ゆうてほとんど『檸檬』
怒られたら消す。
身内向けの怪文書を少しだけ内容を改変してお送りいたしますので初投稿です。
某年某月某日、土曜日──勤労感謝の日。
日本の国名を恐れ多くも拝借している某私立大学は、土曜日だろうが休日だろうが営業している学問機関の鑑にして人間の屑である。
とは言え、土曜日は基本午前中しか授業が用意されていない事を見るに、最後の良心は辛うじて残っているらしい。そんな事しなくて良いから(切実)。不祥事の後始末さっさと終わらせて、どうぞ。
さて、土曜の午前に授業が有るとなると必然的に午後の時間が中途半端に余る。この時間を如何にして有効活用するか──これが、学生のQOL並びに人生全体の資産価値を大きく左右する事となるのだ。
因みに私はいつも家で何もせずボケーッ!と過ごす。凡そ有限な時間を溝に捨てるに等しい冒涜的な行為だ。良い子の皆はマネしない様に。
その日は普段とは違った。何故なら勤労感謝の日だったからである。休日だからか、若干浮かれ気味であったことは事実だ。
二限の中国語の講義が始まる直前に、クラスメイトから「こんなのは……如何かな?(意訳)」と見せられた写真にはとあるT-シャツが写っている。
────午後の予定が決まった。
やって来ました秋葉原。
相変わらず外人だらけのインバウンドの街、昔の面影なぞ三千世界の彼方に追いやられたこの街は今日も今日とて平常運転である。
電気街側の改札を出て右折、「秋葉原へようこそ」と挨拶している綾波(碧藍航線)のポスターに軽く会釈した後すぐに左折。大通りを右へ進めば後は道なりに沿って行けば件の交差点──デカデカとしたソシャゲの広告の目立つ──を尻目に更に進む。そうなればすぐ、駅から歩いて五分も掛からずに目的地に着く。
ドン・キホーテ。略称が何故か「ドンキ」なイロモノショップに到着だ。……これではラ・マンチャの男も草葉の陰で泣いている。
エスカレーターで三階へ。外人客向けのTraditional Japanese Cultureを全面に押し出した衣服に目を奪われるが、今回のお目当てはそれではない。そのT-シャツ棚を少し奥に入ると丁度、目的の品が……。
「特 級 呪 物」と書かれたT-シャツ──これだ。
流行語文字Tシャツ(税抜価格 \1,290)をカゴに入れれば買い物は終わりである……がしかし、折角東京迄買い物に来たのにたったこれっぽっちの戦利品だけで帰ると云うのも何だか癪だ。折角の機会であるし此処は一つ、外人めいてドンキ内を徘徊しようじゃないか。
なんだか少し贅沢をした気分で、私は幸福であった。
三階はサブカル(と言っても大半は外人ウケするアニメばかりだが)を中心とした品揃えとなっているらしい。
備え付けのテレビでは丁度アーロン(ONE PIECE)が高笑いしている。そこをくぐれば沢山の外人が商品を買い漁っているという訳だ。ガタイの良い白人男性が店員と思しきアジア人に声を掛けているが、残念ながら汉语で捲し立てられるのがオチである。
と思っていたら私に順番が回ってきた。
「……!? Where ……tax free……counter!?」
「あぁ? フォー! フロアー4! エスカレェタァ1UP!」
「……OK! THANKS!!」
異文化交流(迫真)
しかしどうしたことだろう、私の心を充たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった。
時計回りにフロアを周回する。ドラゴンボールやワンピースの商品棚を見るとなんだか懐かしくなるのと同時に、自分が年を取ってしまったことを如実に感ぜられる。少しばかり憂鬱な気分になった。
ちいかわの商品棚には沢山のアジア人が群がり、商品を物色している。聞いた話によると中国で人気なんだとか。世の中何が流行るか分からんものである。
ステレオスピーカの中で米津玄師が歌っている。
アニメやソシャゲのグッズを置く商品棚は規模が小さい(専門店でない為当たり前ではあるが)なりにいろんなものが売っている。どれもこれも、私が知らないものばかりだ。知っているのは……グラブル、FGO、進撃、その他古典的なヲタクアニメ、最近の物で言えばチェーンソーマン、学マス、ブルアカ……。
昔はもっと知っている作品があっただろうに、いつの間にか世の中について行けなくなっている。この店はもう今の私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。
溜息を一つ吐き、流れで商品をカゴに入れてまた散策。
そういえば冬ももう間近だなぁと思い、帽子(税抜価格 \1,990)をカゴに入れたら三階を後にする。
四階は電化製品が多く置かれている。特に買う予定は無いが観光がてら徘徊する。
中国人家族が一人一台ずつ扇風機を持ちながら商品を物色している。そんなに要らんだろうに……と思っていると案の定子供が一台商品棚に戻している。そうした異邦人を尻目にすれ違うと乱数次第でこれまた声を掛けられる羽目になるのだ。こんな風に。
「那个……大哥! 这件衬衫在哪儿?」
「啊……三楼、三楼。這↑裡↓的下面(随便说)」
「好!谢谢茄子!」
異文化交流(大迫真)
五階は主にコスプレグッズとアダルトグッズが置いてあるらしい。例に漏れず適当に徘徊する。
しかし、ここまで来ると最早面白味なぞ下の階に持っていかれて特記事項が無い。なんかメイドカフェの集客に出くわしたが目を合わせずに素通りする。
そのままゆっくりと彷徨いながら二階まで下りる。アーロンがルフィに倒される中、三階でNIKKEの乳尻太腿を前に真剣に議論するスーツ姿の二人がこの店初遭遇の確定日本人であった。ウッソだろお前。
二階に着くころには……何と言おうか、このアグレッシブなヲタク文化と東京特有の寒気にやられて私は疲れ果て、なんだか逃げ出したくなる様な衝動に襲われていた。
二階は食品や日用品を中心に並べているようである。祖父母の家にあったストライクイーグルハニーローストピーナッツ(税抜価格 \398)を見つけたのでカゴに入れ、そろそろ会計を済まそうと思った時である。私はある商品を見て一旦足を止めた。
というのはドンキには珍しい
いったい私はあの甘橙が好きだ。橙色の絵具を原液で塗りたくったようなあの単純な色も、それからあのまん丸で少し紡錘形に近い恰好も。──まあ結局私はそれを買うことはなかったが。
私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。
始終私の心を圧えつけていた不吉な塊がそれを見た瞬間からいくらか弛んで来たとみえて、私は店の中で非常に幸福であった。あんなに執拗かった憂鬱が、そんなものの一顆で紛らされる──あるいは不審なことが、逆説的なほんとうであった。それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。
「あ、そうだ(唐突)」その時私は記憶の中の『檸檬』を憶い出した。ドンキ特有の色彩がゴチャゴチャに積みあがっている所に、一度この甘橙で試してみたら。「そうだ」
私の目の前で店員は商品を手当たり次第食品棚に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげていた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりしていた。奇怪な食欲をそそる城が、そのたびに赤くなったり青くなったりしていた。
暫くしてそれはでき上がった。そして店員が去った後、軽く
見わたすと、その甘橙の色彩はガチャガチャしたドンキ色の階調をひっそりとまん丸い身体の中へ吸収してしまって、デッデッデデデデ! カーン!と冴えかえっていた。あるいはその雑貨屋の中で丸みを帯びた一顆が、角張った商品棚の中で異質さを放っていただけかもしれない。私はネオンに輝く煌びやかな中の空気が、その甘橙の周囲だけ変に緊張しているような気がした。私はしばらくそれを眺めていた。
不意に第二のアイディアが「例の如く」起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をまた
──それをそのままにしておいて私は、なに喰わぬ顔をして会計を済ます──
私は変にくすぐったい気持がした。「どうしようかなあ。そうだそうしよう」そして私はすたすた会計の列に並んだ。
財布の中には現ナマが五千円(JPY)と少しある。察しはつくだろうが私にはまるで金がなかった。しかし、今回はまあ足りるだろう。
・レジ袋 60号 \5
・流行語文字Tシャツ \1,290
・キャラ アソートTEE \2,900
・BIGアクスタ カヨコ \1,800
・ストライクイーグルハニーローストピーナッツ \398
・アクティビティハット \1,990
──税額合計 \829
────合計金額 \9,212
「…………クレジットでお願いします」
「あっそれではこちらの方にタッチを……、一括で大丈夫ですか?」
「ああ、ダイジョブです……」
「はい! お買い上げありがとうございましたー!!」
変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。ドン・キホーテの棚へ太陽色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあのドンキが食品棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。
私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの目に煩いドンキも粉葉みじんだろう」
そして私はソシャゲの看板画──京極サツキ(블루 아카이브)…つい昨日80連で引き当てた──が豊満な趣きで街を彩っている秋葉原を下って行った。
怒られそう(小並感)