15光年のガイア   作:ナカイユウ

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第五話 自分の顔

 「ガイアくんとイブちゃんって、あんまり似てないよね?」

 

 小学生になって2ヶ月が経った頃、隣の席に座っていた同じクラスの女子から言われた何気のない一言。()()()()と周りから言われるのは初めてではなかったが、双子で顔が全然違うのはよくある話だと物心がついたときには母上から聞かされていたせいか、そう言われたときは特に気にも留めなかった。

 

 「イブ。おれたちってそんなに似てないかな?」

 

 けれど1日の授業が終わり昇降口の前で一足早くおれが靴を履き替え出てくるのを待っていたイブの顔を見た瞬間、おれは何とも言えない不安な気持ちになった。

 

 「うん。イブもあんまり似てないって思う」

 

 その日の帰り道の途中で、急に湧いて出た不安な気持ちを鼻歌を歌いながら斜め前を歩いていたイブに打ち明けると、振り返ったイブは笑いながらそう答えた。人から似てないと言われることには何とも思わなかったのに、イブから同じ言葉を向けられたときはショックを感じた。

 

 「でも双子なのに似てないのって、いけないことなのかな?」

 

 そんなクラスメイトから言われた悪気のない一言のせいで不安になり気が沈みかけていたおれに、イブは気を遣わずにはっきり似てないと返した上で逆に聞いてきた。

 

 「顔が似てなくたって、イブとガイアはママの子どもでしょ?」

 「・・・うん」

 

 そして顔が似ていなくても、自分たちは母上の子供だと言ってイブは笑顔でおれの不安を和らげてくれた。生まれた日は全く同じはずなのに、このときのイブはいつも以上に()()()()に見えた。

 

 「ガイアはちゃんとイブの弟だよ。だからガイアは何も気にしなくて大丈夫」

 

 不安を明かしたおれにキラキラとした表情で笑っていたイブから掛けられた言葉のおかげで、どんなに似てない言われても自分たちは双子の姉弟なんだと、おれはイブの言葉をそのまま信じることにした。

 

 「あのさー母上・・・」

 

 だが、周りと同じように学校に通い授業を受ける傍らレッスンで演技力や礼儀作法を学びオーディションに出てたまにチョイ役の仕事を貰えたりを繰り返し、順々と経験を積んで芸能界のことを自分なりに理解していくのにつれて、明らかにおれだけが()()()()()()()()ということを朝起きて自分の顔を鏡で見るたびに自覚するようになり、自分がいったい()()なのかがよく分からなくなり始めていた。

 

 「“あく”って漢字だとどう書くんだっけ?」

 

 おれは、その戸惑いと不安をイブや両親に打ち明けることが出来なかった。それだけはどうしても言えなかった。おれだけが違うことが本当だということを母上や親父の口から言われてしまうのが、恐かった。神様の存在は信じていなかったが、毎日顔を合わせる3人が本当の家族であって欲しいと人知れず願いながら、イブから言われていた()()()という言葉が真実だとひたすらに信じ続けていた。

 

 

 

 芸能界に入って、初めてオーディションではなくオファーという形で射止めた主人公の幼少期の役で1話のみながら大河ドラマに出演したことがきっかけで子役としての人気に火がついたのは、それから程なくした頃だった_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁイブ?」

 「んー?」

 「急に聞かれても意味わかんないって言われる前提で聞くけど・・・イブは()()ってやつを信じるか?」

 「ごめん。意味わかんない」

 「まあ、そうだよな」

 

 昨日に引き続いておれとイブで同じテーブルを挟んで昼飯を食べる、昼休みのカフェテリア。どうして今日も今日とてこうして姉弟同士で学校のカフェテリアに集まって昨日と全く同じように同じテーブルで母上の弁当と購買で買ったパンを互いに食べながら話をしているかというと、昨日の夜におれがイブに“明日どうしても話したいことがある”とラインでメッセージを送ったからだ。一言で言えば、昨日の逆パターンだ。

 

 「ちょっと待って、まさかガイアがあたしと話したかったことってこれ?」

 「そのまさか」

 

 無論、おれがイブを昼休みに呼び出してまで話したかったことは()()についてだ。

 

 「マジすか弟君(おととぎみ)

 「はい。マジです姉上」

 

 案の定、イブは開いた口が塞がらないと言わんばかりにキョトンとしている。そりゃそうだ。当事者のおれですら昨日の出来事はまだ受け止めきれていないのだから、こうなるのは当然だし何なら言う前から分かっていた。

 

 「・・・あー、なるほど。ついにガイアも患ってしまったわけか」

 「何に?」

 「でも大丈夫。例え愛しい我が弟が中二病になろうとも、あたしはお姉ちゃんとしてガイアを最後まで守り抜いてみせるから」

 「中二病にはなってないし恥ずかしいからツッコんでくれよ」

 「じゃあホントに風邪?」

 「何でそうなる?」

 

 運命を信じるか?と問いかけたおれを、とりあえず中二病だと冗談半分な態度で茶化すイブ。そもそもいきなり運命を信じるか信じないかなんて聞いたところで、聞かれた側は“?”でしかない。というか昨日の授業終わりまではただイブがアイドルになるかならないかだけだったはずの話が、どうしてここまで複雑怪奇になったのかおれが一番分からない。かと言って本当のことを話してしまったらそれこそ本気で中二病扱いされかねないのが、何とももどかしい。

 

 「ん~、運命ね~。運ぶ命と書いて運命・・・難しいよね運命って?」

 「一応ちゃんと答えようとはしてくれるんだな?」

 「悩める弟のためならね」

 「まぁ、悩んでるってわけじゃないんだけどな・・・」

 

 だがそんな事情なんて1ミリたりとも知らないイブは、冗談でふざけるのをやめて突飛なことを聞いてきたおれを微笑ましい表情で見つめて、購買で買ったメロンパンを口に運びながら真剣に考え始める。こういう馬鹿げているとしか思えない話にもちゃんと考えて真剣に付き合ってくれるところが、イブの一番良いところだと弟として思う。

 

 「何かあったの?」

 

 その優し気な目を見ながら、説明する理由を考える。あのちんちくりんな神様がカラスと共に姿を消した後、自分の頬を引っ張りあれが夢じゃないことを理解して、まさかと思い自分を追うカメラがないか周辺を捜し回ってみてもカメラは一台も見つからず、ドッキリでもないことをおれは悟った。というより、ドッキリに至っては出演者(ターゲット)とのトラブルを避けるために仕掛ける数日前に“こういう撮影があります”という許可取りも兼ねた事前通告をするのが普通だから、夢じゃないことを察した時点で半ば諦めていた。まあ、スタッフの報連相が不十分でアポなし決行になった可能性も1割ぐらいは期待していたが。

 

 なんてドッキリのことはどうでも良いとして、いざ相談するとなったらイブにはどう話すべきか_

 

 

 

 「ねえ・・・ガイアはあたしがアイドルになりたいって言ったら、どうする?」_

 

 

 

 「・・・昨日イブがおれにアイドルになりたいって言ったらどうするって相談してきてから、おれなりに色々と考えてたんだよ。イブが言ってた99.9%あり得ないことが起きる未来と、アイドルにならずに普通にこの学校を卒業して普通に大学に入って普通に公務員になった未来のこととかさ・・・」

 

 頭の中で考えを巡らせることだいたい5秒、即興にしては上出来なプランが浮かんできた。正確に言えば、もし昨日の放課後に()()()()()が起こらなかったとしてもおれはイブのことを呼んでいたと思う。

 

 「でも結局イブがアイドルになろうが公務員になろうが、それはどっちも最初から決まってることで、おれやイブがどうしようと変えることの出来ない運命なのかもしれないなって・・・そう思っただけの話」

 

 即興で思いついた理由で、自分なりに解釈した運命の話をイブへと話す。おれの中では割と上手く纏まったと思っていたが、いざ言葉にしたら思った以上にめちゃくちゃになってしまった。

 

 「あ~、なるほどね。つまりは過去なんて変えられるわけないし、未来を変えるって言われたって未来から見たら変えてるのは過去だから結局あたしたちからしたら何にも変わんないじゃん。って話で合ってる?」

 「おう。多分合ってる」

 

 果たして伝わったのだろうかという心配をよそに、どうやら思った以上にちゃんと伝わったみたいだ。こういうたまにびっくりするほど頭が冴えわたる天才肌なところを見ると、当たり前だけれどイブはちゃんと母上と親父の子供なんだなとつくづく思う。

 

 「だったら答えは簡単だよ・・・どうせ運命が変えられないんだったら、()()()()()を大事にすれば絶対いい方向へ運命は進む・・・ってあたしは思う」

 

 おれが相槌を打つと、まさか目の前で母上の弁当を食べながら運命について語る弟が神様に会ってきたなんて知る由もないイブは右手の人差し指を立てて誇らしげに持論を展開する。

 

 「待って、いまのあたしカッコ良すぎない?」

 「そういうのは自分で言わない方がいいと思うけど」

 

 と、良い感じのことを言った傍からわざとらしくイブは自惚れて弟から突っ込まれる、我が家では何度も見てきた光景。

 

 「でも・・・確かにイブの言う通りかもな」

 

 イブから返ってきたのは、いかにもイブらしくてこれ以上ないくらい至極真っ当な答えだった。言われてみれば、過去や未来のことを色々と考えたところで何も変わりはしない。だったら今という時間を後悔しないように生きて、行動する。言われれば言われるほど、本当にその通りだとおれも思う。

 

 「まずガイアは難しく考えすぎなんだって。中1で運命について云々とか哲学者の末裔か?」

 「そんなハイレベルなツッコミが瞬時に出てくる中1に言われても説得力がないわ」

 

 そういえば、思い返してみれば昨日出くわしてしまった神様もこれに近いようなことを言っていた。

 

 

 

 「君には運命(みらい)を選ぶ権利がある」_

 

 

 

 「あ、そうだ。話変わるけどガイアは部活って決めた?」

 「・・・部活?」

 「さては何も考えてないな?」

 

 神様から言われた助言を思い出していたら、いつの間にか話題は運命の話から部活の話にすり替わっていた。部活か、それこそ運命のこと以上に何にも考えていなかった。

 

 「フツーに帰宅部」

 「そんな部活はありません」

 「知ってます」

 

 何故ならおれは、この学校に入学したときから部活には入らないと決めていたからだ。理由はもはや、言うまでもない。

 

 「そもそもおれは積極的に芸能活動(しごと)をしないと事務所から怒られる立場なんで」

 「って言ってる割には今日もオフなぐらいには落ち着いてるでしょガイア?」

 「最低週3日以上は授業をまともに受けられるようにスケジュール調整してもらってるってだけで、普通に仕事はあるから案外暇じゃないんだよ。明日から台本の読み合わせで週末は丸一日撮影だし」

 「へぇ~、ありがたいじゃん」

 「あぁ、親と事務所に感謝だな」

 

 自分で言うと嫌味みたいになるが、要はそういうことだ。

 

 「でも何で急に部活の話になってんだ?」

 「仮入部期間。今日までだよ?」

 「仮入部・・・そんなのあんの?」

 「マジで部活に無頓着すぎるだろこの弟」

 

 こんな具合で仮入部期間というものがあることすら頭から抜けていた帰宅部志望のおれを、いつもは母上と揃ってボケ側に周ることが多いイブが珍しく本気で突っ込む。芸能界(むこう)にいると学校の話をする機会がほぼないからか、久しぶりに学校の話をイブとしているとそれだけで軽く懐かしく思えてくる。まだ懐かしいなんて感情を理解出来るほど、おれは経験を積んでいないだろうけど。

 

 「そーいうイブは決めてるのかよ?部活?」

 「決めたよ。今日入部届出しに行く」

 

 ちなみにこれだけ人様に言うそっちこそどうなんだと聞いてみたが、どうやら本人曰くもう決めているらしい。これでもイブは保育園にいたときから男子顔負けにスポーツは万能で、小2の時点で簡単な料理なら作れていたレベルで手先が器用でピアノもコンクールで入賞したことがある腕前を持つ、芝居以外は概ね平均値なおれとは対照的に芸達者な一面を持っている我が家のアイドルだ。無論、アイドルなのはあくまで()()()の中だけでの話だが。

 

 「で、どこ入んの?」

 「それはまだ秘密」

 「どうして?」

 「こういう大事なことはせっかくだから家族が揃ったタイミングで話したいからさ♪」

 「何だそれ」

 

 めちゃくちゃ気になるほどではないがどの部活に入るのかを聞いてみたら、本人曰く夕飯を食べた後の家族通話のときにネタバラシをしたいらしく、わざとらしくおれをじらした。アイドルになりたいと言ってきたときは真っ先に相談してきた癖に、よく分からない姉だ。

 

 「じゃあそろそろあたしは教室戻るね」

 

 話が終わり、食べ終えたメロンパンの袋と飲みかけのジュースを片手にイブは席を立ち、おれに手を振りながら一足先にカフェテリアから出て行こうとする。

 

 「イブ」

 

 ちょうど母上の作った弁当を食べ終えたおれは、手を振りながら席を立つイブを呼び止める。

 

 「どんな選択をしても、おれはずっとイブの味方だから」

 「あははっ、今度はどうした?」

 「いや、昨日の答えをまだ言ってなかったなって思ったから」

 

 そしてこんな馬鹿げた相談に真剣に付き合ってくれた感謝も込めて、昨日からずっと言いそびれていた自分なりの答えをイブへ伝える。全然気にしなくていいのにと言いたげに笑う反面、おれから一日越しで返答を貰ったイブは心なしか安堵しているように見えた。とにかく色んなことが起き始めている今は、これがおれの精一杯だ。

 

 「ありがとガイア。じゃ、また夜にね」

 「おう」

 

 そんなおれからの答えになっているようでなっていないエールを受け取ったイブは、軽く右目でウインクをして颯爽とした足取りでカフェテリアから出て行く。その一つ一つの仕草が芸能人をやっているときの母上と本当にそっくりだから、弟の分際なのに見入りそうになる。

 

 「イブがアイドル、か・・・」

 

 ただでさえ強かった母上の面影がこのところさらに強まり出している後ろ姿を見ていたら、つい余計なことを考えてしまった。誤解がないように言うがおれはイブがアイドルになることには全く反対していないし、本当にそうなったとしても弟として全力で応援するつもりだ。もしも親父と母上が駄目だと言って反対したら、おれは迷うことなくイブの味方につく。それぐらいイブには、家族が揃って有名人であることを差し引いても光るものをおれは感じている。

 

 だけれどいざその運命が()()になったとき、おれはどうするべきなのだろうか。つい昨日まで運命の“う”の字すら考えて来なかったおれには、どうしたらいいのか考えれば考えるほど分からなくなる_

 

 

 

 「その顔に生まれた意味をもっと深くまで考えれば、君のお母さんがどんな思いを込めて大地(ガイア)という名前を君につけてこの世界で生かしたのか、その答えに辿り着けるかもね・・・」_

 

 

 

 ♪~_

 

 イブがいなくなったことで気が緩んで頭と心が後ろ向きなことを考え出したところに、誰かからの着信が来たことをスマホが伝える。デフォルト状態から何もいじっていない着信音からして、これは電話だ。

 

 ()()?こんなときに何だ・・・?_

 

 画面全体に表示された相手の名前を見てみると、おれが所属している芸能事務所の社長(ボス)の名前が表示されていた。こんなお昼どきのタイミングにわざわざ電話をしてくる時点で、恐らくこれは()()ではない。

 

 「はい、上原です」

 

 もしかしたらスケジュールの変更か急遽の仕事か、でもそれならまずマネージャーから連絡が来るよな・・・と考察しながらカフェテリアの外に急いで移動して、ボスからの電話に出る。

 

 『東雲(しののめ)だ。ちょうど昼休みの時間だと思うが、今大丈夫か?』

 「問題ないです」

 

 大丈夫かと言われたら割とギリギリだったが、廊下に出て静かなところまで歩きつつ電話に出れるということを伝える。耳元から聞こえてきた聴き慣れた還暦とは思えない若々しい声は、事が重大なのかそうでないのかパッと聴いただけでは分からないほど、いつも通りに落ち着いている。

 

 『こんなときに急な電話をかけたことは申し訳ないが、ガイア君に折り入って頼みたいことがある』

 「()()()()()ってことは結構マジなやつですね?」

 『ああそうだ』

 

 なんて具合に今日も平常運転なボスから電話越しに告げられたのは、文字通りに()()()()ほど重要そうな一件だった。

 

 『今日の授業が終わり次第、直行で事務所に来てもらいたい。君と是非会って話をしたいという()()がいる』

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