魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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25:ファイナル・リミット

 黒銀と蒼氷が輝く。ブラックアウト寸前の意識で腕を伸ばす。それは奇しくもあの日と同じ光景で、その懐かしさに頬が動いた。

 けれど、確かに違うものが一つだけ。「生きたい」と唇を動かして、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 その時、アースラ内のロングアーチメンバーに衝撃が走った。ゆりかごは尚も上昇を続けているが、残る戦闘機人はゆりかご内部のNo.4のみ。スカリエッティの逮捕、ライトニングFによる召喚師一味の保護、ギンガ・ナカジマの無事救出という嬉しい報告が続いていたこともあって、ダメージは人一倍だった。

 

「高濃度の魔力爆発を確認! 場所は……っ、ロングアーチ04の交戦地点です!」

『うん……こっちも目視で確認したよ』

 

 シャーリーの報告を聞いたはやては、視線をその地点に戻す。

 

「深琴のことやから魔力砲撃ってことも考えられるけど……それだけにしては威力が大きすぎる。……多分……」

『レリック破壊による爆発、ですよね……』

『横入り、失礼します』

 

 アースラに繋げていた空間モニターに、一人の少女の姿が映った。

 

『ロングアーチ04及び交戦していたアンノウンですが、無事を確認しました』

 

 モニターが切り替わり、意識喪失状態の二人が映し出される。

 

『っ……』

『深琴!?』

 

 僅かに身動ぎした深琴に、シャーリーは悲鳴混じりの声で呼びかけた。その隣で作業を続けるグリフィスもまた、返事を待っている。艦船操舵を行いながら、ルキノが唇を噛んだ。

 ゆっくりと、黒い瞳が開かれる。

 

『……シャーリー……?』

『深琴! 大丈夫!?』

『な、なんとか……』

 

 銀色のバリアと、黒銀の魔導師の腕に抱かれて。

 息も絶え絶えな様子ながらも、深琴はそっと微笑んだ。

 

 

 ◇

 

 

 フェアに埋め込まれていたレリックが、桜華一閃で打ち込まれた魔力に反応し――結果爆発した。魔力のほとんどを使い果たし、また防御力度外視のバーストフォームを身に纏っていた私に完全防御をする術はなく――重症は覚悟の上、とバリアバーストとリアクティブパージを発動させた……とこまでは覚えている。

 次に目を覚ましたのは、今にも泣きそうな声でシャーリーが私を呼んでいた時。ぼやけた視界の向こうで銀色が揺れていて、その向こうに青空が見えた。

 ……あれ? 私、生きてる?

 

『深琴、大丈夫!?』

《Are you all right,buddy?》

「な、なんとか……」

 

 乾いた笑い声が上がる。生きてるんだ。その事実に驚く……ってちょっと待て、私。

 段々鮮明になってきた意識が、現状を認識し始める。視界の端に映り込む黒銀。背中と膝下に腕が回されて、不思議と不安定さは感じない。抱き上げられていることは確かなんだけど……問題はその人物だ。

 若干怯えながらも、私はその人物――アーウィング執務官を見上げる。執務官は表情の見えない顔でモニターと地上付近を見つめていた。

 だがその瞳は、とても冷やかな色を湛えていた。青色だとかそんなレベルじゃない。……完全に、怒ってる。その原因の6割くらいは私だろう、多分。

 

「……今回ばかりは……」

「?」

「……本当に、間に合わないかと思った」

 

 言って、執務官は私を抱き寄せる。その唇からは安堵の息が洩れていた。そのままの体勢で、私たちはゆっくりと地上に降りていく。

 

「ロゼット、大丈夫?」

《No problem.》

 

 ボディには罅が入っているが、前回のようにシステムダウンする程の損傷ではないらしい。残りの魔力値は、およそ3割ほど。デバイスのリカバリーと防護服を再装着するには十分足りる。

 

《Recovery.》

「うん。……それと……」

 

 地上に降りて、私は覚束ない足取りながらもフェアのもとへ向かう。蒼氷色のバリアに覆われた彼から、先ほどのような妙な威圧感は感じない。

 

「……改めて、ロングアーチ04より、ロングアーチ、スターズF、ライトニングFへ」

 

 気を失っているフェアの状態を確認する。意識喪失と戦闘時に負った傷以外、目立つ異常はない。埋め込まれていたレリックは爆発の中心にあったせいか粉々に砕け、9割ほど消失していた。

 

「交戦していた、アンノウンの少年を保護。意識喪失と軽傷は見られますが、それ以外に異常は見当たりません。埋め込まれたレリックも9割ほどが消失。粉々に砕けてます」

『うん、了解。召喚師一味はライトニングが保護したし、戦闘機人も残るはNo.4だけだって』

「そっか……ゆりかごは?」

『軌道ポイント到着まであと38分。次元航行部隊の到着までは……後、45分』

「7分差……」

 

 しかも主砲は既にミッド首都に向けられている。7分もあれば……。

 

「……撃てるだろうな、確実に」

「ですよね……」

 

 内部の状況は分からない。ヴィヴィオは無事なのか、なのはさんもヴィータ副隊長も怪我してないかとか心配だし、不安だ。

 

『悪ぃ。ちょっと問題発生したっぽい』

 

 もう一枚モニターが開き、映し出された零さんが口を開く。

 

『なんか自爆しそうだわ、このアジト』

「じばっ……ええ!?」

 

 何さらっと言ってるんですかこの人!

 

「『ちょっと』の範疇をだいぶ超えてるだろ……」

「相変わらず空気が読めてるんだか読めてないんだか……」

 

 一人パニックに陥る私をよそに、執務官と秋葉さんはそれぞれ溜息を吐いていた。

 

『ライトニング3より、ロングアーチ04へ。こちらライトニング3』

 

 モニターが切り替わり、フリードの背に乗ったエリオが映し出される。その後ろにキャロは乗っておらず、見慣れない黒い竜の手の平に乗っていた。黒竜を見た瞬間、故郷ではよく知られている怪獣が出てきたが、心の中に仕舞っておく。

 

『フェイト隊長達の救出は僕たちが行きます』

『地上の支援は、私とヴォルテールが!』

 

 確かに今から私が飛行しても、間に合わないことは確実だ。それにフリードとヴォルテール――二騎の竜召喚を成功させ、戦力にしている二人なら大丈夫だろう。

 

「分かった。そっちは任せる。気を付けてね」

『はい!』

『深琴さんも、気を付けて!』

 

 軽やかな音を立てて、モニターは閉じられる。さて、これからどうしたものか。

 いつの間にか活動を再開したガジェットが空と陸、両面から襲いかかっている。そちらの迎撃に向かうべきだろうが――魔力がほとんど残っていない私が行っても、足手まといにしかならない。

 

「……フリージア」

《Divide Energy.》

 

 フリージアと呼ばれたデバイスの蒼氷色の宝石部分から、同色の魔力がロゼットに流れ込む。

 

「きっちり半分こ……ってわけにはいかないんだけど、前に分けてくれたお礼」

 

 流れ込む魔力が、私のリンカーコアに蓄積されていく。数値にして30%程分け与えられた。先ほど使ってしまったが、なんとか半分――これなら、行ける。

 

「ごめんね。私、深琴ちゃんと違ってそこまで魔力量多くないから……」

「いえ! ありがとうございます!」

《Thanks.》

《You're welcome.》

 

 もう支えなしでも立てるし、歩けて、飛べる。だから、大丈夫だ。

 

 

 ◇

 

 

「……ゆりかご、速度が落ちたみたいですね」

 

 本局武装隊、教育隊待機室。そこで出動命令を待ちながら装備確認をしていたルーチェ・バイオレットは、同じく装備確認中の秋月英史に話しかけた。待機室の外は未だ騒がしく、足早に通り過ぎる局員が数多くいる。

 

「このまま、無事に終わるといいんですけど」

「終わらせるだろうさ。六課の連中が確実に」

「そうだといいんですけど……」

 

 それでも、ルーチェの心は晴れなかった。出動しているはずの親友と未だ連絡は取れない。親友の伯父である彼もまた同様のはずだが、不思議と落ち着いている。

 

「……深琴、無事だといいですね」

「無事だよ。あの子は強いからね」

 

 

 ◇

 

 

 その部屋は、もとより空き部屋だった。由緒正しい日本家屋を所有する秋月家には、そんな部屋は多数存在していた。勿論内装は時代を経るごとにリフォームされ、今となっては洋風な内装になっているが。

 秋月静真と深琴の母、秋月遥は――この家が嫌いだった。歴史の長く、それゆえにしがらみも多いこの家が嫌いだった。

 何より嫌っていたのは、その家風。四角四面、現実主義を信条とする遥とは正反対の――神秘だとか、異能だとかオカルト的なものを、秋月家では信仰していた。実の兄が自分の全てを家に捧げなければならない程、弱体化していたが。 

 何が魔法だ。何が神秘だ。そんなものあるわけない。あったとしても全て科学で説明できる。そう主張する遥は、内心で兄を羨んでいた。自分にはない才能を持ち、勉強も運動もなんでもできる兄。そして才能がなく、何もできない自分。

 そんな家に居続けることを遥は拒絶し、高校卒業後単身関西へと渡った。そこで今の夫に出会い、二人の子供をもうけることになる。遥本人は秋月姓を継ぐことに反対していたが、夫の強い要望もあって渋々賛同したのだ。

 だが一人目――静真を、遥はどうしても愛することができなかった。言語学習能力が高く、運動神経も優れた彼に、兄を重ねてしまっていたから。

 だからこそ遥は当初、深琴にその愛情を注いでいた。それは彼女が突発性意識喪失という発作を起こすようになっても変わらなかった。――むしろ重症化していた。この子は大丈夫。この子は自分と同じだと愛情を注ぎ続けて。

 だが、結果はどうだ。自分と同じだと思っていた深琴が兄と同じ「魔導師」の素養があって、兄の面影を持つ静真が「自分と同じ」だったなんて――そう簡単に信じられなかった。そして思わず口を衝いた言葉が、遥の脳裏に過っては消える。

 

『あれの母親になった覚えはありません』

『あなたなんか、産まなければよかった』

 

 そんなはずはない。そう思い、遥は顔を上げる。コルクボードに留められた写真には、その全てに紺色の制服を身に纏った深琴が映っている。共に見ることができなかった彼女の成長の速さに、遥は悲しみと悔しさを噛み締めた。

 兄がその力に目覚めた時、遥は確かに嫉妬を覚えた。だがそれと同時に、より家に、血に束縛される彼を見ていられなかったのも事実である。それが例え静真でも、深琴であっても変わらない。

 今、深琴は遠い世界で戦っている。その世界が平和になれば、静真もその世界へ行く。時間は、ない。勝手な願いだとは分かっている。それでも、遥は願わずにはいられなかった。

 

「深琴……どうか、無事で……」 

 

 そしてまた会える時が来れば、その時はもう一度自分を母と呼んでほしい。

 未だ連絡のない携帯端末を握りしめる。遥の頬に幾筋もの涙が流れた。

 

 

 ◇

 

 

 ギンガを背負うスバルと、足を半ば引きずるように歩くティアナ。先ほどヴァイス陸曹、シャマル先生から指示のあった廃棄都市の道路で、私たちは再会を果たした。

 

「スバル、ティアナ!」

「深琴!」

「よかった、二人とも無事で……ギンガさんも」

 

 ヘリが無事に着陸し、シャマル先生がギンガさんを受け取った。

 

「シャマル先生、フェアをお願いします」

「ええ」

「……深琴……」

「大丈夫だよ。シャマル先生、いいお医者さんだもん」

 

 不安そうなフェアに、私は笑って見せる。そして私とティアナは、同時にヘリに格納されたバイクを発見した。

 

「船の上昇は止められたみてーだが、あの中じゃまだ、戦いが続いてんだ」

 

 操縦席より下りたヴァイス陸曹は、見慣れないライフルを抱えていた。

 

「突入したなのはちゃんたちと連絡がつかなくなってるの」

「えっ!?」

「インドアでの脱出支援と救助任務、陸戦屋の仕事場だぜ!」

 

 頷いたスバルとティアナは、ヘリへと乗り込む。

 

「……ヴァイス陸曹。私も、同行してもよろしいでしょうか?」

「だ、駄目よ! そんな状態では許可できません!」

 

 シャマル先生が青ざめた顔で言った。

 確かにコンディションとしては最悪である。分けてもらったとはいえ魔力値は半分ほど。止血はしてるし痛みもないけれど……騙し騙しであることには変わりない。でも……。

 秋葉さんが巻いてくれた包帯を、やや手荒に解く。露になった肌に負ったはずの傷は、消えていた。

 

「嘘……あんなにぼろぼろだったのに……」

「ある意味、人じゃないんで。私も」

 

 目を丸くする秋葉さんに、私は苦笑する。高濃度のAMF空間でも、私のリンカーコアは耐えられるはずだ。それに、私が行かなくてはならない理由はまだある。

 

「ゆりかごは完全に破壊しなくてはいけません。でないと、うちのご先祖が報われませんから。仮にも古代ベルカの人間でしたし」

「深琴ちゃん……」

「……行くのか?」

「はい。なのはさん達が心配ですし……今度こそ、助けるって決めましたから」

 

 それでも――やはりというべきか、シャマル先生はまだ心配そうだった。けれど溜息を吐いて、肩を竦める。

 

「仕方ないわね……でも、絶対無理はしないこと。限界だと思ったらすぐに退避すること。いいわね?」

「はい。ありがとうございます!」

「……深琴」

 

 急いでヘリに向かう私を、フェアが呼びとめた。その手には待機形態に戻ったアインザッツが握られている。

 

「アインザッツを連れて行ってあげて……ゆりかごに関係するプログラムが構築されてるって、前にドクターが言ってたから……」

 

 フェアの目は、両目とも深紅色に戻っていた。心細げな彼に、私は笑顔で頷く。

 

「大丈夫。ちゃんと帰ってくる。それから、ゆっくり話そうね」

 

 今までのことも、これからのことも、全て。

 

「……うん……」

 

 穏やかな笑顔で、フェアは頷いた。私たちを搭載したヘリは、ゆりかごまで一直線に向かう。

 託された願いと、受け取った思い。守りたい人と、帰りたい場所。

 

「――絶対、助けようね」

「うん。みんな、一緒に」

「当然よ」

 

 私の言葉にスバルが頷いて、ティアナは微笑を浮かべた。

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