魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
地上本部と機動六課壊滅の日から一週間。傷ついた隊員たちは、それぞれ程度の差にもよるがそのほとんどが一時的に職場復帰を始めていた。――ただ、一番の重傷を負ったヴァイス陸曹やザフィーラを除いて。
「ヴァイス陸曹……手術、お疲れさまでした」
集中治療室の中で、彼はまだ眠り続けている。医者の話では手術も無事成功したから、あとは目覚めるのを待つだけ。バイタルが安定次第一般病棟に移すとのことだ。峠を越えたとはいえ、最後には間に合わないだろう。
「これから六課は、機能全てをアースラに移して活動を再開します。ヘリはアルトが操縦してくれるし、艦船操舵はルキノが……みんなまだ万全じゃないけど、立ち止まっていられないからって」
だから、と私は続ける。
「六課は大丈夫です。ギンガさんも、ヴィヴィオもちゃんと取り戻しますから……陸曹は、ゆっくり休んでてください」
治療室を出て、私は外へ向かう。視界の端で赤い髪が揺れたことに、気づかないまま。
◇
所変わって、時空管理局本局技術部。そこにはシャーリーと、そして見慣れない二人組の女性がいた。
「ああ、深琴。ちょうどよかった」
「シャーリー……あの、スバルは……」
スバルも本日本局技術部に行くと聞いていたのに、いない。まだ来てないんだろうか。
「今、マリーさんと一緒。体の最終確認だって」
「そうですか……」
「そうそう。紹介するね」
言ってシャーリーは、二人組を示す。
「私の先輩の、藤原楓さんと咲夜さん」
「「どもー」」
「あ、ちなみに髪が短いほうが楓さんね」
女性――楓さんと咲夜さんの顔は、どことなく零さんに似ている気がするんだけど……今はツッコミを入れないでおこう。
「ロゼット……」
傷だらけの、淡紅色のクリスタル。修復用のポットに浮かんだまま。三人が部屋を出たのを確認して、私はポットに触れた。
「ごめんね、ロゼット……」
《No. Just it is enough if you are safe.『いえ。あなたが無事であれば、十分です』》
だから自分のことは気にしないでくれ、と相棒は言う。
《I had a problem.It is my responsibility which was not able to pull out your best.『問題があったのは私の方です。あなたの全力を引き出せなかった私に』》
「そんなことない……それに、あんなの全力なんて言えない……」
ただ目の前の敵を破壊するためだけの攻撃。周囲のことを、
《Please do not blame yourself. ...An evaluation meeting is so far,buddy? 『自分を責めないでください。……反省会はここまでにしましょう、相棒』》
言って、ロゼットはいくつかモニターを表示させた。
《Restoration of a system is completed safely. ...I want you to tell an opinion about this plan.『システムの復旧は無事に完了しています。……このプランについて、あなたの意見を聞かせてほしいのです』》
表示されたモニターには、これまでのロゼットのデータ、そして強化プランと銘打たれた数字がいくつも並んでいる。基礎フレームの強化、一部フォルムのモードの変更と追加、使用カートリッジ――私の魔法体系はまだ珍しいから、それに合ったカートリッジは数が少なく、希少価値が高い――の変更、そしてそれによる魔力運用効率の上昇と、同時に魔力消費量の増加等々メリットとデメリットを正直に数値化していた。
「魔力消費量は実質倍近く……本体重量も、1.2倍……」
重量はともかく、問題は魔力消費量の増加。私が「奥の手」を出せば何ら問題はないどころか余裕すらある増加量だけど……問題はその状態で、私の体が――リンカーコアが耐えられるかどうか。
「これ、全部ロゼットが考えたの?」
《Yes. It is the result of gathering old data in me. ...It is a strategy for winning "them" of and me『はい。今までの戦闘データを私なりにまとめた結果です。……そして私なりの、「彼ら」に勝つための戦略です。』》
「……そっか」
なんて、私は駄目な魔導師なんだろう。ここまでデバイスにばかり気を使わせて、自分のことばっかり……こんなんじゃ駄目だ。このままじゃ、私は誰も助けられない。誰かを悲しませるだけだ……。
「いいよ。やろう、ロゼット」
浮かんでいた涙を、私は乱雑に拭う。
隊長たちに、同僚たちに、零さんに、執務官に、そしてロゼットに――今まで私は、何回助けてもらった?
なら今度は私が、微力ながらも彼らを助ける番だ。
「このプラン、採用!」
「「よしきた!」」
軽やかなユニゾンが答える。扉の向こうにいた楓さん、咲夜さん、シャーリーはその手に大量のデバイス用パーツを抱えていた。
「じゃあ今すぐ作業開始ですね!」
「「おー!」」
「深琴、ちょっと待っててね。本局の中、色々見てくるといいよ!」
――って、いきなり言われても。技術室から追い出された私は、ひとまず歩き出す。本局の紺色制服の中で、一人陸士制服は目立ってしょうがない。
そう思った矢先だった。
「あれ、深琴?」
「ルーチェ……レオンも」
名前を呼ばれ、振り向いた先には本局制服を纏う友人二人。そしてその更に向こうには懐かしい顔が揃っていた。時空管理局第一士官学校61期生。その中でも二年間を共にしたクラスメート達だ。
「怪我はもういいのか?」
「っていうかなんでお前ここにいるの」
「深琴発見なう」
「相変わらずちっちゃいー」
「怪我は大丈夫。用事があるからいるんだけど文句ある? そこ呟くな。そんでもって小さいとか言わないでよへこむから」
「よし誰かメール送れ。全員食堂に集合な、五分以内に」
「送らないでいいって」
あとこの状況で全員を集めないでほしい。みんなの職場に迷惑がかかる。
とはいえ、みんなとの再会は嬉しかった。明るくて、楽しくて。地上本部襲撃の件は深く追求されなかった。まあ私自身が一介の三等空士だから、というのもあるだろう。――聞かれても、答えられないし。
「でも、みんな心配してたんだぞ? 六課の隊舎、壊滅だって聞いて」
「対策で時間取れなかったけど、みんなでお見舞いに行こうって話も出たんだよ?」
「まあ、でもさ。あんまり酷い怪我じゃないみたいだし。良しとしようよ」
カリーナ、アスカ、シルフィ……みんな、口々にそう言葉にした。ただでさえ忙しいはずなのに、私を気に掛けてくれる。
「……ごめんね。ありがとう、みんな」
所変わって、時空管理局無限書庫。管理局が管理する世界の書籍やデータが全て収められた、巨大なデータベース。『世界の記憶を収めた場所』である。円筒系をした、無重力の広い空間。
みんなと別れた私は、そこを訪れていた。
(やっぱり、広い……)
検索魔法を駆使し、書物を探し出す。その理由は至極単純――可能な限りフェアに関する情報は集めておきたかった。
この先彼を逮捕――否、保護したとして、彼は管理局法で裁かれることは避けられない。確かに彼のこれまでの行動――密輸品の窃盗、テロリズム幇助、殺人未遂――は犯罪以外の何物でもない。けれど彼の行動は全て「
そもそも、あの夢が本当なら――彼の価値観が管理局が想定したものと異なることは自明の理だ。管理局だって鬼じゃない。ちゃんとした理由があって歪まざるを得なかった子供が――そして何より本人がそれを望むなら、更生の機会はもちろん与えられる。拘留や監視期間だって短縮される。いくらでもやり直せるのだ。
だから。できるなら、彼がそれを望むなら――彼を、助けたい。
(作業が終わったらメールくれるって言ってたし……)
時間はまだ若干の余裕がある。一息吐いて、私は再び検索魔法を発動させた。
◇
ほぼ同時刻。ミッドチルダ東部森林地帯。
その一角にある洞窟を、聖王教会シスター・シャッハは覗き込んでいた。その奥では透明な猟犬が青い熱線に倒されている。
「こんな、洞窟の奥に?」
「僕の猟犬を発見して、その上一発で潰した。並みのセキュリティじゃない。ここがアジトで間違いないね」
眉を顰め、ヴェロッサ・アコースは希少技能――
「凄いですね、ロッサ。こんな場所、よく掴めました」
「シャッハ、いいかげん僕を子供扱いするのは止めて欲しいな」
言って、ヴェロッサは猟犬を撫でた。
「これでも一応カリムやはやて、零と同じ、古代ベルカ式のレアスキル継承者なんだよ」
「無限の猟犬、ウンエントリヒ・ヤークト。あなたの能力は存じ上げていますよ」
「ま、今回の発見は、フェイト執務官やナカジマ三佐の部隊の、地道な捜査があってこそのものだけどね」
同時に、シャッハが携えていた双剣・ヴィンデルシャフトが反応する。周辺に隠れていたガジェットⅠ型が一斉に姿を現した。
「大人しく帰してくれる気はなさそうですね」
「戦闘はあまり得意じゃないけど……まあこのくらいなら」
「お任せください」
力強く答えたシャッハは、瞬時に防護服を展開する。そして一発ずつカートリッジをロードした。
「あなたとカリムを守るのが、私の務めですから!」
◇
「おっきいねー。あたし、L級艦船に乗ったの初めてだよ」
「私も……普通、次元航行部隊じゃないと乗らないと思うけど」
ロゼットの調整も終わり、移動した先は時空管理局本局、次元航行部隊L級艦船――正式名称はアースラ。
初めて乗るL級艦船の広さに驚きながら、合流した私とスバルは歩き始める。
「スバル……体、大丈夫?」
「うん。いい調子だよ。深琴の方こそ、大丈夫?」
「平気だよ。強度としては、普通の魔導師に比べたら結構丈夫なほうだし」
体中に負った傷は、今はもう完全に塞がっていた。人並みよりちょっと早い治癒速度も、遺伝子調整の結果だという。――結局秋月の人間は、戦うために生み出された戦闘機人達と変わらない。
「スバル、深琴!」
「二人とも、お帰りなさい」
「怪我、大丈夫でした?」
廊下で合流したティアナ、エリオ、キャロが口を開く。それに笑顔で頷いた私達は、次の瞬間響き渡った警報に表情を強張らせる。
「これって……」
開かれたモニターに映るのは、アインヘリアルを沈めた戦闘機人達が移動している光景。廃棄都市区画で彼女たちと共に走る、ギンガさんの後姿。
そして森林地帯から浮上する巨大戦艦。そして玉座と思しき場所に繋がれたヴィヴィオの姿。
『さぁ、いよいよ復活の時だ。私のスポンサー諸氏、そしてこんな世界を作り出した管理局の諸君。偽善の平和を謳う聖王教会の諸君も、見えるかい? これこそが、君たちが忌避しながらも求めていた絶対の力!』
恍惚が入り混じる男の――スカリエッティの声だけが響く。聖地より帰った船は、待ち望んだ主を得て再び空へと舞い戻ろうとしていた。
『旧暦の時代、一度は世界を席捲し、そして破壊した。古代ベルカの悪魔の英知』
「聖王の……ゆりかご……」
船を手中におさめた無限の欲望が牙を剥く。
――そしてこれが、後にJ.S事件を語る上で欠かせない長い一日となる。