魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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14.75:Meaning of strength

 強さとは何だろう。

 それは何度も繰り返して、けれど未だに答えが出ない問題。

 きっと、明確な答えは存在しないもの。

 なんだけど……誰か、この状況を説明してほしい。

 

 

 

「鉄板の最強候補は六人!」

 

「近接最強! 古代ベルカ騎士! ヴィータ副隊長とシグナム副隊長!」

 

「六課最高のSSランク! 超長距離砲持ちの広域型魔導師、リイン曹長とのユニゾンって裏技もある八神はやて部隊長!」

 

「六課最速のオールレンジアタッカー、フェイト隊長と説明不要の大本命! エースオブエースなのは隊長!」

 

「そして、魔導師歴一年未満であのインターミドル世界本戦まで勝ち進んだみなさんご存じ『ポジションフリー』、秋月深琴!」

 

「「最強は誰だーっ!?」」

 

「なのはさんに決まっとろーが!」

「シグナムさんだ!」

「部・隊・長、部・隊・長!」

「ヴィータ副隊長!」

「フェイトさんにきまってる!」

「あっきづき! あっきづき!」

 

 

 ◇

 

 

「フォワードとメカニック陣が?」

 

 部隊長補佐、グリフィス・ロウラン准陸尉がルキノの報告を聞き返した。

 

「隊長たちのうち誰が強いのかで、ちょっとしたお祭り状態に……」

「まあ昼休みをどう過ごそうが自由ではあるけど……」

 

 事の発端は、ヴィヴィオの「なのはママとフェイトママ、どっちが強いの?」という一言。そこからいつしか「っていうか六課で一番強いのって誰なのかしらね」に繋がり、昼休みの機動六課駐機場はルキノの報告のような盛り上がりを見せていた。

 その日は朝からオフィス待機だった私は、今、休憩室でロングアーチスタッフと昼食後のお茶をしていた。いきなり巻き込まれた身にもなってほしい。

 

「……っていうか、なんでそのメンバーに私まで入っているのかが非常に気になります……」

「まあ、深琴は三年前の時点で『世界で十番目に強い女の子』だしねー」

 

 お菓子をつまみながら、シャーリーが答える。……え、それだけの理由で?

 

「あまりに過ぎるようなら、僕から注意するよ」

「そーだねえー」

「……それでいいでしょうか、副隊長」

「構わんよ」

 

 と、シグナム副隊長は言う。

 

「戦いの合間に仲間同士、笑顔でいられるのは悪いことではない。切り替えさえしっかりしていれば文句はない」

 

 言って、副隊長はルキノを見た。

 

「お前も、参加してきてもいいんだぞ」

「あ、いえ、わたしは」

 

 それは勘弁してほしいです、副隊長。ルキノにまで向こうに回られたら大変なことになりそうだ。

 

「ルキノは真面目ですからね。報告ありがとう」

 

 と、グリフィスは微笑む。そんな彼にルキノも嬉しそうだ。……そういえば、この二人って結構仲がいんだよね。ルキノは艦船マニアで、グリフィスもその手の話は「嫌いじゃない」から話が合うようだ。

 

「シャーリー、何だその目は」

「べーつーにー?」

 

 にやにや(によによ?)な笑顔で二人を見るシャーリー。そしてそんな私たちを見て、やれやれと言わんばかりに、シグナム副隊長は肩を竦めた。

 

 

 ◇

 

 

「で、実際どうなんだ?」

 

 所変わって、陸戦訓練場近く。午前訓練に参加できなかった私は一人、なのはさんから貰った空戦データを練習していた時。ちょうど近くを通りかかったヴァイス陸曹が、例の「最強は誰だ」の話を持ち出した。

 

「どうって言われても……瞬殺される自信しかないです」

「おいおい……んなあっさり言うなっての」

「それ以前に、隊長たちと戦う状況にもよります。個人戦とか集団戦とか、そういうの」

 

 個人戦で私が勝てる可能性があるとすれば、恐らく八神部隊長(もちろんユニゾン禁止)くらいだろう。後で知ったことだが、部隊長もティアナから似たような質問に、「私が相手だったら確実に負ける」と答えたらしい。

 

「まあ……そうだよなあ。でも、お前だって一応インターミドルの世界10位だろ」

「とはいっても、初戦で負けてますから。当時の都市代表の中では文句なしの最弱です」

 

 私がその経歴で話題になっているのは、「管理外世界出身」、「魔導師歴約一年」という形容詞があるからだ。私が強いから、では決してない。

 それに隊長たちと私では、経験に差がありすぎる。

 と、脳裏に伯父の姿と、言葉が過った。

 

「……ヴァイス陸曹、こんな言葉、聞いたことあります?」

「?」

「『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない』って」

「……なんだ、そりゃ?」

 

 面喰った様子で、陸曹は首を傾げる。

 

「昔……インターミドルに出場する前に、伯父に言われたんです。『この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えを出せ』って。強さの意味を履き違えるな、と」

「マジかよ……お前そのとき11歳だろ?」

「マジですよ?」

 

 しかし当時の私は、あっという間に答えを見つけた。それはあまりにも単純で、だからこそ分かりにくいもの。

 

「へえ……ま、考えとくわ」

「はい」

「そういやお前、午後はどうすんだ? 108部隊への出向研修、参加しないんだろ?」

「どっちかって言うと、捜査協力って感じですから」

 

 午後からフォワードメンバーは、陸士108部隊で出向研修、合同訓練を行うことになっている。しかし私だけは108部隊の捜査官――捜査主任のラッド・カルタス二尉、捜査官のギンガ・ナカジマ陸曹のもとに捜査協力として派遣されることになっていた。きっと今頃、フォワードのみんなは出発の準備をしているんだろう。

 そう思った瞬間だった。

 

『状況 アラート2。市街地付近に未確認体出現。隊長陣および704、出動準備。待機中の隊員は準警戒態勢に入ってください』

「出動みてーだな。行くぞ!」

「はい!」

 

 

 ◇

 

 

『動体反応確認、やっぱりガジェット!』

『Ⅰ型17機、Ⅲ型2機!』

『Ⅲ型は……始めてみるタイプだ。前線は注意して!』

 

 ロングアーチから送られてきた映像には、見慣れた球体のⅢ型に足がついていた。

 現場は、レールウェイの地下通路。既に私以外のフォワードは集まっていた。

 

『ロングアーチ04、合流確認!』

『フォワードチーム、こちらロングアーチ』

 

 全員が揃ったことを確認して、八神部隊長が通信を繋げた。

 

『こっちからはライトニング1・2が緊急出撃する。みんなはそっちの状況確認とガジェットの迅速な撃破。――108部隊や近隣の武装隊員も警戒に当たってくれてる。スターズ1からは何か』

『スターズ1からフォワードチームへ。AMF戦に不慣れなほかの武装隊員たちにガジェットや危険対象をなるべく回さないように。こんな時のための毎日の訓練だよ。……5人でしっかりやってみせて』

「「はいっ!」」

「じゃ、行くわよ!」

 

 ティアナの号令のもと、私たちはデバイスと防護服を展開する。

 

「現場はレールウェイの地下通路! 狭いけどしっかり連携とっていこう!」

「「おーっ!」」

 

 

 ◇

 

 

「あーらら。動き速いなあ」

 

 E37地下道に、少女――ナンバーズNo.6・セインの声が響いた。

 

「機動六課だっけ? 例の部隊が出てきちゃったよ。……どーしよ、クア姉」

『そーおねー』

 

 モニターの向こうで、ナンバーズNo.4・クアットロが間延びした声で言う。

 

『今ここでプチッと潰しちゃってもいいんだけど、まだ不確定要素が多いしー、今回の作業はⅢ型改のテストとお披露目だけなんだし。もうほとんど済んだでしょう?』

「まー、だいたいのところはね」

『じゃあ空からおっかなーいのが飛んでくる前に、早めに退いて戻ってらっしゃい。Ⅲ型改も放っといていいわ。量産ラインに投入するかどうかまだ決めてないし』

「はい! はいはいクア姉!!」

 

 と、赤毛の少女――ナンバーズNo.11・ウェンディが手を上げた。

 

「せっかくお外へ散歩に出られたのに、もう帰るのはつまんねーっスー。……あいつらに、ちょこっとちょっかい出したりしちゃダメっスか?」

『そーおねえー……これから大事なお祭りが待ってるんだし、武装も未完成なあなたが損傷(ケガ)でもしたら大変だから、直接接触はしちゃダメよ』

 

 でも、とクアットロは息を吐いて笑った。

 

『見学と遠隔ちょっかいくらいなら良しとしましょ』

「わーい! ありがとっスー!」

 

 

 ◇

 

 

「よしっ、全機撃破!」

 

 つい先日の出撃を思い出す、地下通路の戦い。けれどそれぞれがポジション通りに動いているだけで、あっという間に担当エリアの掃除は終わった。

 

「は……速ェ……」

「というか、改めて凄いな。機動六課」

 

 その様子を見ていた近隣の武装隊隊員が呟く。彼らの表情は、まるで信じられないものをみるそれであった。

 

『Ⅲ型改の反応、新規に出現! 機動六課フォワードチームG12へ!』

「了解!」

「それでは!」

 

 敬礼し、私たちはG12へ急ぐ。残された局員たちはこう話していたらしい。

 

「前に見たときよりも速いし強い……」

「半年前まではランクなりの新人だったはずだよな……? いったいどういう成長速度だよ……」

 

 

 ◇

 

 

「へー、こんなに動けるんだね、この子たち」

 

 モニターに映る機動六課フォワードチームを見て、セインは言う。

 

「うん、フェア様が気にいるのも分かるな……ってなんだよ、ウェンディ、その楽しそうな顔は」

 

 話を振られたウェンディは、心底楽しそうに笑っている。

 

「こいつらの担当、あたしやNo.9(ノーヴェ)のになるんスよね?」

「多分ね」

 

 ガジェットに座りなおして、セインは頷いた。

 

「こーゆー連中をどーやって叩きつぶそうかなとか、どうしたら攻撃を食らわずに済むかなとか、考えるとなかなか楽しいんスよ」

 

 と言うものの、ウェンディの顔から笑顔が消える。

 

「こいつら単体でも魔導師ランクでAはありそうっスけど、それぞれの特化技能はAA級――もしくはそれ以上じゃないっスかね」

「ぽいね」

「で、別々の特化技能を連携させることで総合力を高めてる……まー、分断してブッ叩くのが適切っスよね」

 

 言って、ウェンディは自分の武装――ライディングボードを構えた。

 

「――ま、連携戦だろうが単体戦だろうが、負ける気はねェっスけどね」

 

 妹の様子に満足したのか、セインはガジェットⅠ型を二機並べ、横になる。

 

「シッポ掴ませるとウー姉やトーレ姉に怒られっからさー。一発撃ったらすぐ引っ込むよー」

「了解っスー」

 

 答えて、ウェンディは発射する弾薬を設定する。そして躊躇いなく、その引き金を引いた。

 

 

 ◇

 

 

「アルケミックチェーン!」

 

 キャロが召喚した鎖が、Ⅲ型改を捕らえる。捕まえた、と全員がほっとした瞬間、Ⅲ型改を何かが貫いた。貫通した様子も、不発弾である様子もない。Ⅲ型改は金属とエネルギーの塊で、しかもここは地下通路――嫌な予感が全身を駆け巡り、警鐘を鳴らす。

 

《Sniping position check. Field rise also finishes soon.『狙撃位置確認。防御フィールド出力の上昇もすぐ終わります』 》

「うん、ありがと。……エリオ、準備はいい?」

「いつでも!」

 

 スバル、ティアナ、キャロが前へ出た。同時にⅢ型改が爆発する――!

 

 

 ◇

 

 

「命中ー」

 

 まるで鼻歌でも歌うかのように軽やかな声で、ウェンディは確認する。

 

「貫通してないじゃん。不発かー?」

「冗談。これでも一応射撃型っスよ? ……今のは、反応炸裂弾」

 

 ウェンディが、凶悪な笑みを浮かべる。

 

「チンク姉に教わった狭所でのエネルギー運用理論。金属とエネルギーの塊であるⅢ型に撃ちこんで、狭い通路内を一瞬で満たす爆散破片に変える。――これならあたしもディエチやチンク姉に匹敵する破壊力が出せる……はずっス」

 

 ウェンディのしなやかな指が、パチンっ、と軽やかな音を立てる。同時にモニターの向こうでは大爆発が起こった。

 

「えげつねーなぁ。ちょっとやりすぎだぞ」

「えっへっへぇー」

 

 さすがに苦言を呈したセインに、ウェンディは笑って見せる。

 

「ま、それでも」

 

 爆煙の向こうから、魔導師達がバリアを張って攻撃を防いだ姿が見えた。

 

「連中が5人セットなら防いじゃうでしょーねぇー」

「……甘く見たな、ウェンディ。5人じゃないぞ。3人で防いだんだ」

「ふえ?」

 

 言って、セインはウェンディにモニターを見せた。そこには前衛と指揮型の中衛、そして後衛を務める3人の少女しか残っていない。

 

「ホレ。爆発直後にもうこっちの位置を特定。高速型の中衛が二人、こっちに向かってカっ飛んできてる。――クア姉とディエチが向こうの隊長たちに落とされかけた時とおんなじパターンだね」

「んん、こいつらもなかなかやるもんス」

 

 満足げに二人は笑う。

 

「まー、ちゃんと遊んで満足したろ。交戦しないうちに帰るよ――IS ディープダイバー!」

「はーいっ」

 

 先にガジェットと共に床に消えていくセインを見届けて、ウェンディは懐から一本のサインペンを取り出した。

 

「でもその前に……」

 

 

 ◇

 

 

《Soon to the destination. Please turn on the left. 『目的地までもうすぐです――次の角を左へ』》

「うん!」

 

 エリオと私――中衛(ガードウィング)中後衛(ウィンドバック)は、ティアナの誘導操作弾とフリードを引き連れて、先ほどの狙撃ポイントに向かっていた。その速度はキャロのブーストを受けているため、いつもの数倍はあるだろう。

 なのに、曲がった先には人っ子一人いなかった。

 

「……いませんね」

「ガジェットの反応も無いし……」

 

 幻術などで隠れている様子はない。ロングアーチのセンサーに引っ掛かってもいない。

 

「……深琴さん、これ……」

「何?」

 

 私を呼んだエリオは、壁を指差した。そこには油性マジックで書かれた文字と絵があった。

 

 ――「またね、バイバイ♪」と。

 

「……書き置き、でしょうか……?」

「みたい、だね。とりあえず報告しとこうか」

 

 

 ◇

 

 

 それから特に異変はなく、警戒態勢は解除された。協力してくれたギンガさんたちと食事をしながら、話題は出動前の――あの言葉になる。

 

「『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない』?」

 

 言いながらも、ギンガさん、スバル、エリオの周囲には弁当の空箱が山のように溜まっていた。いや、前衛組のカロリー消費は凄いのは知ってる。けど、私とティアナ、キャロは軽く引いていた。

 

「その問題の答えは分からないけど、私としてはそれは否定するべき言葉だと思うけどなぁ」

 

 言って、ギンガさんは左手を握りしめる。

 

「母さんが言ってた。刹那の隙に必倒の一撃を叩きこんで終わらせるのが打撃系のスタイル。出力がどうとか、射程や速度や防御能力がどうとか、自分と相手のどちらが強かろうが――そんなの全部関係ない」

 

 言って、ギンガさんは手刀をスバルの首筋に当てる。その動きは無駄がなくて素早くて――油断してたこともあったけど、私もスバルも全く反応できなかった。

 

「相手の急所に正確な一撃。狙うのはただそれだけ」

 

 ギンガさんは、満面な笑みを浮かべている。

 

「私は、そう思ってる」

 

 

 ◇

 

 

「……悪い。全然わからねえわ」

 

 六課隊舎に戻って早々、ヴァイス陸曹が言った。

 

「そんなに難しいですか?」

「難しいっての。まあ矛盾してるなー、とは思うんだけどな。……どう説明していいものやらって感じだ」

「……ほんとに、単純ですよ」

 

 待機形態に戻ったロゼットに触れる。

 

「『自分より総合力で強い相手に勝つためには、自分が持っている相手より強い部分で戦う』です」

 

 そしてそのために、自分の一番強い部分を磨きあげて、自信と気概を持って戦いに当たる。

 その解答に、陸曹は引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「おい、本当に単純だな」

「そう言いましたよ?」

「そうだけどな……じゃあその場合、お前は隊長たちとどうやって戦うんだ?」

 

 逆に問われ、私は脳内で状況をシミュレートしてみる。

 

「そうですね……相手の射程外砲撃から斬り合って締めは『剣閃』が妥当ですね。八神部隊長が相手だったら、そのまま突撃します」

 

 体力と魔力には自信がありますから、と私は笑った。

 

「とはいえまだまだ経験不足ですから。精進しないと」

「そうかい。頑張れよ」

「はい」

 

 

 探していく強さの意味。いつかきっと、本当の答えが見つかるまで。

 そしてその場所にたどり着けるその日まで。

 今は八月。――機動六課解散まで、後八ヶ月。

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