スパーダの人気小説、『プリムの誘惑』の続編が見つかった。しかも、スパーダの大貴族が少し前に手に入れたという。
 その噂をストレス発散を兼ねたダンジョン探索で耳にしたクロノは、それを手に入れたのは間違いなく我が魂の盟友だと悟る。
 だが、どうして俺に教えてくれなかったんだ!!というしょうもない憤怒に駆られ、憤懣やるかたない想いを胸に親友の元に向かう。
 しかし、そこで目にしたのは変わり果てた盟友の姿だった!!
 そして、友を手にかけた悍ましきモノが魔王の脳に迫る・・・





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 我が魂のバイブルの黒の魔王が長期休載となるため、この期に読み返していたら執筆意欲が湧いてきたため書いてしまいました。
 設定を読み逃がしてしまったり、キャラクター本来の在り方に寄せるようにと思いましたがキャラ崩壊が多少起きてしまう題材のため、そこは平にご容赦願います。


クロノ魔王陛下とウィルハルト王の同人活動

 パンドラ大陸最南端に位置するかつての欲望都市、カーラマーラ。

 現在は、かの伝説の魔王、ミア・エルロードの加護を賜る、当代の魔王と言うべき男、魔王クロノが座す最重要拠点となり、その名をパンデモニウムと改めた。

 その魔王クロノがお膝元の中にある、スパーダ臨時政府庁舎。

 以前はカーラマーラを牛耳る大商人たちが所有し、今は第八使徒アイによって陥落させられたスパーダの現スパーダ国王、ウィルハルト・トリスタン・スパーダの居城となったその館の中を、黒いローブを着た男が風のように走っていた。

 『廊下を走ってはいけません』という基本的なマナーなど、その男はよく心得ていたが、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。

 その男は、館の主であり、己が魂の盟友であるウィルにもの申したくてやってきたのだから。

 もっとも、亡国とはいえ、現スパーダ国王がいる館を全力疾走するという無礼を咎められる者は、ことこの男が相手ならばこのパンデモニウムに1人としていないのだが。

 ともかく、上級悪魔の皮を仕立てた黒いローブをはためかせながら走る男は、館の最上階に位置する王の執務室まで瞬く間にたどり着いた。

 そして、重厚な木でできた扉を勢いのまま押し開けようとして・・・壊したら悪いので、気持ち抑えめで扉を開け放ちながら叫んだ。

 

「見損なったぞウィル!!どうして教えてくれなかったんだ!!俺たちは魂の盟友じゃなかったのかっ!?」

「・・・おお、クロノか」

 

 部屋の中央にある執務机に座っていた、赤毛で、モノクルをかけた細身の男、現スパーダ国王、ウィルハルト・トリスタン・スパーダは、いつものハイテンションが嘘のようなか細い声で闖入者である黒い男の名を口に出した。

 しかし、黒い男、なんと驚くべきコトに現エルロード帝国皇帝、クロノ魔王陛下は普段ならばすぐに気にかけるであろうウィルの様子も目に入らないように詰め寄る。

 

「ウィル!!なぜだ!?どうしてなんだ!?なんで教えてくれなかった!?」

「・・・その様子を見ると、汝も知ってしまったのか」

 

 真夜中のように黒い右目と、血のように紅い左目を持つクロノは、顔立ちこそ整っている方だが凶相である。

 シンクレアの十字軍兵士が見ればその場で失禁しても笑えないほどの形相で迫るクロノだが、ウィルはその様子を見ても何かを悟ったように諦観の表情を浮かべるばかりだった。

 それに業を煮やしたのか、クロノはウィルの執務机に両手をついて、至近距離で叫んだ。

 

「どうして・・・どうして、『プリムの誘惑』の続編を手に入れたのを黙ってたんだっ!!」

「・・・このパンデモニウムにおいて、汝に、いや、正確にはリリィ君に隠し事はできん。これも時間の問題であったか」

 

 クロノの魂の叫び。

 異邦人であるクロノがこの世界に来て初めて出会った、元の世界で愛したライトノベルを彷彿とさせる、というかまんまラノベだったプリムの誘惑。

 前に馬車の中でウィルに薦められたその本は、クロノ魔王陛下のお眼鏡に適う一品であった。

 しかし、昔からスパーダ男子たちの初恋を奪ってきた罪作りなこの本は、作者や初版が出版された年代など、多くが謎のベールに包まれている。

 ウィルがスパーダの第二王子であったときから、今も執務室の隅で呆れたような視線を主に向ける元暗殺者のメイドを使って方々を調べさせたが、それらの情報は欠片も見つからなかった。

 当然、続編など望むべくもない。

 だが、陥落させて間もないアダマントリアで見つかった古代遺跡を、久しぶりに魔王の重責から解放されたクロノが探索しているとき、新たなダンジョンに釣られてやってきた冒険者パーティの会話の中でその名を耳にしたのだ。

 

 

--なんか、プリムの何たらっていう本の続きが見つかったらしい。

 

 

--貴族の中にも高い金を出して買うようなのもいるのだとか。

 

 

--写本でも高額で取引されているみたいだ。

 

 

--噂が出たのは魔王陛下のいるパンデモニウムだそうだ。

 

 

--少し前に、スパーダから来た大貴族が高値でその本を買ったと聞いた。

 

 

 たまたま組んでいたパーティが、第一突撃大隊隊長のカイとパワー系元ランク5冒険者パーティ鉄鬼団の4人といういささか繊細さに欠ける面々だったため、最近あまり使っていなかった黒風探査で周辺を索敵していた際、そんな話が耳に飛び込んできたのだ。

 その話を聞いた瞬間、クロノは確信した。

 

 

--あ、これ買ったのは絶対ウィルだな

 

 

 終始疑問符を浮かべるカイと鉄鬼団の面々に断りを入れて転移でパンデモニウムまで帰還し、こうして走ってきて今に至るというワケである。

 

「ウィル・・・どうして教えてくれなかったんだ。続編が見つかったのは少し前らしいじゃないか。お前なら、手に入れられなくても情報は入ってきてただろう?」

「ああ。我は確かにそのことを知っていた。そのことを汝に伝えようとも思ったとも。だが、ぬか喜びさせてはならぬと、実物が手に入るまで伏せておくことにしたのだ。その情報を耳にしたのも、汝がヴァルナ森海に向かう前だった故に、タイミングも悪かった」

「そうだったのか・・・でも、実物を買ったんだろう?お前なら、一日どころか半日で読み切れるはず・・・あ、もしかして偽物だったのか?」

「・・・いや、違う。違うのだ、クロノよ。我は、確かに本物のプリムの誘惑の続編を手にした。あの文章の特徴、プリムの可憐さ・・・あれを引き出せるのは作者本人に他ならぬ。そう、そうだ、アレは、アレは本物の・・・くぅぅうううううううっ!!」

「ウィ、ウィル!?」

 

 突然頭を押さえて机に伏せるウィルハルト王。

 何やら嗚咽のような声まで聞こえ始め、気色ばんでいたクロノもつい狼狽えてしまう。

 一体どうしたのかまったく事情がわからないが、当の本人であるウィルは行動不能。

 そうなれば、白羽の矢が立つのは彼の腹心の部下であり、事の始終を見ていたであろうメイドしかいなかった。

 

「なあセリア。ウィルは一体どうしたんだ?」

「あ~、それはですね、ウィル様がそこにある本を読んで・・・」

 

 『これ、私が説明しなきゃダメなヤツ?』と気だるげなオーラを出すメイドのセリアが、机の上にあるハードカバーの本を指さした瞬間、ウィルが飛び起きた。

 

「やめろセリア!!俺が何のためにクロノに黙っていたと思っているんだ!!」

「いや、それならそんなとこに置くのやめときましょうよ。泣きながら毎日読んでるじゃないですか」

「はっ!?な、なぜここに!?や、やはりこれは悪魔の書物・・・!!どれだけ我の心を蝕んでも、我がどれだけ忌み嫌っても、決して我の手元からも頭からも離れぬのは、やはり魔性の・・・・」

「これが、プリムの誘惑の続編・・・」

「なっ!?クロノっ!?や、止めるんだっ!!」

 

 普段の中二病クサい一人称を捨てるほどに怒るウィルだが、クロノが欲しかったものはそのウィルのすぐ傍にあった。

 いつもならばちゃんと断りを入れてからにするだろうが、つい誘惑に駆られ、クロノは机の上にあった本を手に取った。

 それを見て血相を変えるウィルだが、クロノはそんなウィルを手で制した。

 

「いい。いいんだ、ウィル」

「・・・クロノ?」

 

 魔王クロノの顔には、さっきまでの気迫が嘘のような穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

「・・・さっきは怒鳴って悪かった。ウィルは、この本の中身がひどかったから、俺に読ませないようにしてくれたんだよな?俺の中の思い出を守るために」

「・・・クロノ。いや、我が魂の盟友よ。そこまでわかっているのなら」

 

 事ここに至って、クロノはウィルの意図を理解していた。

 最初は教えてくれなかったことを怒りもしたが、それは我が身を慮ってのこと。

 それがわかってしまえば、怒りなどあっという間に霧散する。

 だが、そこまでわかっているのなら、なぜその本を手に持ったままなのか。

 

「ウィル。あまり、俺を舐めるなよ。これでも、俺は何百という本を読んできた。その中で、続編がいまいちだったことなんて何度もあったさ。きっと、俺はここでこの本を読まなきゃ後悔する。例え駄作でも、続きがあるとわかっているのなら、読まずにはいられない・・・その気持ちはわかるだろ?」

「うっ、うぅっ・・・クロノ。我は、我はっ!!」

「いい。いいんだよ、ウィル」

 

 本をたしなむ者にしかわからないシンパシー。

 例え時間の無駄にしか思えない、これまでの思い出を汚すような駄作だったとしても、作者の紡いだ世界があるのならば覗かずにはいられない。

 そんな、読書家のサガ。

 それをわかっていながらも、親友に隠し立てしてしまったことを恥じ、男泣きするウィルの肩を優しく叩くクロノ。

 なお、セリアは一切の関心を失ったように枝毛の手入れをしている。

 

「じゃあ、読ませてもらうよ、ウィル」

「クロノ・・・わかった。汝にそこまでの意志がある以上、我はもう止めぬ。だが、これだけは聞き入れてくれ・・・その本を読むときは、心を強く保つのだ。その覚悟を決めよ!!」

「ああ、わかってる・・・」

 

 そうして、クロノはいつの間にかセリアが用意していた椅子に座って、久方ぶりのラノベの供給に内心ワクワクしながらページをめくる。

 ・・・そんな様子を見て、死地に向かう親友を見るような悲しげな顔をするウィルの表情に気付くことなく。

 

 

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 しばしの時が経った。

 

 

「うっ、あっ、あっ・・・があぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!!?」

 

 

 スパーダ臨時政府庁舎の執務室に、魔王陛下の悲痛な叫びが木霊する。

 テメンニグルなら、即座に鉄面皮のサリエル団長が駆け込んでくるであろうが、幸か不幸か、その叫びを耳にしてやってくる者はいなかった。

 そうして、床にゴロゴロと転がるクロノを見て、ウィルは悲痛を滲ませて呟く。

 

「クロノ・・・だから我は言ったのだ。心を強く保てと。しかし、こうなるのも無理はない」

「う、うう・・・ウィ、ウィル」

 

 差し伸べられた親友の手を取り、どうにかこうにか立ち上がったクロノ。

 しかし、その顔からは血が引き、眼には涙が浮かび、呼吸も乱れ、悲惨なものだった。

 彼の配下の一騎当千の強者たちが見れば、一体何と戦ったのだと思うことだろう。

 だが、この魔王お膝元のパンデモニウムにそんな相手はいない。

 あるのは、一冊の本だけだった。

 

「ウィル・・・そうだ!!そうだよ!!これは同人だ!!作者の書いたものじゃない!!公式が勝手に言ってるだけ・・・」

「クロノ、現実から逃げてはならん。我は見ていたぞ。汝が最後までページをめくる手を止められなかったのを。贋作と言うのであれば、最後まで読む価値もないことなどわかるだろう。だが、そうならなかったのは、その本の書き手が並々ならぬ力量を持つ証拠。そして、ことプリムローズの描写において、そこまでできるのは、本物の作者しかおらぬ」

「うぅ・・・ああ、そうだよな。この本は、最初から最後まで傑作だよ。お前の言うとおり、手が止められなかった。そんなことができるのは、作者しかいないよな・・・」

 

 現実逃避するクロノを諫めるウィル。

 そして、現実を直視するしかないと認めたクロノ。

 この2人にそこまでさせるのは、プリムの誘惑の続編が名文であることの証左であった。

 ただし、名作は名作でも、頭に『魔性の』とつくであろうが。

 

「ちくしょう、ちくしょう・・・なんでだ、なんでなんだよ作者。それだけは、それだけはやっちゃダメだろう!!」

「クロノ・・・」

 

 せっかく立ち上がったのに、また床に四つん這いになり、ダン!!と拳を叩きつけるクロノ。

 ソレを見て我が身を斬られたかのように悲しげなウィル。

 『床が抜けないといいなぁ』と思うセリア。

 そんな周りのことを知ってか知らずか、クロノは叫んだ。

 

「一作目が純愛で、続編でNTRだけは、人としてやっちゃダメだろうが・・・!!」

 

 プリムの誘惑。

 クロノがウィルに薦められて読んだ一作目は、言ってしまえば元の世界でよくあるラブコメものだった。

 だが、王道は古くから愛されてもなお飽きられぬからこその王道。

 生き生きとした魅力的なヒロインに、男心をくすぐられるくっつきそうでくっつかない、焦れったい展開やあざとく、ギリギリでR18を越えないようなシチュエーションの数々。

 それでいながら、最後には混ざり気のない純粋な愛をもって結ばれるという結末。

 この世界ならではの生活感に溢れた描写の新鮮さも相まって、クロノは久方ぶりに名作に出会えたと喜んだものだ。

 一方で、続編はどうか。

 序盤は最高であった。

 主人公を手玉に取るヒロインの描写は変わらずも、思いが通じ合った者どうしの気恥ずかしくなるくらいの初々しいシーンが濃密に描かれていた。

 『なんだ、やっぱり最高じゃん』と、存在を教えてくれなかったウィルへの怒りが滲むも、名作に再会できた喜びがすぐに押し流してくれた。

 だが、中盤になってから、急に不穏な雰囲気が立ちこめる。

 

 

--ダンジョンから見つかった、異性を洗脳する効果を持った大魔法具(頭に装着するリング型)。

 

 

--それを手に入れた、脂ぎった肥満体型の中年教師

 

 

--クラスの合宿を境に雰囲気が冷たくなるヒロイン

 

 

--ヒロインの首筋を覆う謎の包帯

 

 

--かつては自分に向けてくれていたからかい気味ながらも暖かく優しい眼差しが、自分ではない中年に向けられていることに気付く主人公

 

 

--いくつもの不穏な噂

 

 

--そして、真実を知るべく夜の校舎に忍び込んだ主人公の前で秘所をさらけ出したヒロインが中年男と・・・

 

 

--さらには、主人公の存在に気付いた2人による、心と脳を完膚なきまでに破壊し、思い出を嘲り笑う罵倒までついてくる

 

 

--最後には、ヒロインの中に宿った、主人公のものではない種から芽生えた新たな命が・・・

 

 

「うっ!?おお・・・うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

「クロノ!!抑えろ!!気持ちは我にも痛いほどわかる!!だが、泣き叫んだところで何も変わりはしないのだ!!」

 

 憎むべきは、作者の技量がまったく衰えていないどころか、上がってすらいることだろう。

 背徳的で、吐き気すら催す胸くそ悪さだというのにページをめくる手を止められなかったのは、その魔性と言える暴力的な魅力があったからだ。

 これが主人公やヒロインの一人称も合ってないような中途半端な作品なら、途中で燃えるゴミに出して終わっていたのだから。

 だが、この作品は本物だった。

 かつて、クロノは第十二使徒マリアベルをアヴァロンの王城から引きずり出すためにサリエルをダシにして寝取り男の真似をしたことがある。

 その結果でマリアベルを殺したことには何の後悔もないが、まさかこれほどの威力を持った精神攻撃だったとはとクロノは戦慄する。

 あのとき、マリアベルが釣れた瞬間にはバカなやつだと思ったが、これは無理もないと思い直すほかない。

 そう、あまりにも卓越した描写の、推しのNTR本はクロノの強靭な脳をランク5モンスターのスロウスギルに勝るとも劣らない勢いで浸食したのだ。

 

「う、うう・・・オ、『愛の魔王(オーバーエクスタシー)』!!」

「クロノっ!?」

 

 発動したのは、魔王の第四の加護、精神を氷の如く不変に保つ『愛の魔王(オーバーエクスタシー)』。

 一度は敗れたスロウスギル改めカオシックギルや、第十一使徒ミサの特化能力、『聖愛魅了(マドンナチャーム)』すら防いだ、実績ある精神防護である。

 

「ああ、やっぱりダメか・・・」

 

 だが、今のクロノの脳を破壊したのは、魔法でもなんでもないただのNTR本。

 そんなものに魔王の加護は無力であった。

 突然、一瞬だけピンク色に発光したクロノを見て驚くウィルの様子も目に入らず、クロノは悄然と床に崩れ落ちた。

 ワンチャン、十字教の聖書にあるという呪いみたいなものなんじゃないかと思っていたのだが、当然そんなことはなかった。

 

「なあ、ウィル・・・俺は、どうすればいい?」

「・・・耐えるのだ、クロノ。我がこの本を読んだのは一週間前。読んだその日はまともに執務をこなせなかったが、今日は、まともな会話ができているであろう?時間だ。時間だけが、この苦しみから我らを解放するのだ」

「・・・そうか」

 

 先達であるウィルに道を尋ねるも、返ってくるのは無情な答えだけ。

 苦しみを通り越し、無力感だけが支配して生返事しか返せないクロノを痛ましそうに見ながら、床に転がった本を回収しようとしたウィルは手を伸ばし・・・

 

「あ・・・」

 

 そして見てしまった。

 床に落ちた衝撃で開いたページ。

 まるでそこだけ入念に何度も何度も読み返していたかのように、開きやすくなっていた箇所に描かれていたモノが。

 ろくな印刷技術もないくせに現代のイラストレーターが描いたのような美麗なタッチで、今のクロノのように床に崩れ落ちる主人公の前で交わるヒロインと中年男のイラストが。

 それは、スロウスギルと同じランク5モンスターであり、今もこのパンデモニウムで囚人を支配するのに利用しているラストローズの紋様のようにウィルの脳に焼き付いた。

 

「う、ううっ・・・プリム・・・プリムゥゥウウウウウウ!!!」

「ウィル・・・」

「クロノっ!!」

 

 クロノと同じように床に崩れ落ち、プリムの名を叫んで泣くウィル。

 そんなウィルを、今度はクロノが慰めるように抱きしめ、2人して男泣きする。

 セリアは、視界にそんな暑苦しいモノが映ってないかのように淡々と部屋の掃除をしていた。

 

「・・・ウィル、やっぱりダメだ」

「・・・クロノ?」

 

 セリアが部屋の掃除を終え、お茶請けに持ってきたクッキーを食べ終えた頃、クロノは心の整理がついた。

 未だに目元が赤いままだが、同じような顔をするウィルを見て、クロノは決心したのだ。

 そう、魔王ミア・エルロードが黒乃真央に加護を与える相手として選んだのは、彼に守護の意思があるから。

 どんなに痛い思いをしても、誰かのために立ち上がる優しさを持っているからだ。

 自分だけではない、他でもない魂の盟友が今もこの苦しみを味わっているというのなら、時間に任せるなんてことはしてはいけない。

 クロノは立ち上がり、今度は自分の方から床に這いつくばるウィルに手を差し出した。

 

「・・・クロノ、汝は、まさか!!」

「・・・ああ、ウィル。お前が思っている通りだ」

 

 そして、自称、灰色の脳細胞を持つ・・・というか、実際にマジで頭の切れるウィルは、親友のやろうとしていることに察しがついた。

 

「造るんだ・・・俺たちが、本当のプリムの誘惑の続きを!!」

 

 そのときのクロノの顔は、スパーダに来たばかりの頃、魔王ミアに左目をもらったときのように決意に満ちた顔をしていたという。

 

 

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「「ダメだ!!ダメだダメだダメだ!!こんなのプリムじゃない!!」」

 

 スパーダ臨時政府庁舎の執務室に、魔王とスパーダ王の叫びが木霊する。

 同時に、床に羊皮紙が散らばった。

 『片付けが面倒くさいなぁ』とセリアは思ったが、できたメイドである彼女は顔には出さなかった。

 

「くっ!!ダメだ、書けない・・・自分の中で書きたいシーンはたくさんあるんだ。でも、そこに繋ぐまでの描写に手を抜くと、本番の部分まで茶番みたいになってしまう。っていうか、それを表現する語彙力が足りない・・・」

「付き合ったばかりのプリムがどのような言葉を発するのか、イメージがまとまらぬ!!ぐぬぬぬ・・・我はこれまで数多の名作に触れ来たはずだ!!思い出せ、恋人たちがどのような行動を、台詞を紡いでいたのかを!!」

 

 魔王の勇ましい宣言の後、やはりいつの間にか用意された高級そうな机と羊皮紙の山の前でクロノとウィルは万年筆を片手に執筆活動を始めたが、難航していた。

 クロノは元文芸部員であり、執筆経験もあると豪語するが、白崎百合子の客観的な評論によればボロカスに叩かれている。

 ウィルは音楽方面に芸術の素養はあれど、クロノのような経験もなく、なによりクロノのように現代の様式美に溢れたラノベ文化を知らない。

 なんというか、残当であった。

 もしかしたら、シチュエーションはクロノ担当で、執筆がウィル担当ならうまくいったかもしれないが。

 

「くぅぅ・・・クロノよ!!汝はハーレムを現在進行形で持っている張本人であろう!!こう、女の子と仲よさげに過ごす描写については、我なんぞよりよほど経験があるのではないか!?」

「え?あ、まあ、うん・・・」

 

 実際の女子とのふれ合いという点で、クロノはかなりの経験者だ。

 なにせ、実際にハーレムを造っている魔王様である。

 だが、ウィルに言われて思い出すのは、サリエルを殺そうとするリリィや、リリィとマジの殺し合いをするフィオナ、怪鳥のような叫び声を上げるネルに、極限状態で二回も性交したときのサリエル、挙句の果てにリリィと心臓を交換する自分・・・など、確かに大切な思い出もたくさんあるのだが、軽快でポップなライトノベルに書くには重すぎる体験ばかり。

 実際に本に出そうモノなら、Gの意味で18禁だ。

 ふれ合いの経験はあっても、ライトノベルの題材となるような経験は乏しい。

 そこまで至ったとき、クロノの脳内に電流が走った。

 

「クロノ、やはり無理なのではないか?人は加護によって神の力の一部を宿すことはできても、あるいは死した後にその列に加わることはできたとしても、人の身のまま神そのものはなれぬ。我らがプリムの誘惑の作者の真似事をしたとしても、それは・・・」

「経験・・・そうだ、経験だ!!」

「む!!なにか思いついたのか、クロノよ!!」

「ああ!!いるじゃないか!!最高のモデルが!!あの子がいれば、リアルなプリムローズが書ける!!」

「・・・あの子?いや、まさか、ちょっとそれは」

 

 天啓が浮かんだとばかりのクロノに対し、クロノが誰のことを言っているのか察しがついたウィル。

 エルロード帝国の兵站を担う中将として、持ち前の記憶力もあって帝国軍の実力者をほぼほぼ把握しているウィルだが、いや、さすがにちょっとあの子まで引っ張ってくるのは事が大きくなりすぎじゃないか?

 最初に知ったときにはあまりにプリムローズに似ていて驚いたが、紛れもなく彼女は現実の存在であり、『書物の中のプリムローズとは別人』とあっさり割り切れた彼女であるが、現実の存在であるからこそ無闇にクロノと関わらせるとなると嫌な予感しかしない。

 具体的に言うと、このパンデモニウムを実質的に支配する妖精女王とか、鉄面皮のホムンクルスの大佐殿とかが。

 そんなふうに思うウィルだったが、いつか銃について地味だと零してしまったときのように熱くなっているクロノは止まらなかった。

 

「よし、行こう!!ウィル」

「・・・うむ」

 

 まあ、いざとなったらクロノに何とかしてもらおう、今後こういうことには気をつけてくれるようになるかもしれないし、っていうかプリムの続編書くのにはやっぱ興味あるしと思ったウィルは、『私も行かなきゃダメですか?』と言いたげなセリアに目配せしてから、意気揚々と先を行く魔王陛下に着いていくのだった。

 

 

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「重騎兵隊、プリム少尉、到着いたしました」

 

 F-0081、クロノより『プリム』と名を与えられたホムンクルスは、緊張のただ中にあった。

 古代鎧の専用機であるケルベロスを与えられた、重騎兵隊のエースパイロットである彼女は、他のホムンクルスよりもクロノと接する機会は比較的多い。

 しかし、そう言った場合は他のホムンクルスと行動しているときがほとんどであり、プリム単独で喚び出されることなど、初めてであった。

 アダマントリア奪還戦では魔女フィオナの働きがほとんどであり、重騎兵隊としての活躍はプラスもマイナスもない。戦働きを褒める、あるいは評価を下げるといったことも考えにくい。

 ならば、一体なぜ自分だけが神に等しいクロノの前に呼ばれるのか。

 

(ま、まさか・・・)

 

 セクサロイドとしてつくられ、淫魔女王の加護を賜り、性知識も豊富に蓄えつつあるプリム。

 かつて、アヴァロンにいた奴隷商の女主人に言われた言葉が蘇る。

 

 

--それはそれは、随分と期待されているのね、貴女

 

 

 それを言われたとき、プリムは不敬であるとそれ以上の思考を必死で考えないようにした。

 だが、つい最近に、その壁を突き崩す出来事があった。

 プリムは、今も扉の隣に控えるその張本人に目を向ける。

 

 

--ここは譲れません

 

 

 暗黒騎士団団長、サリエル。

 かつては敵対勢力である十字軍の総司令官であり、第七使徒と呼ばれた存在。

 今では、暗黒騎士フリーシアの加護を賜り、魔王クロノの側近と言うべき立場におり、先の第十一使徒ミサを討った際には、クロノの寵愛を受ける栄誉を賜った、雲の上のような存在。

 共通点は己と同じホムンクルスということだけ。

 そう、主に仕えることを至上とする自分と同じホムンクルスでありながら、サリエルは自分たちの神と交わった。

 この身に宿る加護をもって、役立とうとした己を払いのけて。

 今の己がそのサリエルに対して抱えるモノがなんなのか、学習が不足しているプリムにはわからない。

 しかし、重要なのはホムンクルスであるサリエルがクロノに抱かれたということ。

 そして、今魔王の元に呼ばれたのは、己1人のみ。

 そこにサリエルはいない。

 ならば。

 

(なら、プリムも・・・!!)

 

 今もまさしく人形のように表情を変えないサリエル。

 そんなサリエルに、自分でもよくわかっていないモノを乗せた視線を向けてから、神からの至上命令をこなすべく思考を切り替える。

 

「ああ、よく来てくれた、入ってくれ」

「はっ!!」

 

 扉の向こうから聞こえてくる神の声。

 それが自分に向けられていることに気絶しそうになるも、前と同じ無様は晒すまいと、サリエルが開けた扉を気合いを入れて進む。

 プリムが入った後、すぐに扉は閉じられ、部屋の主がすぐ傍にいた。

 ・・・その主のすぐ傍には現スパーダ国王もいたが、プリムの視界には認識されていない。

 

「改めて、よく来てくれたなプリム」

「は、はっ!!ご主人様がお呼びとあらば、いついかなる時も、どのような命令であれど従います!!」

「いや、そこまでかしこまらなくてもいいんだが・・・まあ、今日はちょっと変わった頼みだしな」

 

(か、変わった頼み!?も、もしかして本当に・・・)

 

 苦笑するクロノに対し、プリムの脳内が一瞬で沸騰する。

 果たして、その頭の中では魔王陛下とどのようなことをしているのか。

 そんなプリムの内心を知ってか知らずか・・・いや、間違いなく知らないが、クロノは羊皮紙の束を差し出しながらこう言った。

 

「それじゃあプリム」

「は、はいっ!!」

「そこに書いてある台詞を言ってみてくれないか?」

「・・・はい?」

 

 本当に予想だにしていなかった変わった命令に、神の目の前だというのに気の抜けた返事が飛び出した。

 反射的に、渡された羊皮紙に目を走らせる。

 

「オ、『オタクくん、あーしのことジロジロ見過ぎなんですけど~?』・・・これは?」

 

 これまた反射的に読み上げてしまった台詞の意味不明さに、疑問符を浮かべるプリム。

 しかしそこに、主、いや、この場においては監督と呼ぶべきクロノからのダメだしが入る。

 

「違う!!そこはそんなふうに棒読みじゃなくてもっと感情を込めて!!もっと、オタクくんをからかうような声音で!!」

「は、はいっ!!も、申し訳ありません!!」

 

 ホムンクルスであるプリムに、人間の感情など理解できるはずもない。

 しかし、幸か不幸か、プリムは淫魔女王プリムヴェールの加護を賜っており、他のホムンクルスよりも個性と言うべきものが発達している。

 さらには、本人も理解していないがサリエルへの対抗意識があり、なによりこれは神であるクロノからの命令だ。

 気のせいか、『そう、ここ!!今が攻め時よ!!』と天からいつかの夢で聞いた声が聞こえるような気もする。

 その声に後押しされるかのように、プリムはもう一度羊皮紙の内容を読み上げる。

 ご主人様の願いに応えるために。

 

「お、お、『オタクくぅん、あーしのことジロジロ見過ぎなんですけど~?』」

「よし!!それだ!!そんな感じ!!インスピレーション湧いてきた!!」

 

 果たして、プリムヴェールの思し召しか、クロノのオーダーに応えられたらしい。

 『アイデア帳』と書かれた紙束に何事かを書き込んでいるクロノ。

 『え?これマジで大丈夫?』と不安そうな顔をするウィルハルト王子の様子は、やはり認識されていない。

 

「よし!!よし!!その調子でどんどん言ってみようか!!」

「は、はい!!」

 

 こうして、演技指導担当のクロノによるプリムの指導が始まった。

 

 

--オタクくん!!オタクくん!!今日、誕生日なんだって?お願いしたらあーしがプレゼントあげる!!

 

 

--うん、よし!!

 

 

--オ、オタクくん、今はあんまりこっち見ないで、は、恥ずかしいから・・・?

 

 

 

--違う!!いや、足りない!!もっと恥ずかしいですって感じで!!

 

 

 

--オ、オタクくんって、ど、童貞なの?あ、あー・・・わ、私が卒業させてあげましょうか!!

 

 

--いや、そんな気合い込めなくてもいいよ。なんなら、もっと何でもない風にさらっと流す感じで。あと、一人称はあーしで。

 

 

--は、はい!!申し訳ありません!!

 

 

(ど、どうしよう・・・身体が熱くなってきました)

 

 

 しばらくの間クロノの熱血指導が続いた。

 最初は戸惑いも大きかったが、一体何が背中を押しているのか、人間の感情の理解などほとんど進んでいないにも関わらず台詞がサラサラと流れていく。

 しかし、それに比例するかのように、プリムの下半身の一部分。プリムヴェールの加護を賜ったことを示す淫紋が熱を帯びてきていた。

 プリムがオタクくんに、否、クロノに向かって台本の台詞を発するたびに、その疼きが痛いほどに強くなっていく。

 今のプリムには、目の前のクロノ=オタクくんであり、己こそが不敬にもそのオタクくんをからかいつつも密かに距離を詰めていくクロノの理想のヒロインであった。

 

「はぁっ、はぁっ・・・」

「ん?プリム、少し疲れてきたか?だったら、この辺で少し休もうか。アイデアの整理もしたいし」

「い、いえっ!!プリムはまだやれます!!ヤらせてください!!」

「そうか。プリムがいいのなら・・・それじゃあ、この台詞で」

 

 そうして演じるように指示されたのは、プリムの誘惑が男子たちの人気を集めた大きな理由である、年齢制限ギリギリの扇情的なシーン。ある意味、殺し文句であった。

 プリムはその一文をしっかりと記憶領域に刻み込み・・・

 

「『オ、オタクくん、オタクくぅん!!オタクくんのおっきぃの、あーしの・・・』」

 

 そして、そのR18ギリギリどころかもう越えてね?という台詞をプリムが最後まで言い切ろうとしたしたそのとき。

 

 

--ドォン!!

 

 

「なっ!?」

 

 部屋の扉が大きな音を立てて開かれた。

 その直後、真剣な顔をしていたクロノであったが、さらに真剣な、戦場にいるときの表情になると、一瞬で影から呪いのオーラが湧き上がる大鉈を喚び出す。

 それほどまでに、濃密な殺気が扉の向こうから漂ってきていたのだ。

 果たして、魔王陛下お膝元のパンデモニウム、その中枢のテメンニグル第五階層で魔王相手に迫るのは誰なのか。

 

「・・・状況の説明を求める」

「さ、サリエル?」

 

 扉を開けて入ってきたのは、扉の外にいたはずの暗黒騎士団団長サリエル。

 魔王陛下の部屋に許しも得ずに入ったとして咎められることはない人物であるが、クロノにとって意外なことであった。

 サリエルは基本的に感情に走ることなく命令に忠実。

 何か用事があったとして、必ず部屋に入る前に確認を取るであろう性格をしているからだ。

 だが、今のサリエルはどうか。

 身体から黒色の稲妻がバチバチと音を立て、その無機質な紅い瞳はクロノ・・・ではなくプリムを捉えている。

 

「さきほどからの会話は、部屋の外まで漏れていた。部屋の中で何が起きていたのかは、私も把握している。その上で問う。さきほどまでの行動は、一体何の意図があって行われていたモノなのか」

 

 本来、魔王の執務室など最高クラスの防諜策が用意される。

 しかし、サリエルもまた最高クラスの諜報員として働けるほどの聴覚を持つ。

 普段ならばそこまではしないが、今回はプリムのみが喚び出されるという異例の事態。

 部屋の中に親友のウィルハルト王がいるとはいえ、サリエルは警戒を怠らなかったのだ。

 そして、サリエルの懸念の通り、魔王の寝室ではなく執務室で卑猥な言動をとり、恐れ多くも魔王陛下を誘惑する痴女が現われた。

 驚くべきことに、また嘆かわしいことに魔王陛下もその巧みな誘いに乗せられてしまっている。

 こんな醜聞が露見すれば、それは帝国軍の士気低減に大きく影響するのは間違いない。

 ならば、その下手人の確保に動くのは当然のことだ・・・と、理論武装は完璧である。

 

「え、あ、いや、これはだな・・・」

 

 いきなりマジおこモードのサリエルが現われたことの意外性に、クロノの受け答えもしどろもどろになる。

 隣で『あちゃ~』と言わんばかりに頭に手を当てるウィルがセリアに手を引かれて部屋の隅に逃げていくが、ついさきほどまでの演技指導にはノリノリで口を出していたことをサリエルはしっかりと耳にしていた。

 だが、ここで運命のイタズラか、サリエルを見たことでクロノの脳にまたしても電流が走った。

 

「あ、そうだ・・・サリエル、じゃなくて白崎さんは俺なんかよりも、いや、本物のプロの作家並の腕だった。白崎さんの料理の腕も再現できてるんだし、小説も・・・サリエル」

「はい」

 

 己の頭の中に降って湧いたアイデアがよほどの名案と思ったのか、クロノは未だにバチバチと黒い稲妻が迸っているサリエルにオファーをかけた。

 

「白崎さんの、いや、お前の腕を見込んで頼みがある。さっきまでのを聞いていたなら話は早いんだが、お前はラノベの知識もあるだろ?俺とプリムの会話を参考に、ラノベを書いて欲しいんだ」

「さきほどまでの流れを参考に、ライトノベルを?」

「ああ。これ、さっきまで俺が書いてたメモなんだけど、お前ならもっといいアイデアが思いつくと思う。よし、そうだプリム・・・」

「『オタクくんのおっきぃの、あーしのなか・・・』」

 

 そうして、クロノがプリムに何事かを指示しようとして、その意を察したかのように、プリムがさきほど中断された台詞を演じる。

 それは、クロノとの逢瀬を邪魔されたことへの意趣返しか。

 プリムがどのような表情をサリエルに向け、それに対してサリエルがどのような顔をしていたのかは、クロノがプリムの方を向いていて、そのプリムはサリエルに顔を向けていたためにクロノには見えなかった。

 ともかく、今度こそ台詞を言い切ろうとして。

 

「不敬」

「かっ・・・はっ・・・」

「なっ!?さ、サリエル!?」

 

 起きたのは、ヴァルナ森海でサリエルがクロノと結ばれる直前の再現。

 真正面で相対していても尚、不意打ちとして成立するほどの超人的な技量によって、雷撃付きの手刀が瞬時にプリムの意識を奪い去った。

 己が司令室で起きた突然の凶行に、クロノの思考が一瞬フリーズする。

 そのわずかな間で、雷属性の魔力によるスーパーコンピュータ並の思考速度をもってクロノから渡されたアイデア帳の中身を読み取り、クロノが己になにをさせたいのかを理解した。

 

「・・・マスター」

 

 理解した上で、サリエルは己の主人に問う。

 己の手の中に、真っ黒に染まった槍を呼び寄せながら。

 

「再度、説明を求める。プリムとマスターとの卑猥な会話を参考に、白崎百合子の知識と経験で私がライトノベルを執筆するという要求に、どのような軍事的なメリットがあるのかを」

 

 クロノが命じたことは要約すれば、『俺のことが好きな女との恋人ごっこを参考に、自分がコマした女に俺が好きだった女の指導でR18スレスレのラブコメを書かせる』というクソみたいな内容である。

 さきほどよりも激しく迸る雷と、その雷によって消し炭となるアイデア帳。

 そして穂先こそ床を向いているが、ミシミシと嫌な音がするほど強く柄を握っているのを見て、さらには冷静に客観的に自分がなにをさせようとしたのかを説明されて、ようやくクロノは理解した。

 

「マジで申し訳ありませんでした」

 

 そうして、己の愚かさを悟った魔王陛下は、部下の暗黒騎士団団長にマジトーンで頭を下げるのだった。

 ・・・なお、この後このことが妖精女王と魔女、ついでに軍医総監と黒竜にもバレてウィルハルトとともに盛大に怒られることとなるのはまた別の話である(軍医総監の発狂ぶりには箝口令が敷かれた)。

 さらに余談であるが、すべての元凶とも言えるプリムの誘惑とその続編にまでサリエルによる調査の手が及び、『十字教の聖書と同様の呪いを秘めている可能性がある。分析のためにこれは没収する』と続編のみならずプリムの誘惑も丸ごとウィルの手を離れることになった(後にプリムの誘惑の方は返却された)。

 さらにさらに蛇足であるが、この件の後に上記5人から(特にリリィ、サリエル、ネル)のプリムへのあたりが若干キツくなったことをここに記しておく。




菱影代理先生申し訳ありませんでした!!

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