魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
あの、ちょっとした事件から約二週間。ティアナはすっかり、いつもの彼女に戻りました。
訓練も順調に難易度が上がり、日々楽しく、同時に少しだけ辛かったりするけれど。
――もうちょっとだけ、頑張れそうです。
「はい。今朝の訓練と模擬戦も無事終了。お疲れ様!」
訓練場で整列して座り込んだ私たちに、なのはさんは笑いかける。その両隣りにはヴィータ副隊長とフェイトさん。三人のやや後ろに零さんとディバイン・アーウィング執務官。一方こちらにはいつものフォワードに足して友人のレオン・アヴァンシアが参加していた。五対六と数では有利でも、このメンツでの模擬戦は結構厳しかった。一応各ポジション同士接敵、を重点にしてたんだけど。
スバル対ヴィータ副隊長。エリオ、キャロ(フリード)対フェイトさん。ティアナ対なのはさん(火砲支援込み)。そして私とレオン対零さん、アーウィング執務官という感じで。
「今だから言うけど、俺さっき割と全力出した」
「出さないでくださいよこれ訓練ですよね!?」
零さんの呟きに、反射的にツッコミを入れる。……たしかに模擬戦中、彼の攻撃はいつもより重かった。
「いや、二年間コンビ組んでただけあって息ぴったりだったし、ついカッとなってやった。反省はしていない」
「お願いですからちょっとでいいんで反省してください! あと、私たち『コンビ』っていうより『トリオ』が正しいですから!」
衝動的犯罪者みたいな言い分で、本気を出されたらかなわない。なんて思ってると、レオンが目を丸くして私を見ていた。
(何?)
(いや……お前が俺ら以外でここまで話すのって、珍しいなって)
……そうだっけ? あ、いや、確かにそうだった。なんか最近ふっきれたみたいで……。
遠い目をして、零さんは呟く。
「どら焼きは主食にならないんですね、分かります」
それどっちかっていうとおちゃめな機能の方ですから!!
「でね、実は何気に、今日の模擬戦が第二段階クリアの見極めテストだったんだけど」
なのはさんの言葉に、私たちは目を見開いた。
「どうでした?」
「合格」
「「はやっ!?」」
なのはさんの視線を受けて、フェイトさんは微笑む。間髪いれず即答した彼女に、思わずスターズコンビがツッコミを入れた。
「ま、こんだけみっちりやって、問題あるようなら大変だってこった」
「大変、どころじゃないだろ」
呆れたように言ったヴィータ副隊長に、アーウィング執務官がツッコミを入れるように呟く。まあそうですけどね。
「デバイスリミッターも一段階解除するから、後でシャーリーのところにいってきてね」
「明日からはセカンドモードを基本形にして訓練するからなー」
ちなみに、私のデバイス・ロゼットの第二段階はあの拳銃型である。ってことはこれからしばらく射撃系スキルの練習かー、と思った瞬間、私の中を違和感が駆け巡った。
――『明日』? 午後から、じゃなくって?
その疑問に、なのはさんは笑顔だ。
「今日は皆、一日お休みです」
……だ、そうです。
「あら、そういうことだったの」
ミッドチルダ首都・クラナガン。二年前に越してきた「我が家」へ、私は顔を出していた。事前連絡は30分ほど前という急な帰宅にも関わらず、養母・秋月ミレイは笑顔で私を出迎えてくれる。
「英史さんから書類と、メッセージを預かってるわ。『たまには家に帰ってこい』って」
「『24時間勤務だから無理』って言ってるのに……」
顔を出そうにも、伯父・秋月英史は本局の局員――教育隊教官だ。ミッド地上勤めの私と会う機会なんかそうそうない。あの人も分かってるとは思うんだけど……。
「……でも、深琴ちゃんも変わったわね」
「……そう、でしょうか?」
「ええ。昔に比べて、すっごく可愛くなったもの」
懐かしそうに目を細めて、ミレイ母さんは言う。……可愛い? 私が?
「か、かわ……!?」
「深琴ちゃん。女の子はね、ちょっとしたことで可愛くなれるのよ。恋とか、恋とか、恋とか」
「か、母さん、あの、話が見えないんだけど……」
っていうかきっかけが「恋」しかないんだけど。そして一旦自分の世界に入ったこの人は、めったなことでは帰ってこない。
「深琴ちゃんも、もう14歳だもんね。恋の一つや二つや三つや四つはするわよねえ……」
「三つや四つは多くない?」
「私、憧れてたのよー。娘と一緒に買い物して、恋愛相談に乗るのって……英史さんが聞いたらきっと怒るでしょうねえ……そこで颯爽と娘の味方をする私……そして、緊張する娘の恋人に『遠慮せず、お義母さんって呼んでね』とフレンドリーに接する私……うん、母親の鑑ね!」
「わけが分からないよ!」
盛大にツッコミを入れてみたが、母親の意識は戻ってこない。
「じゃあ私、戻るから」
「……それでいて娘夫婦の生活に口出ししない私……適度な距離を保つことも母娘には大事だと思うのよね……」
……もう、放っておこう。荷物と書類を手に、私は家を出た。一旦寮に戻らないと。今頃レオンは既に待ち合わせ場所だろうから。
「「うっそぉ!?」」
一旦戻った私を迎えたのは、スバルとティアナの叫び声だった。何が嘘なのだろう。
「み、深琴ってバイクの免許持ってたの……!?」
「うん。ほら」
と、私は免許証を見せる。一応これでもA級ライセンスだ。ちなみに乗ってきたバイクは自前。ちなみに荷物を置いたらまた家に帰り、駐輪してからレールウェイに移動する。目的がツーリングとかなら別だけど、公共の乗り物で移動する方が楽だしね。
そんなこんなでレールウェイに乗り、サードアベニューへ。改札口を抜けるとすぐに、目的の人物は見つかった。
「ごめん、二人とも。お待たせ」
「あ、深琴! 久しぶり!」
その片割れ――ルーチェ・バイオレットが、私を抱きしめる。レオンの「うるせえ」という文句も、彼女には聞こえていない。
ルーチェ・バイオレット。私とレオンの同期でチームを組んでた一人。教官志望の現在は武装隊で研修中の、魔導師だ。ちなみに階級は三等空尉。
「それはこっちの台詞よ! 何よ、レオンのくせにちゃっかり六課に居候してさ!」
「仕方ねえだろ上司の意向なんだから!」
「……でも、この間本局の偉い人から怒られたらしいけど。執務官」
曰く、「志望とはいえ研修中の士官学校首席卒業生を連れ回すのは、将来の管理局人事問題につながるから勘弁してくれ」とのことらしい。だからレオンは六課に滞在できて後二、三日。それからは本局に(強制)送還となる。
しかも、アーウィング執務官には補佐官がいない。本人に言わせると、「凶悪事件担当だから」。補佐官の大部分は魔力なしの局員だから、凶悪事件をメインに扱う執務官のところには行きたがらないし、行ってもすぐ異動希望が出るという。話を聞いてる時、零さんが「ざまあー!」と笑っていたのを思い出す。
そんなことを思っていると、ささやき声が聞こえ始めた。
「……ねえ、あの子さ、『秋月深琴』に、似てない?」
「え? ……あ、ほんと! 似てる似てる! っていうか本人じゃない?」
その指摘に、私は被っていた黒のハンチング帽を目深に被り直す。伊達眼鏡をかけている今の姿は、お忍びの芸能人みたいだ。
「そうだった。深琴、まだ有名人だもんね」
「とりあえず、どっか適当に店入るぞ」
「了解」
二人の間に入って、私は歩き出す。
『以上、芸能ニュースでした。続いて政治経済――昨日、ミッドチルダ管理局、地上中央本部において来年度の予算会議が行われました。当日は首都防衛隊の代表、レジアス・ゲイズ中将による、管理局の防衛思想に関しての表明も行われました』
アナウンサーの声が、機動六課食堂に響き渡る。部隊長を始め隊長陣と協力者である教会騎士団騎士・渡辺零とディバイン・アーウィング執務官は、画面に視線を向けた。そこには、一人の男――レジアス・ゲイズ中将が映し出されていた。
『魔法と技術の進歩と進化。素晴らしいものではあるが、しかし! それがゆえに我々を襲う危機や災害も、10年前とは比べ物にならないほど危険度を増している! 兵器運用の強化は進化する世界の平和を守るためである!』
威厳に満ちた声が響く。
『首都防衛の手は未だ足りん。地上戦力においても我々の要請さえ通りさえすれば、地上の犯罪も発生率20%、検挙率においては35%以上の増加を初年度から見込むことができる!』
「……このおっさんは、まだこんなこと言ってんのな」
「レジアス中将は古くから武闘派だからな」
呆れたように呟いたヴィータに、シグナムが答えた。
「とはいえ、兵器運用は難しいよな。一応魔法は『安全でクリーンなエネルギー』だし」
「だが全員が使えるものでもない。それに中将も魔力なしのはずだ」
「嫉妬か」
「身も蓋もないことを……」
ドヤ顔で指摘した零は、ふと空間モニターを起動させる。そこには眼鏡をかけ、黒いハンチング帽を目深に被った少女――秋月深琴の姿があった。
それは最近ミッドチルダで流行している情報交流サイト。かつてなのは達がいた世界で言うなら『ソーシャル・ネットワーキング・サービス』の一つでもある。この三十分ほどでアクセス数が急激に伸びてるページがあった。
――『元IM世界10位 秋月深琴 発見!』と。アップされた写真と視線があっていないことから、盗撮であることが分かる。
「……あ、なんかやべえことになってる」
そう呟いて、零は立ち上がった。まずは彼女の上司である部隊長に報告してからだ。
「でもさー、深琴も変わったよねー」
言って、ルーチェはフライドポテトに手を伸ばした。
「やっぱ執務官と会えたから?」
「……さあ?」
首を傾げて、私はパンケーキにフォークを刺す。ブルーベリーのソースがからんで美味しい。
(……でも、零さんが作ったお菓子の方がおいしいかも……)
現在はサードアヴェニューレールウェイからほど近い、駅前のファーストフードショップだ。ひとまずはここで、互いの近況を語り合っている。
「っていうか、そんなに昔と違う?」
「全然違うよ。特にそのヘアピン」
言って、ルーチェは私の顔を指差した。ヘアピン――調べたら実際の名称は「くちばしピン」であることが判明したそれ――は、サイドの髪を後ろで纏めるのに使っている。
「前はそんなの持ってなかったし、あっても普通のピンだったもん」
「ああ……お兄ちゃんからもらったものだから」
そう言えば、あの再会以来兄を「お兄ちゃん」と呼ぶことに抵抗がなくなった。同僚たちとのコミュニケーションも……。
と、ロゼットが映像通信を告げた。
「はい。こちらロングアーチ04」
『はーい、こちらスターズ3。そっちの休日はどう?』
『ちゃんと楽しんでる?』
スバルとティアナからだった。
「うん。今、士官学校の友達と一緒。サードアベニューに」
『そっか。あ、サードアベニューならエリオとキャロも行ってるはずだけど……』
「そうなの? レールウェイでは見かけなかったけど……」
『シャーリーさんがプランを作ってくれたんだって』
シャーリーお手製外出プラン、と聞いて嫌な予感がするのは私だけだろうか。エリオとキャロのことだから、真面目に取り組んでそうで怖い。
『まあ友達と一緒なら大丈夫か。なんかあったらすぐ連絡しなさいよ?』
「うん、ありがとう」
『じゃーねー』
通信が切れたことを確認して、私は息を吐く。スバルもティアナも気が利くなあ……。
「……な?」
「まあ年相応な感じはするけど……」
「?」
「「なんでもない」」
なら、人の顔を見て溜息を吐かないでほしい。そう思いながらも、私はパンケーキに止めの一撃を刺した。
同時刻、一つの問題が発生していたことに気づかないまま。
「っあー! 深琴、もっかい!」
「……やだよ、めんどくさい」
それから目的のものを購入した私は、レオン、ルーチェの三人でゲーセンに繰り出していた。ちなみに目的はルーチェ曰く、「全ゲームランキング制覇」らしい。現在挑戦しているのは迫りくるゾンビを撃ちまくるシューティングゲームだ。画面には< Mikoto Rank 1 >との表示。
「ルーチェは諦め悪すぎ」
「深琴が強すぎなの! つか、クレーンゲーム以外全勝ってありえないんですけど!」
悔しい! と叫びながら、ルーチェは地団駄を踏む。復習してくる、と筺体に向き合う彼女に溜息を吐きながらも、私は外のベンチに座った。そして鞄からさっき買ったもの――次元通信用の端末を取り出した。
メタリックな銀色のそれは、兄が持っていた携帯電話にも似ているデザイン。ちょっと値は張るが、兄のイメージにも合う。それに時空管理局本局が発行している個人端末用次元通信ユニットに対応できる最新型だ。予算オーバーだが、それくらいは許容範囲。
私が伯父・秋月英史から受け取った書類は、そのユニットの取り付け申請に必要なもの。あとは本体と書類を本局に送ればいい。それはルーチェに任せる。
「レオンもごめんね。買い物に付き合わせて」
「気にすんな。……お兄さん、喜ぶといいな」
……ほんとに、そう思う。伯父さんに頼んで、発送と申請、本体は私名義だ。ちなみに通信費は伯父夫婦持ち――こればっかりは未成年であることと「妹」であるということから反対された。
一番の問題は現地での妨害だが現地の協力者(零さん談)が、可能な限り手を打つという。本当、あの人は何者なんだろう。そう思った瞬間だった。ロゼットが通信を告げる。しかし先ほどのものとは違う。
「? キャロから全体通信……?」
いくらなんでも「今、どうしてますか?」なレベルではない。二人に何かあったのだろうか。それとも――。
『こちら、ライトニング4。緊急事態につき、現場状況を報告します。サードアベニューF23の路地裏にて、レリックと思しきケースを発見。ケースを持っていたらしい小さな女の子が一人』
『女の子は意識不明です』
「F23……」
ロゼットが表示した地図を確認する。――よし、そんなに距離は離れてない。走ったら10分程で到着できる。
「ごめん、レオン。行ってくる。ルーチェには適当に……」
「言わせないわよ!」
仁王立ちしたルーチェが叫ぶ。
「あたしだって仮にも時空管理局の局員! ちゃんと言ってくれたら文句言わないし、武装隊の一員として協力する! むしろさせて!」
「……本音はそっちか」
「……いや、お前、それ以前にそこドアの前……」
レオンはともかく、ルーチェは上司の許可取らなくていいんだろうか。そんなことを考えながらも、私たちは現場へと急行した。