魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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15:Sisters & Daughters

「さて、今日の朝練の前に、一つ連絡事項です」

 

 もはや日課となった朝練。集まった私たちフォワードの前には、108部隊所属の捜査官・ギンガさんの姿があった。

 

「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹が、今日からしばらく、六課へ出向となります」

「108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします!」」

 

 しかし、本当にスバルの「お姉さん」なんだなあ。戦闘スタイルも利き手が違う以外は一緒だし。

 

「それから、もう一人」

「どうもー」

 

 フェイトさんが示した先には、本局制服の上に白衣を纏った女性。そして眼鏡。技術者だろうか?

 

「十年前から、うちの隊長陣のデバイスを見てきてくださっている、本局技術部の精密技術官」

「マリエル・アテンザです」

「地上でのご用事がある、とのことでしばらく六課に滞在していただくことになった」

「デバイス整備を見てくれたりもするそうですので」

「気軽に声をかけてねー?」

 

 十年前、というとPT事件――いや、闇の書事件の頃からの付き合いなのだろうか。

 

「じゃあ紹介もすんだとこで……今日も朝練行っとくか!」

「「はい!」」

 

 ヴィータ副隊長の一声に、私たちは応える。ライトニングはフェイトさんと、ティアナはヴィータ副隊長と。スバルとギンガさんはこの後一対一の模擬戦。

 

「深琴は、今日は私とね」

「はい!」

 

 ロゼットのセカンドモード――フォルム・ドライは射撃魔法特化型のフォルムだ。ここ最近、私はなのはさんかフェイトさんとの訓練が多い。そして私は本日よりサードモード解禁だ。

 

「ロゼットのサードモードはこれまで以上に扱いが難しいから、時間をかけて、ゆっくり確かめるよ」

「はいっ!」

《I will do my best.『頑張ります』》

 

 

 

 ◇

 

 

 そして個人訓練が終わり、現在はスバルとギンガさんの一対一の模擬戦中。打撃系の格闘型同士、息をつく暇もないハイレベルな模擬戦だ。そして場所はウイングロードによる上空へ。

 

「なんか、二人とも楽しそうだね」

「スバル、お姉ちゃんっ子だしね。ギンガさんもスバルに甘いし」

 

 ……そういうものなのかな? 兄妹揃って魔導師じゃないから分からないけど、そういう触れ合いだと考えればいいのかも。……いや、無理があった。

 そして最後の一撃を、ギンガさんは寸止めで決める。この一戦について各々が感想・反省を交えていたところ、なのはさんから集合がかかった。……ああ、今日もか。

 

「せっかくだから、ギンガも入れたチーム戦、やってみよっか? フォワードチーム六人対、前線隊長四人チーム」

「……えぇっ!?」

 

 ギンガさんはかなり混乱しているようだった。まあ普通はないよね、こんな訓練。

 

「いや、あのね、ギン姉。これ、時々やるの」

「隊長たち、かなり本気で潰しにきますので」

「まずは、地形や幻術を駆使して、何とか逃げ回って」

「どんな手を使っても、決まった攻撃を入れることができれば、撃墜になります」

「キュクー」

 

 ちなみに私たちフォワードチームは全敗記録を更新中だ。何より厄介なのは「決まった攻撃」。スバルみたいにデバイス攻撃――拳か蹴りなら楽だけど……。

 

「一番大変なのは深琴だけどね……」

「解放された全フォルム使って、隊長たち全員に一撃入れる、だもんねえ」

「あはは……」

 

 スバルの説明に、乾いた笑い声しか出ない。しかし今日から解禁されたサードモードは扱いは非常に難しいけど、役に立つ。今日なら勝てる……気がする。

 

「じゃあ、やってみよっか」

「「はいっ!」」

 

 六人分の返事が悲鳴に変わるのは、数分も経たないうちであった。

 

 

 ◇

 

 

 ――悲鳴が聞こえた。それも六人分。何事かと外を見た零の視界に、見慣れた10人分の魔力光が入った。もうそんな時間か、と零はどこか放心気味にその光景を見つめている。

 

「若いっていいよなあ……」

『……いきなりどうした』

 

 モニターの向こうで、ディバインが呆れた様子で溜息を吐く。

 

「いや、今フォワード陣が恒例の隊長戦やってんだよ。悲鳴上がったけど、楽しそうだなあと」

『悲鳴上がってる時点で楽しくないだろ、普通。お前、騎士団辞めて傭兵にでもなればいいんじゃないのか?』

「それもいいな。だが段ボールがない」

『……?』

「……悪い。今のが通じるのは深琴くらいだった……つかアレ傭兵だっけか?」

 

 と、二度目の悲鳴と共に、桃色と淡紅色の魔力光がぶつかった。

 

「……そういやさ。俺、あんま詳しくねえけど士官学校卒、って結構なキャリアだろ?」

『そうだな』

「お前の臨時部下の……レオン、だっけか? そいつや他の同期はちゃんと尉官から始まってんのに、なんであいつだけ三士なんだ?」

 

 ずっと気になってたけど、六課(ここの連中)は誰一人そんな話してねえし。そう続けた零に、ディバインは肩を竦めた。

 

『深琴本人の希望らしい。階級にこだわりがないっていうこともあったが、卒業までに中々進路が決まらなかったからな』

「地球出身、14歳、士官学校卒、『ポジションフリー』、三等空尉、空戦A+ランク……ああ、そりゃどこの部署も欲しがるわな。学校側は出来るだけ有名な部署に行かせようとするし」

『で、本人が出した条件が三等空士として管理局入りするということだったらしい。その上新人規定で何らかのハンデがつけられるから、残ったのは六課だけだったと』

「深琴らしいっつーかなんつーか……よく学校側もオーケー出したな」

『実際ははやてが深琴をスカウトした後で、本人が言いだしたらしい。もう六課に入ると決めてたから、頑として譲らなかったという話だ』

 

 機動六課設立のための裏工作を考えれば、いくら新人とはいえ空戦A+ランクの三等空尉は取れはしない。ランクも階級も、本来の部隊であれば隊長級のものだからだ。実戦経験が皆無に等しい点を除けば、どこの部隊だって喉から手が出るほど欲しい逸材である。

 しかし三等空士として入局するなら話は別だ。その上新人規約によりリミッター等のハンデが発生するのだから、話は更に変わっていく。最近はどこの部隊でも人手不足が叫ばれているため、新人をしっかり教育できる環境が少ない。一瞬零の脳裏にA「俺が」、B「俺が」、C「じゃあ俺が」、A・B「「どうぞどうぞ」」と懐かしいコントが過ったが、そこは黙っておくことにした。

 

「……でも、まあ……」

 

 呟いて、零は模擬戦の映像をモニターに出す。解禁された新フォルムの扱いにも慣れた当の本人は、それはもう楽しそうだ。最近では当初のような背伸びした感じもなくなり、肩の力も抜けている。同僚とのコミュニケーションも問題なくこなすし、年齢相応の表情も増えた。六課解散後も、きっと――とまで考えて、零は黙り込む。

 

『どうした?』

「いや……深琴の進路を全力でシミュレートしたんだが、あまり意味がなかった。なんだこの虚しさ」

 

 窓の外では、模擬戦の決着がついた。

 

 

 ◇

 

 

「はい、じゃあ今日はここまでー」

「全員、防護服解除!」

「「はい……」」

 

 なのはさん、ヴィータ副隊長の号令に、息も絶え絶えながらも返事をする。正直、どう動いたかなんて覚えてない。

 

「深琴、いい感じだったよ。サードモードにも慣れたみたいだね」

「あ、ありがとうございます……」

 

 なんとか全員に一撃は入れたのだが、その直後に私は撃墜されている。

 ……でも、まだまだだ。リミッターとかで全力が出せないということもあるけど、それは隊長たちだって同じだから、負ける理由にならない。

 それでも、フォルム・ドライ――ひいては射撃魔法は執務官の愛機・アルカディアからのデータ提供(というか相互リンク)のおかげで、今まで以上の精度を得た。問題はスタミナと――。

 

「まあ、そこら辺はこれから鍛えていくから大丈夫だよ」

 

 考えていることは筒抜けだったのか、なのはさんは笑っている。

 

「ちょっと休んだら、クールダウンして上がろう。お疲れ様」

「「ありがとうございましたっ!」」

 

 

 ◇

 

 

「毎日、朝からこんなにキツいの?」

「隊長戦は……まあ、ちょっと特別だけど」

 

 他の部隊ではこんな訓練はありえないだろう。そもそも教導の期間自体、本来なら二、三日。長くて二、三週間というところだ。

 

「教育隊はもっと長いのよね?」

「そうだね。まあ普通だと訓練校とか、そっちに派遣されるから」

 

 ちなみに私の伯父は現在、本局勤務だ。平たく言うと「教官の教官」だからで、資格を取ったばかりの新人教官を更に鍛えていくのが仕事だという。訓練校とかに派遣されるのはよほどのことがない限り、そして私を引き取ってからはなかったはずだ――私に魔法を叩きこむために。

 

「ママー、おねえちゃーん」

 

 と、嬉しそうな笑顔でヴィヴィオがこちらへ走ってきた。その足取りは軽やかではあるもののどこか危なっかしい。危なくなったらブリッツアクションでも使って助けなきゃ――ってあああ! 転んだ!

 思わず立ち上がった私は、ヴィヴィオを起こそうと動き出す。が、なのはさんに阻まれた。

 

「大丈夫。地面柔らかいし、綺麗に転んだ。けがはしてないよ」

「それはそうですけど……」

 

 けれど転んだ側としては、どうだろう。幼い頃――まだ自由に走り回れた頃、兄と一緒にいたくて、ずっと追いまわしてた私は、よく転んで。転ぶ度に兄が手を貸してくれた。自分で起き上がるという大切さも分かるけど、「起こしてもらえた時」の感覚――自分って大事にされてるんだな、とかそういった思いだってきっと大切で。

 

「フェイトママ……?」

「うん。気をつけてね」

 

 動けない私の代わりに、フェイトさんがヴィヴィオを抱き起した。

 

「ヴィヴィオがけがなんかしたら、なのはママもフェイトママも、深琴お姉ちゃんもきっと泣いちゃうよ」

「ごめんなさい……」

「もー。フェイトママ、ちょっと甘いよ」

「なのはママは厳しすぎです。ね? 深琴お姉ちゃん」

「えっ!? あ、えっと……」

 

 ふらついた時点でブリッツアクションを使いそうになった身としては、何も言えない。

 

「ああ、二人の子供かあ……えええええええ!?」

 

 光景を見ていたマリーさんの絶叫が、森の木々の葉を揺らした。

 

 

 ◇

 

 

「なるほど……保護児童なのね」

 

 所変わって食堂。事情を説明すると、マリーさんは簡単に納得してくれた。ヴィヴィオの保護責任者はなのはさんで、フェイトさんは後見人。

 先ほどまで泣きじゃくっていたヴィヴィオが笑顔でオムライスを口に運んでいるのを見て、ティアナは笑って肩を竦めた。

 

「しっかしまぁ、子供って泣いたり笑ったりの切り替えが早いわよね」

「スバルのちっちゃい頃も、あんなだったわよね」

「え! そ、そうかな?」

「リインちゃんも」

「えー!? リインは初めっから割と大人でしたぁ!」

「嘘をつけ」

「身体はともかく、中身は赤ん坊だったじゃねぇか」

「うー……はやてちゃん! 違いますよね!?」

「あはは。どうやったかなあ?」

 

 ……こういうときばっかりは、「兄」、「姉」ポジションを羨ましく感じる。だって親以外分からないもの――まあ私は親ですら分からないだろうけど。

 と、なのはさんがヴィヴィオの皿を見て声を上げた。

 

「駄目だよ、ヴィヴィオ。ピーマン残しちゃ」

「苦いのきらーい」

「え? おいしいよ?」

 

 どうやらヴィヴィオはピーマンが苦手なようだ。ピーマン苦手な子って多いよね。あの苦いのがいいのに――とルーチェに話したら「お前人間じゃねえ!」的な目で見られたのを思い出す。っていうか、18歳にもなってピーマン食べられないって方が人間としてどうだろう。

 

「あー、そやなぁ。好き嫌い多いと、ママやお姉ちゃんみたいな美人にはなれへんよ」

「あの、八神部隊長……さらっと私まで一括りにしないで頂きたいのですが……」

 

 身内の贔屓目なしで見ても、私の親戚の顔立ちは整っている。しかしそれと私自身は無関係だ。海鳴市への派遣任務で兄と一緒に行動したあの数十分の間、一体何回「何であんな子が一緒なのよ!?」という刺々しい視線を受けたことか。思い出すだけでもずきずきくる。

 

「……当の本人が気づいてないっていうのが、一番深刻やなあ……」

「いや、まだ女だからいいんじゃね? これが男だとぶっ飛ばしたくなる」

「あー、それもそうやねー」

 

 八神部隊長と零さんが言って、まるで「可哀想な人」を見る目で私を見た。解せぬ。

 

 

 ◇

 

 

 そこは、牢屋だった。暗くて冷たい、鉄格子の外にはなにもない。あるとすれば白衣を纏った大人たちと、自分と同じ牢屋に入れられた子供たち。

 気が狂いそうな「実験」で、子供たちが次々と消えていく。一人、また一人、時には十人くらいいっきにいなくなっていた。

 頭が痛い。

 吐き気がする。

 ここはどこで、自分は誰なのだろう。

 いっそ殺してほしいと願うのに、死ぬことは許されなくて。助けてほしいのに、誰も助けてくれなくて。

 ならばいっそ、全て消してしまえばいい。その答えに行き着いた瞬間、体は勝手に動いていた。ナイフを手に取り、大人たちを刺し殺す。深紅色の魔法陣が輝き、非殺傷設定なんか最初から存在しない魔法で壊れていく箱庭。

 

『――これはすばらしい』

 

 炎に包まれる箱庭を見つめていた自分に、声がかけられた。振り向いた先には、血溜まりの中に横たわる彼らと同じ白衣を着た男が立っている。

 

『これは、全て君が?』

 

 その問いに、自分は答えない。答えられない。答えるための術を持っていない。それに気づいた男は、そっと手を差し伸べた。

 

『私と一緒においで。少なくともここより居心地はずっといいだろう』

 

 連れてこられた先には、男を「ドクター」と慕う少女が数人いた。男が微笑む。

 

『名前がないのは不便だな。君さえよければ、私がつけてあげよう。……そうだな……”フェアクレールト・ナハト”はどうだ? 異世界語で、浄められた夜という意味らしい』

 

 フェアクレールト・ナハト。それが自分の名前。同時に訪れたのは、意識が浮上するあの独特の感覚。

「……懐かしいな……」

 

 そう呟いて、フェアクレールトは体を起こした。場所はジェイル・スカリエッティのアジト。気が付いたら眠っていたらしい。作戦決行まではまだ時間はあるから、彼や彼の娘に怒られることはないだろうけど。

 無言で、フェアクレールトは自身の愛機を手に取った。深紅色のクリスタルが一瞬、煌めく。

 そして戦場で度々刃を交えた少女の顔が、過った。

 

(深琴……)

 

 弱くて、まっすぐで、何も知らない彼女。彼女なら、自分の過去を聞いて何を思うだろう。少なくとも、だからと言って彼を許しはしないだろう。

 自分たちは似ている。戦い方も、力も、その生まれも。にも関わらず、彼女は頑なにその事実を認めない。彼女はこちらに来るべきだ。だが本人がそれを望まないというのなら、ドクターは強要しない。

 

「……残念だよ、深琴」

 

 ぽつり、とフェアクレールトは寂しげに呟いた。

 

 

 ◇

 

 

 アラーム通りに作動した目覚まし時計が鳴り響く。スイッチを押して止めた私は、ベッドから飛び降りた。

 

「……やっばい。本気で寝てた……」

 

 念のためにアラームをセットしててよかったとさえ思う。現在フォワードチームは自由待機(オフシフト)中だ。他のみんなはまだ休憩所でお菓子を食べている頃だろう。

 

(でも、今の夢……)

 

 不思議な夢だった。十歳にも満たない男の子が、違法施設に連れていかれて、薬物投与とか気が狂いそうな実験を受け続けて――ついには施設の関係者を殺し、破壊していた。そして出会った男――ジェイル・スカリエッティに連れて行かれた彼は、名前を与えられた。名前は確か――『フェアクレールト・ナハト』。

 漆黒の髪に、赤い瞳。あの少年は、彼の過去だと考えるのが自然だろう。

 でもあれは、ただの夢なのだろうか?

 そんなことない、と私は頭を振る。ただの夢にしては出来過ぎているし、何より秋月の血がそれを否定している。ただの夢なんてない、もしそうだとしてもちゃんと意味は存在するのだと。

 

「フェア……」

 

 もしこの夢が事実だとしたら、彼がスカリエッティを「恩人」と呼んだのも分かる。けれど、だからといって彼を見逃すわけにはいかない。なら自分にできることをするだけだ。

 よし、と私は気合を入れ直す。ロゼットを手に部屋を出て、訓練場に繰り出した。

 

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