魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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26.5:The Day after Ⅰ

 9月14日。――次元世界を震撼させた、時空管理局ミッドチルダ地上本部襲撃事件。その中心にあったのは次元犯罪者ジェイル・スカリエッティと、その作品群「ナンバーズ」。

 対策部隊である機動六課は主力が出撃していた間隙を突かれ召喚士ルーテシア・アルピーノとその召喚獣たち、魔導師フェアクレールト・ナハト及びガジェット群によって本部全壊。

 真実を知り得ないまま高町なのはが保護していた「聖王の器」はスカリエッティの計画の為拉致。機動六課出向中のギンガ・ナカジマ陸曹は、ナンバーズ三名によって致傷及び拉致。

 ――十年以上の過去にさかのぼる「戦闘機人事件」。そして「人造魔導師計画」。

 管理局の希望と暗部が螺旋の様に絡み合うその事件の最中、無限の欲望は牙を剥く。――聖王のゆりかご復活と、聖王覚醒。

 待ち望んだ主を得てゆりかごは空へと上がり、空と陸、激戦の果てに掴んだものは――勝利と達成と、伸ばした手を取り合うこと。

 そして決戦の後もなお飛び続けるゆりかごと自壊を続けるスカリエッティの本拠地。

 取り残されたエース達を救出したのは機動六課のストライカー五名。

 事件は幕を閉じ、混乱の一時は瞬く間に過ぎてゆき……。

 10月の暦が終わる頃、機動六課はその隊舎と共に、平穏な日々を取り戻していた。

 

 

 

 

 機動六課隊舎、陸戦訓練場。その一角で、私達フォワードはぐったりしていた。

 

「あーあー。フォワード諸君、ぶったるんどるねえ」

 

 そう言ったのは、私達のデバイスを預かりに来たアルトだった。

 

「たるみもしますよ……」

 

 息も絶え絶えに言ったのはティアナ。その言葉に同意して、スバルがよろよろと立ち上がる。

 

「最近ますます訓練がキツイんだよー……」

「訓練レベル、どんどんあがってるもんねえ」

 

 アルトの言葉通り、最近高町教導官、ヴィータ副隊長の訓練レベルは上昇の一途を辿っている。少し前――今ではJS事件と呼ばれる事件で一番の大ケガをしていたはずなのに、誰よりも速く復帰して。

 

「まあレリック事件は終わったけど、みんな魔導師としてはまだまだレベルアップできるんだもんね」

 

 言って、ルキノはデバイスを受け取る。

 

「卒業までに教えることが目白押しなんだそうです」

「うれしいですがちょっと大変です……」

 

 キャロの手を引いて、エリオは言う。

 

 ……卒業、か。

 一年間の期間限定で設立された機動六課は、来年の四月でその役目を終える。同時に隊員達は各々古巣や新天地へと向かう……のだろう。

 今のところフォワード陣では私とエリオ以外は古巣に戻る予定だ。スバルとティアナは386部隊に、キャロは自然保護部隊に。

 事件解決の協力者である霜月秋葉さんは、かつて所属していた航空武装隊へと復帰する予定だとか。今はリハビリに忙しいらしい。時々六課を訪れては、本格的な治療を受けている。

 

「そっか。深琴も士官学校出て、すぐうちに来たんだもんね。希望とかあるの?」

「希望とかは、あまり……」

 

 娘同然に育ててくれた伯父から、教育隊へ来るよう誘いを受けているが、保留にしている。

 もちろん希望はあるが――正直なところ、自信がない。六課で過ごした一年間で少しは強くなっているとは思うけど……。

 

「まあ深琴は忙しいもんね」

 

 言って、ルキノはロゼットを受け取る。あ、とアルトは思い出したように声を上げた。

 

「そっか。試験ってもう来月なんだっけ」

「うん」

「勉強も大事だけど、ちゃんと寝ないと駄目だからね」

 

 ルキノは言う。というのもつい先日深夜まで私の部屋の灯りが付いていたところを目撃しているから。今から一年未満にはまだ士官学校の学生だった私は、試験勉強にも特に嫌悪感を持っていない。ただ勉強中はそれに集中しているせいか周囲――人の動きだとか時間だとか――にかなり鈍感になる。

 おかげで隊員の九割以上が知っているアルト・クラエッタの「恥ずかしい秘密」(彼女に言わせれば黒歴史らしい)も知らなかった程だ。……まあ当初は誰かと必要最低限の会話ができなかったというのもあるけど。

 それを考えたら、成長はしてるんだよね。再会した兄とは頻繁にメールするほどまでに関係が修復されたし、つい先日まで敵対していた親友とだって説得できたし。一部始終を知った兄貴分は「何その『友達に……なりたいんだ』からの全力全壊」とか言ってたけど気にしない。

 

「そーだ。八神部隊長から伝言」

「?」

 

 ぽんっ、と手を叩いたアルトが口を開いた。

 

「アーウィング執務官から面会予約入ってるって。ちなみに待ち合わせまで後15分程」

「それは早く言ってほしかった!」

 

 

 ◇

 

 

 全速力で寮へ戻った私は、大急ぎでシャワーを浴び、陸士制服に着替え、待ち合わせ場所である機動六課隊舎へと向かう。飛んだり加速魔法が使えたらいいんだけど、隊舎内での魔法使用は原則禁止とされていた。近くを通る同僚たちは「頑張れよー」とか「転ぶなよー」とか声をかけていた。誰もぎょっとした顔で振り返らない。いや、まあちゃんとぶつからないようにルートは目視確認してるんだけど、一人くらい何事かくらい思おうよ。

 目的地は機動六課隊舎・ロビー。部隊員や外部との交流がメインのこの場所は、食堂に次ぐ利用率だったりする。その一角に、アーウィング執務官はいた。

 

「すいません! お待たせしました!」

「ああ……っ!? 馬鹿、そんな靴で走るな!」

 

 言って、執務官は立ち上がる。それと同時だった。

 いきなり叱責された事実に、僅かなりとも動揺した私はバランスを崩す。右足が嫌な音を立てた。

 ――本当に今更だが、ここ機動六課では制服の着こなしはあまりうるさく言われなかったりする。ヴァイス陸曹はほとんど運輸部の制服だし。それ以外のみんなは、よほどのことがない限り陸士制服を着用する。

 しかしリボンやネクタイの色や形、靴下やストッキングの種類・丈、そして靴はまったくもって自由だ。ちなみに私は淡紅色の紐リボンに黒のオーバーニーソックス、そして同色でヒールが低いパンプスを愛用している。

 さて、ここで本題に戻ろう。私が履いているこのパンプス、ヒールが低いため非常に走りやすい。だがいくら低いヒールと言えど、ある程度の安定さと走りやすさを考慮すると「ぺたんこ」にはできない仕様だ。

 つまるところ、全力疾走していた私はヒールが滑ってバランスを崩し、右足を挫いて、そのまま右寄りに。

 ――それはもう盛大に床にダイブした。

 

「深琴!」

 

 駆け寄った執務官は私を抱き起す。反射的に衝撃緩和魔法を発動したおかげで痛みはほとんどない。あるとしたら右足と精神的なものだ。ロビーにいる人があまりいないのが幸いである。

 大急ぎで右足首にヒーリングをかける。徐々に和らいでいく痛みは、一分後にはまったく感じなくなった。

 

「大丈夫か!? 他に怪我は……」

「……だ、大丈夫です」

 

 ――なんか、子供扱いされてる気が……。

 

 そもそもの出会いは「被災者とその救助者」だから仕方ないとして……でもあれからもう4年が経つ。再会してから6ヶ月は過ぎていて、その間にナンバーズとの交戦、地上本部襲撃事件(機動六課隊舎襲撃も含む)、そしてJS事件とその殆どに彼は関わっていた。

 

(って言っても、執務官とお兄ちゃんって一つしか変わらないはずだし……)

 

 ……もしかしたら私は執務官と兄を重ねているのかもしれない。自分を守ってくれる存在として。自分を(少なくとも兄は他の家族よりはそうだった)大切にしてくれる存在として。

 

 傍にいてくれると安心できて。姿が見えないと寂しくなって、つい探してしまいそうになる。自分で何とかしなきゃと思っても、その存在を頼りにしてる自分がいた。

 でも、このままじゃ駄目なんだ。強くならないと。彼を頼りにするのではなく、彼に頼られるような――そんな強い人にならないと。

 

「――だいたいお前はいつも……深琴?」

「っ、あ、はい!」

 

 呼びかけに顔を上げると、心配そうな青い瞳と視線がぶつかった。

 

「顔色が悪いが……さっきの怪我、まだ痛むか?」

「いえ、大丈夫です! っていうかさっきのはもう掘り返さないでください!」

 

 かつてのヴィヴィオなみのダイブto床は精神的にきついものがある。年齢的な意味で。だからできるならもう二度と掘り起こさないでほしい。

 と、執務官は「ならいい」と話を切り替えた。

 

「はやて達から聞いた。――六課卒業後進路について、色々声がかかっていると」

「……みたい、ですね……」

 

 伯父からは本局教育隊に。副隊長達と秋葉さんからは航空武装隊に。そして。

 

「それとなのはからも、声がかかってるんだろう? 教導隊に来ないか、と」

「……はい」

 

 ポジションフリーとしての私の主な戦闘スタイルは一応「航空剣技」である。ちなみにこのスタイルは珍しく、またその上でミッドチルダ式の砲撃魔法を使用し、古代ベルカ式技能者の私は更に希少だとなのはさんは言っていた。だから教導隊(うち)に来ないかって。戦技教導隊は(平時は)装備や戦闘技術のテストや研究、演習での仮想敵役や技能訓練が主な仕事だ。私のスタイルならどの仕事だってこなせるから――となのはさんが熱弁を振るっていたのを思い出す。

 

「……なんか正直言って、頭がパンクしちゃいそうなんです。どこに行けばいいのか、全然わからなくて……」

 

 六課に入隊する前は、そんなことなかった。ランク試験はあるし、進路は中々決まらないし、その詳細の話が私に降りてくることはめったになかった(教官や伯父、その他スカウトしてくれた部隊までで止められていたとは聞いているけど)。

 そしてあの頃は、ただ執務官に会いたいという思いでいっぱいだった。会って話がしたい。感謝の言葉を改めて伝えたいと、それだけで一日一日を過ごしていて。

 でも、彼と再会し、こうして気兼ねなく話をすることができるようになって、分からなくなった。これからどうすればいいのか。いや、そもそも「これからどうしたいのか」が。ただ根底にあるのは強くなりたいというだけ。

 

「……あまり、お前を困らせたくはないが……」

 

 言って、執務官は「仕方ないか」と溜息を吐いた。そして意を決したように真剣な目で私を見据える。

 

「深琴。俺と一緒に来る気はないか?」

「……………え?」

 

 言葉が、それ以上出てこなかった。今、彼はなんて言った?

 駄目押しと言わんばかりに、執務官は再び言葉を紡いだ。

 

「俺の副官――執務官補佐をやってみる気はないか?」

「……すいません」

 

 ああ、言っちゃったよ。私の返事――しかも拒否を聞いた執務官は、指先一つ動かすことなく固まっている。私の予想だと「だよなー」とあっさり受け入れると思ってたんだけど……。

 余程衝撃的だったのか、執務官が自力で我に返ったのはそれから五分程経過した頃だった。そして「一応言っておくが」口を開く。

 

「別に補佐考査を受けろというわけじゃない。俺はフェイトと違って正式な補佐官を持ったことがないから、希望指名でお前を……」

「でしたら、尚更……すいません」

 

 引き抜く、と続けようとする彼の唇が、閉ざされる。何故、とその眼が聞きたそうに揺れていた。

 

「その、受けるつもりなんです、私。再来週の……『執務官補佐考査』」

 

 

 ◇

 

 

「で、現在進行自棄酒中ってか」

「……悪いか」

「悪くはねえよ。原因が原因だからむしろ笑える」

 

 不敵な笑みを浮かべて、零は手にしていた缶チューハイを呷った。そのペースは非常にゆったりとしたもので、かれこれ一時間以上は経過しているにも関わらず、まだ一本目を開けれていない。

 一方のディバインはその手で缶ビールを無意味に揺らしながらも、20分に一本のペースで缶を開けていく。ちなみに彼がメインで手にしているのは500ml缶で、零は350ml缶である。

 現在彼らがいるのはミッドチルダ首都・クラナガンのマンション。ディバインが自宅として申請している部屋だった。「虫の知らせ」を聞いた零が缶チューハイを購入してそこを訪れたのが1時間半前。その時点でディバインは自棄酒を開始している。

 

「……何で、深琴は……」

 

 俺の誘いを断ったのだろう。何故俺の傍にいようとしないのだろう。先ほどから事あるごとに呟かれたその台詞が、再び紡がれた。

 

「仕方ないだろ。深琴本人が考えて出した結論だし。それに正式な資格を取ってから引き抜くって手が残ってるだろうが」

「……それじゃ、遅すぎる」

「十分だろうが。しかもお前は六課の連中にある程度顔が利く分、他の部隊のやつらに比べて恵まれてる。深琴本人と個人的に連絡取れる分、六課を――はやてを通す必要はない。違うか?」

 

 溜息混じりに、零は言い放つ。そろそろ彼の堪忍袋も限界が訪れていた。別に、友人の愚痴を聞くことが嫌なわけでも、例え酔っ払いであってもその世話が嫌いなわけではない。ただ問題を挙げるとすれば、一つ。

 

「お前、深琴に対する認識をそろそろ全面的に改めろよ」

 

 その一点に尽きた。

 

「あの火災から4年。深琴だってもう14歳だ。いつまでも子供扱いしてんじゃねーよ」

 

 その気持ちは分からなくもないけど、とは言葉にしない。そしてディバインもまた口を開いた。

 

「『もう』じゃない。『まだ』14歳だ」

「それでもだ。俺たちはその年にはそれぞれ今の職場で、今の仕事をしてただろうが。……まあその分、早い頃から訓練は受けてたけどさ」

「だったら尚更、潰されないように守るべきだろ」

「何に潰されるんだよ。管理局か? 仕事か? それとも上司か? そもそもそれは深琴が自分で考えることだし、あいつの横のつながりは俺やお前の比じゃない。俺やお前が出しゃばる領域じゃない」

 

 ミッドチルダ第一士官学校を卒業した深琴の同期の殆どは、時空管理局本局でキャリア組として日々その仕事に従事している。特に彼女たち61期生はこれまでにない豊作だったらしく、首席卒業チームを除いた9割が管理局にキャリア組として入局していた。

 深琴自身はあまり友人付き合いが得意な方ではないが、それでも相手は同期生、そしてその3割程はクラスメートとしての付き合いがある。特に深琴は最年少。「妹分」として可愛がられていたのは彼女に関係する人物にとって周知の事実だった。

 

「いいこと教えてやるよ、ディバイン。深琴に直接声をかけた人間で、お前以外の全員が深琴の『現在』を評価してるんだよ。お前みたいに、いつまでも過去の――『守られなきゃいけない』あいつじゃない」

「……………」

「いい加減分かってやれよ。っつーか、そこまで深琴にこだわるなよ。そりゃ深琴が珍しいのは分かるけど」

 

 執務官として、そしてそれ以前から「何も守れなかった」ディバインが唯一守れた命。だからこそ彼女の危機にはすぐさま駆けつけ、手を貸す。その気持ちは分からなくもない。だが彼のそれは行き過ぎだと零は感じていた。確かに自分も深琴や秋葉に甘いが、それでも突き放す時は突き放している自覚がある。

 

(いっそそういう関係になった方が楽なんじゃねえの、こいつの場合)

 

 彼の行動原理は「深琴を守りたい」だ。そしてそれは「自分が」、「深琴を」、「自分の傍で」、「自分(自分の知り合い)以外から」守りたいという、言ってしまうなら独占欲から来ている。

 そんな動機で将来を束縛される深琴に心から同情した零は、溜息を零した。

 

(まあでも、見ていて飽きないからいいけどな)

 

 きっと今頃、件の妹分は盛大にくしゃみをしながらも来るべき日に向けて勉強を進めているのだろう。

 

 

 ◇

 

 

「くしゅん!」

 

 盛大にくしゃみをした私は、膝にかけていた薄手のカーディガンを羽織った。さすがに夜になると冷えてくる。

 

「大丈夫?」

「うん。ティアナこそ、寒くない?」

 

 場所は機動六課の寮、私の私室。二人部屋を一人で使用している私は、今日からここにティアナを招くことにした。夕食後から、就寝前の数時間だけ。

 再来週に行われる執務官補佐考査に向けて、勉強会だ。

 

「悪いわね。いきなり押しかけて」

「ううん。私は一人部屋だし、気にしないで」

「そう言ってくれると助かるわ。ありがとね」

「どういたしまして」

 

 ティアナはスバルと同室だし、その進路は確実に違う。再来週に試験を控えた身としては夜も可能な限り勉強に時間を割きたい。ということで私の部屋を訪れた。

 

「でも、そろそろ休憩しない? お茶淹れるよ」

「あ、いいのよ? そこまで気にしなくても」

「根を詰め過ぎるのも駄目だしね。コーヒー、紅茶、レモネード……あ、ココアもあるけど、どれがいい?」

「じゃあココアで」

「おっけー」

 

 備え付けの簡易キッチンに立ち、お湯を沸かす。二人分のコップにココアを用意して、冷蔵庫に入っていた水羊羹を出した。

 

「季節外れの貰いものだけど、よかったらつまんで」

「ありがと。次からは私も何か持ってくるわ。……せめてコップだけでも」

「あはは。そこまで気にしなくていいって」

 

 切り分けた水羊羹を、二人で食べる。会話は自然と試験の話になった。

 

「でも、ティアナなら受かるよね。きっと100点満点で」

「それはこっちの台詞よ。まあ二人揃って満点合格できたらいいけどね」

「ねー」

 

 

 ――ゆっくりと近づいてくる「卒業」の時。変わってゆくもの、変わらないもの。

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