魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

15 / 71
2014年2月27日、書き直しにつき再投稿。


07:ホテル・アグスタ

 

「ほんなら改めて、ここまでの流れと今日の任務のおさらいや」

 

 ミッドチルダ首都南海地区上空。ヴァイス陸曹が操縦するヘリ内部で、私たち機動六課フォワードはこれからの任務について聞かされていた。フォワードと分隊隊長、部隊長補佐、そして医務官・シャマル先生と狼・ザフィーラは大きく表示されたモニターを見つめる。

 

「これまで謎やったガジェット・ドローンの製作者、及びレリックの収集者は現状ではこの男」

 

 言って、モニターに一人の男が映った。

 

「違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者――ジェイル・スカリエッティの線を中心に、捜査を進める」

「こっちの捜査は主に私が進めるんだけど、みんなも一応覚えておいてね」

 

 そう言ったフェイトさんに、私たちは返事をする。

 

「で、今日これから向かう先はここ、『ホテル・アグスタ』!」

 

 前に進んだリイン曹長がモニターを切り替えた。

 

「骨董美術品オークションの会場警備と人員警護。それが今日のお仕事ね」

「取引許可の出ているロストロギアがいくつも出品されるので、その反応をレリックと誤認したガジェットが出てきちゃう可能性が高い。とのことで、私たちが警備に呼ばれたです」

「この手の大型オークションだと密輸取引の隠れ蓑になったりもするし、色々油断は禁物だよ」

 

 なのはさん、リイン曹長、フェイトさんがそれぞれ説明してくれる。

 ――特定遺失物。またの名を『ロストロギア』。それは過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称。当然それらは危険なものが多いのだけど、中には研究によって安全性が確認されるものもあり、それらは大学を始めとした研究機関に提供されたり、「特に危険性の無い」という判断をされたものは今回の様なオークションに出品することも認められている。過去の遺産であるロストロギアの歴史的価値は高く、コレクターも多い。

 

(……それを利用した贋作もあるんだけどね……)

 

 一人内心で溜息を吐くも、先ほどからシャマル先生の足元にある箱が気になって仕方がない。集中しなきゃと言い聞かせてモニターに目を遣ると、ホテル・アグスタ内部の資料が表示されていた。スバルとティアナの目が鋭くなって、非常口を確認している。

 さすが災害担当、と感嘆の息を吐いて、私も二人に倣って非常口や経路を確認しようとした。――ひどい頭痛が、私を襲うまでは。

 

「っ……」

「深琴さん? 大丈夫ですか?」

 

 私の異変に気づいたエリオが声をかける。心配そうな彼に「大丈夫」だと告げて、私は再度モニターに集中した。慣れてしまったのか、痛みは和らいでいる。

 一部始終を目撃していたなのはさん、フェイトさん、八神部隊長は未だ心配そうだったが、ひとまず指示を続けた。

 

「現場には昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長他、数名の隊員が張ってくれてる」

「わたしたちは建物の中の警備に回るから、前線は副隊長たちの指示に従ってね」

「「はいっ」」

「あの、シャマル先生?」

 

 と、ここでずっと視線で箱を追っていたキャロが手を挙げた。

 

「さっきから気になってたんですが、その箱って……?」

「ん? ああ、これ? 隊長たちの、『お仕事着』」

 

 でも、箱は4つあるんですけど。……あれ、4つ? シャマル先生の笑顔に、私はなぜか嫌な予感に震えていた。

 

 

 

 

 自然の中に作られたホテル・アグスタ。スーツやドレスに身を包んだ客――オークション参加者が列を作っている。

 

「いらっしゃいませ、ようこそ」

 

 その会場入り口で、リストと客の照会を行っていたホテル職員に、八神部隊長が代表でIDカードを差し出した。その身に纏うのはいつもの陸士隊制服ではなく、淡い水色のドレス。なのはさんはピンクと赤、フェイトさんは紫を基調にしたドレスを身に纏っている。

 

「こんにちは。機動六課です」

 

 ――そして同伴する私もまた、淡紅色を基調にしたドレスを身に纏っていた。

 

 

 ◆

 

 

「あ、深琴。ちょっとええか?」

 

 時は少し前。ヘリから降りてそれぞれ待機場所へ向かおうとしていた私に、八神部隊長が声をかけた。

 

「何でしょう、八神部隊長」

「うん。実は深琴にも会場内の警備に回って欲しくてな」

「了解です。では入口付近で待機していますので」

「……って、ちょい待ち!」

「待つですよー!」

 

 言って、裏口からオークション会場に向かおうとした私を部隊長とリイン曹長が止める。

 

「いくらなんでも、その格好ではあかんやろ」

「? ですが、警備でしたら問題は……」

 

 現に、警備の副隊長、フォワード陣は制服だ。

 一体どうしろというのか。首を傾げる私に、八神部隊長は不敵な笑みを浮かべる。

 

「シャマル!」

「はいっ!」

「しゃ、シャマル先生!? い、いったいどちらへ!?」

 

 呼ばれたシャマル先生はすごく楽しそうな笑みで、私を更衣室に引っ張っていく。

 

「さ、て、と」

 

 一文字一文字区切って、シャマル先生は持っていた箱を開けた。

 用意されていたのはドレスだった。ウエスト部分に大きなコサージュがついた淡紅色のパーティドレス。ティアード調の上品な裾は、慣れていないせいか非常に鬱陶しい。

 

「うん! よく似合ってる!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 なのはさんは満面の笑顔だ。だが。

 

「あの、私、やっぱり外での警護の方が……」

「そうしてあげたいのは山々だけど、一応、理由もあるんだ」

 

 なのはさんは言う。理由?

 

「ガジェットが出現したとき、今回ばかりは深琴の能力限定も解除できない。担当が外でも一緒。理由は分かるよね?」

「えっと……あ、施設や来場客が戦闘に巻き込まれるから……?」

 

 仮にもAランク、そしてオーバーSランクの戦闘だ。いくら非殺傷設定をオンにしていても擦り傷一つ負わないという確証はない。特に経験不足の私では威力調整がまだ不十分だ。気づいた私に、なのはさんは優しく笑いかけてくれる。

 

「深琴のことだから、そんなことはないと思うけどね。それでも深琴は、スバル達と違って全力を出せない。そしてこの間みたいにアンノウンが現れないとも限らない。でも内部だったら、私たちがすぐ援護できる」

 

 そっか……そこまで考えて、部隊長は私を内部警備に回したんだ。そこまで気を使ってもらったのに、私は、なんて最低な……。

 

「まあ、八神部隊長もちょっとは楽しんでると思うけど。深琴のドレス選んだの、部隊長だし」

「その情報はいらなかったです……」

 

 私は着せ替え人形じゃないです。そう内心でツッコミを入れていると、なのはさんが「そうだ」と声を上げた。

 

「あのね、深琴――」

 

 

 ◇

 

 

 

(さすがに警備も厳重だね……)

 

 そして今、私はホテルの防災システムの調査中だ。

 

(外は六課のみんなが固めてるし……これなら、大丈夫かな)

 

 ミッドチルダでは土地開発や建築物建設の際、一定区画ごとにセンサーの配置を義務付けられている。そうすることで大きな魔力の動きや自然災害の反応を(ある程度ではあるけど)把握することができるから。

 ホテル側が慢心せず六課に警備依頼したのは、出席者であり、今回のオークションに出品される品物紹介・鑑定を任された考古学会の学士――ユーノ・スクライアの進言があったから、らしい。

 元々ユーノさんは時空管理局無限書庫の司書長で、『PT事件』、『闇の書事件』にも関わった魔導師だ。その経緯で六課隊長陣とは個人的にも知り合いだとか、「大事な友達」だとか(後者はなのはさん談)。

 

(それにしても……)

 

 鈍く痛む頭に手を遣って、軽く息を吐く。体調は至って良好であり、先程受けた簡易メディカルチェックにも異常は見られなかった。

 疲れてるのかな、と首を傾げてモニターの電源を落とす。

 

(深琴、そっちの様子はどう?)

 

 っと、ティアナから念話だ。

 

(特に問題はないよ。警備システムの方も稼働してるし、それに、もし何かあってもなのはさん達がいるしね)

 

 エースオブエース、高町なのは一等空尉。彼女の正体に気づけば、来場客も何かあっても大丈夫だと思ってくれるだろう。

 

(……それはあんたでも同じだと思うけど)

(?)

(なんでもない。じゃ、また後で)

(う、うん。また……)

 

 素っ気無さを感じる声で、ティアナは早々に念話を打ち切った。彼女の様子に、私は思わず首を傾げる。

 ……なんかティアナ、機嫌悪かった? 私、何かマズいこと言ったかな……?

 

「……最近悩んでるみたいだし……それと関係あるのかな……」

 

 知り合ってからもうすぐ2ヶ月。ここ最近は2、3日に一回のペースで、なのはさんによる『インターセプトトレーニング』を一緒に受けているが、時折ミスがあったりして、肩に力が入りすぎているらしい。

 

(私と一緒だと、やりにくいのかな……)

 

 そして先程の様子に、士官学校時代の嫌な記憶が脳裏に過ぎる。

 

『――生意気なのよ、あんたは! そうやって澄ました顔して……何でもかんでも思い通りになるって、調子に乗ってんじゃないわよ!』

 

 甲高い声と、嫌悪の眼差し。思い返す度に苛立ちと、そんな感情を覚える自分の心の狭さに吐き気がする。

 

「……違う。ティアナは、そんなこと言わない……あの人達とは、違う……」

 

 あの時は耐えれたのに、何で。何で、今はこんなに苦しいのだろう。

 じわりと浮かんだ涙を拭う。

 

『深琴』

 

 ピッ、と軽やかな音と同時に、空間モニターが起動した。フェイトさんからだ。隣になのはさんと一緒なので、どうやら合流したらしい。

 

『もうすぐオークションが始まるから、会場に入ってた方がいいよ』

『八神部隊長もまだだから、よかったら探してきてくれるかな?』

「了解しました。すぐ向かいますので」

 

 通信を閉じて、私は踵を返す。

 

(後で、ティアナにちゃんと謝ろう……)

 

 気に障ったなら、ごめんと。きっとティアナのことだからすぐ許してくれるだろうし、「別に。気にしてないわよ」とか言うかもしれない。

 会場へ向かう途中で八神部隊長を探しながら、ふと思った。そういえば士官学校時代、やけに突っかかってくる先輩がいた気がする。名前、なんていったっけ……。

 

 

 ◇

 

 

 その頃、ホテル・アグスタ外。森の中に、その男と少女はいた。

 

「何か、気になるのか?」

「ドクターのおもちゃが、近づいてきてる……」

 

 指に止まった銀色の小型の虫から受けた報告を、少女は男に伝える。

 

「そういうこと。久しぶり、ルールー」

 

 そして「ドクターのおもちゃ」ことガジェットと共に現れたフェアクレールトは、笑った。同時に通信用のモニターが開く。

 

『少し、頼みがあるんだ。ルーテシア、君にも手伝ってほしい』

「……いいよ」

「せめて内容くらい聞けよ……」

「フェア、うるさい」

 

 呆れたように言ったフェアクレールトに、ルーテシアは小さく言い返した。

 

 

 ◇

 

 

(いた……っ!)

 

 部隊長を探すこと数分。開始数分前のため人気のないロビーで、ドレスとはいえ見慣れた後姿を目撃した私は小走りで近づく。よくよく見れば、誰かと話しているようだ。銀の髪に、青い瞳。執務官制服とは違う黒いスーツに身を包んだ男性がそこにいた。忘れるはずない、あの人は――!

――ディバイン・アーウィング執務官。私の命の恩人で、私が魔導師を目指すきっかけをくれた人。

 覚束ない足取りで、私は更に近づいた。やっと会えた。ようやく言える。あなたの言葉が、私を救ってくれたこと。その言葉に背中を押されたから、今の私がいることを。

 だがその高揚は、一気に冷めた。

 

「俺はそんな理由であいつを――秋月深琴を、助けたんじゃない」

 

 嘲笑にも似た声に足が、止まる。

 

「たった一言で自分の力を受け入れた? 馬鹿馬鹿しい。所詮その程度の苦しみだったんだろう。でなければ簡単に吹っ切れるはずがない」

 

 その言葉に、視界が歪んだ。八神部隊長の「そうかもしれんな」と同意する声すら遠く聞こえる。

 

「やけど……っ、深琴!? いつから……」

「あ……いえ、私……私……!」

 

 狼狽する八神部隊長に、返事ができない。盗み聞きともとれるこの行為を謝罪するための言葉も出てこない。足が震える。頭が真っ白になり、呼吸がうまくできない。

 ――どうしよう。どうすればいいの? 胸元にかかるロゼットを握りしめた瞬間、その報告はあった。

 

『会場周辺にガジェット出現! Ⅰ型35、Ⅲ型4!』

『スターズ02、ライトニング02、出動! スターズF、ライトニングF、防衛ラインに到着!』

 

 見れば、窓の外にはスバル達がいた。みんな、戦ってる――私も、行かないと!

 

「八神部隊長、私にも出動許可を!」

『待って、深琴!』

 

 ルキノが言って、別のモニターを表示させる。そこにはホテルの裏口方面に移動するフェアクレールトとガジェットⅠ型が10機。何かに気づいたロゼットがもう1枚――こちらはここ、ホテル・アグスタとその周辺の地図をモニターに映し出した。

 

「このルートって……まさか……」

 

 目指す場所は恐らく地下駐車場――それも今回オークションに出品される美術品を輸送してきたトラックを停める、特別駐車場。

 

「レリックの反応は?」

『今のところ、確認できていません』

「まだ見つかってないのか……」

「……そもそも、今回はレリックが目的ではない……?」

 

 いずれにしても、ここで待機というわけにはいかない。みんなは正面に現れたガジェットと戦闘中だ。こちらへ回す余力もない。

 そして何より。

 

(私はそのための……『ポジションフリー』なんだから……!)

「深琴、ちょい待ち!」

 

 部隊長の制止を振り切って、私は走りだす。命令違反とかそんなことどうだっていい。

 後手後手に回って、目の前で誰かを失うのは嫌だ。私だって、4年前は失われる側だったのだから。だから今度は、私が――!

 そしてこの時、ティアナもまた命令違反を起こしたと私が知ったのは実に数日後の話である。

 

 

 ◇

 

 

 4年前のあの日のことは、そして彼女のことは一時も忘れたことはなかった。救えなかった命の方が圧倒的に多かった自分が救えた、唯一の命。そんな彼女には、どうか平和で、安全な世界で過ごしてほしい。自分はそんな世界を守るために戦うのだと。

 だから自分が一番分からなかった。なぜあんなことを――自分の力を卑下する彼女に、そんなことないと言ったのかを。恐らくその時は何とも思わず、純粋な好意からの発言だったはずだ。だがその発言がどのような結果を招いたのかは言わずもがな。彼女は自分が思っていたような道とは正反対の――魔導師としての道を進み、自分に憧れたと嬉しい――否不本意な発言をし、希望進路は執務官補佐ときた。部下に聞けば、学生時代からずっとそれだけを繰り返していたらしい。

 それは嬉しくもあり、それ以上に後悔を自分に与えた。そして今からでも遅くないと思い始めた。魔導師なんて、辞めてしまえと。きっかけを与えたのは自分だ。なら辞めるきっかけを与えるのも自分ではないと意味がないだろう。

 だが、彼女があんなに不安定になるのなら言わなければよかった。溢れんばかりの涙をぬぐうことも、流すこともせず自分と友人を見る彼女の姿は、あまりにも痛々しくて。

 しかしすぐさま感情を切り替え、自ら戦場へ向かった。その後姿を自分たちは見送ることしかできなかった。というか友人は彼女の上司であり、止めたのだから命令違反であることこの上ないのだが、彼女はそんなことは気にしていないらしい。その思想はある意味で救えない。

 そしてそんなことを思いつつ、すぐさま彼女を追った自分もまた、救えない馬鹿だ。

 

 

 ◇

 

 

 ロゼットと防護服を展開して、私は特別駐車場に到着した。それとほぼ同時に現れたフェアクレールトは「やあ」とさわやかな笑顔を浮かべる。

 

「久しぶりだね、深琴。元気?」

「ごめん状況考えてくれる!? 今そんな挨拶交わしてる場合じゃないんですけど!?」

「挨拶も魔法だよ? 挨拶するたび友達は増えるらしいし」

「どこの広告機関の回し者だよ!? ……っとにかく! 目的は何!?」

 

 ……遭遇二回目でこんなこと思うのもあれだが、なんで彼と話すとき、私はいつも以上にツッコミを入れてるんだろう。先日4年振りに再会した実兄にも「お前はあれだな。特定の状況じゃないとツッコミは口に出さないだろ? それって疲れね?」と言われたばかりだ。兄よ、まったくもってその通りです。

 

「目的? んー、ロストロギアの奪取?」

「なんで疑問系!?」

 

 駄目だ。正直疲れる。なんて思っていると、フェアクレールトはにっこり笑って両手を挙げた。

 

「今回のはレリックじゃないから、見逃してもらえると助かるんだけど」

「だからって、はいそうですかって言うと……思ってんのっ!?」

 

 あの人の前で恥かくとか、そんな問題じゃない。大勢の、無関係の人を巻き込むわけにはいかない!

 声を荒げて、私は加速した。そのまま彼との距離を詰める。フェアクレールトは目を丸くしたままだ。

 先手を取れた、と確信した瞬間。斬りかかった右手は深紅色の鎖に絡めとられていた。

 

(バインドっ!? こんな至近距離で!?)

「単純だよね、深琴って。そういうとこも結構好みだけど」

「るっさい! ちょっとは真面目にやりなさいよね!」

「やだよ、めんどくさい」

 

 どこからか、聞きなれた声が「漫才やってる場合か!」とツッコミを入れたような気がする。いえ、そんなつもりは一切ありません。

 けど、このままでは危険なことに変わりはない。左手で攻撃、も考えたが、両手を塞がれるというのは勘弁したい。同様の理由で蹴りも却下。ではどうするか。

 

 

『……お前さ、その突撃思考どうにかしようや』

 

 乾いた笑い声をあげる、零さんを思い出した。それは個人訓練初日の午前――そう。模擬戦(一回目)のすぐ後だ。いつも通り接近からの斬り合い、からの射撃といこうとした私は、接近してすぐに今のようにバインドをされた。

 

『いや、まあ理由は分かる。いきなり斬り込んできたかと思えばゼロ距離からの砲撃だ。初見の相手ではほぼ対応できないだろう。お前速いし、並大抵の相手なら斬り合いだけで勝てるだろう』

 

 だが、と零さんは続ける。

 

『お前の戦闘スタイルはガードウィング並みに速度を必要としている。その分防護服も機動性を重視しているから、どうしても防御力に欠ける。そして相手も、俺みたいにバインドをかけてくるという可能性を忘れている。そりゃガジェットならなんとかなる。だがあいつには勝てない』

 

 ――なら、どうすればいいんですか。今までのスタイルを変えたくない。というか変えたところで、私がすぐそれに慣れるとは限らない。バインドなんて、素手で砕けるわけ――。

 

『その手段がある、と言ったらどうする?』

『教えてください』

『馬鹿、少しは考えてから物を言え』

 

 言って、零さんは私の頭に手刀を落とした。小さく『お前相手にスパルタしたなんて知れたら、俺あいつに殺される』と呟いて。

 

『まあ教えるけどな。実践で』

 

 

 零さんが教えてくれたこと。それは――。

 

(脱力した静止状態から……)

 

 イメージは海や湖に浸かって、自らの手足で「水斬り」を行うように、らしい。足先から下半身へ。下半身から上半身へ。

 ――そして、回転の加速で拳を押しだす(・・・・)

 生まれた衝撃波はバインドを砕き、相手に僅かながらのダメージを与える。同時にフェアクレールトは離れた。

 

「ロゼット!」

《Form Drei》

 

 第二形態――拳銃型に変形したロゼットは、続けざまにカートリッジを四発ロードした。生成した魔力弾を砲撃に。

 

「クロスファイア……」

 

 なのはさんの言葉の続きを思い出す。

 

『今の深琴なら、多分すぐ使いこなせると思うから。ローゼンクランツの第二形態。ちょっとだけ、リミッターを解除しとくね』

 

 同時に淡紅色のバインドが、フェアクレールトの動作を奪う。

 

「シューーーーート!」

 

 淡紅色の砲撃が、フェアクレールトに直撃した。だが、彼に命中したという手ごたえはなかった。

 煙が風に消える。その向こうには、まるで彼を守るように佇む人型の虫に似た何かがいた。

 

「……ごめんね、ガリュー」

 

 呼ばれた何かが、僅かに振り返る。その手には見慣れないケース。

 

「ルールーに手柄を取られるのも癪だけど、君を傷つけたことには変わりないからね。ごめん」

「……………」

 

 何か――ガリューは、小さく頷いた。そしてケースをフェアクレールトに預け、こちらに突撃してくる。両腕をまるで剣のように変形させて、斬りかかってきた。

 

 そしてよく見れば、先ほど砲撃で受けただろう傷は見当たらなかった。

 

(堅い……いちかばちかで……)

《Blitz Action》

 

 ロゼットの自動詠唱で発動した移動魔法で、私は一旦距離を離す。

 

「……ロゼット。無茶かもだけど、一緒に頑張ってくれる?」

《Load Cartridge》

 

 何も聞かずに、ロゼットは忠実に行動する。ロードしたカートリッジは、搭載中のマガジンの残弾全て。そして空になったマガジンを捨て、新しいマガジンを入れる。それからまた、五発。

 そして同時に、十発の魔力弾を生成する。それらはホテルに侵入しようと動くガジェットⅠ型を撃墜し、消えた。

 ロゼットの銃口に、周辺の魔力を集束させる。集束しきれない魔力が私の体にダメージを与えるが、そんなことはどうでもよかった。淡紅色の鎖がガリューの動きを捕らえた。

 

「スターライト……ッ……ブレイカー!」

 

 カチリ、と引き金を引く。淡紅色の魔力砲は一直線にガリューへと向かった。

 が、手ごたえはない。

 

(嘘……効いてない……)

 

 煙の向こうから現れたガリューは、無傷だった。弱弱しく輝く深紅色のシールドと、発動したフェアクレールトはぼろぼろだったけど。

 同時に、私もそれで限界だった。意識が途切れる寸前で、それでも持ち直す。しかしバインドは既に壊され、ガリューに腹部を殴られ体は吹っ飛ばされる。

 

「っ……」

 

 何とか立ち上がるが、これ以上は耐えられない。無茶するんじゃなかったと後悔するが、もう遅かった。急加速したガリューがその拳を振り上げる。見えてはいる。けれどもう、この体は動かない。動けない――、はずだった。混濁する意識に、声が聞こえた。

 

『――殺せ』

 

 言葉と同時に、私の腕は動いていた。バリアを発動し、ガリューの拳を受け止める。

 

『刃向かう敵を、侵略者を殺せ。虹の王を殺せ』

(……殺す。王を、この手で)

 

 語りかける声は深く優しく、反抗の意思を奪っていく。それは同時に私の意識をも奪う行為だったが、不思議と拒否感は感じられない。

 

「深琴……?」

 

 フェアが身構える。同時に受け止めていたガリューを弾き飛ばした。何故だが体が軽く、リミッターによる不自由さも感じない。けれど、記憶したはずの魔法が思い出せなかった。

 しかし体は覚えているらしく、躊躇無くフェアへと向かっていく。伸ばした手は、丁度リンカーコアがある部位へと。血の色にも似た瞳に映る私の瞳は、金色に染まっていた(・・・・・・・・・)

 

(……ああ、そっか。まだ覚えてる……)

 

 そのまま魔力を剣の形へ集束する。同時に淡紅色だった魔力光が黒く変わって、紫色の天にも似た羽が舞った。

 

「――エンシェント・マトリクス」

 

 音声トリガーが発動し、集束した魔力を一気に解放する。直撃を受けたはずだが……どうやらしぶとく生きているようだ。

 轟音と衝撃波。それが過ぎ去るのを待つ程馬鹿ではない。二撃目に移ろうとした途端、別の声が内側から響いた。

 

『……駄目だよ、深琴……』

 

 年端もいかない少女の声。聞き覚えがあるはずなのに、その名前が出てこない。大事な名前なのに。大切な、存在だったはずなのに……。

 地面に崩れ落ちた私の体を、生温かい何かが濡らす。それが自分の血液だとは、私が知る由もなかった。

 そして私の息の根を止めようと、ぼろぼろになりながらも召喚獣が腕を振り上げたことも。その召喚獣を牽制し、フェアクレールト共々撤退させたのが銀色の魔力弾だということも。その主――ディバイン・アーウィング執務官が大声で私を呼んでいたことも。

 私が全部を知ったのは、それから三日後のことだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。