【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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第二章『シン世界篇』
堕天狗:包囲網・壱


 

「お疲れ様です、リーダー」

 

「ん。お疲れ。まぁ疲れるほどでもなかったけどな」

 

 基地に到着して早々かけられた言葉だった。

ジェノサイドは神東大学を抜けると真っ直ぐに自分の家でもあり、組織の基地である廃工場に帰った。"うつしかがみ"を依頼主であるバルバロッサの部屋に置きに行き、それから気分転換に地上にある工場の跡地を散歩しつつ眺める。その時に背後からかけられた言葉がそれだった。

 

「"うつしかがみ"。無事に取ってきたそうですね」

 

「まぁな。途中学生に扮した深部(ディープ)集団(サイド)の連中とやり合ったりもしたが……この通りってことはそういう事だ」

 

 ジェノサイドは話し相手の顔ではなく、頭上を見上げながら言う。

そこには、無数の管やパイプの類がびっしりと巡らされ、走っている。

 

 組織"ジェノサイド"の基地とは、寂れて捨てられた工場の跡地であった。

構成員たちからも「薄暗い」と評判のこの土地は、東京都八王子市北野町にある、周囲を林に囲まれた自然の砦。

彼らはそれを再利用し、潜伏している。

 

 何も知らない人間が外から見ても、そこに百人近くの人間が生活しているとは想像もしないだろう。

と言うのも、地上部分の工場跡はすべてダミーであり、本来の生活拠点は建物の地下にすっぽりと埋まる形で作られているのだ。それも当然、敵対組織からの襲撃の対策である。

地下にはそれぞれ、構成員全員分の部屋を振り分け、更には食事や休憩、そして会議を行うオープンな部屋も設ける。

 

 基地としては最高の仕上がりだとジェノサイドは常に思っていた。

 

「あの"うつしかがみ"どうするつもりなんでしょうねぇ?」

 

「リーダーが持ってなくていいんすか!?」

 

 ジェノサイドの話し相手は二人居た。

ひとりは小柄で見た目もどこか弱々しいようにも見えるハヤテと呼ばれる男と、彼とは正反対に筋骨隆々で身長もこの中では一番高く、わざわざ日焼けサロンで肌の色を変えているのかと思うほどの褐色肌のケンゾウ。

常に行動している彼等はこの時も一緒であった。

 

 ジェノサイドは二人の質問をひとつにして返す。

 

「正直俺もよく分からないからな、アレに関しては。とりあえず情報源であったバルバロッサに託して解析なり研究なりさせてハッキリさせるさ。だから今俺が持ってなくても平気」

 

「じゃあ全部アイツ任せなんすね!」

 

「まぁな、てかケンゾウ。お前バルバロッサをアイツ呼ばわりかよ……。お前も四年の付き合いになるんだからもう少し仲間意識を抱いててもいいと思うんだがなぁ」

 

「まぁまぁ。僕もケンゾウもバルバロッサさんとはあまり会話もしませんし縁もありませんからね。リーダーはそうでは無いんですよね?」

 

「あぁ。組織結成より少し前に……俺はバルバロッサに会った。と言うより助けられた……かな? とにかく、バルバロッサに会ったのがきっかけで俺は"この世界"に入ったってワケだ」

 

「それで僕達と会った……と」

 

「くぅーっ! 出来ることならリーダーが最初に会った人間は俺であってほしかったっすねぇ!」

 

 何度も思うことなのだが、ケンゾウの声はかなり大きい。呟くように喋るハヤテと対照的なのもあって耳へのダメージも大きかった。特に、今は静かな工場内を散策している。無駄に、余計に響く。

こんな状態だと三人で隠密な作戦は出来そうにも無いなと内心思ったジェノサイドであった。

 

「リーダー。ひとついいですか? "うつしかがみ"を持つことでリーダーや我々にメリットはあるのでしょうか?」

 

 ケンゾウが実力派ならハヤテは頭脳派である。組織の人間としては知り得る必要がある質問を、彼は投げかけた。

 

「難しいところだが……。一つは戦力の確保だな。現段階で俺らは準伝説のポケモンを扱う事は出来ないが、"うつしかがみ"が世に出た以上、それも可能である事を示す証左でもある。即ち、戦力の増強と他組織への牽制、抑止。使い道次第で工夫は広がるだろうな。あとは組織とは関係なく俺個人の問題だが……俺らが持つ事で元々の持ち主であった教授が脅威に晒されなくなる。本来であれば教授ごと此処に連れて来て安全を確保したかったんだがな……」

 

「元の持ち主の教授と言うのは、リーダーとも関わりのある人物なのですか?」

 

「いいや。名前も顔も知らなかった。だが、俺が普段過ごしている大学の先生だしなぁ。大学が組織間抗争の舞台になったら嫌だろ」

 

「優しいんですねぇ。リーダーは」

 

「そうっすよ! だから俺はリーダーが好きなんす!」

 

 二人の言葉、特にケンゾウの告白の意味を少し深く考えながらジェノサイドはある地点まで歩くと立ち止まり、床にこびりついている砂利を飛ばすために足をはらう。

少し綺麗になった床を手で持つと、簡単に剥がれた。すると、取っ手のような小さな金属の塊が出現する。

これが、基地への入口だった。

 

 ジェノサイドはそれを掴み、力を込めて思い切り引く。

中から通路が現れた。

工場内部よりも更に暗いこの通路をしばらく歩くと、鉄製の扉がまたひとつ現れる。

 

 その先には空間がある。

常に誰かがおり、そして誰もが集まる大広間。

扉の前でジェノサイドは振り向く。

 

「お前ら、腹減っただろ。これから忙しくなるし、ここいらでパーッとやろうぜ」

 

 

 翌日。

あれから結局夜中まで騒ぎ倒してしまったせいで朝が辛く、重い瞼を背負ったままジェノサイドは講義のために基地を離れた。その日は珍しくケンゾウが見送った。

 

 ジェノサイドはいつも通学にはポケモンを利用している。手持ちのひこうタイプのポケモンがリザードンかオンバーンなのでそのどちらかを使って空を飛ぶのだ。

しかし、この移動方法は深部(ディープ)集団(サイド)の中ではありふれた光景ではあるものの、本来は推奨されるものではなかった。

危険を伴うためであり、実際ジェノサイドの通う大学ではそれが理由で規則で禁止されているほどである。

そのせいか、通学でポケモンを使う生徒は自分を除いて見た事も聞いた事すらもなかった。

それでも彼は、移動が面倒という理由でこっそり使っている。

 

 見つかると面倒なことになる。

そのため、ジェノサイドは数十分の間空の旅を続けると適当な場所で降りてはそこから徒歩で移動する。移動とは言っても五分もすれば大学に到着する地点である。

それが、いつもの光景だった。

そしてそれは、大学構内に入っても同じだった。

普段の姿で、大学は彼を出迎える。

 

「"うつしかがみ"が深部(ディープ)集団(サイド)の手に渡ったという"こちら側"からしたら割とデカい出来事が起きたあとだって言うのに……まぁ、これが普通か」

 

 ジェノサイドはひとまず安堵した。

自分のせいで"表側の世界"に変化が生じていないことに。それは、彼が望む世界の在り方でもある。

 

 深部(ディープ)集団(サイド)の人間は、決して無関係であるはずの一般人とその世界には触れてならず、そして危害を加えてはならない。

 

 長い長い戦いの果てにそのような想いを抱くようになったジェノサイドだからこそ、絶対に許せない存在もあった。

 

 この世界に、"それ"を持ち込む"こちら側"の人間を。

 

 構内を少し歩くと、人だかりが出来ていることに気付く。彼らは決まって、一つの建物の屋根を指しては見つめているようだった。

 

「あれ何?」

 

「人が立ってんぞ!」

 

 それは、地上から数えて三階建ての建物の屋上と言うよりは平たい屋根の上。

そこに、一人の男が佇んではあたりを見回している。まるで、探し物をしているかのような仕草だった。

奇異に見えるのも仕方がなかった。その男の立つ場所は立ち入り禁止どころか、到達する方法が存在しない地点である。

 

 男は突然モンスターボールをひとつ取り出すと同時に突風が舞う。

自然の風では無かった。明らかに人為的に作り出された風である。

でなければ、その風に煽られて飛ばされたり、叫び声を上げる学生が現れるはずがないからだ。

 

 風の正体。

それは、男が放ったダーテングだった。

手に持つ団扇のようなものから風の塊が生み出され、男が指示する方向へと飛んでゆく。

その風は迷うことなく、地上の学生たちに振るわれた。

 

 ジェノサイドの目の前では何人かの学生が吹き飛ばされ、あるいは堅いアスファルトの上を転がされる。

まるで、暗部(ダークサイド)の人間が無関係の人々をいたぶる光景そのものだった。

だからこそ、ジェノサイドは許さない。

 

 ダーテングは再び風を集める。

それを地上の人間に放とうと投げ飛ばしたその直後。

 

 風の塊は切り裂かれた。

まるで、内部からズタズタに引き裂くかのように。

 

 ダーテングのトレーナーも直感で感じたものがあった。

 

 来た、と。

 

 その瞬間。

ダーテングとその男の直線上にはゾロアークを従えた、一人の男が立っていた。

それは目印であり、象徴でもあった。

己が深部(ディープ)集団(サイド)最強の人間であることを示す、即ちジェノサイドであることを。

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