今作は短いです。
これから執筆を再開するので、こんな作品あったなぁ程度に思い返して下さい。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
およそ一〇分程度。 しかしインデックスの生死が掛かっている待ち時間となればその心中は穏やかなものとは程遠く、すでに二時間が経過していると言われたら容易に受け入れてしまうだろう。
不安な気持ちで押し潰されている上条は、歩道橋の階段に座りながら膝を小刻みに揺らしていた。
「……………………あー落ち着かねぇな、くそ」
むしゃくしゃしても、力強く握りしめた拳をぶつける所はない。むりやり感情を押し込めて空を仰ぎ見た。
すると。
グッと噛み締めていた口元が自然と緩み始める。
闇夜に紛れているため注意深く見ないと気付かないが、間違いなく悟空がこちらに向かって飛んで来ていた。
息苦しさが和らいだのは事実。 だが、インデックスがどうなったのかの答えが今にも分かるという状況に鼓動は高鳴る一方だ。
「よっ!」
「悟空!インデックスは!?」
降り立つ悟空に上条は食い気味に迫ると、悟空は笑顔で親指を立てた。
「ん。無事だ。もう心配はいらねぇぞ!」
「そ、うか……………そうか」
上条は吐息の共に『良かった』と言いながら、全身の力が抜けたように、階段に座り込んだ。
「トウマ。疲れてるんだろうけど休むにはちょっと早ぇぞ」
「あ、ああ。だよな。小萌先生一人にしておく訳にはいかねぇもんな」
赤髪の魔術師と戦ったとはいえ体力はまだ残っている。 ならば今にも寝てしまいたいと思うのは精神的な疲労が原因。
つまり、活を入れたらまだまだ行けるという事だ。
「いや、任せてるから小萌は一人で大ぇ丈夫だ」
フラつきながらも立ち上がった上条は目を丸くした。
「ん? ……じゃあこれから俺は何すんの?」
「メシ食いに行く!」
一瞬何を言ってるのか分からなかった。 メシという単語を脳内で反芻させて、ようやく理解する。
「飯だぁ? んな呑気にしてる場合じゃねぇだろ。あの魔術師共がいつ襲って来んのかも分からねぇのに」
「アイツらなら今は気にする事ねえさ。おめぇがぶっ飛ばしたばかりだからな。 それよりは飯を後にする方がヤベェ」
「そんなに、か……?」
「ああ。隠す必要はねぇから言うけどよ」
その場に適した表情をさらけ出す悟空は、今はとてつもなく真剣だった。
そして真剣となれば気迫も伝わる。 上条は自ずと悟空に向き直り、固唾を飲み込んだ。
「オラは腹が減って戦いに負けた事が三回くれぇある」
「墓場まで隠し通せよッ!んなみっともねぇ話はよお!!」
思わず膝を突いた上条は溜まりに溜まった感情を爆発させて、コンクリートを殴り付けた。
「大体おかしいだろ。生涯で一度あるかどうかのシチュエーションなのに何で三回も起きるんだよ……。そんでやっぱ力が入らねぇってか? ズタボロにやられて飯食って、元気一〇〇倍ソンゴクウマンってか?」
「ははっ、まあそんなとこだ!」
ヤケになって吐きまくった皮肉は、ポジティブ星人には通用しない。 逆に上条自身に惨めさを植え付けた。
だがそんな中でも分かる事はある。
とりあえず悟空の言う事は聞いておけ、という直感に似た何かを。
「…………はいはい飯ね。オーケー行きましょ」
「おっし決まり! んじゃ早速オラの背中に乗れよ」
悟空は平行の形を保ったまま、地面から数十センチ浮いた。
「へ?」
「もう乗り物はねぇんだろ? だからオラが飛んで連れて行く」
「………….、」
腰より少し低めにある悟空の背中。 そこに跨がれば先程のように空を飛ぶ。
それは分かる。
想像も容易い。
しかし。
上条はどうしても考えてしまう。
「……なぁ悟空」
「何だ?」
「俺が乗ったら、落っこちたりしねぇかな…?」
不幸。
彼がよく口にする単語。それは単純に、当てはまる単語を使っている訳ではない。
テストのヤマが外れて赤点だとか。鳥の糞が直撃しただとか。そんな小馬鹿に出来る話は氷山の一角に過ぎない。
もし上条に起こる不幸がその程度なら、年端も行かぬ子に"疫病神"という肩書きは付けられない。 包丁で刺されもしない。
上条に起こる不幸とは周りの者も傷付け、負の感情が向けられる。
「お前の強さは分かってるけどさ、急に能力が使えなくなる事だってあるだろ? そうなったら俺達は紐なしバンジージャンプだ」
彼の右手が神のご加護を打ち消したがために、万に一つの可能性すら呼び起こす。
「腹が減ってんならコンビニでだって買えるんだ。 こっからなら歩いて行けるし、安全策取ろうぜ!」
言いながら上条は階段を降りる。
これは正しい選択だ。
普段のように首を突っ込まなければいけない訳じゃない。 起こりうる危険から逃げれるのならそれに越した事はない。
そんな言い訳じみたセリフを上条は心の中で吐き続ける。
ギュュゴオォオオオオオオオオッッ!!!! という猛獣の唸り声のような音を聞くまでは。
「なっ、んだ……!!?」
慌てて振り返ると、目の前にいるのは悟空一人。
変わらず浮いてはいるが直立体勢だ。上条の所まで幽霊のようにスライドして来た。
「いや怖い怖い怖い! つかなんなんだよ今の音はっ!」
「…………は」
「は?」
「はら、減ったぁ……」
再び音が鳴った。
耳を塞ぐほどではないが、顔を顰めてしまうくらいには響き渡る音。
そしてそれは、悟空の腹部から鳴っているのだと気付いた。
「マジかよ」
「トウマぁ。おめぇが言う"こんびに"は今度にしようぜ。 今はオラの方が先だったじゃねぇか………」
お腹を抑える悟空は弱々しい声を発した。
これだけ印象がガラッと変わるのなら、空腹で敗北したと言うのも本当なのだろう。
上条はぼんやりした頭の中でそんな事を思った。 次第には我を取り戻して緩やかに首を振る。
「い、いやー、あのですね?悟空さん。 俺はコンビニに行きたいから言っているのではなく、俺を乗っけて空飛んだら危ないんじゃねぇかって事でありまして……」
「とりあえず乗れって」
「ハイ」
僅かに低くなった悟空の声。上条の行動は早い。
「"気"が使えなくなるか……。なった事ねぇから分かんねえなあ」
上条が悟空の背に跨るとそんな事を言った。
「もしなったらだよ。 めちゃくちゃ高く飛んで、なにかのキッカケで能力使えなくなって、そのまま落ちたら」
「んー、別にどうもしねぇかな」
「………死ぬのを待つだけだぞ」
言うと、悟空は笑った。
笑ったと言っても声を上げてはいない。
肩越しに振り返り、口元だけ弧を描いている。
「死なねえさ。オラがどれだけ高ぇ場所から叩きつけられてきたと思ってんだ」
ピリ、と肌が痺れる。
最初に会った時の別れ際。その時感じたものと同じ。
脳裏に何を浮かべているのか、不敵な笑みから上条は目を逸らせない。
「急に"気"が使えなくなってもオラはへっちゃらだ。 ………そしておめぇもな、トウマ」
「ッ!」
「おーし、じゃあしっかり掴まれ。オラはもう限界だかんな!」
言われた通り背中の服を握り締める。
錯覚が生じた。
跨っている足。触れる手。目で見ても当然ながら小さな背中。
それなのにどうしてか心強さを感じる。
まるで、何が起きても大丈夫だと心底思ってしまうくらい奇妙な錯覚。
だから上条は声高々にこう言った。
「おう!超特急で頼んだ!」
そして気がつくと。
上条は地上三〇メートル付近で身を投げていた。
「………………………………………………、」
学生寮の屋上が下に見える。
体が回っているのか天地が何度もひっくり返り、内臓が置いていかれてるかのような不快感があった。
ふと、柔らかい衝撃が来るとピタリと止まった。
両腋の下にガシッと掴まれた小さな手。下半身は宙ぶらりんのままだが、それよりも目の前でジトーッとした目を向けてくる少年に、上条は睨み返す。
「……何してんだおめぇ。しっかり掴まってろって言ったじゃねえか」
「馬鹿野郎だなテメェは。慣性の法則を知らねぇのか。 あんな急発進急加速されたら一瞬で振り落とされるわ」
「超特急で頼むって聞いたぞ」
「あ、言ったわ」
「………、」
空腹のせいで苛立っていたのか、悟空はため息を吐くと上条の体を天高く投げた。
絶叫が空に響き渡る。
そして悟空は背中で上条を受け取ると、そのまま目的地へと向かった。
オリジナル作品を書こうとしていたらかなりの月日が流れてしまいました。
そして最悪な事に、件のオリジナル作品は一文字も書けていません。
いずれ自分の作品を世に出したいと思っていますが、ダメですね。あれは難し過ぎる。