15光年のガイア   作:ナカイユウ

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第十話 理由

 「・・・疲れた」

 

 マネージャーの運転する車を見送り、上原家の玄関を前に溜息代わりの独り言を吐く。無論独り言を吐いたからと言って、疲れが飛ぶわけではない。

 

 「てか・・・昨日から色々と起こり過ぎじゃね?」

 

 それでも、こんな感じでつい愚痴を吐きたくなるぐらいには疲れている。本当につい昨日の放課後まで自分の親が本当の親じゃないことを除いたらそれなりに現実の範疇の中で動いていたおれの日常は、謎のちんちくりんな神様に出くわしてからというもの一変したといっても過言じゃないレベルで変わり出している。

 

 

 

 

 

 

 「主演は()だよ。上原ガイアくん

 

 主演だと思っていた人から言われた、あまりにもまさか過ぎる予想外の一言。いやいやいや、さすがにちょっと待て。こんな人気が落ち着くところまで落ち着いてしまった子役とも役者とも呼べない中途半端な上がりかけにこんな大役なんて、これこそドッキリだろ・・・と、星野さんから言われたときは本気で思った。

 

 「・・・ドッキリじゃ、ないですよね?」

 「だったら君のボスに聞いてみれば?」

 

 なんて感じに半ば誘導される形で自分のスマホから社長室(オフィス)へ戻ったボスに電話を掛けると、“1分待ってくれ”という返答と同時に電話が切れてからちょうど1分で、ボスが4月からおれのマネージャーを務めている市来(いちき)と共にミーティングルームに現れた。

 

 「ボス。おれへのオーディションの話って事務所のほうに来てました?」

 「あぁ、既に聞いている」

 「・・・やっぱドッキリじゃないですか」

 「ドッキリではなく()()()()だ、ガイア君」

 

 そしてボスから明かされたのは、これらが紛れもなく本当のオーディションだったということだった。

 

 「本当にご協力ありがとうございます東雲さん☆」

 「()()()にはちゃんと説明したのだろうなルビー君?」

 「もちろん。だってそういう約束でこの映画は始まってますから」

 「全く、相変わらず親バカな映画監督だ・・・」

 

 無論、直後に明らかわざとな満面の笑みで会釈した星野さんへ釘を刺すかのような視線を向けて伝言を送っていたボスの様子からして、あの人が今回のオーディションに関してかなりの我儘を働いたということも、場の空気で察した。

 

 「さあ、役者が揃ったところで出演交渉の続きを始めましょうか」

 

 こうして始まった映画への出演交渉は、この映画の出演者にして()()にも携わっているという星野さんと主演に抜擢されたばかりのおれを中心にボスとマネージャーも加わった4人で進められ、オーディションの合格から僅か1時間という短い間でおれの出演は正式に決定した。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、久しぶりに大きな仕事が舞い込んだことは素直に喜んでおくべきか_

 

 あまりにもこの2日間で色んな事が起こり過ぎてすっかり疲れてしまったが、一段落して振り返ってみると業界どころか世間的にも名前が広く知られている映画監督が構想している新作映画にして星野ルビーの復帰作となる映画の主演に大抜擢されたわけだから、トータルで考えれば最高の結果だ。当然プレッシャーはあるが、やはり確かな実績のある監督の映画で主演を演じられるというのは役者冥利に尽きることだと思う。

 

 これって夏から一気に忙しくなるやつかな?・・・なるんだよな?_

 

 ただし、オーディションが限りなくドッキリに近い形で組まされた上に、脚本の執筆とロケハンが忙しいという肝心の監督とはまだ顔を合わせられていないせいか、選ばれたという実感はまだ今一つ湧いていない。

 

 「ただいま」

 

 ここ2日のことを脳内で振り返りながら、いつものように二重ロックのかかった玄関を開けてリビングへと足を進めて、お決まりの四文字で今日も無事に帰ってきたことを生存報告。

 

 「あ、おかえりガイア」

 「・・・イブ?何でここにいんの?」

 

 家に帰り毎度の如く見慣れ切ったリビングに顔を出すと、キッチンで夕飯を作る母上から見守られるように、イブがさも当たり前のようにソファーに腰掛け学校から出されている宿題を片付けていた。

 

 「パパが今日は日を跨ぐからママのところに泊まりに行ってもいいって。だから泊まりに来ちゃった」

 「泊まりに来ちゃったって彼女かよ」

 

 いや、イブがこの家にいるのは2ヶ月前までは当たり前だった日常だから違和感がないのは当然なのだが、イブが親父のところに行ってからは学校で同じ制服を着ている姿しか見ていなかったからか、それよりも圧倒的に見慣れているはずの光景を前に戸惑いと驚きを足して割ったような感情が襲う。

 

 「ていうか親父は仕事?」

 「って言ってた。ちなみにママの予想だと業界人から稽古か撮影終わりで飲みに誘われたパターンだって。だよねママ?」

 「()()()じゃなかったら私は全然OKだけどねー」

 「なぁ母上、一応聞くけど親父と喧嘩したからイブが泊まりに来たってわけじゃないんだよな?」

 「家出だったらガイアのところにラインしてるよ」

 「そっか。なら良かった」

 

 さり気なくパワーワードが出てきたことは敢えて置いて、言うまでもなくイブの言葉と表情からして大丈夫だろうとは思いつつ念のためにキッチンにいる母上に聞いてみると、どうやらイブは親父と喧嘩をして家出したからこの家に泊まりに来ているというわけではないらしい。昨日の昼休みに親父と大喧嘩したらという話をしたから若干の心配もよぎったが、それが杞憂に終わって勝手に安堵が心の中で溢れる。

 

 「それよりイブってよくリビング(ここ)で勉強出来るよな」

 「だってリビング(ここ)でやるほうが落ち着くんだもん。自分の部屋だと好きなものが多いから逆にサボっちゃって集中出来ないんだよね」

 「そういえばそうだった」

 

 なんていう心情を表に出してしまうとせっかくいつもより賑やかなリビングの空気がしんみりしてしまうから、この家のリビングでついこの間までよく見ていた日常に話題を逸らす。

 

 「親父のとこでもリビングでやってんの?」

 「うん。やっぱり1人でも自分の部屋で勉強するより広いリビングでやるほうが落ち着くみたい」

 「ホントこういうところは真逆だよなおれとイブって」

 「ねー」

 

 自分の部屋みたいに誰にも邪魔をされず静かな場所のほうが勉強や役作りに集中出来るおれとは正反対に、自分の部屋だとすぐにサボるからと勉強は必ずリビングかおれの部屋に入ってきて一緒にやるのがお決まりだったイブ。あまりに我が家の日常過ぎてスルーしていたほど見慣れていたはずが、学校でしか顔を見ない日が経った1,2ヶ月続いただけで、何だかもう軽く懐かしい。

 

 「あと10分くらいで出来るから着替えるなら適当に着替えといてねガイア」

 「りょーかい。じゃあ10分したら戻って来るわ」

 「部屋に戻って軽く宿題やってく感じ?」

 「今週の分は昨日までに終わらせた」

 「神か」

 「まだ仕事がそれなりに入ってくるおかげでちょっとだけ少なくしてもらってるからな」

 「うわ芸能人羨まっ」

 

 キッチンから聞こえてくる母上の声に相槌を送り、宿題が終わっていることをリビングのソファーで宿題を片付けるイブから羨ましがられつつ、制服から普段着に着替えるためにリビングから自分の部屋に戻る。

 

 「やっぱり1人増えると賑やかだな・・・」

 

 階段を上がって2階に足をつけた瞬間、ふいに独り言が口からこぼれた。ただいまとリビングにいる母上に声を掛けて、一言二言ほど話をして手料理が出来上がるまで自分の部屋に戻って時間が許す限り宿題を片付けたり台本を読んで役柄の背景(バックボーン)を考えたり、身体を動かしたいときはストレッチをして暇を潰す。本当に何のドラマもない、作品のジャンルによっては割愛されてしまうほど絵面も地味で代わり映えのない、上原家の一日の中にあるほんの些細な一コマ。2ヶ月弱が経って母上と2人きりの静かになったリビングに慣れてきたつもりでいたが、1人増えるだけでここまで違うとは。

 

 

 

 『リモートって1ヶ月もすれば慣れてくるかと思ったけど、やっぱり何だか慣れないよね』_

 

 

 

 部屋の前で久しぶりに賑やかになったリビングの光景と一昨日のビデオ通話でイブが言っていた一言を重ねながら意味もなく5秒ほど感傷に耽って、おれは自分の部屋に入った。

 

 

 

 ☆★

 

 

 

 「いただきます」「いただきます」

 

 あっという間に10分という時間は過ぎて、リビングに戻りダイニングテーブルのイスに座り、そこら辺のレストランより美味しい母上の手料理を頂く。テーブルに並べられた今日のメインディッシュはハンバーグと、イブが泊まりに来ることを見越していたのかいつもより若干豪華だ。

 

 「()()()()と違って見た目からして美味いのが分かるよねママの料理って」

 「姫ちゃんと比べちゃ駄目だよイブ」

 「せっかくイブが名前伏せてあげたのに言っちゃったよこの母上(ひと)

 

 毎度ながらに見ただけで美味しい手料理の並ぶ、いつもと何ら変わらない食卓。ただ昨日と違うのは、このところはずっと空いていた隣のイスに一緒に手を合わせて同じ夕飯を食べる家族(ひと)が座っているということ。

 

 「・・・不思議な気分だ」

 

 何とも思わないくらいに慣れていたはずなのに、たった1,2ヶ月の間が空くだけで何だか不思議な気分になる。この気持ちを例えるとしたら、1人暮らしをしていて久々に実家に帰ったときのような独特な暖かさのようなものだろうか。実際にそれをやったことはないから分からないのだが。

 

 「何が?」

 「当たり前すぎて何も思ってなかったけどさ、久々にイブがおれの隣で“いただきます”って言ってるのを聞いたら、何か普通に家にいるのに久しぶりに実家に帰ったみたいな感覚になるわ」

 「年末年始に地元に帰省した大学生か」

 「毎度ながらどこで覚えてるんだそのツッコミは?」

 「さすが()()()だね」

 「細かいことはともかく母上がそれ言うと説得力が凄いな」

 

 思ったことを言ったらイブがレベルの高いツッコミを入れて、暖かく傍観していた母上がそれに乗っかって最終的におれがツッコむ羽目になる。この3人でリビングの食卓を囲んでいたときは大抵こんな感じで賑やかに進み、やがて途中から仕事や演技論の話になって、食べ終えて食器を片したらイブも野次馬で参加する母上とおれによるマンツーマンの演技指導を小一時間ほどしたところかそれも終わって解散した後ぐらいに、仕事を終えた親父が帰って来る。そんな2ヶ月前までは普通だった何気のない一日の締めくくりが、走馬灯のように脳内に流れてくる。

 

 「美味っ!」

 

 恐らく世界で一番緊迫感も感動もない走馬灯を、母上の作ったハンバーグを口に運んだイブの大袈裟気味なリアクションが掻き消す。母上とおれの2人しかいない昨日とは打って変わって、ただ1人増えるだけでダイニングテーブルの周りが2段階ぐらい明るくなるのは、もしかしなくてもイブという()()()()()()()()がいるからだ。

 

 「ねぇ、ママのご飯ってこんなに美味しかったっけ?」

 「イブにとっては1,2ヶ月ぶりだもんな」

 「あたしもパパのところに行ってから毎日夕飯作ってるけどここまで美味しく作れないんだよね~」

 「えっ、夕飯ってイブが毎日作ってんの?」

 「そう。ウーバーで食材とか調味料頼んで一から作ってる」

 「さすがに出来る範囲でいいから親父にも代わってもらうほうが良くない?そっちにもお手伝いさんがいるとはいえ」

 「しょうがないよパパは俳優の仕事でずっと忙しいし。たまに作ってくれることもあるけどあんまり美味しくないからあたしが作ったほうがマシってことになっちゃうんだよね。ま、家事は好きだから全然苦じゃないんだけどね」

 「母上。親父がオフのときに料理教えてくれない?」

 「姫ちゃんに料理は無理。だって丸1ヶ月つきっきりで練習させて()()だから」

 「マジか」

 「アレでも多少はマシになったレベルだからね」

 「役者にステータス振り過ぎだろあの人・・・」

 

 家族が()()()に分かれてから少し静かになっていた夕飯時のリビングは、今日もこの家には帰らない親父の話題(はなし)で盛り上がる。その明るさに釣られているのか分からないが、何だかいつも以上に気分が心地よくなっている自分がいる。

 

 「でも料理より酷かったのは車の運転だったなぁ」

 「あ~それママから聞いたことある」

 「確か3千万円の車を買った次の日に事故って廃車にしたやつだっけ?」

 「そうそう。あれから姫ちゃん一度もハンドル握ってないからね」

 「そりゃ3千万が一日でガラクタになったらトラウマになるよな」

 「だけど何故か免許の更新だけは欠かさずやってるっていうね」

 「どうして?」

 「レーサーの役が来たときにちゃんとレーサーの気持ちが分かるようにするためって10年くらい前に言ってた」

 「ははっ、いかにもパパって感じ」

 「なのに未だにそういう役が来ないんだよね姫ちゃん。刑事モノの映画に出たときも助手席だったし」

 

 イブと母上、それかお手伝いさん。時間が合えばそこに親父も加わってこんなふうに他愛のない話から、果ては演技論に至るまで美味しい手料理を味わいながら完食するまで楽しむ。これがおれのよく知っている()()で、これ以外の家族をおれは知らない。

 

 

 

 本当に、どうして名前も顔もどこに住んでいるのかも全く分からない人たちの下に、おれは生まれてしまったのだろう・・・どうしておれは、イブと一緒に生まれることが出来なかったのだろう_

 

 

 

 「ほんと、お芝居以外はてんで不器用なんだから姫ちゃんは・・・」

 

 まだおれとイブが生まれる前の親父のエピソードで盛り上がった後、思い耽るように向かいのイスに座る母上が呟く。いつの間にかテーブルに並んでいた夕飯は、半分以上減っている。

 

 「・・・皆さん。実は今日、あたくしがママの家に泊まりに来たのにはもう一つ()()があります」

 

 すると母上の呟きから始まった数秒の沈黙を合図にして、イブが急に畏まった様子でおれと母上へ交互に視線を送りながら話し始めた。

 

 「なになに?急に畏まっちゃって」

 

 真顔のまま、おれとイブの前でめちゃくちゃ興味津々に食い入る母上。そう言えばイブのやつ、昼休みのときに入部届を出したと言っていたな。

 

 「ああ、ひょっとしてあれ」

 「ガイアちょっと黙って」

 「ハイ姉上」

 

 昼休みに話したことを思い出して聞こうとして、図星を突かれたイブから言葉を遮られ止められる。危うくおれは、せっかくのサプライズを半分ネタバレする形で台無しにするところだった。

 

 「えー、この度あたくし、部活動に入ることになりました」

 「なんで敬語?」

 「()()()()です」

 「あーこのノリで最後まで行く感じね」

 「ちなみにパパには学校に行く前に伝えてあります」

 「ホントにこのまま行くのか」

 

 そして敬語を貫いたまま親父には事前に伝えていることをおれと母上に告げるイブ。どういうつもりか知らないし謎だが、どうやらこの堅苦しいノリで本人は打ち明けるらしい。黙っていれば芸能界にいても余裕で上位に行けるくらいの美少女なのに、こういうノリを恥ずかしがらず平気でやれるところは本当に母上の子だとおれはつくづく思う。

 

 「あたくしが入部届を出した部活動は・・・」

 

 なんて感心していると、イブはいきなりしゃがみ込んで自分のイスの下にいつの間に隠し込んだのかも分からない色紙のようなものを持ち出し、テーブルの妻手に立って両手でそれを見せびらかす。

 

 「ダンス部です」

 「ツッコみどころが多すぎて逆に何も言えないわ」

 「ちなみにあたくしの直筆です」

 「見れば分かる」

 「ダンス部ねぇ~。ちょっと意外だけど良いんじゃない?」

 「とりあえず元号掲げてる大臣みたいになってるところにはツッコまないのな母上」

 

 教科書で見た新元号発表を真似て見せびらかす、初段の実力が遺憾なく現れている渾身の直筆でダンス部と書かれた色紙。正直あまりにネタの情報量が多すぎてツッコめないし、カミングアウトのやり方が本気すぎるのと軽い拍手で済ませる平常運転の母上のおかげで入った部活がダンス部だったということへのリアクションも取れない。やはり自分の入った部活をおれと母上に言うというだけでここまで手の込んだネタを仕込んで来るのは、この母上(おや)にしてこの子ありだ。

 

 「ていうかどうやって持ってきたその色紙?」

 「この為だけに学校終わった後に一回マンション寄ってバッグに入れて持ってきた」

 「徒歩10分を最大限に活用してやがるこの姉上・・・」

 

 ともあれこんなふうに小ネタすらも仕込めるくらいに気兼ねなくこの家に来れるのは、別居していると言えど徒歩10分圏内にお互いが住んでいるからだろうか。

 

 「そんなことよりあたしがダンス部に入ったことへのリアクションは無いんですか2人とも?」

 「だから、その前にツッコみどころが多すぎるんですが」

 

 何となくさっきからリアクションを間違えている気がするが、相手がイブだから特に気にはしない。

 

 「ごめん。実はイスの下に何か置いてるなーっていうのは1時間前くらいから気づいてた」

 「嘘ママ気付いてたの?」

 「バレてたんかい」

 「だけど気付いた瞬間にあ、これサプライズ的な何かだなって分かったから何も言わなかった」

 「マジかー」

 「でもちゃんと裏側になってたから中身は見てないよ」

 「こういうところはちゃんと抜かりないよなイブは」

 「逆にガイアは全く気付かなかったの?」

 「まさかイスの下に“ダンス部”って書いた色紙が置いてあるとは思わないじゃん」

 「ふっ、やっぱチョロいわガイア」

 「おれが馬鹿みたいになってる流れを作るな」

 

 ちなみにイスの下に色紙を隠していたことは、母上にはとっくに気付かれていたらしい。確かに考えてみれば母上のリアクションが初見にしては薄い気がするが、この母上は実を言うと感性が上原家の中で一番ぶっ飛んでいる人だから何とも言えない。

 

 「それで、どうしてダンス部に入ろうって思ったの?」

 

 ひとまず茶番じみた部活発表が一段落して、母上はスッと真面目なトーンに戻ってダンス部に入った理由を聞く。絵面のインパクトのせいでそれどころじゃなかったが、入った理由はおれも気になる。

 

 「いくつかの部活に仮入部してみたんだけど、その中でダンス部が一番()()()()()って思ったから」

 

 色紙をソファーのところに置きにいきながら、イブはダンス部へ入部した理由を明かす。

 

 「()()()()()ってどういう意味?」

 「おもしろいは()()()()()。そのまんまの意味だよ」

 

 座っていたイスに戻りがてらのタイミングでおもしろいの意味を聞くと、イブは明るくもどこか悪戯な笑みをおれに浮かべてこう答える。

 

 「・・・まぁ、面白いのは大事なことだよな。部活も芝居も」

 「ちょっと急に何で畏まってんのガイア?」

 「いや、何でもない」

 「もしかして思ってたのと違う答えが返ってきて拗ねてる?」

 「そうじゃないしその程度で拗ねるほどおれは子供じゃない」

 「も~可愛いなぁこの弟は」

 「人の話聞いてる?」

 

 おれにだけ打ち明けている、アイドルになりたいという99.9%あり得ない将来の夢。それを聞いているからこそ垣間見える、“おもしろい”の五文字の中に隠している()()。それがもう一つの夢と関係しているかなんて分からないが、この眼を通じて本能は隣に座って平然とするイブがアイドルになる可能性が上がり始めていることをおれに伝えている。

 

 

 

 「なんでなろうと思うの?」_

 「んー、いざ言葉にしちゃうとものすっごく曖昧なんだけど・・・一回でいいから親に反抗してみたくなった。みたいな」_

 

 

 

 「・・・多分、この話をイブとガイアにするのは初めだと思うけど」

 

 そんな具合に心中でこんなことを思っていることなんか知らず何らいつも通りに姉弟が仲良くしているところを微笑ましく見ていたはずの母上が、いきなり語りかけるようにそっと口を開いた。

 

 「今だからあなたたち2人に話せるんだけど・・・実は私、二十歳(はたち)のときに女優をやめてこれからは芸能界から()()()()()()()()で自由に生きようって本気で考えたことがあるんだよね」

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