魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
02:機動六課
「ターゲット全機撃破確認! はい、お疲れさまです!」
「お疲れ様。久しぶりだね、深琴」
ゴール地点で私を待っていたのはリインフォースⅡ空曹長と、もう一人。白と青の教導隊制服に身を包んだ、サイドポニーの女性の姿は「見たことある」どころの問題じゃない。
着地と同時にバリアジャケットを解除して、士官学校共通のジャージ姿に。背筋を伸ばして敬礼する。
「たっ、高町教導官、お疲れ様です!」
「うん」
笑顔で頷いた女性は、高町なのは。戦技教導官にして、武装隊での階級は一等空尉。エースオブエースと名高い魔導師だ。そのキャリアは9歳の頃から。ちなみにその出身は、第97管理外世界。現地名称は<地球>、日本の海鳴市。
現地の住所は全然異なるが、私とは同郷の出身。管理外世界はその基準から魔導師が殆ど生まれない。そんな中、彼女は日本は海鳴市で生まれ育ち、PT事件、闇の書事件を解決に導いている。
「クールダウンしとかないと。それに『なのはさん』でいいからね?」
「は、はい。失礼しました」
高町教導官――改め、なのはさんとの出会いは10年前。当時海鳴市に滞在していた私が「ある事件」に巻き込まれた時。ショックが強かったのか、当時の記憶はとても曖昧だ。とても悲しくて、それでも思い出そうとするたびに、なぜか優しい気持ちにもなる、その時期の記憶。それから時は流れ、再会は3年ほど前。私が受験した高々度飛行適性試験の訓練担当と試験官が、なのはさんだった。
正直な話、記憶の中の「なのはちゃん」と今の「なのはさん」の姿がなかなか一致しなかった。「深琴ちゃん」と呼びかけられてようやく、「はて、そんな呼び方をする人って看護師さん以外にいたっけな……あっ!?」と思い至ったくらい。
今思えば、私の記憶の中の『なのはちゃん』はツインテールだったし、服装も私服か、聖祥大付属小学校の白い制服姿だった。あれから再会まで7年は経っている。それだけ会っていなければ、すぐに思い出せなかったのも無理はない……とは、言い訳。
――けれど、髪が伸びた私に「お揃いだ」と笑った顔は、10年前と変わっていなかった。
適性試験以降も何かと気にかけてくれて、実は今回のAランク試験も彼女の勧めで受験した経緯があった。曰く「卒業前で忙しいかもだけど、自分の実力を知るいい機会になると思うから」と。魔導師ランク試験に関しては、士官学校に入学が決まった直後に取り急ぎCランクを取得しただけで、私自身が重要視していなかったということもある。士官学校に入ってからは授業で忙しかったから、受験する機会もなかったし。
そんな突発的に受験したAランク試験で、AMF搭載のオートスフィアが出てくるなんて思いもしなかったけど。
……むしろ「なのはさんが試験官の補助するなら、万が一があっても大丈夫だろう」なんて思惑の関係者がいたかもしれない。その関係者が伯父でないことを祈るばかりだ。やりかねないんだよな、あの人は。
「伯父さん……じゃないね。秋月教官から聞いたよ。士官学校を首席で卒業できそうだって?」
「はい。……まだ、進路とかは全然決まってないんですけど」
尋ねられ、私は恥ずかしくなって顔を伏せた。
――そう。私はまだこの時期になっても卒業後の進路が決まっていない。いや、話は来ているには来ているんだけど……。
「やっぱり、無理なんでしょうか……本局管轄の士官学校を出て、武装隊の一般局員になるっていうのは」
柔軟を行いながら、私は呟いた。
仮にも士官学校は、将来の幹部を育成する機関だ。もちろん魔導師であってもそれは変わらない。ただ危険な場所で捜査を行う魔導師は出世しやすいし、士官学校卒業という肩書きがあれば卒業してすぐの素人でも三等尉官で部隊に配属される。それからどう使われるかは部隊次第だ。
「部隊によっては難しいかもね。特に本局士官学校の人は大抵次元航行部隊か、出向して指揮やキャリア系の資格取る人が多いっていうし。昔の私みたいに、武装隊の士官候補生なら話は別だっただろうけど」
「ですよね……」
正直言って、私には自信が無い。実戦経験はほとんど無いのに配属していきなりキャリア扱いで、三等尉官なんて、無理だ。そもそも進学した動機は士官学校の担当教官にすら「航空武装隊向き」という評価だったのに。
私もなのはさんみたいに、武装隊の士官候補生になれるものならなりたかった。私の実戦経験では、その手段を取るには分不相応だろうけど。
と過去に文句を言っても現状が変わるわけはなく、いまだに進路が未確定なのは同期生の中でも私だけ。チームを組んでいた二人の友人もそれぞれ既に進路を決めて、卒業を前に研修を受けている。
「深琴。この後、時間あるかな?」
「あ……はい。大丈夫です」
「じゃあ、この後地上本部でね。結果発表とか進路のこととか話したいし、相談に乗るし。それにお客さん来てるから」
「お客様……?」
言うだけ言って、なのはさんはリインフォースⅡ空曹長と向こうへ行ってしまった。
◇
「でも、珍しい方ですね。士官学校を出て、武装隊――それも一般局員希望なんて」
「そうだね。……リイン、ここの点加えたら、こんなものかな」
「あ、そうですね。じゃあこれ、提出しますね」
「うん、お願い。お疲れ様です、リイン試験官」
先ほどの試験データを纏めながら、なのはとリインは深琴のプロフィールを呼び出す。その隣のモニターには在学中の士官学校から提出された各部署への推薦状と、その根拠になる成績データが表示されている。
「これ、はやてちゃんとフェイトちゃんにも、もう送られてるんだよね?」
「はいです。それとはやてちゃんから、もう一人――」
「あ、うん、聞いてる。……でもこれは、難しいよねえ」
「はいです……」
頷いて、リインは成績データを拡大する。
「座学も実技もオールA。毎学期の試験も、トップから落ちたことがないそうです。その上、4年前のインターミドル・チャンピオンシップの成績……授業態度や素行も問題ないどころか非常に優秀だそうで……士官学校としても、早く進路を確定させたいところだそうですが……」
「他の部隊としては、扱い辛いって思われてるんだろうね。無理も無いけど……深琴が魔導師になった動機からして、航空武装隊向きだし」
「……それなんですが、なのはさんと秋月さん、お知り合いだったんですね?」
首を傾げるリインに、なのはは笑って頷いた。
「かれこれ10年前かな。深琴が海鳴市に滞在してた時があって……年は離れてるけど、大切な友達だよ」
「10年前……」
繰り返すように小さく呟いたリインフォースは、思い出したように声を上げる。
「はやてちゃんから聞いたことがあります。10年前、数か月だけ海鳴市にいた方とお友達になったと……それが、秋月さんだったんですね」
「うん。経緯は、あまり詳しく話せないんだけど……」
深琴がかつて巻き込まれた事件の記録は、武装隊階級で佐官以上の管理局員のみに閲覧が許可されている。対外的には『被害者が管理外世界の未成年である』上に、『被害者の記憶喪失』を理由にしているが、詳細は当時現地協力者であったなのは達にも公表されていない。
「じゃあ、私たちと一緒に働くことになる可能性は充分あるですよね? あ、もちろん本人が了承したら、ですよ!」
「うん。そうなるといいなって、私は思ってるよ。多分フェイトちゃんも、はやてちゃんも」
リインフォースの言葉に微笑んで、なのはは頷いた。
新規部隊のフォワードチーム候補は、経験年数上、全員が新人に該当する。深琴もその一人であり、その合否判定はなのはに委ねられていた。
とはいえ、新規部隊の設立に携わった関係者の大部分と深琴は10年前に知り合っており、本人の性格と潜在能力は既に高く評価されている。今更自分の判断は必要ないと、なのはは理解していた。
しかし、詳細を知らない人物から難癖をつけられては、今後の教導にも差し障る。士官学校の成績はもちろん、本日のランク試験の結果を踏まえた上での決定だという事実が求められていること。そしてそれを判断する上で、最も適任なのが『戦技教導官』高町なのはであった。
――何より、新規部隊でのなのはの立場は、彼女が追い求めていた夢でもある。
(
それはそれでちょっと寂しいけど、と続けて、なのははそのしなやかな指先で、メールソフトを立ち上げた。
◇
時空管理局本局、法務部のデスクにて。
「いきなりメールを送りつけてくるから、何かと思えば……」
深い溜め息を吐いて、ディバインはモニターを閉じた。一度目を閉じ、すぐに別のモニターを呼び出す。メールの差出人は、親友の一人である高町なのは。文面は簡素で、動画データが添付されていた。一先ず話はそれから、ということらしい。
そしてその動画の内容は、先程深琴が受けていたAランク試験の映像だった。
自作のデバイスを手に、防護服を纏う深琴は別段てこずることなく目標を達成していく。終盤、AMFを備えた大型オートスフィアには一瞬驚いたようだが、見た限りでは苦労することなく撃破していた。
その映像を横目に、ディバインの脳裏にまだ幼い彼女の顔が浮かぶ。
そして年齢不相応に、悲しい目をしていたことを。
『きっと、私の家族は……私が生きていることを、望まないから』
4年前、自身が救出した少女はもっと幼かった。何より、自身の力を恐れ、死を望んでいた姿は今でも覚えている。けれど、モニターの向こうに映る彼女と本当に同一人物なのだろうか。それほどまでに少女――秋月深琴は成長していた。外見も、その精神も。
今思えば、その兆候は4年前のあの日の時点で見せていた。あの日、ディバイン同様空港火災の救助に参加していたなのはの砲撃を目撃してから、少女の心境に変化が訪れている。
『……私は、強くなれますか? そのご友人や……あなたのように』
失意と困惑が混じったものとは違う、真っすぐな視線で己を見つめる姿に、感じ入るものがなかったと言えば、嘘になる。あの時の少女が、今こうして戦っていること――何より自分の意思でその場所に立っていること。それ自体は誇らしくあるのだが。
「インターミドルに出場していたと知った時も驚いたが……相変わらず無茶苦茶だな」
時空管理局第一士官学校から送られた深琴のプロフィールと推薦状に目を通し、ディバインは嘆息する。そこにはおおよそ14歳という年齢には似合わない経歴が並んでいる。
『憧れなんです』
『助けてもらって、助言してもらえて、強くなりたいと思ったから、私は今、ここにいます』
『だから、どんな相手だろうと全力で戦います』
それは偶然見つけた、少女の宣誓。真っ直ぐな目には慢心とはまた違う自信が滲み出ていた。自分の言葉が、あの少女の生きる理由になっていた。
――違う。俺は、そのためにあいつを助けたんじゃない。
握りしめた拳に、力が入る。頭を振ってその記憶を追い出し、モニターの電源を落とすためにディバインは指を伸ばした。
◇
所変わって、時空管理局ミッドチルダ地上本部。士官学校の紺色の制服に着替えた私は、そこで待っているという『お客さん』と会っていた。
「久しぶりやね、深琴。八神はやて二等陸佐ですー。『はやて』でええよー」
「フェイト・T・ハラオウン執務官です。10年ぶりだね。元気だった?」
「は、はい……お久しぶりです……」
八神はやて、フェイト・T・ハラオウン――二人の顔と名前に覚えはある。10年前、海鳴市で私は彼女たちと出会っていた。そして、4年前の空港火災でも。直接顔を見たわけではないが、彼女達の魔法を目撃している。
二人も既に私の事情も把握しているようで、挨拶はそこそこに、呼び出した理由を話し出した。
――曰く、「臨機応変に動ける、少数精鋭の部隊設立」。
全ては4年前、あの空港火災が原因なのだとはやてさんは言った。
あの火災の原因は、ある危険な密輸物。何らかの原因で爆発してしまい、近隣の陸上部隊も航空隊も緊急招集される大事件だったらしい。
当時、陸士部隊で指揮官研修中だったはやてさんは前線指揮を担当し、休暇を利用して現地に遊びに来ていたなのはさん、フェイトさんは救助活動に参加されていたそうだ。
そういえば当時、救護隊の近くで装備換装していた魔導師が「本局のエースが4人も参加してくれた」と噂していたっけ。なのはさんにフェイトさん、はやてさんの3人に加え、私を救助してくれたディバイン・アーウィング執務官を含めた4名と。
そこまで聞いて、私は火災翌朝のニュースを思い出す。病室で伯父夫婦の合流を待つ間、暇つぶしに点けてもらったテレビの向こうから聞こえたのは、『本局航空魔導師隊の活躍もあり』とかなんとか。
余談だが、私がアーウィング執務官(当時は『助けてくれた魔導師さん』)について調べた時に探し出せなかったのは、そのニュースが頭の片隅に残っていたせい。中々見つけられなくて、「あの人は本局航空魔導師じゃなくて災害担当では?」と混乱したのは記憶に新しい。
「……とまあ、そんな経緯があって八神二佐は新部隊設立のために奔走」
「4年ほどかかってやっとそのスタートが切れた、というわけや」
大規模だからこそ後手後手に回らざるを得ない時空管理局と、後手後手に回っていては解決できない事件と救えない命。内部に入って痛感したその事実に、はやてさんは「少数精鋭によるエキスパート部隊があれば」――と、そう思ったらしい。
紅茶のカップをテーブルのソーサーに戻し、フェイトさんの説明にはやてさんは微笑する。それに合わせて、途中で合流したリインフォースⅡ空曹長が指を立てた。
「部隊名は時空管理局、本局遺失物管理部・機動六課!」
「登録は陸士部隊。フォワード陣は陸戦魔導師が主体で、特定遺失物の捜査と保守管理が主な任務や」
「特定遺失物……ロストロギア……」
ロストロギア。過去に滅んだ超高度文明から流出する、特に発達した技術や魔法の総称。過去には『ジュエルシード』や『闇の書』など異世界で発見されたりして、いろいろと問題になっている。
そうした技術や魔法は、広域犯罪に利用されやすい。現に先程挙げたロストロギアもかつてそうした目的で蒐集・利用されていた。管理局が認識・管理する世界(魔法が認知されている世界)ならともかく管理外世界――私やなのはさん、はやてさんが生まれ育った地球のように魔法が(大っぴらに)認知されていない世界では、それは非常に大きな脅威となる。
そして実際、大きな脅威だった。現地の9歳の少女が嘱託魔導師として解決に奔走する程の事態である。
(……私が巻き込まれたっていう事件も、ロストロギアが関わっていたって、伯父さんが言ってたような……)
10年前の冬。病気治療のため海鳴市を訪れた私の、当時の記憶は非常に曖昧だ。思い出せたことと言えば、孤独を恐れ、無力な自分を毎日のように呪っていたこと。ある日目覚めたらその記憶は綺麗さっぱり失われていて、それと引き換えにするように当時9歳のなのはさん達やその友人達と出会っている。記憶がないことを伝えた時の、寂しそうな顔は今でも覚えていた。
士官学校に入学してから、改めてその事件を調べようとしたけれど……被害者(仮)本人とはいえ、一介の士官候補生に与えられる権限では、資料閲覧の許可すら貰えなかったのである。
では「現役教官である伯父に調べてもらったらいいじゃない」と閃いた私が、それとなく伯父に依頼しようとした矢先に、「ロストロギア関連の事件に巻き込まれたらしい」とだけ、伯父は伝達してきた。まるで「これ以上関わるな。思い出そうとするな」と言いたそうな雰囲気だった。
「でも広域捜査は一課から五課までが担当するから、うちは対策専門」
「そう、ですか……」
執務官としての専門がロストロギアや違法研究関連の捜査であるフェイトさんが、補足を入れた。
なんて考えているとはやてさんは「で」と指を組み、上体をやや前に傾けた。
「秋月深琴士官候補生。私はあなたをフォワードとして、機動六課に迎えたいと思ってる。……厳しい仕事にはなるやろうけど、濃い経験を積めると思うし、昇進機会も多くなる」
言って、はやてさんが眉を顰める。
「ただ……色々あって、Ⅱ種キャリア試験に合格してたとしても、階級は三等空士相当、あるいは訓練生のスタートになるやろうけど……どないやろ?」
「あ、まだⅡ種キャリア試験受けてないので大丈夫です」
士官学校からは受けろ受けろと圧力がかけられていたが、まさか受験しなくてラッキーなんて思う日が来るとは思わなかった。正直、受験するつもりもなかったし。
それ以外の面でも、悪い話ではないはずだ。将来的に資格試験を受験するかどうかは別として、
しかし、ここで疑問が一点。
「あの、先程フォワード陣は陸戦魔導師が中心と仰ってましたが……」
「うん、そこは気になるわなぁ」
私の疑問に、はやてさんは気まずそうな表情を浮かべた。
「厳密には、深琴の所属は後方支援部の予定。人事の都合もあるんやけど……基本的にはフォワードチームとしてなのはちゃんの訓練受けて、経験を積んでもらいたくてな。これはなのはちゃんの希望でもあるんよ」
「なのはさんの……?」
「うん。深琴が真面目ないい子で、才能があることはインターミドルだけじゃなくて、士官学校でも評価されとる。でも、さっきのAランク試験を見てて思ったけど……深琴はもっと強くなれる。きっと、深琴が自分で思っている以上に」
言い切ったはやてさんは、笑った。
「……それに、10年前からずっと考えてたんよ。『自分が無力とか、独りぼっちなんてもう言わせへん』ってな」
「あ……」
己の弱さを呪った日々と、独りぼっちは嫌だと泣き叫んだ私に伸ばされた手――未だ朧気な記憶の中でも、一際鮮やかに思い出されるそれ。
目の前で
『じゃあ今から、私たちは“友達”だね!』
……そう言って、改めて手を伸ばしてくれた。あれからずっと、気にかけてくれていたのか。思わず伏せた顔に、涙が伝うのを自覚する。涙を拭って、返事は元気よく。
「入ります! 私、機動六課に!」
厳しい仕事でも頑張り続けたら――アーウィング執務官に会えるかもしれない。救助とあの時の一言に、改めてお礼を言えるかもしれない。
内心で一人舞い上がっているとはやてさんは微笑して「決まりやね」と呟いた。そして席を横にずらし、そこに結果を知らせに戻ってきたなのはさんが座る。
「じゃあ、今度はこっちの話に移るね」
言って、なのはさんは手元のボードを見て微笑んだ。
「試験の結果だけど……おめでとう、合格だよ。技術全般問題ないし、最後にバリア貫通効果があるバスターを選んだのもかなりよかった」
その言葉に、思わず胸を押さえる。まずは第一関門クリア、だ。
そう思った瞬間、なのはさんは瞳を細める。
「でも、バリアブレイク系なしで魔力によるごり押しっていうのは減点対象。今は何もなくても、いずれ体に負担がでるよ」
「はい……気をつけます」
「そういった点も、六課に入ってから改めて教えていくからね」
「はい! ありがとうございます!」
ひとまずこれで、今日のミッションは終了。明日からは機動六課で役立ちそうな資格の勉強かなー、と考え始めた私に、なのはさんが声をかける。
「それとね、一つ確認したいことがあるんだけど」
言って、なのはさんは空間モニターを開いた。そこには試験中の私が映し出されている。
――しかも終盤も終盤、〈ディバインバスター〉の発動準備中の。
思わず奇声を上げそうになった私は、背筋を伸ばした。
「な、何かやらかしてましたか……?」
「ううん、そうじゃなくって……このバスターなんだけど、発射プロセスがミッドチルダ式にほとんど近いんだよね。最初のシューターもそうだったけど……深琴は近代ベルカ式で登録されてるけど、それってどこかで検査したのかなって」
「あ、それは私も思ってた。近代ベルカ式にしては、魔力の遠隔運用が上手だなって」
なのはさんの言葉に、フェイトさんが頷く。オーバーSランクの二人に褒められるのは正直言って嬉しい。が、すぐさま脳裏に浮かんだイマジナリー伯父が「はしゃぐな未熟者」と痛烈に釘を刺してくる。貴方は少しくらい褒めてくれてもいいと思うのですが、姪的に。
それはそれとして、今はなのはさんの質問に答えなければ。
「……検査とかは、特に。
「それって、いつぐらいの話?」
「空港火災のすぐ後なので……9歳の時に」
私の言葉に、フェイトさん、はやてさん、リインフォースⅡ空曹長の3人は「秋月教官って結構スパルタ?」と首を傾げた。一方、なのはさんは一人大きく頷いて、また別の空間モニターを一枚展開する。そして軽やかに指を動かして、何らかの予約手続きを済ませていた。
「じゃあこの後、
「えっ、あ、えっと……?」
「試験の様子を見た感じ、深琴は自分で思っている以上にミッドチルダ式の適性が高いと思う。適性に合わないカートリッジは体への負担も大きくなるし、何より今後の教導にも関わってくることだから、できるだけ早くやっておいた方がいいと思うんだ」
話の展開についていけず首を傾げる私に、なのはさんはそう説明する。フェイトさんが小さく、「確かに」と頷いた。
「卒業式まで時間もないし、IDカードの変更とかも考えたら、早めに動いた方がいいね。私、車で来てるから、なのはも深琴も送っていくよ」
「うちも、士官学校や秋月教官らに進路の事とか報告せなあかんから……この後、戦技教導隊で待ち合わせにしよか。
「はいです!」
とんとん拍子に決まっていく今後の予定に、私一人が追い付けなかった。
◇
『やったじゃん!』
一旦なのはさん達と別れ、私は一人地上本部を散策していた。緑豊かな憩い場を見つけ、その芝生に座り込んで、私はランク試験の結果、そして六課へのスカウトがあったことを友人に報告していた。メールで報告した途端、友人の一人で本局で研修中のルーチェ・バイオレットから映像通信が届いたんだけども。タイミングよすぎないか?
ちょうど休憩中らしく、その隣にはもう一人の友人、レオン・アヴァンシアの姿もあった。レオンが、先ほどから騒いでいる彼女の頭に一発手刀を入れる。ルーチェの菫色の瞳が涙で歪んでもレオンは顔色一つ変えない。……そういえば、彼の碧眼が曇ったところを、この3年間一度も見たことがなかった。
『いやー、一時はどうなるかと思ったけどさ、これで名実ともに空戦Aランク。進路先も決まって一石二鳥だ! さっすが深琴』
うんうん、とルーチェは頷いている。その様子を、レオンは溜息混じりで見つめていた。
『でも、いいのか? 新設部隊の登録は陸士部隊なんだろ?』
念を押すように、レオンは言う。
『いくら執務官がいて、昇進機会が多くても……』
「……大丈夫だよ。いずれにせよどこかの部隊に所属して、経験を積まなきゃいけないんだし」
ロストロギア対策ということは、遠からず犯罪者との戦闘だってあるのだ。そもそも魔導師ランクは「あくまで規定の課題行動を達成する能力」の証明である。それはイコール単純な魔力や戦闘能力であるはずがない。Aランクを取得したからといって、私の戦闘能力が証明されたわけではないのだ。
むしろ対人戦闘の経験は、訓練を除いたら4年前のインターミドル・チャンピオンシップ参加まで遡る。新しい部隊でも、覚えることはたくさんあるはずだ。「この世で一番不出来なのは自分だと思え」という伯父の教え(と訓練)のお陰で、プライドなんてものはとっくの昔にへし折られている。
『多分、ってお前な……』
深い溜め息が、レオンの口から零れた。が、その呆れ顔はすぐ真面目なものに変わり、画面の外へと向けられる。
『はい、すぐ戻ります』
「あ、ごめん。休憩終わり?」
『悪い。また時間取れたらメールする』
『私も戻るわ。深琴、またね』
「うん、またね」
モニターを閉じ、私は息を吐く。
(二人とも、すごいよなあ……)
もう既に局員としての研修を終え、進路に沿った部署に配属、研修なのだから。後は卒業式を待つだけである。それに比べて、私のスタートは遅すぎる。
溜息を零して私は芝生に寝そべった。目に映る青い空は遠い。息を吐き、私は目を閉じる。
(……やっぱり、何か引っかかる)
あの日――空港火災の日に思い出した記憶の中で、気になる点があった。
(10年前……多分私は、記憶を失う前になのはさん達に会っている……)
私に対して「一人じゃない」と手を伸ばしてくれた少女の姿はなのはさんによく似ていたし、高高度飛行適性試験で見た白い防護服は、意匠に共通点が多かった。フェイトさんもはやてさんもその頃には魔導師として活動していたはずだから、二人とも記憶を失う前に出会っている可能性が高い。
では何故、防護服姿のなのはさんが私に手を伸ばしているのか。「事件に巻き込まれたらしい」私を救出するため? じゃあ何で、「一人じゃない」と……まるで説得するような形になった?
(そもそも、事件の原因は本当にロストロギアなの……?)
疑心暗鬼に陥った思考を振り払うように、私は上体を起こした。いつかこの気持ちにも向き合って、記憶をすべて取り戻す日が来るのだろうか。
――全てを思い出した時、私はどうなるんだろう。
漠然とした不安に、自然と口は動いていた。
「頑張らないと……」