魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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20:無限の欲望

『旧暦の時代、バラバラだった世界を平定したのは最高評議会の三人。現役の場を次の世代、私たちや時空管理局ってシステムに託してからも、評議会制を作って見守ってくれていた。レジィ坊や……、レジアス中将もやり方が時々乱暴ではあったけど、地上の平和を守り続けてきた功労者。だから、彼らが今回の事件に関わっているなんて……信じたくは、ないのだけれど』

 

 モニターの向こうで、ミゼット提督は言った。その言葉を聞いた八神部隊長は、艦長席と私たちがいる作戦会議室とをモニターで繋ぐ。

 

『理由はどうあれ、レジアス中将や最高評議会は、偉業の天才犯罪者、ジェイル・スカリエッティを利用しようとした。そやけど、逆に利用されて裏切られた。どこからどこまでが誰の計画で、何が誰の思惑なのか、それはわからへん』

 

 先ほどのスカリエッティからの通信中にあった、「スポンサー諸氏」――曰く最高評議会とレジアス中将は、「地上世界の平和と安全」を目的に人造魔導師、戦闘機人計画にそれぞれ協力していたらしい。どちらも元は管理局が実用化寸前までこぎつけた計画だ。そこらへんの捜査はアコース査察官が資料にまとめてくれたけれども……仕事速すぎです。

 

『そやけど今、巨大船が空を飛んで町中にガジェットと戦闘機人が現れて、市民の安全を脅かしてる』

「ゆりかごには本局の艦隊が向かってるし、地上の戦闘機人たちやガジェットも各部隊が協力して対応にあたる」

「だけど、高レベルなAMF戦をできる魔導師は多くない。私たちは3グループに分かれて各部署に協力することになる」

 

 内訳はフェイトさんがスカリエッティのアジト。シスター・シャッハ、アコース査察官、そして聖王教会から派遣という形で零さんが同行する。

 なのはさん、ヴィータ副隊長、八神部隊長は空でゆりかごの対処、そして囚われているヴィヴィオの救出。航空魔導師達と一緒だ。

 そして私たちフォワード陣とシグナム副隊長、リイン曹長は地上。私たちは前線でガジェット、戦闘機人の対処。シグナム副隊長はあの騎士――ゼスト・グランガイツの対処だ。

 

《Has detected a reaction of "them".It seems that the towards the Midchilda Central Office『”彼ら”の反応を検知しました。地上本部に向かっている模様です』》

「……うん」

 

 完全復活したロゼットが告げる。頷いた私の視線の向こうで零さんと零さんによく似た男性――一度海鳴市で出会った、兄情報によると藤月彼方(ふじつきかなた)さんが談笑していた。

 

「あいつは?」

「聖王医療院にいるよ。かつての同僚が心配みたい」

「あいつらしいな……」

 

 嬉しそうな様子で肩を竦めた零さんを、彼方さんは呼ぶ。

 

「兄さん」

 

 彼方さんが、一振りの日本刀を差し出した。

 

「兄さんの相棒、持ってきたよ」

「……助かる、彼方」

「うん。……兄さん」

 

 零さんが、刀を受け取る。シュラン、と音を立てて鞘から引き抜かれたその刀身は、美しく輝いていた。いつも彼が使用する日本刀と違う様子は見られない。もちろんデバイスでもない。彼方さんは微笑を湛えたままだ。だが次の瞬間にはその眉を顰める。

 そして彼方さんは、深刻そうな顔で口を開いた。

 

「――この後のご飯、何がいいかな?」

 

 知らんがな。

 

「そうだな……深琴、何がいい?」

「何故ここで私に振るんですか!?」

「「なんとなく?」」

 

 理由ないんかい……っていうか出動間近の私にご飯のメニューを決めさせるか、普通……。

 

「おでん食べたいです。こんにゃくがあれば嬉しいです」

 

 そして答える私がいた。いや、だって、ねえ? せっかくだしさ――って私は誰に言い訳してるんだろう。

 

「よし、とろっとろになるまで煮込んだ大根と卵もつけよう」

「じゃあキッチン借りるよ。今から煮込んだら十分間に合うはずだしね。深琴ちゃんは関西風派って静真君から聞いてるけど、それでいい?」

「大歓迎です! 行ってきます!」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

 帰ったらあったかいおでんが待っている――なんて、四歳くらいまでの頃の話だ。母の味なんて、伯母のそれとはまったく違うということしか覚えてない。

 そして「間に合う」って、何に?

 

 

『第一グループ降下ポイントまで、あと三分です!』

 

 スピーカーを通して、ルキノの声が聞こえた。なのはさん、ヴィータ副隊長は、並んだ私たちを見る。

 

「今回の出動は、今までで一番ハードになると思う」

「それに、あたしもなのはもおまえらがピンチでも、助けにいけねぇ」

 

 その言葉を聞いても私の表情は変わらなかった。当然と言えば当然の状況だし。覚悟は、もう決まっている。

 

「だけど、ちょっと目を瞑って今までの訓練のことを思い出して」

 

 なのはさんの言葉に従い、目を瞑る。

 

「ずっと繰り返してきた基礎スキル。磨きに磨いたそれぞれの得意技。痛い思いをした防御練習。全身筋肉痛になるまで繰り返したフォーメーション。いつもボロボロになるまで私たちと繰り返した模擬戦」

 

 続いた言葉と同時に、瞼の向こうに訓練風景が浮かんだ。思い出すだけで疲労感が蓄積された気がした。――改めて思うと、これだけの訓練を四月からずっと私たちはやってきたんだよね……。あの日から、私は少しでも強くなっているのだろうか?

 

「目、開けていいよ」

 

 きっと全員顔に出てたのだろう。苦笑混じりになのはさんは言う。

 

「まぁ、私が言うのもなんだけど、きつかったよね」

「それでも、5人ともここまでよくついてきた」

「どんな相手がきても、どんな状況でも絶対に負けないように教えてきた。守るべきものを守れる力。救うべきものを救う力。絶望的な状況に立ち向かっていける力。ここまで頑張ってきた皆は、それがしっかり身についてる。――夢見て憧れて、必死に積み重ねてきた時間。どんな辛くても止めなかった努力の時間は、絶対に自分を裏切らない。それだけ、忘れないで」

「きつい状況をビシっとこなしてみせてこそのストライカーだからな」

 

 なのはさんとヴィータ副隊長、二人の表情は明るい。

 

「じゃあ機動六課フォワード隊、出動!」

「行ってこい!」

「「はい!!」」

 

 ――絶対戻るんだ。みんなの所に――機動六課に、絶対!

 

 

《Limiter full release.At any time you go, buddy『リミッター全解除。いつでも行けます』》

「うん」

 

 ヘリに向かう途中で、ロゼットが告げる。サードモードは練習時間が短いから使用したくないけど……同型のデバイスを持つフェアに対抗するために、手段は選んでいられない。

 

「いざとなったら『奥の手』も順番に開放していくよ」

《All right.――Message was received『もちろんです。――おや、あなた宛てにメッセージが』》

 

 こんな時に、誰だろう。狙っているとするなら伯父や伯母か、レオンか、ルーチェか。零さんとはさっき会ったばっかりだし、海鳴市に残っている兄にはメールを送らないよう彼方さんが伝えてあるはずだし。

 っていうか、ロゼットが送信者の名前を出さない時点でもう一人思い出すべきだった。

 

『無事に帰ってこい。絶対に無茶はするな』

 

 文末にはこれまた短く送信者の名前――ディバイン・アーウィングと署名が入っている。

 

「アーウィング執務官……」

 

 今は本局だっていっぱいいっぱいのはずなのに、それでもわざわざメッセージを送ってくれるなんて。内容は必要最低限、って感じだけど――それでも無茶をしかねないのが私だと、心配しているようで。

 目を閉じると、脳裏には四年前の記憶が蘇る。燃え盛る炎と、崩れ落ちる天井。彼の腕に抱かれて、初めて飛んだ空……夢見て憧れて、ここまで来たんだ。

 

「行こう、ロゼット」

《All right,buddy》

 

 ――もう逃げない。迷わない。フェアもヴィヴィオも、助け出すんだ!

 

 

 ◇

 

 

 一方その頃、アースラ内の通路の一角。通路に凭れかかっている零は、モニターの向こうのディバインに話しかけていた。

 

「いいのか、メッセージだけで」

『出動まで時間がないだろう。妥協した結果だ』

「妥協、ねえ……」

 

 言葉を繰り返した零は、にやりと口角を上げる。モニターの向こうで、ディバインは苦虫を噛んだような――彼の心情を現すなら不服の――表情を浮かべていた。

 

『……可能なら直接行って話したいし、現場に関わりたいくらいだ』

「だと思ったよ。――来れそうか?」

『調整はしている』

 

 まったく、と零は肩を竦める。互いのポジション上、ディバインと深琴の相性は悪くはない。だが個人的感情としてはどうもディバインは深琴に甘すぎる――というより過保護すぎるのだ。危ないからと魔導師を辞めさせようとしたり、認めはしても傍で見守るために六課への滞在期間を延ばしたりと、なんやかんやと口を出す。

 だからあの時――地上本部と機動六課が襲撃され、深琴が集中治療室送りにされた時はホテル・アグスタでの事件以上の衝撃と怒りを彼に与えた。彼にとって深琴は「守るべき象徴」なんだろう、というのが零やなのは、フェイトの共通見解である。「何も守れなかった、助けられなかった」ディバインが唯一助け出すことができた深琴。そしてディバインに救われ、強さを求めた深琴――零が思う以上に、この二人の依存関係は強固なものだった。

 だが、今はどうだ。強くなること、戦うことを自分の意思で選んだ深琴はもうディバインの――そして零の保護下から自立しつつある。

 

(教導は面倒だが、成長を間近で見守れるのは悪くないんだよなあ……)

 

 前にディバインは言っていた。深琴には平和で安全な世界で、生きてほしいと。自分に憧れるだとかそんなことなくていい。――むしろ自分のことは記憶の片隅でいいとさえ、彼は言った。

 

(とか言うくせに、深琴が自分に反応しないと機嫌悪いんだよな、こいつは)

 

 内心で溜息を吐いて、零は肩を竦める。アースラに移動する前、本局で偶然出会った彼はひどく不機嫌だった――曰く、深琴が彼を頼らなかったから、と。話を聞くと例の少年――フェアクレールトに関して、深琴は独自に情報を集めていたらしい。だが一介の三等空士である彼女にはアクセス権限がほとんどない。そんな彼女が取った行動――士官学校時代の人脈をフルに活用し、独自に改良を加えた検索魔法を駆使して無限書庫に引き篭もる――が、ディバインは気にいらなかったらしい。言葉では色々取り繕っているが、結局のところ「何故俺を頼らない!」の一言に尽きる。

 だからって、こうして巻き込まれる俺の身にもなれ。と、何度刀に手をかけたことだろう。

 だが。

 

「まあ、大丈夫だろ。フォワード陣はチームで出撃するし。俺も『あいつ』も、自分の仕事を済ませ次第、すぐに救援に向かうつもりだしな」

『ああ、頼む』

 

 軽快な音を立てて、モニターは閉じられた。

 

(ゆりかごが軌道ポイントに到着するまで、三時間ほど……)

 

 長い三時間になりそうだ。だが悪くはない。

 嘆息した零は、腰に提げた刀に触れた。

 

「――行くぞ、『無頼』」

 

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