【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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叛乱②

 ジェノサイドは迫り来るその青いスポーツカーに乗っている人間が誰なのかを知っている。かつて神東(じんとう)大学内で戦い、しかし今となってはジェノサイド自ら仲間に引き入れんとわざわざ会いにも行った、深部(ディープ)集団(サイド)の一人、ルークと仲間の一人の雨宮だ。

車の持ち主はルークではなくもう片方のものらしい。

二人が今こちらにやって来たという事は、元々別の議会場に居た可能性が高い。

ジェノサイドは怪訝の表情を浮かべそんな事を考えつつスマホの電話帳を開いた。

 

「おいおい……なんだぁ? この列は。こんなに綺麗に並んじゃってまぁ、流石クソ真面目なジェノサイド様の指揮下だこと」

 

 ルークはジェノサイドの前に整列させられた面々を眺めては半分わざとらしく言ってみせた。

 

「ルークか、何の用だ。と言うよりお前何処に居たんだ?」

 

「テメーが最初に八王子と多摩と立川の三箇所に行けって言ったんだろーが。一番近かった八王子に行ってたが何か? 五百城(いおき)の野郎に関して何も情報が無かったもんでな、そう言えばとオマエが立川行くって言ってたのを思い出してこうして様子を見に来たまでだ。こっちも大人しいな? どうした? もう終わった後か? だったら八王子(むこう)と一緒だな。多分向こうの連中全員くたばってんじゃねーの。全滅だな。その中に五百城が居なかったのが残念だが」

 

 よく喋る男だ、とジェノサイドは思った。しかし、その内容に反してジェノサイドの意識はそちらには向かない。

中々出なかった電話の相手が数コールして出てくれたからだ。

 

「もしもし、神々廻(ししば)か? 今話せるか?」

 

 その相手とは神々廻(ししば)(まこと)。五百城と同じく結社の人間だ。

ジェノサイドが彼から"依頼を受けて"五百城討伐に参加したという経緯があるため、連絡先は初めて会った時にお互い交換している。

電話の先で神々廻は小さく唸ったようだった。まるで、呼び捨てはやめてせめて先生と呼べと言いたげに。

 

『もしもし、ジェノサイド君だね? 私は無事だよ。ところで今不可解な情報が入ってね……。君たち、議会場に乱入して暴れているのかな?』

 

「なんだよ、分かってんじゃねーか」

 

『あまり暴れられるのもどうかと思うが……』

 

「訳ならあとで話す。それよりも教えて欲しい事がある。五百城の居場所だ」

 

 ジェノサイドは言いながら綺麗に整列している仲間たちと、ルークとを交互に見た。待たされているせいでイライラしているらしい人をチラホラと確認した。

電話の先の神々廻は暫く考える。

 

『……と、言うことは君たちが攻撃した三箇所の議会場からは何も得られるものは無かった、という事かな?』

 

「まぁ、そうなるが……でも待ってくれよ。今の俺たちは急いでるんだ。あまり時間が……」

 

『いや、いいんだ。私からしてもある意味好都合……かな? ともかく、五百城先生の居場所だね。大丈夫、彼なら逃げはしないさ。何故なら……』

 

 露骨に話を引っ張りつつ、神々廻は風を浴びながらゆっくりと振り返る。その先には立派な建物があった。

 

『五百城先生は明日に控えたイベントの為に武道館に居るからね』

 

「なにっ、武道館? 武道館だと!? 武道館ってあの"武道館"だよな?」

 

 ジェノサイドはあえて周りに聴こえるように大声で叫ぶ。出撃を今か今かと待ち構えている仲間たちに知らせるためだ。それと同時にジェノサイドは指でジェスチャーした。行け、と。

それを見た仲間たちは各々の方法で移動を始め、綺麗に並べられていた列は歪な形となる。ほとんどの人間がポケモンを使って空を飛んだ。

 

 ジェノサイドはそれを確認すると途中で止まっていた通話に戻る。

 

「なんでそんな所に……」

 

『実はね、五百城先生の中央議会上院議員の内定式典を武道館で開催することになっていてね、それを明日行うんだ。その準備とリハーサル、そして様子を見るために先生は来ているよ。当然私も今そこに居る』

 

「なんだよそれ……深部(ディープ)集団(サイド)ってのは表に出ちゃマズイ組織のはずなのにそんな事していていいのかよ……表向きにはどうなってんだ」

 

『表向きには私たちの所属する独立行政法人の多大なる活動を表彰するための式典……になっているね。君たち深部(ディープ)集団(サイド)も、私たち中央議会も、表向きには独立行政法人という事になっているからね』

 

 吐き気がした。何が表彰式だ。(いたずら)に部下である自分たちを好き勝手に処分しておきながら何を表彰すると言うのだろうか。ジェノサイドはレイジを殺された恨みと怒りとが込み上がってくるのを感じた。

 

「じゃあ……アンタがそこに居るという事は……」

 

『そういう事さ。見届けさせてもらうよ』

 

 その言葉を最後に通話は途切れた。

 

 ジェノサイドはしばし俯きながら、長い溜息を吐く。

それを見ていたハヤテとケンゾウ、そしてルークが近寄って来た。

 

「リーダー……どうかされましたか? 大丈夫ですか?」

 

「リーダー、何か言われたッスか?」

 

 ハヤテとケンゾウ、二人に声を掛けられてジェノサイドは徐々に意識から離れかけていた"自己"というものを取り戻す。あのままだと恐らく修羅の化身となっていただろう。それだけに二人の存在は温かく、そして愛しいものであった。ジェノサイドは二人に対し微笑む。

 

「大丈夫だ、変なことは何も言われてねぇ。それよりも俺達も行動を改めるぞ。次の行先は日本武道館だ」

 

「武道館だァ? バカかテメェは。本気で言ってんのか。何でそんな所に五百城がいんだよ、ライブでもやるってか?」

 

 ルークが悪態をつく。当然ながらその理由は電話越しでのやり取りだったために現段階ではジェノサイドしか知らない。

 

「神々廻がそう言ってたんだ。間違いは無いだろう……多分。本人もそっちに居るみたいだし、とりあえず行ってみるしかねぇだろ。なんでも、明日五百城はそこで表彰されるらしい。その確認のためなんだとさ」

 

「意味わかんねー」

 

 そう言いつつルークは青いスポーツカーが停められている方向に向けて手招きをした。すぐにその車はやって来る。

 

「待て、ルーク。車で行く気か?」

 

「それ以外に何があんだよ。コイツの運転は一流だ、嘗めんじゃねぇ」

 

「そうじゃない。武道館だぞ? 千代田区の九段下(くだんした)だ。いくら運転が上手くても道路が混んでたらかえって遅くなるだろ……」

 

「そん時ゃそん時だ」

 

 そう言い放つとルークは車の助手席に乗り込むとうるさい排気音を響かせて去って行った。空を飛ぶポケモンほどではないにせよ、その動きも一瞬だった。

 

「俺達も行こう」

 

 気が付けば周囲に残った人間のほとんどが消えていた。それぞれ行動を始めたことで人が少なくなっている。未だに残っているのは戦意を喪失して呆然と突っ立っている者か、仲間に連絡しているかのどちらかであった。後者はまだいいが前者はどうしようもない。ジェノサイドは彼等を無視する。

 

「電車で行くと何かと面倒だ。かと言って車はもう使えない。あまりオススメはしたくないがここはポケモンで移動しよう」

 

「私もリーダーの運転する車には乗りたくないですからね。それが妥当です」

 

 ハヤテがまたもナチュラルにジェノサイドの心を抉る。ジェノサイドは傷付く以前に未だに根に持っているのかと思うと少しだけ吹き出してしまった。

 

「当たり前です! 来るまでに何度ヒヤヒヤしたことか……その果てがあのオチだといくら私でも我慢出来ませんよ」

 

 ジェノサイドはそんなハヤテに対し軽く謝ってはボールからオンバーンを繰り出す。ハヤテも同様にひこうタイプのポケモンを繰り出すも、ケンゾウだけは中々ポケモンを使おうとしない。

 

「おい、ケンゾウお前どうした。早く行くぞ」

 

「い、行きたいのは山々なんすけど……俺、空飛べるポケモン持ってなくて……」

 

「あっ、どおりでお前この前の大山(おおやま)での戦いの時全く参加してなかったワケだ! あの時ドタキャンしたのかと思ったくらいだぞー。忘れてねぇからな俺は」

 

 と言ってジェノサイドはケンゾウを軽く睨みながらもリザードンの入ったボールを放り投げると、中から出てきたポケモンの背に乗るよう命令する。

 

「すいません、リーダーの相棒の一匹なのに……」

 

「別にいいよ、お前だしな。だがこれを機にお前もひこうタイプのポケモンちゃんと育てておけな」

 

「はいッス!」

 

「よし、行くぞ」

 

 リーダーのその言葉を合図にジェノサイドは翔ぶ。二人の盟友はジェノサイドに一歩遅れたタイミングで、無尽蔵に広がる空へと羽ばたいた。

 

 

 日本武道館。

東京都千代田区に建てられた、その厳かな建物には見るものを圧倒させる魅力があった。

クリーニングから出たばかりのような、綺麗なスーツを着用したその男も"それ"の虜になった一人だ。

 

 神々廻実。

深部(ディープ)集団(サイド)を掌握し、運営活動を行っている"結社"こと中央議会。その下院に所属している一人のこの議員は、複数の意味を含めた微笑をたたえながら風を浴びつつ景色を眺めていた。

 

「明日は五百城先生の式典が催されると言うのに……皮肉なものだね。これもまた、運命と呼ばれるものなのかな」

 

 議会の一員でありながら、また別の議員を排除せんとジェノサイドらを煽った張本人は一人呟く。何物にも染まらない綺麗な空に、突如として浮かび上がった、誰も知らない流星を見つけ、しかしその正体に気付いた事で彼等に向けて言っているようだった。

その流星はゆっくりと敷地内である北の丸公園へと落下する。

 

 流星の正体はレックウザに変身したメタモンだった。それに乗っていた二人の人間が地上に降り立つ。

 

「もう来たのか、早いねえ」

 

 神々廻が彼等に向け微笑む。その間に更に二人、三人と次々に降りる人影があった。

五百城を討つために立ち上がった深部(ディープ)集団(サイド)の中の、組織の枠を越えた集団。その先行部隊のようだ。

神々廻は彼らを眺めながら、彼等のような集団に名前を付けるならば"深部連合"だな、などと考える。

メタモンを連れた一人の男がこちらにやって来た。

 

「よぉ、誰かと思ったら」

 

「君は……確か私がスカウトした……」

 

 神々廻が自ら声をかけたのはジェノサイドだけではない。彼も彼で何人かの深部(ディープ)集団(サイド)の人間に対し声掛けをしていたのだ。

 

「ジェノサイドから連絡があってな、五百城が此処に居ると聞いて」

 

「うむ、その通りだよ。五百城先生ならあちらの建物の中だ。それにしても……レックウザに"へんしん"とは考えたね。でも、大空を飛ぶと身体に負担が掛からないかい?」

 

「その為に隣にランクルスを配置したのさ。エスパータイプのポケモンで身体にかかるエネルギーを変換したんだ」

 

「……考えたねぇ」

 

 神々廻は低く笑った。これまで知らなかっただけで、現場担当となる深部(ディープ)集団(サイド)の中には冴えている者がいる。そんな彼等を重宝しない訳にはいかない。

 

「考えたのはそっちもだろ」

 

 前髪で目元を隠している、メタモンのトレーナーが神々廻を指す。

 

「ソッチが俺らに報酬を提示してくれた。そしたら今度はジェノサイドの野郎も同様に金をチラつかせて誘って来やがった。二人から金貰えるんだ。参加しない方がおかしいだろ」

 

「それもそうだね」

 

 神々廻は失礼にも格下の人間に指を差されたにも関わらず全く気にしない素振りをしつつ辺りを見回した。

 

「ジェノサイド君はまだのようだね」

 

「これからじゃね?」

 

 メタモンのトレーナーは自分が引き連れた仲間の顔を見る。レックウザに乗ったのは自分も含めて二人だけだが、彼について来た連中は全員で十五人ほどだ。今はその全員が到着している。その中にジェノサイドは居ない。

 

「車で来んじゃねぇの」

 

「それかポケモンだろ」

 

「どうする? ジェノサイド来るまで待つか? それとも先に殺っちゃう?」

 

 ひとまず目的地に着いた事でリラックスした仲間たちはそのように雑談を始めている。

戦いと言うよりまるでピクニックのようだった。

晴れの陽気も相まって誰もが気を抜いていたのだろう。彼方の殺気に気が付く事は出来なかった。

 

 突如として遠くから光弾が放たれ、近くで着弾、爆発する。

 

 メタモンの男は見捨てるように神々廻から離れる。彼からすると神々廻は"金をくれるだけの存在"である。別の見方をすれば五百城の仲間でもある。約束さえ果たしてくれれば守る程の価値でもない人間だ。

だが、同時にその光弾は神々廻を狙ったものではないことも知ることが出来た。神々廻ではなく、自分が連れた仲間に放たれたものであったからだ。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「誰だよ畜生……」

 

「よく見ろ、これは"はどうだん"だ。誰がやったかなんて分かるだろ!」

 

 土煙の中で仲間たちの怒号が響く。

 

 メタモンのトレーナーは誰よりも先に動いた。建物の入口付近に"それ"は居る。

 

「来やがったな五百城ィ! テメェは俺が殺す!」

 

 叫びつつメタモンを放つ男。そのポケモンは一切のタイムラグ無しにルカリオへと変身した。

 

「へぇ……」

 

「俺のメタモンの特性は"かわりもの"だ! わざわざ"へんしん"の技スペースなんざいらねぇんだよぉ!」

 

五百城のルカリオに変身したメタモンは腕を構える。"はどうだん"を撃つポーズだ。

更に見てみると、彼に倣って各々ポケモンを繰り出す深部(ディープ)集団(サイド)の面々の姿があった。メタグロスやハッサムなど、様々なポケモンが一堂に会する。

 

「面白いねぇ。きっと皆僕を狙ってやって来た連中なのだろうね」

 

 五百城は静かに腕を上げる。その腕には摩訶不思議なリングが巻かれている。

 

 深部(ディープ)集団(サイド)の戦いにルールは無い。ひとつのターゲットに多勢でかかるというのもよくある話だ。

だが、五百城は表情ひとつ崩さない。

 

「だからこそ、壊すのが惜しいねぇ!」

 

 掲げられた腕から、そのリングから虹が輝く。

そこから先の状況は、説明が無くとも分かりきっていた。影がひとつ、またひとつと消えてゆく。

一方的な蹂躙と、圧倒的な暴力により(たちま)ちのうちに支配されてゆく景色。

全ての影が倒れ、消えてから五百城は呟いた。

 

「怪我は無いかね神々廻センセ。先程おかしな情報が入ったよ。東京西部にある僕達の"拠点"が突如襲撃を受けて壊滅状態、とね。やはり彼らは頭のおかしい狂った連中だよ。そんで、僕が此処に居るという情報を何処からか掴んだんだろうねぇ……。もう一度訊く。怪我は無いかい、神々廻センセ」

 

 多量の砂塵を背に、五百城は勝ち誇った笑みを浮かべつつ強調するかのように二度同じ事を尋ねる。

神々廻はひたすら感情を殺し、頷くしかなかった。

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