魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
思い出すのはレリック事件――JS事件の渦中の出来事のではなく、機動六課の隊舎が完全復旧し、平和な通常勤務に隊員のほとんどが慣れ始めた頃。
ちょうどこの頃と言えば、みんなにスカウトが入り始め卒業の雰囲気を感じられた時。
私とティアナは、先週受けた執務官補佐考査の結果待ち。
エリオとキャロは二人仲良く、キャロの前所属の自然保護隊への転属を考えて。
唯一スバルは、今のところ前所属の陸士386部隊へ復帰の方向で話が進んでいる。
でも今日からしばらくは、そんなことは考えなくてもいい。
今月の頭に各部隊隊員たちへ通達された、三日間の休暇。余程のことがない限り呼び出しはなく、滞在地制限もない――勿論どこへ向かうかは一応申請はするけど――機動六課初めての、完全休暇。
スターズ、ライトニング、ロングアーチと各自持ち回りかつ希望シフトで振り分けられたそれを、みんな満喫する予定だ。……ちなみに、スバルとティアナはこの話をすっかり忘れて、ヴィータ副隊長に怒られていたりする。世界は平和そのもの、出動も無いけれど、訓練はあるしそのレベルはこれまで以上の難易度だ。他にもやれ進路だの試験だので最近は忙しかったから、忘れていても無理は無い……のかなあ?
そんなこんなでスターズ隊は二日前に休暇に入り、ライトニングF、そして私は事務仕事と――シグナム副隊長と個人戦を繰り広げていた。つい30分前に始まったにも関わらず私たち……っていうか一方的に私はぼろぼろの状態で、周囲の残存魔力もかつてないハイペースで上昇している。
「行くぞ、レヴァンティン!」
《Jawohl.》
炎の魔剣が、その名の通り猛る炎熱を身に纏う。
「ロゼット!」
《Load cartridge.》
相対する私はローゼンクランツ フォーム・エクセリオンを構えた。展開された装甲部分に周囲の魔力が集束される。そのまま私たちは一気に距離を詰めた。
「紫電――」
「――桜華」
炎熱と集束された魔力が剣戟の度に火花を上げる。炎を纏った刃先をロゼットで薙ぐように逸らし、そのまま奥へ踏み込んだ。
そして刃先を反転させ、斬り上げる。
「――一閃!」
膨れ上がった魔力刃が、シグナム副隊長を切り裂いた。もちろんダメージは残らない。
「なかなか、悪くない太刀筋だな。なのは隊長と騎士零の指導を受けているだけはある」
「ありがとうございます!」
お互いデバイスを待機状態に戻して、着地する。一部始終を見守っていたヴァイス陸曹は「怪獣大決戦かよ……」とよくわからない感想を漏らしていた。女性に怪獣とは失礼な。
「しかし、『剣閃』か。あまり聞かないな」
「秋月の家に伝わる格闘技法の総称だそうです。剣や槍とか弓とかなんでもありみたいで」
「無茶苦茶だな」
「まあアームドデバイスと魔力があれば問題ないみたいですので」
まるで、魔導師のためにあるようなこの『剣閃』。遡れば秋月の祖先は古代ベルカから地球へ渡った騎士の末裔だ。残された資料と遺伝子情報によれば、聖王統一戦争以前に敗北した王の一族だとか、何とか。
「まあ今日はここまでにしよう。明日は早いんだろう?」
「そうですね。シグナム副隊長、ありがとうございました!」
明日――午前中に、私は今月二度目の試験を受けることになっている。魔導師ランク認定試験。受験ランクは――空戦AAA。本来なら卒業後に受験する予定だったが枠が空いてないとのことで今回、受験することになった。
なのはさんとヴィータ副隊長曰く、現時点でフォワード陣は全員陸戦AA(総合に切り替える予定のキャロはA+)は確実に合格できるレベルだとか。つまるところ一段階スキップということで。私は空戦、そしてAAAという一般魔導師では到底近づくこともできないところまで来てしまった。
(AAAランクって言えばヴィータ副隊長と、陸戦ではシスター・シャッハが取得してたような……)
そしてなのはさんやフェイトさん、クロノ・ハラウオン提督に至っては10年も前から取得していたと聞いている。こう表現すると怒られるかもしれないが、人間辞めちゃったような感じだ。最近地球では「若者の人間離れ」が加速しているらしい。まあミッドチルダ――管理局は最低就業年齢が9歳だから、十代で局員かつ魔導師ということは大半の人が「若者の人間離れ」を果たしている。何それ怖い。
(それに明日って確か……補佐考査の結果発表じゃなかったっけ)
本音を言うならその結果を聞いてから、安心して試験に臨みたいんだけど無理は言えない。
シャワーを浴びて、私はベッドに倒れ込む。補佐考査と言えば、もう一つ嫌なことを思い出した。
(……アーウィング執務官、やっぱり怒ってるかな……)
つい先々週、私は彼の補佐にならないかと声をかけられた。考査を受験することを理由に断ったが……ちゃんと言った方が良かったかもしれない。
ちゃんとした資格を持った――今と未来の私を認めてほしいと。
もう守られるだけの私でいるのは嫌だ。もう守られるだけの私は、いない。だから。
「何が何でも、明日は一発合格狙うよ、ロゼット」
《Of course,buddy.》
例え相手がなんであろうと、誰であろうと。
負けるわけにはいかないのだから。
◇
時は少し前に遡り。
ピッ、ピッと軽快な音を立てて、医療器械による測定は進んでいた。大小様々なそれらに囲まれ、霜月秋葉と六課医療班のシャマルは検査結果を待っている。次々と表示される数値に目をやって、前回分のそれと比べ、状況に合ったリハビリを考えていく――その真っ最中だった。
そして機器は最終結果を表示させ、動作を終わらせる。
「はい。お疲れ様、秋葉ちゃん」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
ゆっくりとした動作で起き上がった秋葉は、ベッドサイドに置かれていた服を手に取った。私立聖祥大学附属高校の女子制服を纏うその姿は、普通の女子高生となんら変わりが無い。日本名には少々似つかない燃えるような赤毛が違和感を与えるが。
「前回に比べたら、だいぶ良くなってるわ。魔力もこれまで以上に回復してるから、最近のリハビリメニューじゃ物足りないかもしれないけど……もうしばらくはこのまま、体を慣らしていきましょう」
「はい」
素直に頷いた秋葉に微笑んで、シャマルは深い溜息を吐いた。
「まったく……なのはちゃんもヴィータちゃんも深琴も、もう少しこっちのことも考えてほしいわ……」
「……ああ、六課前線メンバー最大負傷率のトップスリーですね」
つい二ヶ月程前――ミッドチルダ地上全体を震撼させた大規模テロ事件、通称『JS事件』。浮上した古代ベルカの戦艦『聖王のゆりかご』と魔力結合を無効化させるAMF機能を持った機械兵器『ガジェット』、その影響を受けず、人間の体に機械を融合させた『戦闘機人』達。次元世界の平和と安定を巡ったこの事件。
最前線で活動した機動六課のメンバーは、先日の地上本部襲撃と同時に発生した隊舎襲撃事件で多くの隊員たちが負傷したにも関わらず、という状況だった。各陸士部隊と聖王教会騎士団との共同戦線、本局が有する艦隊などの協力で事なきを得たが、「対策部隊」である六課のメンバーが最前線を担当したことには変わらない。
その中でもゆりかごに突入した高町なのは一等空尉とヴィータ三等空尉、地上で「ゆりかご」の鍵でもあったアンノウンの迎撃に当たっていた秋月深琴の負傷率は、言わずもがな隊員の中でも酷いものだった。……ちなみに二名程入院中にも関わらず聖王医療院を脱走した隊員がいるのだが、彼ら(というより一人と一匹)もまたシャマルに盛大に怒られたメンバーに含まれるため、実際は「トップファイブ」という名称が正しかったりする。
(ヴァイス先輩に関しては私が唆したからだし……)
とはいえ、正直にそれを話す秋葉ではない。延々と続きそうな愚痴を止めようと、話を逸らす。
「そういえば……ヴィヴィオ、学校に通うって聞いたんですけど」
「ええ。休暇中に、なのはちゃんと一緒にザンクト・ヒルデ魔法学院に見学に行くって」
「ザンクト・ヒルデって……確か騎士カリムとシスター・シャッハ、アコース査察官の母校ですね」
先天的に凍結の魔力変換資質を有する秋葉は、幼少期に違法施設に誘拐され、実験体として生きてきた過去がある。そんな彼女を救い出したのは教会騎士団に所属する騎士・渡辺零だ。身寄りの無い秋葉を、まるで家族のように受け入れてくれたのは騎士カリムとシスター・シャッハ、本局査察官のヴェロッサ・アコース達である。
「確か秋葉ちゃんって、そのまま入局したのよね?」
「あ、はい、そうですよ。……騎士カリムは学校に通うよう、色々お話してくれたんですけど……」
言って、秋葉は視線を僅かに逸らした。
本当の名前も、家族の顔も、年齢すら分からない。そんな彼女は保護されたその日から他人に怯え、心を硬く閉ざしていた。そんな状態で学校に通わせても逆効果だと進言した零が彼女を鍛え、そのまま航空武装隊に放りこんだ――聖王教会に伝わる「びっくり人間七不思議」の一つだ。ちなみに命名者は渡辺零である。
とはいえ、それはもう過去の話。6年前に親友を亡くしたことで精神に異常をきたした彼女は、零の伝手を頼って、第97管理外世界<地球>海鳴市に移り住み、人としてそれなりの生活を送っていた。「自分は幸せだった」と、胸を張って言える程。
ただ、気がかりな事が一つだけ。
「早く、みんな進路が決まればいいんですけどね……」
新人フォワード然り、自身の先輩然り。
深い深い溜息を、秋葉は吐いた。