左右両方のCP名を入れてる蛮行は、「どっちでもないしカップリングと言うにもちょっと弱い」という事情ゆえです。どちらが好きな人が見ても怒ることはないしもやっとはするぐらいだと思います。

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月とあなたが聴く音を

パーティでの演奏を終え、あの一件がそろそろ思い出のひとつになりかけていたある日。

 

モモトークに、マコトから連絡が届いた。個人用のチャットでふっかけてくるのも珍しいが……。さて、今度は一体どんな面倒を押し付けてくる気だ? もはや楽しみな気すらする、答え合わせの内容確認。

……まあ、前提として、内容は風紀委員会を邪魔するためのものであった。

 

「フン、乱暴な風紀委員長殿もピアノを前にすれば繊細な乙女のように感じられるなあ? キッキキ……!」

 

「嫌味を言うために呼んだのかしら?」

 

「まさか。光栄に思うがいいヒナよ! 私はな、お前のあの演奏がいたァ〜く気に入ったのだよ。だから私直々に連絡をよこし、こうしてピアノの前に座らせたのだ」

 

一体何の冗談だと言うのか。彼女はつらつらと自分の器の広さについて語ったり、また「今からでも風紀委員を辞め専念したらどうだ」と言ったり、まあ様子を見ればいつもの彼女だ。

 

「……つまり、ピアノを弾かせて私の時間を奪うってことかしら」

 

「えっ? あー、それはだな……。うむ……そうだな、ああそうだ!!その通りだ空崎ヒナよ!! バレたものは仕方がない!! コレを断れば、風紀委員会の予算は……」

 

「やるわ」

 

「……フン、お前ならそう言うと思ったぞ」

 

そう言うと、マコトは横に置かれた椅子にどかりと偉そうに腰掛ける。別にわざわざ貴女が聴く必要はないだろう、そう言いたくもなったが突っかかられるのも面倒だ。

私は鍵盤に手を伸ばした。

 

「……」

 

先生が聴いてくれる……まあ、それがモチベーションだったが、だからと言って手を抜いたりするのも違う。

拾った日誌たちに刻まれた、ピアノへの想い……私が拾えるのはそのごく一部だけれど、だからこそそのごく一部には真面目に向き合わなくてはいけない、そんな気がしている。

 

「……歌はないのか」

 

文句か?と一瞬思うが、マコトの声色はただのひとりごと、確認のつぶやきのようであった。

答える余裕があるほど、私も慣れたわけじゃない。

 

「……」

 

「……」

 

一曲が終わり、静けさが戻る。さて、どんないちゃもんをつけてくるか……そう思って視線を向けた先で、意外にも彼女は神妙な面持ちであった。

 

「何? やけに静かだけど」

 

「フン……ただ貴様の演奏が退屈だっただけだ」

 

「そう? それならそれで文句を言うと思っていたけれど」

 

「その気も起きんわ」

 

そういうとマコトは席を立つ。ゆっくりと歩みを進め、扉に手をかけ。そのまま振り返らずにこう続ける。

 

「次は歌のある曲を弾いてもらおう」

 

「……そう」

 

こうやって、定期的に邪魔をする魂胆のようだ。……しかし、彼女の態度は妙だった。

あまりスッキリしないまま、私は彼女の背を見送った。

 

 

……

 

 

「なんでわざわざこんな時間に?」

 

「さあな」

 

マコトにピアノを聴かせるようになって、何度目か。直々に彼女が聴く理由も、他にいくらでもある定期的な妨害にコレが混ざり込んでいる理由も、彼女の口からは聞けていない。

しかし、今日は何か雰囲気が違う。わざわざ万魔殿の大きな窓のある執務室で、月の見える夜にセッティングしているのだ。

 

「なんのつもり?」

 

「さあな。いいからやれ、予算を減らされたいか」

 

「……そう、ならイロハに聞きましょうか」

 

「何?」

 

「彼女なら、あなたのこのよくわからない作戦についても知っていそうだからね」

 

「…………」

 

珍しく黙って、座り込むだけのマコト。顎を使って、早くやれと促す。……まあ、この尊大さはいつも通りだが。

 

「悪いけど、新曲ではないから」

 

「そうか」

 

「……ふう」

 

鍵盤に手を伸ばす。……だんだんと、馴染んできた気はする。

 

「……まァーどのぉ、ないめ〜いろ」

 

歌ばかりは、慣れたのかいまだによくわからないけれど……。どこか、この時間が楽しみな側面もある。あまり緊張せずにできているとは、思う。

別にやらされている事でも、楽しんではいけない道理はないはずだ。

 

 

……

 

 

「……えっとー、ヒナ先輩にピアノ弾いてもらってるりゆー?」

 

「そう、最近私がマコトに聴かせているのは分かる?」

 

「うんー!」

 

「どうぞ」

 

コーヒーを淹れて出迎えてくれたのはイロハだった。マコトが席を外している時であれば、万魔殿も居心地の悪い場所ではない。

 

「……それで、ご用件は? 予算の件でしたら、私にはどうすることも」

 

「いいえ……ピアノについてなんだけれど……」

 

「ああ、風紀委員長の貴重な業務時間を浪費させてやると息巻いてましたよ」

 

「そう、じゃあ私の演奏がいかに稚拙か吹聴してるのかしら?」

 

「ふいちょー?」

 

「言って回るという意味です。……それなんですが、ハズレです」

 

少し予想外で、面食らった。イロハはコーヒーを口に含み、ゆっくりと息を吐いて、続きの言葉を探る。

 

「マコト先輩ねー、えっと、なんて言ってたっけー? 味がある〜みたいな」

 

「そうですね、最初は退屈だとか言ってましたが、最近は『一定以上であることは認めてやる』とか『個性はある』だとか……まあついでに、『機会と時間を作ってやっていることに感謝して然るべき』とか」

 

「そう……最後のは言いそうだけれど」

 

やはりなんというか……彼女らしくもないことを言っている。少し気持ちが悪いが、マコトにそれを言わせるぐらいの実力がついたのだと、嬉しくもある。

 

「まあ、マコト先輩も終わった時に悔しそうにしていたあたり、あなたにそれなりの腕があったことを認めたいうことでしょう。下手だと言っていたことは、思えばありませんし」

 

「……」

 

「あのね、イブキね、思ったんだけどー、マコト先輩は……ヒナ先輩の演奏が聴きたいんじゃないかなーって! だって演奏してもらうってそういうことだもんね!」

 

「マコトに限って、そんなこと…………」

 

でも、それなら辻褄は合う。

 

「まあ……このピアノの件になるとちょっと変なのはそうでしたし。あなたの事を邪魔者扱いはしても、それはそうと歌声や演奏が好き……なんてことはあるかもしれませんが。……めんどくさい人ですね」

 

ため息のイロハと、自分の手を、交互に見て、考えて。

嬉しいのか、めんどくさいのか……よくわからない気持ちが私の中にあった。

 

「そうね……。わかった、ありがとう」

 

「またね〜〜!!」

 

「ま、お互いほどほどに頑張りましょう」

 

議事堂の出口をくぐったところで、カツカツとしたヒールの音とすれ違う。一番面倒な時に面倒な相手が来た。

 

「っほォーう? まさかヒナが自ら万魔殿に足を運んでいたとはなあ? このマコト様の権威を、」

 

「明日の演奏、この前の執務室でいいわね?」

 

「え? あぁ……いや待て! 貴様にそれを決める権利はない! だがちょうど私もそこがいいと思っていたところだ。忘れてくれるなよ!!」

 

背中に彼女の大声を受けつつ、私はモモトークを開いた。会って話すほどの余裕はないけど……。

 

 

……

 

 

"マコトがヒナに……"

 

「想像つかないわよね」

 

"本当にね……"

 

"でも、なんで私にそれを?"

 

「そうね……」

 

「なんていうか、どういう気分で演奏をすればいいのか、わからなくなって」

 

"なるほどね……"

 

先生はしばらく考えているのか、入力中のアイコンが引っ込んだり、出てきたり。少しして……。

 

"ヒナは、いつも、どういう気持ちで演奏してたの?"

 

「楽譜を作った人とか……」

 

「まあ、先生のことを考えて」

 

"ありがとうね"

 

"聴いて欲しい人のことを考えて、ってことだよね"

 

"素敵なモチベーションだと思う"

 

改めて、「聴いて欲しい人」と言語化されて、気恥ずかしい気持ちはある。でも、実際その通りで、私は聴いてほしい人のために練習もできていた。

 

"だから……"

 

"今度は、聴いてくれている人のことを考えるだけでいいと思う"

 

「それは、マコトってこと?」

 

"そうだね。もちろん、弾くこと自体も、誰を思うかもヒナの自由だけど……"

 

"どういう気持ちになればいいかわからないってこと自体は、少なくともマコトが楽しみに思っていたら、ってことが理由なんだから。"

 

"純粋に、いつものこととかは忘れて、オーディエンスとしてのマコトに届けてみてもいいのかなって"

 

「そっか……」

 

「ありがとう」

 

「仕事に戻るね」

 

"お疲れ様"

 

"またいつでも連絡してね"

 

 

……

 

 

「ねえ、マコト」

 

「なんだ」

 

「あなた、私の歌が好きなの?」

 

「っな、は、はァ? フン、自惚れるのは結構だが、」

 

「そう、じゃあ弾くわね」

 

「っちょ、おい待て」

 

こう言えば、否が応でも彼女は私の歌を気にするだろう。

お互いにとって、「聴いている」「聴かれている」という意識があったのならそれで十分だ。……それに、さすがに態度で分かる。

 

「待てと言っている!」

 

「らららんら、らららん」

 

……マコト、いつも邪魔をしてきて、私の仕事を増やす存在。

 

「……っええい、いいだろう、続けろ」

 

「らららんら、らららん」

 

正直、面倒ごとの具現化と言っていい存在だった。……まあ、雷帝の時みたいに、それなりに役立つ時もあるけれど……。

 

「……フン」

 

「らららららら、ららららん、ららら……」

 

でも、やっぱり、仕事を増やす存在。現に、いまだってそうだから。

 

「……」

 

「らららら、ららららん、ら~ら~ら」

 

でも……それでも。

 

いまこの瞬間は、ひとりのオーディエンスだし。

 

私は、彼女にこの音色を届けたいと思えた。

 

聴いててね、マコト。私の音を聴きたいと思ってくれる、純粋なひとりとして……。

 

 

……

 

 

「なんで、夜遅くにあの執務室なの?」

 

「お前が言い出したんだろ」

 

「その前にセッティングして弾かせたのはあなただったじゃない」

 

「……。……お前の演奏に似合うと思ったからだ」

 

広場で月光を浴びるマコトの表情は、照らされてもなお暗くてよく分からなかった。

 

 

……

 

 

結論を言えば、マコトはいつも通りだ。

 

「あのタヌキたちィ~~!! もう今度という今度は許せません!!!」

 

「大丈夫。私がどうにかしとく、アコ」

 

「ですが委員長!!!!」

 

「大丈夫だから。アコ、疲れてるように見えるわ」

 

「お気遣いありがとうございます……。まあ、委員長が大丈夫だとおっしゃるのならいいですけれど…………」

 

アコがぷりぷり怒りつつ、万魔殿からの資料をまとめる。そう、本当にマコトはいつも通りで、先ほど温泉開発部の鎮圧の際に顔を合わせたら『この破壊を食い止められなかった責任は当然取れるな?』とかなんとか。いつも通りだ。

 

そう、あれも……『いつも』の一部になったけれど。

 

携帯が震え、モモトークの通知がひょっこりと現れる。

 

「今日もあそこでいいな」

 

「ええ」

 

簡素な返信を終え、今日は何を弾くつもりかと思い返し……。

 

「あれ、委員長なんかいいことでもあったの?」

 

「そうね、まあ、いろいろ」

 

「最近、顔色も少しいいことが多いですね」

 

「……うん」

 

軽くそんなことを話し、遅いからと帰宅するイオリとチナツを見送る。アコも残ると言ってきかなかったが、明らかにクマがあったので追い出した。

 

「……」

 

万魔殿の資料に適当に言い返す内容を考えて、頭にふんわりとマコトが浮かぶ。言ってくるイチャモンに、まあ文句を突き返すだけの想像。

……そこに重なって、彼女の真剣な顔が浮かぶ。オーディエンスとしての、彼女が。

 

風紀委員会の廊下から、あの執務室が小さく見える。月のスポットライトと、ひとりのオーディエンスが、待つ場所が。

 

「良いわ、聴かせてあげる。だからしっかり聴いててね、マコト」

 

どこか浮かれる足取りを自分で感じながら、私は彼女のもとへ向かった。


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