魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
深い闇が広がる。何も、誰も存在しない空間。押し寄せる疲労感に目を瞑って、時間が経つのを待つ。何も聞こえない、静かなその場所。
……なのに、何でこんなに悲しい気持ちになるんだろう。
一人は嫌だ。寂しいのも、怖いのも嫌だ。弱くて泣き虫で――立ち止まって動けないままの自分が嫌だ。でも、それ以上に誰かを傷つけて、悲しませる自分の方がもっと嫌い。
『――殺せ』
冷たくも穏やかな声が響く。敵を殺せと、ただひたすら繰り返して。堪えきれず瞼を開くと同時に、気が遠くなりそうな風景が浮かんでは消えていく。
古い城と、玉座に座する王。
曇天に覆われ、草木の枯れた大地。
血を流して倒れ伏す兵士と、虹彩異色の王達の姿。
「っ……!」
気づくと、自分の手は夥しい血で染まっていた。見てきた様な風景と、感じてきたような思いに揺さぶられる。しかし受け入れがたいそれらを拒絶するように、私は固く瞳を閉じた。
「……会いたい……」
ぽつりと漏れた言葉が、反響する。何でもいいからこの場所から逃げ出したい。怖いのだ。まるで私が彼らを殺したのだと言わんばかりのこの世界から。きっと今、この場所に一人だから悪い方へ悪い方へと考えてしまうのだろう。
だから。
六課のみんなに、家族に会いたい。そう思った瞬間、闇色の世界に、ほんの僅かな光が見えた。助けて、と思わず手を伸ばすと、誰かに握り返されたような感触を覚える。頭を撫でられて、どこか安心するその感覚に、母の姿を思い出した。
話したいことがあります。伝えたい思いがあります。どれから言葉にすればいいか迷うほど、たくさん。
上手く言葉にできなくて、素直になれなくて、伝えられないことも多くて、時間が足りなくなるかもしれないけれど。せめてこれだけは言わせてほしくて。
――ありがとう。そして、ごめんなさい。
今は、これだけでいいんです。きっといつか、全て伝えられる日が来ると思うから。
私はまだまだ子供で、何も分からないけど。それでもあの瞬間だけは信じていたいから。
だから、私は――。
◇
伸ばした手が、握り返される。開いた目に映りこむのは眩い蛍光灯の光だった。ぼやけて見えるのは、両目に涙が溜まっているからだろう。先程とは違う光景に、安堵の息を吐いた。
「深琴」
小さくも凛とした、優しい声に名を呼ばれる。私の名前は、そんなに優しい響きになれるのか、と十三年の人生で初めて思った。まだぼんやりとした様子の私を見て、声の主――八神部隊長はくすりと微笑む。
「……八神、部隊長……?」
「うん。体の具合はどないや?」
「あ……」
そう尋ねられて、今いる場所を再確認した。――ここ数日お世話になりっぱなしの医務室である。
「なんや魘されてたけど、嫌な夢でも見たんか?」
柔らかい関西弁に、幼い頃を思い出す。魔法も、家の事も何も知らずに過ごしていたあの頃。
――まだ両親に愛されていたと、自覚できる懐かしい日々を。
ぽろぽろと涙が零れて、シーツに染みを作る。堪えようと握り締めた手の平に爪が食い込んで皮膚を裂いた。見かねた部隊長が、そっと私を抱き寄せる。
「……我慢せんでええんよ。泣きたい時は、思いっきり泣いた方がええ」
とんとん、と優しく背中を叩かれた。規則正しいそのリズムと共に睡魔が襲う。
腕の温かさに
――一人じゃないよ。
同時に思い出すのは、遠い昔の記憶。何度か病室に来てくれた三人の女の子の姿。……なのはさんとフェイトさん、それに八神部隊長に似ている気がした。
◇
その日の夜、私は寮の裏庭にいた。手にしているのは、二振りの木刀。服装は白い上衣と紺色の袴という、ちょっと今いる世界を勘違いしそうなもの。――とはいえ、私にとってこの服装もまた制服であるのだから、仕方ない。
教わった型に従って、木刀を振る。本来私が習った二刀流は太刀と小太刀の組み合わせが正しいのだが、習っていた当時の私の腕力では太刀を振るうことができなかった。秋月家に伝わる武術はそのどれもが曰くつき、というか無茶苦茶というか……流派としては異端である。伝えられるのは武器――刀や剣の道に通じ、魔力を循環させ「一閃で全てを終わらせる」技法。流派的な名称としては「剣閃」と名づけられ、その教えを「一閃必倒」とする理由でもある。
それを伯父から習い始めたのは十歳の頃。魔力制御と平行して、肉体的にも鍛えるために。
あの時教わった技を、ひたすら繰り返す。何もしてないと不安でしょうがなくなるから。
あれから――再び意識を取り戻した後、私は一先ずの検査を受けた。いきなりビルからの飛び降りとか何考えてるの、とシャマル先生には怒られたけど、検査の結果肉体に受けた怪我は完治。魔力も8割の回復が見られたため退院ということに。
相変わらずの化け物じみた回復力に、自己嫌悪すら覚える。
「っ……」
カラン、と乾いた音を立てて、左手に携えていた木刀が落ちた。左手は麻痺したように震えて、握りしめることすらできない。
「一旦、休憩しとけ」
音も無く現れた零さんは、手にしたタオルとスポーツドリンクをこちらへ渡した。
「まったく、お前といい、ティアナといい……少しは落ち着いたらどうだ」
「そう言われても……」
今日の訓練――2on1での模擬戦で、ティアナが取った行動とその結果。もちろんなのはさんは怒って――ティアナにではなく、不甲斐ない自分に対してだが……正直、私はどちらが正しいとか分からない。
無茶して体を壊したら意味が無いことも分かる。けれどそこまでしなければならない程追い詰められる気持ちも、痛いほど良く分かる。かつて自分もそうだったから、余計に。
「……話は、6年ほど前に遡るんだが」
そう前置きして、零さんはモニターを起動させた。そこには一人の局員が映し出されていた。
「ティーダ・ランスター。当時の階級は一等空尉。所属は首都航空隊で、執務官志望のエリート魔導師。享年21歳」
「任務中に、亡くなったんですか?」
「……パートナー共々逃走する違法魔導師にやられたらしい。その魔導師は無事逮捕できたんだが上司の心ないコメントが、妹の心に深い傷を負わせたって話だ」
手短に語る零さんの横顔が陰った。ティーダ一等空尉のパートナー……おおよその見当はつく。
「そのパートナーって……霜月秋葉さん、ですか?」
「……そうだったな。一回会ったんだっけか」
地球への出張任務で出会った、嘱託魔導師。彼女が纏う防護服は、首都航空隊のものによく似ていた。デバイスだって一般局員に配布される杖型ストレージデバイスだったし。
本来、嘱託魔導師とは、その現地の世界の人間が「止むを得ない事情」で魔法や異世界に関する知識を得てしまった場合に備えて用意された面が大きい。
そういう人は――機動六課で挙げるなら、なのはさんの様に自分専用のデバイスや防護服を所有していることが多い。
だからこの世界――時空管理局の管理下にある世界で共通するような防護服やデバイスを持つ嘱託魔導師は滅多にいない。
「秋葉はな、昔色々あって、聖王教会に保護されてたんだ。まあでも魔力資質は高かったし、あいつ自身の希望もあって管理局に入局した」
もう一枚のモニターに、六年前の秋葉さんが映し出される。当時11歳。階級は一等空士。
「最初は秋葉も、ティーダに中々懐かなかったんだけどな。コンビとして行動するうちに変わっていった。ティーダも妹がいたせいか、年下の扱いに慣れててな。『あの秋葉が笑ってる!?』と俺は何度も思った」
「……さりげなく失礼だと思います」
「事実だから仕方がない」
「そんなドヤ顔で言われても……」
スバルから聞いた話だと、ティアナは既に両親を亡くしている。自分を一人で育ててくれた兄を愛し、誇りに思っていたに違いない。なのに、その死が無意味だったと言われたら……私だって、反発する。兄は間違ってないと、何が何でも証明するだろう。
「俺はな、深琴。なのはの気持ちもわかる。基礎ができてこその応用だ。体を壊したら意味が無い。だけどティアナの気持ちもわかる。痛いほどにな」
「はい……」
「もちろん、お前の気持ちもな。ディバインに言われたんだろ? 『その程度の苦しみだった』とか何とか。で、このままでいいのか迷ってる。違うか?」
違わない。あれからずっと考えている。これから自分は、どうすればいいのかと。
「迷えばいいんだ。迷って、苦しんで、泣いたって構わない。正しい道なんか、進まない限り分かりはしないんだ。14歳で、自分の存在意義が分かる方がおかしい。そのために俺たち年上がいるんだ。何でもかんでも一人で背負いこむ必要はない」
言って、零さんは立ち上がった。
「邪魔になると悪いから、俺は先に戻る。あまり無理するなよ」
「はい。ありがとうございます」
「おう。……それと、そのヘアピン。似合ってるぞ」
じゃあな、と零さんは夜の闇の向こうに消える。その後姿を見届けた私は、髪からヘアピンを外した。
「……お兄ちゃん……」
私が魔導師であることも、秋葉さんが魔導師であったことも知っていた兄。兄なら、優しく声をかけてくれるのだろうか――?
◇
型の流れを一つ一つ確認した私は、一旦座り込んだ。タオルで汗を拭いて、一息つく。こうやって木刀を振るってる間は落ち着いていても、手放した瞬間不安になった。
魔導師であること以外、私に誇れるものなんてない。魔導師でない私に残るものも、何もない。「ただの秋月深琴」にしかならない。
もし魔導師でなかったら。私も家族と一緒に暮らして、中学校に通って、友達がいて、高校受験とか将来に悩んでいたのだろうか。……だめだ、まったく想像できない。試しに兄が通っていた中学の制服――女子は濃淡の異なる紺一色のセーラー服を纏う自分を想像してみたが――うん、似合わない。
……私に「普通」を求めたのが間違いだった。
やっぱり、私は――。
「……ここにいたのか」
「っ!?」
溜息とともに、ディバイン・アーウィング執務官が姿を現した。反射的に体が緊張する。
「ほら」
手渡されたのは、紛れもない私のデバイスだった。恐る恐る手を伸ばし、私は受け取る。
「時間はかかったが、別段故障は見当たらなかったらしい。データは自分で確認しろ、とのことだ」
「あ、ありがとうございます……」
答えたきり、会話が続かない。沈黙が広がる。
「……あの、アーウィング執務官」
「何だ」
不機嫌そうな声で、執務官は聞き返した。正直怖いけど……今しかない。
「4年前はありがとうございました。そして、すいませんでした」
まずは謝罪。そして。
――ヘアピンを握りしめた手を胸元にあてる。こんな時ばっかりで申し訳ないが……力を貸して、お兄ちゃん。
「……それでも私は、『魔導師』でありたいです。きっかけはともかく、私には、それしか取り柄がないから」
……言ってしまった。だが後悔はない。
そう。結局私には「魔導師」である以外、存在意味がない。それに、今更魔導師を辞めて何になる?
別に、母さんが私を受け入れてくれるわけじゃない。みんなと一緒にいれるわけじゃない。
何も変わらないのなら――いや、変わるとしても、「今の私」でありたい。だって認められないということは、母と同じということになるのだから。
それに。
「自分が、『普通』じゃないってことに気づいてから……」
震える唇で言葉を紡ぐ。小さな声だったけれど、アーウィング執務官には届いたようだ。視線だけを動かして、続く言葉を待っている。嫌悪か苛立ちかは、分からないけれど。
その視線を受けて、漠然と母さんの目を思い出す。怯えるような、哀れむような感情が綯い交ぜになったその目。化け物と罵られたあの時、ショックを受けると同時に納得した自分がいた。それでも母さんに嫌われたのが悲しくて、母さんを悲しませることしかできない自分が大嫌いになって。
「……あの瞬間までは、死んでしまいたいと思っていました。誰かを守ることも、喜ばせることもできない自分なんか、生きている意味なんか無いって……ずっと、思っていました」
でも、と4年前のあの日を思い出す。危険を顧みず、炎と瓦礫から救い出してくれた人。自分の身を守るだけで精一杯だった私に、それでも「よく頑張ったな」と褒めてくれた。大嫌いだったこの力の使い道をそれとなく示してくれたことが嬉しくて。
変わりたいと願った。弱いままで、何も出来ないままでいたくないと。運命なんてものがあるとするなら、それはきっとあの瞬間。
「繋いでもらった命を無駄にしたくない。生きたいと願ったあの瞬間を無意味なものにしたくない。……だから、強くなりたいって思ったんです」
……この人のように危険な場所でも省みず、誰かを助けられるように。
(……言っちゃった……)
小さく息を吐く。六課の誰にも――それこそなのはさん達にも話していない、私の気持ち。
とはいえ支離滅裂であることは認める。黙り込んだままのアーウィング執務官を見上げると同時に、執務官が口を開いた。
「魔導師を辞めることが、一番安全だとしても?」
僅かに震えているような声。魔導師を辞める、か……。
「……怖いのとかは嫌ですけど……でも、そう思っている人がいるのなら、私はその人を助けたい。助けられるだけの力が欲しい。それが魔導師であり続けることなら、私は……!」
怖いのは嫌だ。誰かが傷つくのも、誰かを傷つけることも大嫌い。……でも、もしも誰かが同じように悩んで、傷ついて、助けを求めていたら。私はその声に応えたい。
それに今は、六課のみんながいる。もう一人じゃないのだから、怖くない。
そう続けようとした瞬間、モニターが開き、アラートが鳴り響いた。
『深琴、出動だよ。今すぐヘリポートへ来て』
「はい!」
なのはさんからの通信に返礼して、私はアーウィング執務官を見た。青い瞳は、誇らしそうな、どこか寂しそうに輝いている。
「……失礼します!」
その理由も気になるが、出動命令が最優先だ。
「行こう、ロゼット」
《All right,buddy.》
――もう逃げない。迷わない。六課の魔導師として――秋月深琴として、戦うんだ!
「今回は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長、それと深琴の四人」
「みんなはロビーで出動待機ね」
ヘリポートに集まった私たちは、なのはさん達から指示を受けていた。しかしみんな陸士制服なのに、私だけ剣道衣で非常に恥ずかしい。着替えてくればよかった……。
そして、ティアナの悲痛な声が響く。才能もレアスキルもない自分は、死ぬ気で頑張らないと強くなれないのに、と。
そしてもどかしくなる。なのはさんたちの言葉も、ティアナの言葉も分かる。間違ってないし、間違ってる部分もある。けれどそれをうまく伝えられない自分が、非常にもどかしい。
「今回の敵は航空Ⅱ型、4機編隊が三隊。12機編隊が一隊」
モニターに映るガジェットⅡ型を見ながら、なのはさんは説明する。
「フロントアタッカーはヴィータ副隊長。フェイト隊長はガードウィングで、私はセンターガードで中距離から火砲支援を行います。深琴はフルバックとして、私たちの援護をお願いね」
「はい!」
援護、援護。何度も繰り返して、私は心に刻み込んだ。
◇
「……行きましたね」
「ああ」
六課隊舎から飛び立ったヘリを見上げて、レオン・アヴァンシアは呟いた。その隣で、ディバイン・アーウィングは頷く。
「……お前も出るか?」
「いえ。俺じゃ、足を引っ張るのが関の山です。そりゃ深琴とツーマンセルで、っていうなら話は別ですが」
そうだとしても、まだ万全でない深琴に前線を担当させるわけにはいかない。そうなれば結局自分には何もできないのだ。
そう、レオンは言外に告げる。
「そういうお前はどうなんだ?」
待機服に身を包んだままの零が問う。とはいえいつでも出動できるよう、準備は怠っていなかった。そんな彼を横目に見て、ディバインは左腕に嵌めた、黒銀の腕輪を示す。
「許可さえあればいつでも、問題はない。……そうだろ? アルカディア」
《Yes.》
答えた腕輪は、自動的にその形を変える。黒銀色の拳銃へと。
そしてその形は、深琴のデバイス・ローゼンクランツの第三形態によく似ていた。
◇
「こちらスターズ1。中距離火砲支援、いっきまーす!」
私の数メートル前で、なのはさんは宣言する。桃色の砲撃がガジェットⅡ型の編隊を容赦なく撃ち落としていた。
「っ、ヴィータ副隊長!」
《Wing Shooter.》
副隊長の背後に、ガジェットが音も無く回り込む。そのガジェットを、淡紅色の直射弾で撃ち落とした。
「続けていきます……フェイト隊長!」
《Enchant Defence Gain.》
「ありがとう、深琴」
強化された防御力を活かして、フェイト隊長はガジェットに切り込んでいく。
隊長たちの連携は、見ていて完璧としか言いようがなくて。……私なんかいなくても、なんとかなりそうだ。
そう弱気になった瞬間、『後ろだ!』とヴィータ副隊長の声が響いた。
飛んできたミサイルを回避して、攻撃を開始する。が――。
「さっきよりも数、増えてない……?」
《I think so.》
眼前のガジェットⅡ型の数は、およそ13機。現在隊長たちが相手しているガジェットは、後15機……って絶対数増えてる!
『深琴!』
「っ!」
空中をこれでもかとばかりに、私は急加速飛行を行う。でないと、っていうかそれでも振り切れない。――避けきれない!
が、私を追尾していたガジェットの数機が、銀色の砲撃に撃ち落とされていく。乱入者は他の誰でもない。
「アーウィング執務官……」
「援護に集中しろ。こっちは俺が引き受ける」
その言葉と同時に、とん、と小さく音を立てて背中が合わせられた。あの時と同じ防護服。しかし手に握られている拳銃は、違っていた。
「無茶をするな、とは言わない。巻き込んだ責任は取る。――絶対に、守ってみせる」
「えっと……?」
「ああいい、今のは聞き流せ」
小声で、その上早口だったから聞き取れなかった。まあ聞き流せ、と言われたから気にすることでもないのだろう。無性に気になるのは気のせいか。なんかすごい重大なことを聞き逃した気が……。
「……行くぞ、アルカディア」
《All right.》
黒銀色の拳銃――アルカディアと呼ばれたデバイスが答える。でもその形、ロゼットと……。
『……そうだよ』
困惑している私に、なのはさんは通信を繋げた。その間も、火砲支援は続いていた。
『アーウィング執務官のデバイス、アルカディアはね。ロゼットの第三形態のコンセプトを受け継いでるの。戦闘データはもちろんだけどね』
「なのは、余計なことを言うな」
『にゃはは』
執務官の頬に、若干ながら赤みが差す。一方のなのはさんはどこ吹く風、とばかりに笑っていた。
フェイトさんとヴィータ副隊長が突撃し、なのはさんが砲撃を編隊に叩き込む。援軍及びなのはさん達が撃ち漏らしたガジェットは、アーウィング執務官が一機残らず撃ち落していった。
「――行くよ、ロゼット」
《All right.--Blaze Cannon.》
熱量を伴う砲撃が、後方から引き続きやってくる編隊を撃ち落す。
「ええー!」
それからあっという間にガジェットは全機撃墜して六課に帰還した私たちは、両手を合わせて――まるで拝むようなシャーリーに出迎えられた。
「駄目だよ、シャーリー。人の過去、勝手にバラしちゃ……」
「駄目だぜー。口の軽い女はよお」
シャーリー曰く、あれからフォワード陣になのはさんの過去の戦闘ビデオを見せた、とのことらしい。やっぱり見てられなくて、とのことで。本部に残っていた零さんがいくらか口添えをしてくれたおかげで、余計に拗れたりはしなかったようだ。
「あ、あとね……深琴のことも、話しちゃったんだ……」
「私? え、でもそんな話すようなこと……」
と、シャーリーの後ろで待っていたレオンが、意味ありげに視線を逸らした。
「……世界代表戦のビデオ、見せちゃったの……」
「お前かあぁぁぁ!」
反射的に逃げ出したレオンを追って、一発殴る。
インターミドル世界代表戦。
それは私が人生初の負けを知った場所で、同時に人生初の
「悪かったって! でも仕方ないだろ! 身近な人間が似たようなオーバーワークしてんだから、その方が説得力あるし!」
「そういう問題じゃない! っていうか何であのビデオ残ってるの!?」
「俺が知るかよ!」
それからみんなで茂みに隠れて、なのはさんとティアナの和解を見届けて。とりあえずレオンはもう一回殴らせていただいた。
◇
そしてその翌朝。フェイトさんが教えてくれた。
「技術が優れてて、華麗で優秀に戦える魔導師をエースって呼ぶでしょ? その他にも、優秀な魔導師をあらわす呼び名があるって知ってる?」
その言葉に、私たちは顔を見合わせた。お互いに視線で「知ってる?」「知らない」と訴える。
私たちの様子に、フェイトさんは微笑んだ。
「その人がいれば、困難な状況を打破できる。どんな厳しい状況でも突破できる。そういう信頼を持って呼ばれる名前。……『ストライカー』」
言って、フェイトさんは空を見上げた。青くて広い、空を。
「なのは、訓練を始めてからすぐの頃から言ってた。うちの五人は全員、一流のストライカーになれるはずだって……だからうんと厳しく、だけど大切に丁寧に育てるんだって」
その優しい笑みと言葉に、私は思わずはにかんでいた。
(だから厳しい言葉は、全部その人のことが嫌いだからってことじゃないんだよ)
と、フェイトさんはいきなり私に念話を繋いだ。
(その人のことが大好きだから、守りたいから。でも素直に言えなくて……あんな言葉になっちゃったんだって)
『巻き込んだ責任は取る。――絶対に、守ってみせる』
誰が、とは聞かなくても分かる。彼の言葉を思い出すたびに顔が熱くなった。
「深琴? 大丈夫?」
「顔、真っ赤ですよ?」
「あ、うん! 大丈夫、大丈夫!」
きょとん、と首を傾げる面々に笑顔を見せる。
「よーっし、今日も頑張ってこー!」
「「オーッ!」」
叫ぶように拳を突き出せば、みんな乗ってくれた。ティアナが何か言いたげな様子だったけど、いつものように肩を竦めて、それでも笑っていた。