魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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16:その日、機動六課(前編)

 9月11日、午後19時14分。場所は機動六課隊舎入口。

 

「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や」

 

 いよいよ明日の開催を迎えた公開意見陳述会。その警備のため私たちフォワードとスターズ分隊隊長、副隊長、そしてリイン曹長は準備と仮眠を取って、集まっていた。

 

「明日14時の開会に備えて、現場の警備はもう始まってる。なのは隊長と、ヴィータ副隊長、リイン曹長とフォワード五名はこれから出発。ナイトシフトで警備開始」

「みんな、ちゃんと仮眠取った?」 

「「はいっ」」

 

 その返事に満足げに頷いた八神部隊長は指示を続ける。

 

「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は、明日の早朝に中央入りする。それまでの間、よろしくな」

「「はいっ!」」

 

 そして、所変わってヘリポート。出発を控えた私の視界の端に見慣れた色が映り込む。――ヴィヴィオが、寮母のアイナさんと一緒に、そこにいた。

 

「ヴィヴィオ?」

「どうしたの? ここは危ないよ」

「ごめんなさいね、なのは隊長。どうしてもママとお姉ちゃんのお見送りをするんだって……」

 

 そういえば、なのはさんが夜勤体制というのは今日が初めてだ。ヴィヴィオも不安がっている。

 

「なのはママ、今夜は外でお泊りだけど、明日の夜にはちゃんと帰ってくるから」

「絶対?」

「絶対に絶対」

 

 言って、なのはさんは右手を指きりの形にした。

 

「良い子で待ってたら、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから。ママと約束ね」

「うん!」

 

 

「それにしても、ヴィヴィオ。ほんとに懐いちゃってますねー」

「全く」

「そうだね。結構厳しく接してるつもりなんだけどなあ……」

「きっと分かるんですよ。なのはさんが優しいって」

「あははは…」

 

 最近、ヴィヴィオはよく笑うようになった。初めて会った時みたいに、なのはさんや私以外の人に会ったら泣き出すことはなくなって、自分から挨拶だってできる(ママの教育方針か?)。いっそこのまま、ということも理想ではあるんだけど……。

 

「受け入れてくれる家庭探しはまだまだ続けるよ。良い受け入れ先が見つかって、ヴィヴィオがそこに行くことを納得してくれれば」

「納得しない気が…」

「うん」

「えー!」

 

 エリオの言葉に、キャロが同意する。なのはさんは不服そうだが、私も二人と――ひいてはフォワード全員と同じ意見だ。

 

「あぁ………ずっと一緒にいられたら嬉しいけど、本当に良い行き先が見つかったら、ちゃんと説得するよ? 良い子だもん。幸せになって欲しいから」

 

 そりゃ、ヴィヴィオを本当に受け入れてくれる家庭が見つかればいい。――私にとって、それが伯父夫婦だったように。けれど現状では難しいと思う。

 

 何より、私もヴィヴィオの「お姉ちゃん」であるわけで。自分がこれまで守られる「妹」だったからこそ、今度は私が「姉」として守る番だと思っている。

 

「あ……まぁ! そんな家庭が見つかるまでは、私が責任もって守ってくよ。それは、絶対に絶対」

「ですね!」

「「はい!」」

 

 スバルと、エリオ、キャロは満面の笑みで頷いた。なのはさんが私を見る。

 

「『深琴お姉ちゃん』も、手伝ってね」

「……はい!」

 

 

 

 日付が変わって、午前2時35分。陳述会会場となっている地上本部の警備は、物々しかった。警備員に、陸士制服のまま汎用デバイスを構えた魔導師組。とはいえ機動六課は本局直属の部隊であるため、担当場所は端っこだ。場所がどこだろうと真面目にやらないと、と思う反面、ちょっとのんびりしているのが現状だ。

 駐機場で、ティアナとすれ違う。小走りでその場を離れた彼女と、その背中を見送るヴァイス陸曹。

 

「……泣かせましたか?」

「いきなり何言ってんだ、おめーは」

 

 ヘリにもたれながら、ヴァイス陸曹は言う。

 

「お前といいティアナといい……真面目に警備しろっつの」

「文句は担当を端っこにした地上本部に言ってください。……それに、仮にも六課は本局の部隊です。その上先日査察を受けたばかり。地上本部の印象は最悪です」

 

 戦力だけで言えば重要場所の警備を任されるはずだ。けれども今はデバイスの装備すら許可されないし、汎用デバイスは配布の声すらかけられない。

 

「……で? わざわざ、何しに来た?」

「お伺いしたいことがあります。――霜月秋葉さんの件で」

 

 その名を聞いた陸曹の頬が、ピクリと引き攣った。

 

「なんでまた、いきなり……」

「彼女が管理局を辞めたのも、ティアナのお兄さんが亡くなった原因も、ただの偶然では片付けたくないんです。首都航空隊の同僚だとお聞きしたので」

 

 秋葉さんは、ティアナのお兄さん――ティーダ・ランスターのコンビパートナー。けれどティーダさんは亡くなり、秋葉さんは管理局を辞め、今は海鳴市で嘱託魔導師だ。けれど未だ調子は万全ではなく、魔力値も半分を切っているらしい。

 その直接的な原因を知る者は、いない。

 

「……俺も現場にいたわけじゃねえし、詳しくは知らねえ」

 

 そう前置きして、陸曹は口を開いた。

 

「元々俺とあいつらは同じ部隊でも担当が違ってたんだよ。でもまあ顔合わせたら世間話くらいはする程度には仲が良かった。ティーダはともかく秋葉はまだ入隊したてで、あまり他人に心を開いてなかったが」

「はい」

「六年前――逃走した違法魔導師の逮捕のため、あいつらに出動命令がかかった。なんせ航空隊一のコンビだ。すぐ片付くだろうって思ってたが……実際は、秋葉は瀕死の重傷を負って、ティーダは亡くなった。ティーダの遺体は一時期地上本部に預けられてたって話さ」

 

 名目は「死因の解明」らしいけどな、と陸曹は続ける。

 

「その遺体を現場から回収したのは秋葉だったんだけどな。二人揃って血塗れで……航空隊の防護服、分かるか?」

「一応は」

 

 ちらり、と視線を横に流す。そこには航空武装隊から派遣された警備部隊がいた。

 

「その防護服も無残な状態になっててな。それも砲撃とかそんなんじゃなくて、まるで斬られたみたいに。逃走した魔導師はミッドチルダ式の術者だって話だったから、二人を覚えてるやつらはみんな首傾げてたぜ。……入院中もちょくちょく様子を見に行ったが、あいつは何も話さなかった。挙句の果てに黙って資格返納して管理局辞めて、行方くらましたっつーわけだ。そっからは俺も知らねえけど……」

「海鳴市にいらっしゃいましたよ。現地の嘱託魔導師として」

「……そうかい」

 

 なのはさんを襲った『未確認兵器』がガジェットだったとして。任務中のティーダさんと秋葉さんを襲ったのもまたガジェットだったとしたら。

 気になる点は一つ。ティーダさんの遺体を預かっていたのが地上本部という点だ。

 

(考えられるのは情報の漏洩を防ぐため……)

 

 遺体に残った刺し傷とかをばれないようにするために。確かにミッドチルダ式の魔法でも斬撃や刺突魔法もある。だがもしそうだとしたら……。

 

(今回の襲撃の予言は内部のクーデターというより、マッチポンプが正しいのかもしれない……)

 

 例えば、地上本部――もしくはそれに準じる関係者が、ジェイル・スカリエッティと協力関係にあったとしたら。スカリエッティが開発した「魔法を無効化する」ガジェットと、魔法とは違うエネルギー構造を持つナンバーズへの対抗策に『アインヘリアル』を運用するために。

 運用されれば、本局次元航行艦隊や希少技能保有者に頼らず地上の安全保障体制を確立できる、とされている巨大魔力攻撃兵器・アインヘリアル。今回の意見陳述会の争点にもなっているという話だ。……でも六年も前から? 組織までも疑いたくは無い。

 

「ま、元気そうならそれでいいさ」

「ヴァイス陸曹は、お優しいんですね」

 

 ぽろっと、他意のない言葉が出てきた。その瞬間陸曹はヘリに頭をぶつける。大丈夫ですか、と声をかけると「馬鹿野郎」と頭を叩かれた。

 

「んなこと気にする暇があったら、とっとと警備に戻れ!」

「はーい」

 

 これ以上文句を言われるのは避けたいので、とっとと警備場所に戻る。

 

(……秋葉さん)

 

 兄とのメールには、彼女のこともある程度記されていた。事故に遭って管理局を辞めたこと、両親がいないこと。そして何より「名前がなかった」こと。だから名前を貰うまでは――貰ってからもしばらくは誰にも心を開けなかったこと。自分という存在が分からないから、いなくなったって一緒だからと。

 

(そんなこと、ないですよ。心配してる人、たくさんいます)

 

 ヴァイス陸曹や、零さんのように。きっとそれは私の兄も同じはずだから。

 

 

 ◇

 

 

 9月12日、午前11時55分。

 

「公開意見陳述会の開始まで、後三時間を切りました。本局や各世界の代表によるミッドチルダ地上管理局の運営に関する意見交換を目的としたこの会。波乱含みの議論となることも珍しくなく――」

 

 地上本部には、人が続々と集まり始めていた。八神部隊長にフェイトさん、シグナム副隊長。騎士カリムとシスター・シャッハ。そして報道陣。

 

「いよいよだな」

「そうですね……ってええっ!?」

 

 聞き慣れた声に思わず返事をしてしまったが、思い返せばその人物はいないわけで。思わず振り返った私を、声の主――零さんはドヤ顔で見ていた。

 

「なななな、なんでここに!?」

「まあひとまず落ち着け。そして俺だけじゃないぞ」

「へっ?」

 

 ほら、と零さんは振り返る。そこにはディバイン・アーウィング執務官がいた。

 

「本局の人間はほとんど来ないが、一応顔を出しとこうと思ってな」

「俺はお前の顔見とくついでに、カリムの護衛という名目でついてきた」

「零さん、優先順位が逆です」

 

 ひとまずツッコミを入れておく。

 

「にしても、さすがに厳重な警備だな。――なのは達は?」

「既に中で待機してらっしゃいます。八神部隊長たちは先ほど」

「そうか。お疲れ」

 

 わしゃわしゃ、と音が聞こえそうな勢いで、執務官は私の頭を撫でた。

 

「……にしても、本当に担当端っこだな……夜はしっかり寝たか?」

「零さん、零さん。六課(うち)は警備担当です。夜寝てたら大問題ですよ」

 

 仮眠ならばっちり取りましたけども。兄にメールを送る時間だってありましたとも。それに今は緊張感が勝っていて、眠気なんか吹っ飛んでいる。

 

「深琴」

 

 呼びかけた執務官が、私の頭を小突いた。

 

「緊張感を持つことは大事だが、あまり力むなよ。何もかも全部を一人で背負いこむな」

「……はいっ」

「はあっ!? どういうことだ、それは!」

 

 私の返事と同じタイミングで響いた大声は零さんのものである。見れば零さんは、地上本部の局員と言い争いをしていた。現状では零さんが優勢のようで、対応している地上本部局員がかなり恐縮した様子で説明を繰り返している。どうでもいいけど、零さんの職業って『騎士』じゃなくて『クレーマー』じゃないだろうか。

 

「……ですから上層部からの命令で、出席者や内部警備にはデバイスの持ち込みが禁止されておりまして……」

「命令がどうした! こっちは出席者の護衛で来てるんだぞ!? なのにデバイスの持ち込み禁止ってふざけるのも大概にしろよ! 俺はデバイス持ちじゃないからいいけどな!」

「いいんかい!」

 

 確かに彼が普段使用している刀は、私たちが使うようなデバイスではない。――正真正銘の、「太刀」というやつだ。インテリシステムも、カートリッジシステムも当然あるはずがない。そもそもデバイスですらないからだ。ある意味質量兵器でないことを理由に零さんは堂々と携帯しているが、本来なら立派な犯罪です。彼が特別な許可を得ているためできる行動のため、他人には真似できない。するつもりもないけれど。

 

「……持ち込めないなら仕方ないな。深琴」

「は、はい!」

 

 私を呼んだ執務官は、左腕から黒銀の腕輪を外した。

 

アルカディア(こいつ)はお前に預ける。頼むぞ」

「はいっ!」

 

 二人の背中を見送って、私は受け取ったアルカディアを強く握りしめる。少なくとも、信頼されているという事実に心が震えた。気合を入れ直して、同僚たちのもとへ戻る。

 

 ――今日一日、絶対平和に終わらせる!

 

 

 ◇

 

 

 夕暮れの光が、ミッドチルダを包み始めた頃。

 

「連中の尻馬に乗るのは、どーも気が進まねえけど」

 

 そう、アギトは漏らした。その隣に立つ男は、「それでも」と彼女を諌める。

 

「貴重な機会ではある。今日ここですべてが片付くなら、それに越したことはない」

「まあね。……つか、あたしはルールーも心配だ。大丈夫かなあ、あの子」

 

 連中に協力的な姿勢を見せる少女は、今日もこれからの「祭り」のための作戦に参加していた。そんな彼女も心配だが、それと同じくらいアギトにとってこの男のことも心配の種である。自分を救いだしてくれた恩人を守りたい、その目的を叶えたいと願う彼女にとって、今日ほどの好機はない。

 そしてそれは、フェアクレールトにとっても同じことだった。地上本部のセンサーに引っ掛からないようリミッターをかけた状態で、彼はモニターに送られてくるリアルタイム映像に視線を遣る。声高に意見を主張する男と男を見つめる聴衆。そして地上本部の外で、同僚たちと警備任務に就いている少女。

 

(……深琴……今日こそ、決着をつけよう)

 

 思えばこれまで、彼女との戦闘は一戦目を除き引き分けが続いている。けれど今回は大丈夫のはずだ。協力者には手出し無用だと伝えてあるし、邪魔者担当には協力者とガジェットがいる。心おきなく、彼女と戦うことができる。

 

「弱いなりに、頑張ってね」

 

 

「ナンバーズ、ナンバー3・トーレからナンバー12・ディードまで全機、配置完了」

『お嬢とゼスト殿、フェア様も配置に着かれた』

『攻撃準備も全て万全。後はゴーサインを待つだけですう』

 

 その報告に、男――ジェイル・スカリエッティは満足そうに笑っていた。

 

「楽しそうですね」

 

 そう言うNo.1・ウーノも、楽しそうである。

 

「ああ……楽しいさ。この手で世界の歴史を変える瞬間に、研究者として、技術者として、心が沸き立つじゃあないか」

 

 立ち上がったスカリエッティは、その金色の目に異常な光を浮かばせる。

 

「我々のスポンサー氏にとくと見せてやろう。我らの思いと、研究と開発の成果をな。――さぁ、始めよう!」

 

 

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