【ORAS10周年記念】Re:Re:ポケットモンスター REALIZE   作:暁色の王冠

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堕天狗:包囲網・壱②

 ジェノサイドは静かに男と対峙した。

伸びきった髪の毛の隙間から殺意を込めた眼差しを刺すように放つ。

 

 男の服装も特徴的なものだった。

駱駝の皮のような柔らかそうな素材の半袖シャツに、フードを後から付けたようなシンプルだがよく分からない主張を発しているような格好をしている。そのために相手の顔は見えない。

 

「来たな? ジェノサイド……。お前が此処に居る"らしい"と言うのは聞いていたんだ。多少目立てば来るだろうと思ってたんだが本当に目の前に来るとはな。こりゃ美味しい獲物だぜ」

 

「本気でそう思ってるのか?」

 

 ジェノサイドはため息が出る思いだった。

またいつもの襲撃か、と。

 

 最強という名は名誉ある称号である一方、最も狙われやすい対象でもあった。

単純である。最強を倒した者が新たに最強の者になれるからだ。

理由はそれだけではなかった。

 

「なぁ、俺ぁずっと気になって気になってウズウズしてんだ。お前らジェノサイドは幾ら持ってんだ? 教えてくれよ」

 

 深部(ディープ)集団(サイド)の世界は戦いの世界である。戦いを制した者にはそれまで相手の組織が持っていた財を、時には莫大な利を得ることが出来る。

そして、ジェノサイドはこれまでに負けたことが無い。

それは、深部(ディープ)集団(サイド)の中で最も多くの財産を持つ者という意味合いも持つのだ。

 

「俺に勝てたら教えてやるよ」

 

 ジェノサイドが言い終えると同時に隣で構えていたゾロアークが走っては"かえんほうしゃ"を放つ。

 

「……なんだぁ?」

 

 男は不思議に思いながらも、己のポケモンに命令する。

ダーテングは風を操り、炎の軌道を逸らす。

大きく外れた炎は何も無い空間で散った。

男の次の命令でダーテングは、団扇を振るって風を直接ゾロアークにぶつけようとした。

しかし、放たれた風の塊をゾロアークはひとりでに躱す。

 

「そのゾロアーク、妙だな?」

 

 男はゾロアークの動きを見て疑念を強くする。

 

「おい襲撃者、答えろ」

 

 ジェノサイドの言葉に、離れかけていた意識が男に戻った。

 

「お前がこの自然の宝庫八王子に来たのは俺だけが目的か?」

 

「変なことを聞くもんだなぁ? 何か隠し事とか秘密にしたいことでもあるのかぁ?」

 

「どうだかな」

 

「それだったら答えてやるが世の情けってな。"うつしかがみ"があるらしいじゃねぇか此処には」

 

「ねぇよバカ」

 

 ジェノサイドは笑った。そして確信した。

大した相手ではないということを。

 

「なぁ、情弱……。俺の身にもなってみろよ。暇じゃねぇのに頭の弱い奴の相手しなきゃなんねぇ俺をよ。無い物は無い。さっさと帰れや」

 

「情弱じゃねぇ、俺にはハバリって名があるんだよ」

 

 ゾロアークは再び"かえんほうしゃ"を放ち、対してダーテングは"おいかぜ"ではらう。

 

「いちいち雑魚の名前なんて覚えてられるかっての」

 

 ここで名を名乗るのには意味があった。

宣戦布告、即ち組織間での抗争を始める合図だ。

 

 襲撃。それは組織設立から常にあったものだ。今更恐れなど抱くわけがない。

ただ、売られたら買う。身の危険が及ぶのならば除くのみ。

その動作は、昔と何ら変わらない。

 

「……」

 

 ジェノサイドは目の前のポケモンを前に、悩んだ。

彼は完璧超人ではない。すべてのポケモンの特徴を一言一句狂いもなく述べることが出来なければ、最新の対戦環境の全てを理解していない節もある。

だが、それらは理解できないのではなく、理解"しない"のだ。自分にとって必要な情報でないから理解しないのである。

 

「どうしたジェノサイド。動かないのならこちらから行くぞ!」

 

 ハバリの言葉を合図にダーテングは走る。

反射的にゾロアークも動き、勝手に"かえんほうしゃ"を撃つが、ダーテングが放っている不自然な風のせいで全く関係のないところへ飛んでは消えていった。

 

「こうなると……特殊技は使えねぇな」

 

「なぁ、さっきから気になったんだが何なんだぁ? そのゾロアークは。お前の命令も無しに動いてんじゃねぇかよ」

 

 それとは対照的と言いたげに、ハバリの命令通りダーテングは"あくのはどう"を放つ。

ゾロアークに命中する至近距離。そこで"ナイトバースト"を突然放っては相殺させる。今度も命令は一切無い。

 

「さぁ。どうなんだろうな。俺でも分からん。このゾロアークは俺の命令なしに自然と動いてくれる。そしてその動きのほとんどは、俺にとっても最善なもの……言い換えてしまえば俺が思い描いていたものと一致している」

 

「意味わかんねぇな。ジムバッジ集めてろっての!」

 

 ダーテングの走る速度は速い。"おいかぜ"の影響下にあるためだ。すぐにゾロアークの懐へと潜り込む。

 

 ハバリは叫んだ。

 

「今だ! 奴のゾロアークに最大威力の"けたぐり"をお見舞いしてやれ!」

 

 ダーテングはすぐさま足を打った。ゾロアークが最も嫌う格闘技が炸裂した。

ゾロアークは苦しそうな表情をしたかと思うと、その場に倒れ込む。

それを見たハバリは高らかに笑う。

 

「ハハッ、おい見ろよこのザマを! この俺でもその気になれば見掛け倒しの強さしか持ってねぇジェノサイド倒せんじゃねぇかよ!」

 

 有頂天なハバリとは対照的に一切の表情を変えないジェノサイド。

まるで、ここまでの全てが想定内の範疇であるかのように。

 

「バーカ」

 

 その声はハバリに聞こえるか聞こえないかのギリギリを攻めているようだった。

その言葉が合図か否か、ゾロアークは立ち上がる。そして、拳を思い切り握り締めた。

その姿はまるで、これまでの攻撃に対する仕返しのようにも見えるようだ。

 

「"カウンター"!」

 

 受けた"物理技"を倍にして相手に返す技。

ジェノサイドは待っていたのだ。この時を。こうなることを。

 

 倍の威力を受けたダーテングはふわりと身体を浮かせ、吹き飛ばされてゆく。

 

「は?」

 

 突然のことに、ハバリは綺麗な弧を描くダーテングを見ることしか出来ない。

ここまでの流れを理解するのに、少し時間を要したためだ。

 

 ジェノサイドはここでは止まらない。今の一撃では物足りないと感じたのか、続けて命令する。ゲームと違ってターン制のバトルではない。動ける範囲であれば、続けざまの追撃をする事も可能だ。

 

「"かえんほうしゃ"」

 

 風はもう消えていた。今ならば控えていた特殊技も通る。

その通りで、真っ直ぐに伸びた炎の槍はダーテングを包む。

二重の攻撃を受けたそのポケモンは反撃する力は既に無く、二人が立つ平たい屋根を越え、地上へと真っ逆さまに落ちていった。

 

「クソッ!」

 

 ハバリは悔しさを噛み締め、ダーテングをボールへと戻す。それは敗北を認めた瞬間でもあった。

 

「はい終わり。命までは取らねぇからさっさと消えな」

 

「これで終わったと……思うなァ!」

 

 ハバリは優しさとも甘さとも取れるジェノサイドの言葉を無視して携帯端末を取り出すと操作を始めた。

 

 すると、無数のポケモンが現れた。

 

「はあっ!?」

 

「バトルには負けた……。だがなぁ、ジェノサイド。俺はテメェの命が取れればそれでいいんだよぉっ!」

 

 それは、二十体ほどのタネボーだった。

一斉に湧き出したそのポケモンたちは、一目散にジェノサイドへと襲いかかる。

屋根の上のため足場には限りがある。逃げ場が無いと見るやジェノサイドはリザードンをボールから出すとすぐに背に乗り、空に向かって避難するように逃げた。

 

 タネボーもそれを追う。とはいえ、タネボーに飛ぶ力は無い。一匹一匹がそれぞれ足場となり、自らを踏み台にすることで無理矢理列をなす。

だが、それに留まらない。

 

「なにをしようとしてんだあいつら……?」

 

 ある程度距離を取りつつ逃げるジェノサイドは怪訝な表情でそれを見つめた。

 

 互いに支え合うタネボーであったが、風には煽られ、重みに耐えきれないのもあってバランスが崩れようとしている。

その内の一匹が倒れようとしたその瞬間。

 

 "だいばくはつ"が起きた。

 

 一匹のタネボーだけでなく、二十体すべてが、である。

 

「嘘だろっ!?」

 

 爆発の連鎖は繋がってゆく。それはまるで、空に広がる大きな尾にも見えた。

 

 爆発の衝撃は徐々にジェノサイドに近付く。離したはずの距離が、爆発によって詰められる。

 

「クソッ!」

 

 リザードンに指示を出し、飛びながら大きく身を捻らせる。

振り回されるような感覚を覚えたジェノサイドだったが、彼は強くしがみつき、背に伏せることで辛くも最後の爆発から逃れる事が出来た。

 

 ジェノサイドはホッとしてハバリの居た屋根を見ると、彼は再び端末を操作して先程と同じ数ほどのタネボーを呼び出しているところだった。

 

「また来るのかよ!?」

 

 ポケモンの形をした爆弾が再び迫るのも時間の問題だった。

ジェノサイドはリザードンに更なる速度で飛ぶように言う。

 

 ハバリは空中で舞っているように飛んでいるジェノサイドに、フードの下から強い眼差しを向けると呟いた。

 

「逃がさねぇぞジェノサイド……。俺は初めからお前を殺すつもりだからな。……絶対に逃がさねぇ」

 

 巷で流行っているスマホアプリがある。

そんな事を話す構成員が居たことを、その会話を盗み聞きしていた自分がいたことを、ジェノサイドは強い風を顔に浴びながら朧気に思い出していた。

 

『ポケモンボックス』

 

 かつてゲームキューブ用の同名のゲームがあったが、それとは全く関係の無い非公式のアプリ。

その内容とは、WiFiを介することでゲーム本編を繋ぎ、つまり連動させる事でスマホからゲーム内のポケモンを呼び出すという非公式の割にはかなりハイクオリティな代物であった。

これにより、手持ち六体以上の数のポケモンを操る事が出来るようになる。ジェノサイドの目の前で、数十体のポケモンが居られるのもそのためだ。

 

 ジェノサイドはリザードンの背から覗くように、首だけ出してその状況を見つめた。

 

 位置に届かないタネボーが爆発し、数が減るとハバリが操作をし、その分の補填をする。

 

 終わりが見えなかった。

 

 そんな時だった。

 

 再び生み出されたタネボーの列が、リザードンの羽ばたきによって崩されたのをジェノサイドは偶然目にした。

 

 瞬時に一計を案じる。

 

「そこまでそこまで……。そう、ここで止まってくれ」

 

 リザードンに指示し、爆発の射程圏内にまで降りたのだ。

 

「なんだぁ? 何がしたいんだアイツ」

 

 だがそれは、ハバリにも好機に見えた。

五体のタネボーと一体のコノハナを放ち、再び静観する。

 

 コノハナは助走を付けて飛び掛った。

ジェノサイドはリザードンごと身を躱して避けると、次に迫るタネボーに意識を集中する。

自爆する直前の絶妙なタイミングを狙うべくギリギリまで距離が詰まるまでその場に静止し、その時を待つ。

五体目の、自身に一番近づいたタネボーが視界に映る。

 

「今だ、思い切り羽ばたけ」

 

 ジェノサイドは簡単に言い切ると、リザードンもその通りに動く。

邪魔するものは他に何も無い。爆発すること以外は何も考えていないで躍り出たタネボーは、突然の烈風を受けては綺麗な線を描いて吹き飛ばされた。

 

 自身のトレーナーの元へと。

 

「あっ、」

 

 爆発する直前のタイミング。

それは、ハバリの元に時限爆弾が瞬間に現れたようなものだ。

回避すらも許されない。

言葉を何か発しかけたハバリだったが、それすらも認めないかのように"だいばくはつ"が一歩遅れて炸裂した。

 

「俺に勝ちたきゃ周りを見ることだな。目先の利益だけしか見えないからそうなるんだよ」

 

 危機がひとつ去ったジェノサイドは、ハバリがそれまで立っていた場所を見つめながら勝ち誇るように呟いた。

 

 相手は死んだかもしれないし、助かっているかもしれない。"自らの力で"決して人を殺めないと己に強く課しているジェノサイドは、今回はそれには当てはまらないだろうと自分を納得させる。

 

「とはいえ、俺とのバトルがきっかけで死んじまったらそれはそれで嫌だなぁ……。まぁ大丈夫だと信じたいが」

 

 安心しきったジェノサイドは遂に地上に足を、つま先をつけることが出来た。

それと同時に、どこからか走った電撃が彼を襲う。

一体何が起きたのか、それすらも理解できるはずもなく。

ジェノサイドの軽い体は力なく倒れた。

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