを見ては攻撃を止め、外へと抜けてゆく。

 

 念の為ジェノサイドは他の部屋を見て回ることにした。

他の階に登ると、伝令が伝わっていなかったからか小競り合いをしている連中を何度か見かけた。その度にジェノサイドは声をかけ、戦いをやめさせる。一人では限界があるのでそこはハヤテとケンゾウに任せる。

二人は先程の雑な対応についてブツブツと文句を言っていたが、新たな命令を下すと愚痴は消え、その命令を忠実にこなす。

その途中、資料室とある部屋にも足を向けてみたが、元々こちらで働いているであろう女性が身体を丸くして震えながら隠れている以外に特に目につくものは無かった。綺麗に並べられているファイルを幾つか手に取ってみたが、五百城に関する情報も皆無である。

 

「やはり……五百城に関わるものは何も無い……な」

 

 ジェノサイドがそう結論づけた頃になると戦いの音は止み、静かになっていた。

資料室を出て、廊下の割れた窓越しに外を見てみると、この戦いに参加しているであろう多くの深部(ディープ)集団(サイド)の人間が集結している。物音もしないあたりあれで全員のようだった。

 

「よう、お前ら。ご苦労だった」

 

 ジェノサイドは外に出ては彼らに労いの言葉をかける。真昼の陽射しは眩しいが暖かい。

 

「だが、残念な事に五百城は見つからなかったし、それに類する資料も無かった。俺たちは全く関係ない施設を襲ってしまったわけだな。……まぁいい」

 

 ジェノサイドは悩んだ末にスマホを取り出した。

ある人物へ連絡をしようと指を動かしたまさにその時、敷地内へ青いスポーツカーが侵入してはこちらに向かってくるのが見えた。

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