魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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6.5 04:家族と仲間と友達と

 それから、翠屋で待つこと数分。迎えに来てくれたフェイトさんの車で、私たちはコテージへと戻った。戻ってきて数分も経たないうちに隊長陣の知り合いラッシュなのだから笑えない。そして先ほど別れたばかりの兄も来た。そしてその上――

 

「お、みんな、お帰りー!」

「お帰りなさーい」

「部隊長自ら鉄板焼きを!?」

 

 鮮やかな手つきで鉄板焼きをつくる部隊長がいるのだからさらに笑えない。

 

「つーか、そういうお前は料理できんの?」

「……あまり」

「えー。でも前に零くんと一緒にしてたじゃない」

 

 そう証言したのはシャマル先生だ。

 

「いや、あれは、どっちかって言うと邪魔してたとしか……」

「でも、あの時のクッキー美味しかったでー」

「あ、ありがとうございます」

 

 それは零さんと出会って二日目。休憩時間中の話題から始まった。だってあの人、騎士業務の傍らでクッキー焼いてるんだもん。思わず何やってんですか、とツッコミを入れてしまったけど。訓練後零さんが六課の寮でクッキーを焼く姿を目撃し、手伝いを申し出たのだ。最初は材料出すレベルだったけど、しまいには一緒に生地を混ぜ、焼き、飾り、配るまでしていたのです。詳細は別の機会に語ることもあるだろう。

 そしてそれからは現地協力者のアリサさん、月村すずかさん、美由希さん、エイミィ・ハラオウンさん、フェイトさんの使い魔・アルフ、そして兄の自己紹介。

 それで分かったのは、この世界でも魔法を知ってる人がいること。そしてその多くが現地の人であるということ。私や兄みたいに、「そういった前例のある」家でも何もないのに。それぞれ戸惑いはあったらしいけど、今では笑って受け入れている。

 

(深琴、さびしいか?)

 

 念話で、そう声をかけたのは八神部隊長だ。

 

(……家族と、会いたくないか?)

(……いえ。私の家族は、秋月英史、秋月ミレイの二人だけです)

 

 英史伯父さま、ミレイ伯母さま。本来なら姪にあたる私を受け入れ、家族となることを喜んでくれた。私の精神的な部分でも、かけがえの無い大切な家族だ。

 もちろん、本当のお母さんも、お父さんも、お兄ちゃんも嫌いじゃない。お母さんが魔法を嫌う気持ちは分かるし、お父さんがそれに同調した気持ちも分かっている。最初は受け入れがたかったけど、四年も歳月が過ぎたら変わる。――一番はあの人と出会って、自分の力をまっすぐに見つめられたからだけど。

 

(……そっか。深琴がそれがええ、ゆうんなら別にええよ。急にごめんな)

(いえ。ありがとうございます、八神部隊長)

 

 今は何より、この機動六課のメンバーが家族のようだと思っている。優しくも厳しい隊長たちと、気さくなメンテスタッフと同僚達、そして零さん。友達だって、レオンとルーチェがいる。

 だから、私はもう昔の私じゃない。本当の家族と会いたいとは思わない。またいつか、任務ではなく休暇で訪れた時でいい。

 ――それで、いいよね?

 

 

 ◇

 

 

 夕食も終わり、各々談笑してた頃。

 

「さて。サーチャーの監視をしつつお風呂済ませとこか」

「「はいっ!」」

「まあ監視と言っても、デバイスを身に着けていれば、そのまま反応を確認できるし」

「最近はほんとに便利だねー」

 

 シャマル先生に、なのはさんはそう言った。技術の進歩は素晴らしい。

 

「でも意外だよなー。こんなちっさいのが魔法の杖なんだろ?」

「いや、杖とは限らないけどさ……」

 

 私のデバイス・ローゼンクランツに興味を示した兄が、水晶を光にあてたりして確認している。

 

《Hello.》

「おお、喋った! 音声どっから出てんの? 電池は?」

「人の相棒をおもちゃ扱いしないで!」

 

 兄の手からロゼットを取り返す。……分かってやってるんだろうか、この人は……。

 そう溜息を吐いた直後、兄のポケットから軽快な音楽が鳴り響いた。携帯電話を取り出し、ディスプレイを確認した次の瞬間、兄の表情が凍る。

 

「悪い。ちょっと出るわ」

 

 部隊長の指示通り、スーパー銭湯に向かう準備を始める女性陣の間を通り抜け、兄は電話に出た。そんな彼の背中を見届けていた私に、エリオとキャロが近づいてくる。

 

「深琴さん、『銭湯』ってなんですか?」

「キュクルー」

「あ、私も気になったー」

 

 と、スバルとティアナまで会話に参加してきた。

 

「えっと……意味合いとしては、『公衆浴場』だね。隊長達が言ってた『スーパー銭湯』は、その形態の一つ。温泉とかサウナとか……お風呂だけじゃなくて、他の設備とかもある大規模な施設……かな。結構家族連れとか多いよ」

「へー……」

「さすがに詳しいわね」

「私も行ったことはないけど」

 

 この世界にいた頃見たテレビからの情報がほとんどだ。意味合いとしては間違ってないはずだけど。

 

(お兄ちゃんに聞けば、もっと詳しく分かるかな?)

 

 しかし兄は、戻ってこなかった。

 

 

 所変わって、海鳴スパラクーア。大人13人、子供4人の大所帯はそれなりに目立っていた。

 その一団から離れ、お風呂を済ませた私は一足先に外へ出ていた。手にしたコーヒー牛乳で喉を潤す。夜風が涼しくて、心地いい。

 あれから兄は大急ぎでコテージを出て、帰宅した。なんでも、中々帰ってこない兄を心配した母が泣きやまない、と父から電話があったらしい。4年も会わないうちに、母はずいぶん弱気になってしまったらしい。こと兄に関しては。

 

(……まあ、私には関係ない)

 

 兄が二人に私のことを話さなければ、の話だけど。

 その時、私はふと空を見上げた。闇色に染まった空には星が輝いている。

 けれど、確かに今、自分のでも、六課メンバーのものでもない魔力を感じた。敵意はない。だがどこか冷やかな力。

 

「気のせい、かな……」

「深琴ー。待たせてごめんなー」

 

 呟くと同時に、出張メンバーと現地協力者がぞろぞろと現れる。みんなに振り向いた私は気づかないままだったけど、ふと空を見上げた民間人は口々にこう言っていた。

 ――『星が、蒼色に輝いていた』と。

 

 

 ◇

 

 

『秋葉ちゃん、12時の方向に三体。援護よろしく』

「了解」

 

 同時刻、海鳴市上空。蒼氷色のミッドチルダ式魔法陣を輝かせた秋葉は、同色の魔力弾を生成する。標的は、地上に現れたカプセル型の兵器。名称は、ガジェット・ドローン。

 

『兄さんから聞いた話だけどね』

 

 地上で刀を振るいながら、藤月彼方は切り出した。

 

『こいつら、AMF持ってるんだって。最近ミッドチルダや他の世界にも出現してるらしいけど、並大抵の局員では歯が立たないって』

「多重弾殻射撃は、本来AAランクのスキルですから。私だって使えませんし」

 

 現に、秋葉が放った魔力弾は通常のものと変わりない。

 

「……すいません。彼方先輩まで巻き込んでしまって」

『気にしないで。僕自身好きでやってるから』

 

 言って、彼方は日本刀を鞘に納める。その足元にはガジェットの残骸が三機分、音も無く晒されていた。――相変わらず馬鹿げた身体能力だ、と秋葉は内心で呟く。これで「魔力ゼロ」なのだから、この世界もある意味で異常集団である。

 と、モニターの向こうの彼方が浮かべていた笑みを消した。

 

「先輩?」

『ごめん、秋葉ちゃん。もうひと頑張りお願いできる?』

「……やります」

 

 杖を握る左手は震えている。その痺れに耐えながら、秋葉は感情を戦闘用に切り替える。

 ――元エースと呼ばれたプライドと、亡き親友への罪滅ぼしのため。

 サイズの合わない闇色の防護服と赤毛が、風に揺れた。

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