【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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叛乱③

 情報が途絶えた。

一足先に日本武道館へと到着したルークと雨宮は直感的に悟った。今敷地内に入るのは危険だと。

 

「何がどうなった……?」

 

「俺たちよりも先に武道館入りした連中が居たのは確かだ。ほら、居ただろ? メタモンをレックウザに変身させてたヤツ。あいつが仲間を何人か連れて行ったらしいが……。全滅かなぁこの感じだと。近辺からは爆発音がしたっつー報告もある。とりあえず今わかってるのは、俺ら二人だけで武道館に行くのはダメって事だ」

 

 重要な内容の割には雨宮はどこか他人事だった。まるで、自分の仕事はもう終わったと言いたげである。実際二人は雨宮の操るスポーツカーで首都高速道路を走り抜けてはここまでやって来たのである。雨宮本人にとっても、自慢の車を速く走らせたいというのは今回の目的のひとつであった。もしかしたら、五百城(いおき)討伐よりも優先度が高かったかもしれない。

そんな二人は今、武道館からの最寄り駅である地下鉄の駅、九段下(くだんした)駅にて待機している。

 

「ふざけんなよザコ共の癖に……。バラバラの状態で勝手に動くからこうなるんだよ……もっと纏まって行動してりゃこうはならなかったはずだ」

 

「ごもっとも。そしてそれについてはきちんと纏まりを入れないジェノサイドと、そもそもの騒乱の元凶である五百城の二人に文句言っとこーぜ。それかいっその事バックレでもするか?」

 

「クソッ!」

 

 雨宮とルークとでは意識の違い、その差が大きい。

既に目的を果たした気になっている雨宮と、五百城の抹殺が主目的のルーク。仲間の仇が眼前に在るという事実があるだけに駅で足止めされている現状に腹が立って仕方が無かった。どれだけ待ってもジェノサイドはおろか他の仲間もやって来ない。ピークに達したルークは拳で壁を殴った。

その隣では壁に背中を預けつつしゃがみながら3DSを開いては何ともない表情でオメガルビーをプレイし始めた雨宮がいる。

 

「気持ちは分かるけどよぉ。もう少し待とうぜ。来るのが早すぎたんだよ俺ら。自慢のFDだしな」

 

「だとしても、遅過ぎだ」

 

「大丈夫だって。敵は逃げたりはしねぇよ」

 

 ぶつけようのない感情を抱えたまま時間にしておよそ十五分が経った。

深部(ディープ)集団(サイド)とは関係の無い無数の一般の利用客たちが行き交っているのを飽きるほど眺めていた時。

 

「あっ。えっ、と……ルーク……さん?」

 

 名前を呼ばれた気がしたルークはそちらを見た。

 

「モルト? てめぇ……モルトか!? ふっざけんなよてめぇ来るのが遅過ぎなんだよ」

 

 それはルークの顔見知りだった。

Bランク組織『爆走組』を率いる深部(ディープ)集団(サイド)の人間にしてルークの後輩でもあるモルトだった。成長期という大事な時期にて夜遊びに耽けていたせいかその背は小さい。

 

「いやぁすみませんッス。情報が途絶えちゃって何処に向かえばいいのか分からなくて……」

 

「まぁいい。仲間はどの位連れて来た?」

 

「四人ッスね」

 

「それだけか……そんなもんだよなぁ」

 

 ルークはため息を吐きつつも、大して強くもない組織の限界というものを知っているが故にそれ以上は追及せず納得した。彼の組織の人間が極端に少ない訳では無い。ここに来るまでの間に情報の伝達が上手くいかず散り散りになってしまったのだ。

 

 移動が完了する丁度いい時間に達したためか、モルトが到着したのを皮切りに続々と"それらしい"人間が集まってくる。

九段下という駅は都心を象徴する駅のひとつでもある。利用者がとにかく多い。あまり一箇所に集まり過ぎると一般の利用者の妨げにもなり、他にも都合が悪くなりそうなのでルークは彼らに命令した。

 

「ジェノサイドのクソ野郎がまだ来ねぇ。だが奴がココに来るのは確実だ。だから特別な号令が下りるまで武道館には行くな。その代わり駅周辺に限り外に出てもいい。とにかくココで面倒事を起こすな。いいな」

 

 ルークはAランクの組織の人間であった。

この中では彼と同等の高ランクを有する人間は珍しい部類に入る。さらに、ジェノサイドとも顔馴染みともなればその場しのぎの代理になるには十分だった。不満のひとつも漏れずに集まった連中は自由に動く。

 

 それから十五分後。

 

改札の向こうからやけに騒がしい足音が響くのをルークは聞き逃さなかった。

一人の男が焦ったような顔をしてはこちらへと向かってくる。

 

「てめっ……遅せぇんだよジェノサイドォ!」

 

「悪い、少し手間取った」

 

「"手間取った"で済む問題じゃねぇんだよクソ野郎が」

 

「悪かったって……」

 

 燃えたぎるような怒りを表しているルークに対してはジェノサイドはそのようにしか言えない。ジェノサイドという男はこういう時遅れがちなのだ。

 

「何処で何をしていた」

 

「移動していた……。途中ひっきりなしに連絡が来るもんだからそれで遅れて……」

 

「テメェがしっかりしとけやボケが」

 

 駅に着いてすぐジェノサイドは迷う素振りも見せずに地上へと出ようとしたのでルークは慌てて彼を止める。

 

「おい待て、今現地がどうなってんのか分かってんのか!?」

 

「ある程度はな。此処に来るまでの間に状況の把握は済ましておいたからな……。とりあえず外に出よう。仲間たちにもそう伝えてくれ」

 

 ジェノサイドのその報告に訝しみつつもルークは駅構内に居る深部(ディープ)集団(サイド)の面々に対し怒鳴りながら移るように促した。

 

「話は聞いている。先に突入した奴らは皆やられたようだな」

 

「やはりな……」

 

 ジェノサイドはルークの隣を歩きながら話す。その前後には今回集めた連中が道を塞ぐように歩いている。行き先は当然武道館だ。

 

「だが全員が文字通り全滅した訳じゃない。無事な奴や戦闘を眺めていた人もいる。その中に俺の仲間も居たもんでな」

 

「武道館の敷地内にお前の仲間が……?」

 

「敷地内は五百城とその配下の人間たちによって掌握されたと言っても良い。周辺を見張るようにポケモンも配置しているらしく、監視は万全だと」

 

「おいおい、それじゃあ地上からの突入なんて不可能じゃねえか」

 

「いや、それが"別ルート"の情報からすると北の丸公園の北側、田安門(たやすもん)方面は警備が手薄らしい。恐らくだが五百城の身辺の守りを強くしているようだ」

 

「田安門だぁ? こっから一番近い入口じゃねーか。そこを厚く守らないとか馬鹿なんじゃねーの?」

 

 ルークは"別ルート"という言葉を当たり前のようにスルーした。ジェノサイドはあえて濁したが、ここで言う別ルートとは"神々廻(ししば)発の情報源"である。あまり隠す必要は無いが、ジェノサイドはまだ自分が神々廻と繋がっている事を隠している。

 

「とにかくだ」

 

 ジェノサイドは突然駆け出しては集団の先頭に辿り着いては二、三歩先を歩き、その場で立ち止まった。自然連れられた面々もつられて足を止める。

 

「まずは今居る連中だけで武道館を攻める。それに呼応して追う奴も出てくるだろうし、今現在判断を見極めようとして周辺で動きを止めている奴も動かす。俺たちが第二の突撃部隊としてこれから進むぞ」

 

「おい、ちょっと待て」

 

 列を掻き分けてルークがジェノサイドに迫る。その表情には不安と怒りが入り交じっていた。

 

「そんな希望的観測で事を進められちゃ困る。俺たちはテメェの持ち駒でも捨て駒でもねぇんだよ。人数が集まるまで動くな。これはテメェに対する俺からの命令だ」

 

「いや、希望的観測じゃない」

 

 風を浴びてジェノサイドは空を見上げた。

たったそれだけの動作が合図になったからなのか、どこからともなく現れた彼のゾロアークがその見上げた先を飛んでいたゴルバットに技を打ち当てて落とした。

 

「既に俺の組織の人間を近くに配置している。情報の混乱で戦闘員全員を集める事は出来なかったが……百人ってとこかな。そいつらをこの公園近くや周辺のビルなど……とにかく建物の中なんかに置いている。俺の合図ひとつでいつでも動ける連中だ」

 

「お前……そこまで考えて……」

 

「これで俺がただ遅れただけじゃないってことが分かっただろ?」

 

 ジェノサイドはかつて敵であったはずの人間に、友人に対して見せるような"してやった"と言いたげな笑顔を見せる。

一匹のゴルバットが撃ち落とされたせいか、異変を察知した同様のポケモンが数匹、数十匹と数を増やして迫って来た。

 

「来たぞ、まずはひとつめの仕事」

 

 ジェノサイドのゾロアークは"トレーナーからの命令"というタイムラグを起こすことなく"ナイトバースト"を放っては一度に数匹のゴルバットを落とす。

 

「コイツらを倒せ!」

 

 その言葉を合図に、組織という垣根を越えた深部(ディープ)集団(サイド)の面々はそれぞれのポケモンを出しては応戦し始めた。

 

 

「静かになったな」

 

 日本武道館。その建物を眺めていた五百城(いおき)(わたる)はその一歩後ろに下がっている神々廻(ししば)(まこと)に対して礼儀を知らない口振りで突然声をかけた。

神々廻と五百城とでは年齢が大きく離れている。当然神々廻の方が歳は上だが、議会における地位が高い五百城としては彼を先生呼びはするものの、常に見下していた。

 

「躊躇もせず議会場を襲って破壊の限りを尽くす野蛮人共だ。本気で僕を狙うつもりなら、これで終わるはずが無いんだけどなぁ」

 

「恐らくですが……今のでひとつの大きな纏まりを鎮圧してしまったのでしょう」

 

「まぁ、そうだろう」

 

 小さく笑った五百城は気持ちが落ち着いてきたのか、胸ポケットから煙草を取り出した。

高価そうなオイルライターから蓋を開ける際に生じる派手な金属音を響かせて火を灯し、煙草を燃やすと吸い始める。

 

「神々廻先生に尋ねるまでもないが……この騒乱の首謀者は誰だろうね?」

 

「それは……間違いなくジェノサイドかと思われますが」

 

 神々廻は躊躇うことなく答えた。

 

「やはりな。奴は来るかな、此処に」

 

「来られないでしょう。彼はこういう時安全圏から外の様子を窺う立場の人間です」

 

「つくづく……対処に困るウザったい糞餓鬼だ」

 

「五百城先生。この"戦い"を終えられたら……ジェノサイドは如何様に対応されますかな?」

 

「そうだな、これまでに何度か戦っても思った事だが……殺すしかないかな。少し惜しい気もするが」

 

 落ち着いたペースで煙を吐く五百城。あまりにも落ち着きすぎて無防備にも見えた。恐らく彼は今外で起きている状況がどんなものか全く知らないでいるのだろう。神々廻はそう感じた。

 

「だが、神々廻センセ。今の発言は見過ごせないな、訂正を求めるよ。こんなのは"戦い"なんかじゃない。ただの烏合の衆が集まって騒いでいるだけの"反乱"以下のものさ」

 

 そして、その言葉を聞いて神々廻はもう一つ感じた。

自らとの意識の違いを。

 

 この戦いは単なる反乱などではない。文字通り今後の深部(ディープ)集団(サイド)の将来を左右する大きな戦いであった。

争いの主な原因にしてその本質は"対五百城"のものではあるものの、神々廻にとってはもう一つの意義を見出していた。

ジェノサイドという存在を巡る、議員同士の戦い。その内紛と。

 

 つまり、この戦いは政治的な思惑も含まれたひとつの戦いにして、各々の地位をも飛び越えるひとつの"叛乱(クーデター)"でもあるのだった。

 

「失礼いたしました」

 

 神々廻は決してそれを口にしない。適当に軽く謝り、表向きは彼に追随するに留める。

 

 当然このような性質がある事と、自分という存在そのものを政治の駆け引きに利用されているなどということをジェノサイド本人は知る由もない。

この戦いは、陰の戦争でもあった。

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