魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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11:機動六課のある休日(後編)

 サードアベニューF23の路地裏。全体通信を受けた私は現場に急行していた。

 

「深琴さん!」

「ごめん、お待たせ」

「いえ……」

 

 キャロの膝の上で気を失っている少女――いや、「幼女」が正しいか――の身なりは、ずいぶんと酷い。かなり衰弱しているようだ。

 

「地下水路を通って、かなり長い距離、歩いてきたんだと思います……」

「それと、これ……」

 

 エリオが見せたケースには、長い鎖がついていた。問題はその下。たるんでいる……?

 

「……ケースは、もう一個あった……?」

『一応探してはいるけど、反応はないんだよね……』

「目視で探したほうが確実か……」

 

 だが現時点でケリュケイオンにも、ロングアーチのシステムにもそんな反応はない。この女の子が地下水路を彷徨っている途中で落とし、そのまま……と考えた方が妥当だ。回収済みの方は既にキャロが封印処理を施しているから、ガジェットが見つける心配はないと思うし。

 

『ガジェット、来ました! 地下水路に数機ずつのグループで総数16……20!』

『海上方面、12機単位が5グループ!』

「多いわね……」

 

 なのはさん達を乗せたヘリを見送った直後、ロングアーチから入った報告にティアナは目を細める。

 

「八神部隊長。私が空に上がったほうが?」

『そやな……いや、深琴は、アヴァンシア捜査官候補と一緒に地下水路を担当や。レリック確保を最優先。もしアンノウンの少年が現れたら……』

「情報を引き出し、可能なら無力化して保護……でよろしいでしょうか?」

 

 アンノウンの少年――フェアクレールトの詳細は未だ不明のまま。違法魔導師として管理局に記録もないし、そもそも魔導師登録すらあるはずもなかった。そしてローゼンクランツとほぼ同型のデバイス。どこからデータが漏れたのか……そうでなくとも話すことは多い。

 

『ただし、あくまでもこちらの目的はレリックの確保や。それに今回は、深琴のリミッター解除は極力行わなへんつもりや』

「あの、八神二佐。私も参加してよろしいでしょうか?」

 

 成り行きを見守っていたルーチェは、よりにもよってそんな発言をした。

 

「二人が関わってるのに私だけ除け者は嫌だし……まだ小さな女の子がこんな目に遭ってるのに放っておけないよ」

『……分かった。ルーチェ・バイオレット三尉、協力を感謝します』

 

 うおーい、認められちゃったよ。レオンはともかく、ルーチェはAMF戦は初めてのはずなんだけど……いいのかな。

 

「……指導要領の変更があってさ」

「うん」

「それにAMFとか特殊フィールド戦についてもあったのよ。今研修の真っ最中」

「……お疲れ」

 

 ……そういえば六課に入る前、伯父さんがそれについて愚痴ってたような気がする。

 

「レオンは? AMF戦の経験」

「六課のシミュレーターなら何度か」

「ん、了解」

 

 レオンもルーチェも、二人揃ってミッドチルダ式の魔導師だ。その上仮にも、第一士官学校の首席チームの一員。シミュレーターの経験さえあれば、すぐ慣れるだろう。

 

「じゃあこっちは私たち三人でいいね?」

「ああ」

「首席チームの実力、見せてあげる!」

「馬鹿、張り合ってどうする」

 

 もはや漫才のノリだ。懐かしいんだけど、ちょっとは自重してほしい。同僚の前なんですけど。ちなみにポジションは私がフロントアタッカー、ルーチェがガードウィング、レオンがセンターガード。今回は場所が狭い水路ということもあり、隊列は反対になる。目指すのはF94区画。途中でスバルのお姉さん、ギンガ・ナカジマ捜査官と合流する予定だ。

 ……なんだけど、私たちは突入して数分も経たないうちにガジェットⅠ型と遭遇していた。

 

「ロゼット!」

《Blitz Action》

 

 先頭へ躍り出て、敵の攻撃を引きつける。二人には絶対に近づけさせない。六課の、フォワードの一員として――何より大切な友人を、傷つけさせはしない!

 

「一気に蹴散らすよ!」

《All right!》

 

 

 ◇

 

 

「へえ、こんなに動けるんだね、この子たち」

 

 モニターに送られてくる映像を見て、フェアクレールトは微笑んだ。

 

「それに深琴も……今までより全然いいね」

 

 もっとも、そうでなければ面白くない。あの淡紅を潰すのは自分だ。

 でも、とフェアクレールトは唇を尖らせる。その視線は、狭い地下水路を縦横無尽に駆け巡る深琴に注がれていた。――やはり、彼女にあんな場所は似合わない。初めて会ったときと同じ、青い空の下が一番似合う。

 だが、空には『彼』のおもちゃと自慢の『娘』がいる。ヘリに奪われたケースとマテリアルの確保が目的とはいえ、交戦は避けられないだろう。それを考えれば幸福と言えるだろうが……。

 

「あっちにはルールーがいるしなあ……それもそれで面倒だし……」

 

 探し物の回収を任せたはいいが、深琴が地下へ行ったのなら意味がない。てっきり彼女は空に上がるものだと思っていたのだが……。

 

「……もしかして、なんか理由があるのかな……」

 

 思えば二度目の戦いだって、初めての時と違っていた。動きのキレや魔法の出力が弱弱しかったような感覚を、フェアクレールトは思い出す。

 そしてそれが、彼女の意思ではどうしようもないものだとしたら……ああ、非常に腹立たしい。上から権力で押しこめる管理局の傲慢にも、押し込められる深琴自身の弱さにも。

 

「……行こうか、アインザッツ」

 

 その言葉に、アインザッツは無言で深紅色の宝石を輝かせた。

 

 

 ◇

 

 

「しっかし、よく動くよな」

 

 モニター越しに先行組の様子をうかがっていた零が、呟いた。

 機動六課フォワードチーム、協力者三名の突入から遅れること数十分。空でなのは、フェイト、ヴィータ、リインフォースⅡの戦闘が始まった頃、渡辺零とディバイン・アーウィングもまた地下水路に突入していた。それぞれ愛機と騎士甲冑、防護服を展開して臨戦態勢ではあるが――いかんせん、先行組がガジェットのほとんどを叩いたせいで意味がなかった。水路のあちこちにガジェットⅠ型の残骸が虚しく晒されている。

 

「はやてが選んで、なのはの教導を受けている連中だ。これくらい出来なくては意味がないだろう」

 

 同じくモニターに視線を遣りながら、ディバインが冷静に言った。

 例外の三名――ギンガ・ナカジマはシューティングアーツをスバルに教えた師であるから別として――レオン・アヴァンシアとルーチェ・バイオレットはフロントアタッカーを務める深琴のアシストか、彼女からフィールド貫通効果を与える補助魔法を受けたのは最初の数機のみ。以降は自分なりの戦い方を見つけたようで、深琴の援護なしでも戦えていた。

 一方六課フォワード陣は訓練と出動で培った戦法や経験を存分に生かし、危なげなく戦えていた。AMF戦の経験がほとんどない二人をアシストせざるを得ない深琴も、愛機の形態を左右別のものにし、状況を判断して自身の攻撃、二人のアシストと『ポジションフリー』の看板に偽りない活躍をしている。

 

「おい、そこに俺を入れておけ。一応俺も教えてるぞ」

「お前は深琴限定だろうが。しかも個別スキルと銘打っておきながら常に全力戦闘を仕掛けているのはどこの誰だ」

「仕方ないだろー。深琴の戦い方は特殊だし」

 

 言って、零はディバインから視線を逸らした。

 

「教える前からそうだけど、深琴って危なっかしいんだよ」

「それは知っている」

 

 だからこそディバインは、一度は彼女に厳しく当たり、魔導師を辞めさせようとしたのだ。――結局彼女の頑固さに折れ、今では可能な限り傍で見守るようになっているが。

 そして零はディバインの心情を知っている「友人」の一人だ。

 

「いや……多分、お前が思ってる以上に。あれはやばい。いつか壊れる」

「……どういうことだ?」

 

 零の脳裏に、初めて彼女と会った――初めての個人スキル訓練当日の光景が過る。そして彼女が見せた――曰く「練習中」の魔法。まだ14歳という心も、体も成長しきってない彼女には、あまりにも危険すぎるそれを、零は告げた。

 

集束砲(ブレイカー)だと?」

 

 それを聞いたディバインは眉を顰める。

 

「……待て、それなら一度使っている。俺の目の前で、あいつは……」

「いや、そっちじゃない。あれは深琴が、自分なりに考えた『安全な』バージョンだ」

 

 それでも危険なことに変わりはないんだけどな、と零は呟く。

 

「あいつが練習していた方はただでさえ危険なうえに、さらに体に負担を強いることで威力を倍増させた『一閃必倒』の『集束系魔法』。しかもあいつは今よりも前に、それを使っている」

 

 今よりも前――ただでさえ魔導師歴が浅い深琴にとって、その言葉が示すものは一つしかない。

 

「まさか、インターミドルか!?」

「そのまさかだよ。世界本戦で、な。……映像データが残ってたのは奇跡的だったよ、あれは」

 

 まだ11歳になって間もない少女が、負けたくないとの一心で使用したその技。会場周囲に非常警戒警報が出された程の魔力値を――しかもその半分以上を自分の魔力で補った一撃は、彼女の体にも深刻なダメージを与えた。

 

「しかも深琴は、一度スイッチが入ったら余程のことがない限り止まらないタイプだ。余裕もなくなる。もしまたあのアンノウンが現れたら――今度は確実に、その技を出す」

 

 そしてリミッターがかかっている現在、彼女は三年前以上のダメージを受けるだろうことも簡単に予想できる。

 

「……どうしてあいつは、いつも……」

 

 呟いたディバインが、唇を噛んだ。その様子を横目で見ていた零は、「もう一つ」と口を開いた。

 

「例のアンノウンについてだ。過去二戦のデータをロゼットが取っていたんだが……魔法術式が、深琴に酷似しているらしい」

 

 新しく開かれたモニターに、深琴とアンノウンの少年のデータが表示される。魔力傾向を映し出すと、ディバインの青い目が細められた。『特殊型近代ベルカ式ミッドチルダ混合ハイブリッド』と命名されたそこには、深琴の魔力資質が詳細に記されている。

 ――『近代ベルカ式』にしては純粋魔力の放出が得意で、『ミッドチルダ式』にしては近接系魔法や格闘技法を得意としている。

 それは深琴が自らを語った際の一言だ。その言葉に偽りがないことを、グラフが証明していた。

 

「まさかとは思うが、あいつ……深琴は『古代ベルカ式』と何らかの関係があるんじゃないか?」

 

 ディバインのその言葉に、零は肩を竦める。

 

「まさか、そんなわけないだろ……と言いたい所だが、念のため聞いておこう。『その心は?』」

 

 そして語られた推測に、零はそっと瞳を伏せた。しかしそれも一瞬のことで、すぐにどこか意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「何だかんだ言いつつも、深琴のことちゃんと見てるんだな。お前は」

「付き合いは長いからな。当然だ」

「……いや、そこ普通に返されると困るんだけど……」

 

 照れる云々より以前になー、と零は乾いた笑いを響かせた。

 

「黙れ。――急ぐぞ」

「な、ちょ、待てって! 俺が飛行魔法苦手だって知ってるだろ待てやゴラァ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 サードアベニュー地下水路、F94区画。到着した私たちは、手分けしてケースを探していた……はずだった。

 現れたのは、ホテル・アグスタで遭遇した召喚獣と、エリオやキャロと変わらない年頃の女の子。そしてその女の子はケースを手に、歩き出した。幻術で隠れていたティアナがダガーモードの刃先で脅すも、効果はないらしい。

 

「知ってるもんね。そうでしょ? 『ルールー』」

「……わたしのこと、知ってるの?」

「ええ。名前だけだけど……そこの召喚獣は、確か『ガリュー』っていったっけ」

「……そう」

 

 小さく、頷く。それを見て、私は笑顔で銃型のロゼットを構えた。

 

「……でも、あなたのことは知らないの。教えてもらえる?」

 

 銃口の先には、リイン曹長と変わらない背丈の少女がいた。

 

「いいぜ、教えてやるよ」

 

 色とりどりの花火をバックに、少女は笑った。

 

「『烈火の剣精』アギト様だ! ――お前らまとめてかかってこいやあ!」

 

 うん、そういう姿勢は嫌いじゃないんだけど――この状況では。

 自然と、ロゼットを握る手に力がこもった。

 

《Hoop Bind.》

 

 淡紅色のリングがルールーを縛り上げる。落ちたケースは着地する寸前でレオンからルーチェに渡り、後方に下がった彼女が簡易的な封印処理を施した。

 

「……ねえ、レオン。今の状況ってさ、『公務執行妨害』で通る? ついでにちょこっと破壊しても問題ないよね」

「あ、ああ。通るだろうけど……いや待て、破壊はやめろ。頼むから」

「なるべく努力する」

 

 ロゼットをダガーモードに変形させ、右手のロゼットの銃口を向けた。周辺に魔力弾を生成させる。

 

「お望み通り、かかっていってあげる。――遠慮も容赦もしないから、そのつもりで」

 

 言って、私はカチリ、とセーフティを解除した。

 

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