魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
昔々、古代ベルカと呼ばれた今は無き世界の話。最初はその世界も、次元の海に浮かぶ一つの世界として誕生しました。それは他の世界となんら変わらない、極普通の始まり。
しかし「理想郷」とされる次元世界・アルハザードから提供された優れた兵器開発技術をによって、いつしか国家間での争いは激化。周辺諸国のみならず、別世界へと侵略の手を伸ばし始めました。同盟・協定・敵対――世界間のパワーバランスによって侵略図は日々変化し、絶え間ない戦乱に比例するように兵器開発は激化の一途を辿ります。
それは大きな進化を遂げた人造生命体技術で、各国が擁する「王」の肉体を強化し、過度な力を宿らせること。そしてその子孫にも宿命づけること。
求められたのは「戦を自分の勝利で収めること」と、力の象徴。
始まりは終わりへ、終わりは始まりへ。古代ベルカの争いは、必然的に終結を迎えました。「古きベルカの地の、実質的消失」という形で。消え果てた民と、汚染によって人が住めなくなったベルカの大地。ここまでを『古代ベルカ戦争』といいます。
再起を図り、尚も争いを続けようとした他国を制し、ベルカ統一を計ったのは、「聖王のゆりかご」を擁する「聖王」。生き残った国はそれぞれ自らの王家の名で世界を統治。この時期には「古代ベルカ式」や伝承者、その武装も失われていたとされています。
こうして終結した古代ベルカ戦争――『聖王統一戦争』は「勝者無き戦争」として、語り継がれていきました。
――それは幼少の頃より幾度も読み、学んだ古代ベルカの歴史。争いの悲しさと虚しさと愚かしさ、そして平和のありがたさ――それを今に残す数少ない資料だとその人……渡辺零さんはそう語った。
『烈風一迅!』
カートリッジをロードしたヴィンデルシャフトを構え直し、シャッハはガジェットの密集地に飛び込んだ。
『――斬り裂け、ヴィンデルシャフトぉ!』
(……ったく、ほんとにあいつは『修道女』か?)
モニターを横目に、零はぼやく。その間も絶えず襲ってくるガジェットの大群を斬り伏せて。そして次の瞬間、洞窟を揺らした衝撃に舌打ちする。
(フェイトのやつ……っ、やりすぎだ!)
恐らくバルディッシュの刀身を魔力で延ばし、振り下ろしたのだろう。その際刃先が頭上の岩に触れたようだ。崩落したらどうする、と女々しいことを言うつもりはないが……いや、やっぱり少しは気にしてほしい。ミイラ取りがミイラになっては身も蓋もない。援軍が安全無事に到着できるようルートを確保する。ついでに出てくる雑魚は蹴散らし、相手の戦力を削る――それが今、零に与えられた任務だ。
(まあ結構頑丈そうだから、心配はないか……)
二人よりも先行・突撃した零の周囲には、壁に沿う形でナンバリングされたポットが並んでいた。その中には多くの女性たちが一糸纏わぬ姿で眠りについている――少なくとも眠っているだけだと零は思っている。でなければやっていられない。
その中の一つ――XIと刻印の入れられたポットで眠る一人の女性に眼を遣った。穏やかな表情を浮かべる、若紫色の髪をした女性。その顔に、零は見覚えがあった。それは数日前、ゲンヤ・ナカジマ三佐が提供した「戦闘機人事件」のデータの中で。
そして虫を使役する、幼い召喚師を。
「……メガーヌ・アルピーノ……」
当時は戦闘機人事件を追っていた捜査官で、陸戦魔導師。まさかこんなところに囚われていたとは、と零は嘆息する。八年前に「死亡した」はずのゼスト・グランガイツ、明かされないクイント・ナカジマの死因、「地上の正義の守護者」レジアス・ゲイツにまとわりつく黒い噂。
何より疑問なのが、ジェイル・スカリエッティだ。この事件以前から通信映像や音声データが確認されているにも拘らず、逮捕歴は無い。そして一部のガジェットに使われていたジュエルシードの存在――これら全てが偶然とは考えられない。もしそうならレジアスは今頃、いつぞやの演説のようにスカリエッティやその一味の逮捕を叫んでいるはずだ。虎の子であるアインヘリアルを失ったためか、ゆりかご浮上から今まで、彼らの発表は無い。
「ということは……ゆりかご含め、後ろについている奴がいる……」
そしてその黒幕は、相当の権力者か何かなのだろう。そう零は思考に結論付けた。空の様子を確認するため開きっぱなしにしていたモニターに眼を遣る。そこには魔導師隊をものともせず、無数のガジェットを地上へ送り出す巨大な戦艦が映し出されていた。
スカリエッティが発見し、今も上昇を続ける『聖王のゆりかご』。その巨大さと教会に伝わる資料を一読すれば、さらに絶望したくもなる。そしてこの状況だ。
もう一度舌打ちした零の両足に、先導していた無限の猟犬が音もなくすり寄る。猟犬の頭を撫でて、零は僅かに頬を緩ませた。
「立ち止まってる暇はない、よな」
この奥で待っているのはスカリエッティと戦闘機人、そしてせいぜいガジェットくらいである。いくらここが高濃度のAMFで満たされていると言えども、零やフェイト、そしてシャッハの足を止めることなどできはしない。洞窟の外には教会騎士団と陸戦魔導師隊、空にはエースオブエース、夜天の王とその騎士、航空魔導師隊。そして地上では愛弟子とストライカー級の魔導師が戦っている。
――自分が戦わなければ、どうする。
(ウイルス汚染されたゾンビとか怪物が出てこなければ、勝つる……多分!)
脳裏に過ぎる光景は、ずっと幼い頃に双子の弟・彼方と一緒に遊んだゲームの記憶。個人的には2が好きだとかふざけたことを吐いても、ツッコミがない虚しさ。無事に帰還したら筺体ごと六課に持ち込んで深琴にやらせてみよう。怖がるか平気な顔してるか二通りだが、どっちかというとその反応を見たディバインの反応が見たい。
弄り甲斐のある奴は楽しい。よし、覚悟完了。
刀を構え直し、零は前を見据える。奥から再びガジェットⅠ型、Ⅲ型が続々と出現しているところだった。
「行くぞ……っ!」
◇
アルトが操縦するヘリに乗り込んで、私たちフォワードチームは降下ポイントを目指していた。追撃してきたガジェットⅡ型を振り切るため発生した揺れを乗り切って、私たちは改めて作戦と役割を確認する。
「あたしたちはミッド中央、市街地方面――敵戦力の迎撃ラインに参加する」
ティアナの言葉と同時に開かれた周辺マップ――廃棄都市区画のそれには、迎撃ラインとそこに近づいてくる赤い点が表示されていた。
「地上部隊と協力して、戦闘機人や召喚師達を最前線で迎撃――だよね?」
「そう」
「他の隊の魔導師たちはAMFや戦闘機人戦の経験がほとんどない。だからあたしたちがトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る」
「後は迎撃ラインが止めてくれる、というわけですね」
私の言葉にティアナが頷き、スバルが補足する。最後のキャロの確認に、ティアナは頷いた。
そう上手く行くといいけど……なんて言葉を、私は飲み込んだ。戦闘機人たちと召喚師、そして未だ姿を見せないフェア――彼らとガジェットの相手なんて正直しんどいし、ギリギリだけどやるしかない。
何故なら迎撃ラインの向こうに広がるのは市街地と、地上本部なのだから。
そして未だに、今回の事件について地上本部は自分たちだけでの調査を強硬に主張し、本局の介入を拒んでいる。状況は相変わらず後手後手だ。捜査情報も公開されていない。ここまでくれば地上本部も自棄なのだろう。本局からの戦力投入も未定だ。もちろん機動六課の後見人の皆さん、その他個人的な繋がりを駆使して掛け合っている状況である。
だが、そんな思惑と地上部隊の魔導師達は関係が無い。もちろん、本局直属の私達――機動六課も。
「でも、何だか……」
エリオが口を開いた。
「何だかちょっとだけ、エースな気分ですね!」
「……そうだね」
なのはさん風に言うなら、「ストライカー」だろうけど。それでも今、迎撃部隊にとって頼れるのは私たちだけ。諦めるわけにはいかない。
「……後は、ギンガさんが出てきたら」
言いづらそうに、ティアナは口を開いた。脳裏には先ほどモニターに映っていた、戦闘機人達と行動を共にしているギンガさんの姿が過る。洗脳されてるだけだ。そう思いたい。
「優先的に対処」
「安全無事に確保」
「うん」
「よっし、行くわよ!」
ハッチが開き、私たちは勢いよく飛び降りる。――その姿を、六課を襲撃した戦闘機人が見ていることに気づかないまま。
「ノーヴェ、ディード、ウェンディ。例の5人がそっちに向かってる」
『ほんとか?』
「ああ。……ただ、前とは状況が違う。正面から戦う気で来てる」
『なーに、望むところッスよ!』
その様子を確認した戦闘機人――No.8オットーは、淡々と指示を出す。
「ゆりかご浮上前に、中央本部を制圧。司令部を押さえたい。――状況に対する不確定要素は、なるべく排除する」
◇
「っ!」
フリードの背に乗ったキャロが、廃ビルの屋上を見た。そこには憂いを秘めた目をした少女――見間違えるはずもない。召喚師とその召喚獣が立っている。
こちらの視線に気づいた少女は、左を指差した。そこにはアルトが操縦するヘリが――!
「フリード!」
キャロの声に従って、フリードはエリオ、キャロを背に乗せたまま召喚師へ向かっていく。
「キャロ! ……予定変更、こっちを先に捕まえる! いいわね、スバル、深琴?」
「了解!」
文句なんかあるわけない。スバルも頷き、ウイングロードを発動させる――その瞬間だった。
どこからともなく、緑色の光線が回り込むように誘導軌道をとって放たれた。
近くにあったビルの屋上に跳躍して回避したティアナを、あの双剣タイプの戦闘機人が。
そのまま後方へ跳躍したスバルを、格闘タイプの戦闘機人が。
そして空中の私を狙って、深い青色をした道と、左拳が飛んでくる。
「……ギンガさん……」
「……………」
バックステップを取って回避しつつ、右のフォルム・ドライのダガーで拳を受け流す。だが顎を狙って放たれたブリッツキャリバーの蹴りに、一瞬だけ意識が飛んだ。その一瞬で十分だったのだろう。
腹部に衝撃が走る。痛いとかそんなレベルじゃない。勢いよく殴り飛ばされた私はそのまま地上へ落ちる。高高度リカバリーがなかったら死んでた、多分。
『ティア、深琴!』
涙混じりの、スバルの声が聞こえる。だが彼女に返事をする前に、深紅色の砲撃が飛んできた。
「……フェア……」
「深琴、久しぶり」
相変わらずの笑顔で、フェアは言う。その向こうでギンガさんは走り始めていた。確かあの先にはスバルが――!
「っの……!」
「行かせないよ」
追いかけようとした次の瞬間には、フェアに阻まれる。
こんなところで足止めされるわけにはいかない。急いでみんなに合流しないと――!
『ライトニング、スバル、深琴!』
「ティアナ!?」
『作戦、ちょっと変更。目の前の相手、無理して一人で倒す必要はないわ。足止めして削りながら、それぞれに対処。それでも充分、市街地と中央本部は守れる』
ティアナの指示には焦りさえ見える。
『通信は以上!全員、自分の戦いに集中!!』
「ちょ、ティアナ!?」
いささか性急に通信は切れた。……まさかさっきの戦闘機人三機が、ティアナを?
視線を廃ビルに移すと、緑色をした半透明な何か――恐らく結界だろう――に包まれているのが見えた。何度呼びかけても、返事はない。
(エリオとキャロは召喚師とその召喚獣、スバルはギンガさん、ティアナはあの三機……そして私がフェア……)
ロゼットを握る手に力を込める。弱音を吐いている暇も、立ち止まっている暇もない。私にできるのは彼を保護した後、みんなの援護に回ることだ。支援や補助はロングアーチの十八番である。
フォルム・アインを構え直す。相対するフェアもまたショートソードを構えた。
「最後通告。深琴、一緒に来る気はない?」
「そんな気、あるわけ無い」
「そっか。残念」
その割には、フェアの声音は明るい。
ただ願うのは、平穏無事な和解。だがそれも叶うはずがない。なら、私にできることは一つだけだ。
互いの距離を詰め、斬りかかる。深紅と淡紅――二つの紅が火花を纏った。