魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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03:集結

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 第一士官学校講堂に、学校長の長く、ゆったりした話が響き渡る。今日で最後になる(少なくとも一年は着ないだろう)紺色の制服を身に纏った私・秋月深琴は大人しく祝辞を聞いていた。

 思えば、これまでの人生で『卒業式』というものに参加したのは初めてで。昔兄から聞いた話では、「すっげえ眠くなる」とのことだったが、今の私は睡魔に打ち勝っている。むしろ睡魔より緊張感が強すぎて、指先が既に紫色に変っていた。

 

(深琴、大丈夫?)

 

 気遣わしげに視線を向けて、ルーチェが念話で問う。

 

(顔色悪いよ。っていうか真っ青)

(……血の気が引いてるのが自分でもわかる……)

 

 緊張のあまり、貧血一歩手前の状態だ。いっそこのまま倒れてしまいたいくらい。しかし過去、ある人は言ったそうだ。『時間はいずれ過ぎるが、同時に必ず訪れるものだ』と。

 そして、その時は訪れた。

 

『卒業生代表、挨拶。卒業生代表 秋月深琴』

「……はいっ!」

 

 列を離れ、私は足早に登壇する。落ち着け、大丈夫だから、とルーチェ、そしてレオンが念話をつなぐが、返事する余裕なんかありはしない。そもそも二人も、返事がくるなんて思っていないだろう。

 

『卒業生代表挨拶。卒業生代表、秋月深琴』

 

 スピーカーに、自分の声が乗った。

 

『……本日をもちまして、私たち時空管理局第一士官学校61期生は卒業し、それぞれが目指す道へと進み始めます。思えば、あっという間に二年間が過ぎたような気がします』

 

 そう、あっという間だった。試験をパスして、チームを組んで、夢を見つけて。あまりにもあっという間すぎて、卒業するという実感がわかない。

 

『今日から私たちは時空管理局の一員として働き始めます。管理局員としての心構えと誇りを胸に、平和と市民の安全のための力となるために』

 

 そして同時に、「首席卒業チーム」だからという理由で、なぜ私が代表挨拶をしなくてはならないのか小一時間ほど教官と話し合いたい。

 

『……最後になりましたが、教官、そして両親、お集まりいただいた来賓の皆さま。まだまだ若輩者ですが、これからも変わらぬご指導、ご鞭撻の程よろしくお願いします』

 

 拍手が響く。降壇して、列に戻って、ようやく息を吐くことができた。同期のみんなが「お疲れ」と念話を繋げてくれる。ああとっとと終わってほしい。ほんとに倒れそうだ。

 

 

 ◇

 

 

 それから時間は過ぎ、新暦75年4月、遺失物対策部隊機動六課隊舎。私は部隊長オフィスに早足で向かっていた。

 本日から機動六課は運用が開始される。その挨拶やらなんやらで交代部隊や一部スタッフを除いた隊員達はロビーに集合する手筈になっているのだが、私一人だけ呼び出しがかけられたのである。

 

(でも、呼び出されてよかったかも。知り合い、ほとんどいないし)

 

 隊員側に並ぶ可能性がある面々の内、面識があるのは医務官のシャマル先生やザフィーラだけ。10年前云々はともかく、それでも馴れ馴れしく振舞って周囲からの不興を買うことだけはしたくなかった。

 とはいえ、「部隊長直々に呼び出された」いう事実に、今にも心臓が飛び出そうなくらい緊張している。足を止めて、ポケットから取り出した手鏡でもう一度自分の姿を確認した。

 纏うのは、陸士部隊共通の濃いモカブラウン色の制服。胸元を飾るタイは形・色共に自由とのことだったので、魔力光と同じ淡紅色の細い紐型のリボンにした。タイトスカートの下は黒いタイツにし、足元は制服と同色のパンプス。髪型はシンプルにゴムで一つに纏めただけにした。部隊長挨拶の後、新人フォワード陣は訓練の予定なのである。洒落た髪型にしたところで、訓練の邪魔になっては意味がない。

 深呼吸をし、部隊長オフィスの呼び出しブザーに指を伸ばした。

 

「はぁい、どうぞー」

「……っ、失礼します!」

 

 一歩踏み出すと、部隊長オフィスの扉が自動で開く。オフィス内には、既にはやてさん、リイン曹長、それから陸士隊制服を纏ったなのはさん、フェイトさんが揃っていた。

 

「失礼します。秋月深琴士官候補生(・・・・・)、只今到着しました」

「うん。……陸士部隊の制服もよう似合っとるよー」

「ありがとうございます」

 

 はやてさんが満面の笑みを浮かべて、褒めてくれる。続けて、「4人で同じ制服なんて、小学校でしかありえへんと思ってたけど……まさか実現するなんてなぁ」と感慨深そうに呟いていた。それにはにかんでいると、フェイトさんが「そうだ」と口を開く。

 

「IDカードの更新、間に合った?」

「はい。……念のため、ご確認お願いします」

 

 言って、私は更新したばかりのIDカードを取り出し、同時に空間モニターを開いた。

 今回、私は士官学校を卒業したにも関わらず、階級は士官候補生のまま。指揮系統は本局直属の部隊とはいえ、殆ど例のない陸士部隊……それも運用が一年間に限定されている部隊への配属となったためである。

これは六課配属を中々了承しようとしなかった士官学校に対して、本局人事部からの提案らしかった。曰く、「一年間のキャリア教育ってことにしませんか? 階級は空士相当だけど、名称だけ『士官候補生』ってことで」(意訳)。本局人事部のレティ・ロウラン提督も機動六課の後ろ盾の一人らしく、この特例措置を通してくれたとのこと。

 この提案を受けて、(提督クラス直々の特例措置対応に)士官学校側も渋々承諾してくれたとかなんとか。なので、一年間キャリア教育をみっちり受けて、機動六課解散後半年以内に一般キャリア試験に合格することが、機動六課配属にあたって私に課せられた条件だった。試験日のこととか考えたら、受験自体は解散時期ギリギリなんですがそれは、ということに気づいたのはつい昨日のことである。

 

「二級通信士資格と……あ、会計管理のI-C資格も取ったんだ」

「はい。両方とも、士官学校の方で集中講義の受講許可を頂けましたので。本当は、他にも役立ちそうな勉強をしようと思ったんですが……」

 

 この二つの資格は、一定時間の講義に参加するだけで取得扱いとなる。士官学校で技術科向けの講義が用意されていること、その講義への参加時間も加味されることを知り、教官たちに無理を言って参加させてもらったのだ。卒業に必要な単位の取得が間に合っていてよかった……と何回、年齢の割にそれ程質量の無い胸を撫で下ろしただろう。

 他にも前線管制とか機動六課では必ず必要になるだろうし、予習だけでもできたらよかったのだけど……さすがに時間切れを迎えてしまった。現実は非情である。

 

「充分充分。これからの一年間でゆっくり勉強していけばええんやから」

「私の教導もあるから、隊員の中でも一番厳しいスケジュールになるだろうけど……一緒に頑張ろうね」

「私たちも、精一杯サポートするから」

「……っ、はい!」

 

 そんな私を励ますように、はやてさん、なのはさん、フェイトさんは笑顔でそう言ってくれた。その心遣いに、強張っていた表情筋も自然と動き出す。

 と、再び来客を告げるブザーが鳴り響いた。はやてさんの入室許可を受け入ってきたのは、見慣れない男性だった。眼鏡越しの瞳が、なのはさんとフェイトさんを映す。

 

「高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官! ご無沙汰しています!」

「……お知り合いですか?」

「はいです」

 

 私の質問に対してリイン曹長は笑っているが、それにしては雰囲気が妙というかなんというか。なのはさんとフェイトさんは目の前の青年の顔を見て首を傾げている。

 

「えっと……」

「……もしかして、グリフィスくん?!」

「はい。グリフィス・ロウランです」

 

 思い出して貰えたことにほっとした様子のグリフィスさんとは対照的に、なのはさん達は嬉しそうに声を上げていた。

 

「久しぶりー! っていうかすごい! すごい成長してるー!」

「うん! 前見た時は、こんな小っちゃかったのに……」

 

 なのはさんの言葉に頷いたフェイトさんが示した「こんな」とは、彼女の胸のちょっと下くらいの位置である。今の私とそう変わらない位なので、以前会った時の年齢にもよるが、見違える成長なのは間違い無い。

 再会に盛り上がる二人を眺めていると、「あ、そうだった」となのはさんがこちらを振り向いた。

 

「深琴は初対面だよね。こちら、グリフィス・ロウランくん。本局人事部のレティ提督の息子さんで……」

「私の副官で、交代部隊の責任者や。直近で一般キャリア試験に合格したエリートでもあるんよ。経理やほかの資格も取ってるから、深琴も、何かわからへんことがあったら相談してな」

 

 事前に貰っていた部隊員情報を脳内で照らし合わせながら、なのはさんの紹介と、はやてさんの注釈に頷いていると、ロウラン准陸尉と視線が合う。フェイトさんから私の紹介が終わったところだった。

 

「母から話は聞いています。4年前のインターミドル・チャンピオンシップの活躍も、リアルタイムで見ていましたから」

 

 そう言って、グリフィス准尉は微笑む。話を振られた私は奇声を上げた。

 

「か、活躍なんて、そんな……よく分からない内に勝ち進んで、都市代表に滑り込んだだけで……まだまだ未熟者ここに極まれり、と言いますか……」

 

 両手と首を盛大に横に振って恐縮していると、グリフィス准陸尉は、部隊長室に訪れた理由を思い出したようで「報告してもよろしいでしょうか」と切り出した。

 

「フォワード4名を始め、機動六課部隊員とスタッフ、全員揃いました。今はロビーに集合、待機させています」

「そっかぁ、結構早かったなぁ」

 

 新規部隊始動初日だし、遅刻するわけにもいかないだろう。隊舎自体が湾岸地区方面であり交通の便が少し悪いことや、多方面からの召集であることもあって、集合時間にはだいぶ余裕を持たせている、とは事前に聞いていた。

 

「ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん、深琴。部隊のみんなにご挨拶や」

「うんっ!」

 

 はやてさんの言葉に、満面の笑顔で私たちは答えた。

 ……私も返事は「うん」でよかったのだろうかと気づいたのは、集合場所に歩き始めてしばらくしてからのことである。

 

 

 ◇

 

 

 部隊長オフィスを出て、場所は機動六課隊舎のロビー。陸士部隊の制服に身を包んだ隊員とエプロン姿のバックヤード陣(といっても全員ではないらしい)が整列して、その時を待っていた。ある程度の所属や年齢で分けられているらしい列を眺めて、さて私はどこに並んだものか、と足を止める。無難に一番端がいいだろうかと視線を彷徨わせたところで、バックヤード陣の隣に二人だけで並んでいるその子たちの姿を見つけた。

 

(……あの子たちも、機動六課に……?)

 

 赤毛の男の子と、ピンク色の髪の女の子。ともに背丈が似通っていることを考えたら、そう年は変わらないのだろう。多分まだ10歳にもなっていないはずだ。

 なんて考えていると、はやてさんを先頭に列が進んでいっている。

 

(え、あ、ま、待っ……どどど、どうしよう、どこに並べば……!)

 

 隊員達の視線が部隊長達に向いている間に移動するべきなのだと、頭では分かっている。私は一介の士官候補生――つまりは一番下っ端だから、端にいれば問題ないだろう。じゃあなんで隊長陣と一緒に入場してるんだって話になる。

 

(深琴ちゃん、こっちこっち)

 

 繋げられた念話に視線を上げると、隊員達と向かい合うように整列していたシャマル先生が小さく手招きしてくれていた。うぐぅ、逃げられない。悟った私は諦めて、八神家一同(ザフィーラ除く)の隣に、一歩下がって並んだ。

 

「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」

 

 拍手を受けたはやてさんが登壇し、集まった面々を見渡す。

 

「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが、私たちの使命であり成すべきことです。――実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって、事件に立ち向かっていけると信じています。……まぁ、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神はやてでした!」

 

 全員からの拍手を受け、はやてさんは微笑んだ。

 それから各自解散となり、大部分のスタッフはオリエンテーションのため移動していく。一方の私は、所属こそロングアーチ――後方司令部であるものの、新人フォワードチーム兼任となっていた。なのでこれから早速訓練予定である。

 

「そういえば、お互いの自己紹介はもう済んだ?」

 

 先導するなのはさんが半ば振り返って、後ろを歩く私たち六課フォワード見習いの5人に問う。

 

「え、えっと……」

「名前と、経験やスキルの確認はしました」

「あと部隊分けと、コールサインもです」

 

 返事に詰まったショートカットの少女――スバル・ナカジマ二等陸士に代わって、ツインテールの少女――ティアナ・ランスター二等陸士と赤毛の少年――エリオ・モンディアル三等陸士が答える。

 

「そう。……じゃあ訓練に入りたいんだけど、いいかな?」

「「はい!」」

 

 なのはさんが、こちらに振り向く。姿勢を正し、私たち五人は声を揃えた。

 

 

 ◇

 

 

(……あ、ヘリ……)

 

 機動六課のヘリポートから飛び去って行くローター音に、私は視線を上げた。遠ざかっていくのはJF704式。武装隊に配備される輸送ヘリの中では最新型にあたるが、その配備数はとても少ないとかなんとか。

 

(はやてさんとフェイトさん、これからクラナガンの中央管理局だっけ……)

 

 機動六課設立と運用にあたって、その目的である第一種捜索指定ロストロギア――通称『レリック』の危険性と、その発見現場で度々目撃される自律兵器に関する報告会だとか。事務渉外スタッフとして私も参加する予定だったらしいが、これから行われる訓練が最優先だとのこと。そりゃそうだ。

 所変わって、機動六課陸戦訓練場付近。フォワード陣はいったん解散し、それぞれ訓練用ジャージに着替えて訓練場に集合することになった。私も白シャツとズボンに着替え、腰のベルトに返却された自作デバイスを戻す。

 

「……珍しい形ね」

「そう、でしょうか?」

「うん。自作?」

「はい。一応……」

 

 言って、ナカジマ二士とランスター二士は私のデバイスを見つめた。かくいう二人のデバイスだって珍しい形だ。拳型と拳銃型のコンビは、士官学校でも見かけたことはない。

 

「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入っているから、ちょっとだけ大切に扱ってね。それと、メカニックのシャーリーから一言」

 

 なのはさんから話を振られたメカニック、ロングアーチ所属のシャリオ・フィニーノが口を開いた。

 

「えー、メカニックデザイナー兼機動六課通信主任の、シャリオ・フィニーノ一等陸士です。みんなは『シャーリー』って呼ぶので、よかったらそう呼んでね」

 

 ロングアーチ所属である私にとって、同僚であると同時に先輩であり、上司でもある。

 

「みんなのデバイスを改良したり、調整したりもするので、時々訓練を見せてもらったりします。あ、デバイスについての相談とかあったら遠慮なく言ってね」

「「はい!」」

「……じゃあ、早速訓練に入ろうか?」

 

 なのはさんはそう言うものの、この場所に訓練できるようなスペースはない。目の前には海が広がっている。なんとなく懐かしさを覚えるのは、この風景が海鳴市に似ているからだろう。

 

「は、はい……」

「でも……ここで、ですか?」

 

 スターズコンビの問いに、なのはさんは不敵な笑みを浮かべ、シャーリーを呼んだ。呼ばれたシャーリーは右手を挙げて笑っている。そして右手を振り、九種類の空間モニターを開いた。

 

「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の、陸戦用空間シミュレーター。――ステージ・セット!」

 

 その細い指が、スイッチを押した。同時に目の前の海に、廃ビルの山が現れる。その光景は、Aランク試験会場にも似ていた。

 

 

 ◇

 

 

「ヴィータ、ここにいたのか」

「シグナム」

 

 桃色のポニーテールを揺らし、ライトニング分隊副隊長のシグナムが言った。その隣にはスターズ分隊副隊長のヴィータが立っている。

 

「新人たちは早速やっているようだな」

「ああ」

 

 二人の視線の先で、新人魔導師の5人がそれぞれ互いの状況を確認していた。フロントアタッカーのスバルとガードウィングのエリオ。センターガードのティアナとフルバックのキャロ。

 そして唯一の『ポジションフリー』であるが故に、一人で黙々とデバイスの状況を確認する深琴。

 

「お前は参加しないのか?」

「深琴はともかく、他の四人はまだよちよち歩きのひよっこだ。あたしが教導を手伝うのはもっと先だな」

「そうか」

「……それに、自分の訓練もしたいしさ」

 

 言って、ヴィータの瞳が僅かに陰った。しかしそれは次の瞬間には強い輝きへと変わる。

 

「同じ分隊だからな。あたしは空で、なのはを守ってやらなきゃいけねえ」

「……頼むぞ」

「うん。……そういえばシャマルは?」

 

 家族であり共に戦う『湖の騎士』の姿が見えないことを疑問に思い、ヴィータが問う。そんな彼女にシグナムはただ一言だけを告げた。

 

「自分の城だ」

 

 

 

 

「んー! 良い設備」

 

 一方その頃、湖の騎士・シャマルは、シグナムに「自分の城」と評された機動六課医務室でその瞳を輝かせていた。

 

「これなら検査も処置も、かなりしっかりできるわね」

「本局医療施設の払い下げ品ですが、実用にはまだまだ十分ですよ!」

「みんなの治療や検査、お願いしますね、シャマル先生」

「はーい!」

 

 機器の調整をしながら言ったルキノ・リリエとアルト・クラエッタに、シャマルは笑顔で答えた。

 

 

 ◇

 

 

『よし、と。みんな、聞こえる?』

「「はい!」」

 

 陸戦訓練場の中央に近いスペース。なのはさんとシャーリーは既に別の場所に移動していた。

 

『じゃあ、早速ターゲットを出していこうか。まずは軽く10体から』

『動作レベルC、攻撃精度Dってとこですかね』

『うん』

 

 何が出てくるのだろう。無意識のうちに私はデバイスに手を伸ばし、体の重心を低くしていた。

 なのはさんの声が響く。

 

『私たちの仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理。その目的のために私たちが戦うことになる相手は……これ!』

 

 地面に、複数の青いミッドチルダ魔法陣が現れる。輝きを増した魔法陣から、カプセルを大きくしたような機械が10機現れた。

 

『自律行動型の魔導機械。これは近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃も結構鋭いよ』

 

 シャーリーが軽く説明する。

 

『では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走するターゲット10体を破壊または捕獲。15分以内』

「「はい!」」

『それでは』

『ミッション、スタート!』

 

 なのはさんとシャーリーの声が響くと同時に、ターゲットは全機、逃走を開始した。

 

 

 ◇

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 逃走する4機のターゲットをスバルは追跡し、跳躍すると同時に拳に纏わせた魔力を一気に放出する。

 しかし、いとも容易く避けられた。

 

「……何これ、動き早っ!?」

 

 その視線の先では、エリオがターゲットの攻撃を回避しながら壁を跳躍し、接近しているところだった。槍を振り魔力を放出するも、その攻撃もまた外れる。

 

「駄目だ……ふわふわ避けられて、当たらない……」

 

 

「前衛二人、分散しすぎ! ちょっとは後ろのこと考えて!」

『あ、はい!』

『ごめん!』

 

 ティアナの声が飛ぶと同時に、眼下の地上ではターゲット10機が合流して逃走を続けていた。

 

「ちびっ子、威力強化お願い」

「はい。――ケリュケイオン!」

《Boost up. Ballet power.》

 

 威力強化を受けたティアナが放ったオレンジ色の弾丸は、ターゲットに届く前に消えた。

 

「バリア!?」

「……違います。フィールド系!?」

 

 

 ◇

 

 

『魔力が消された!?』

『そう。ガジェット・ドローンにはちょっと厄介な性質があるの。攻撃魔力をかき消す、アンチマギリンクフィールド。AMF。普通の射撃は通じないし……それにAMFを全開にされると、飛翔や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる……スバル、大丈夫?』

『っ痛ぅ……何とか……』

 

 どうやらナカジマ二士が追跡に失敗したらしい。状況確認のため開きっぱなしにしていた回線から、ガラスの割れる音がしたから、窓に突っ込んだようだ。怪我はなさそうだけど……。

 

『まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして、擬似的に再現してるだけなんだけどね。でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよー』

『対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか、すばやく考えて、すばやく動いて!』

 

 なのはさんの言葉を聞いて、私は先日のAランク試験を思い出す。あの時用意されたオートスフィアも同じ機能が搭載されていた。あの時は何の準備もできてなかったけど、今回は違う。今日までに、一応の対抗策は編み出している。今頃4人とも、手近のターゲットを叩いている頃合だろう。

 視線を向けた空間モニターの向こうで、ルシエ三士が魔法陣を展開させた。

 

『我が求めるのは、戒めるもの、捕えるもの。言の葉に応えよ、鋼鉄の縛鎖。錬鉄召喚――アルケミックチェーン!』

 

 見慣れない魔法陣から召喚された鎖が、ターゲットを捕える。召喚魔法自体珍しいのに、使い魔への強化だけでなく無機物操作を組み合わせるとは、器用な子だ。

 一方、ランスター二士は魔力弾のチャージ態勢に入っていた。オレンジ色の魔力弾を包むように、膜状のバリアが展開されている。

 

『固まれ……固まれ……!』

(多重弾殻射撃はダブルAランクの射撃魔法……ランスター二士はBランク魔導師だと聞いているけど……)

 

 AMFへの対処法として多重弾殻射撃を思いつくだけでなく、実際に発動させようとは。無事バリアで覆われた魔力弾が、ターゲットを撃ち落とす。コンビパートナーのナカジマ二士が嬉しそうにはしゃいでいる声が聞こえた。

 

「……みんな、凄いなぁ……」

 

 通信モニターの向こうでターゲットを処理する同期達の活躍に、私は思わず呟いていた。私も頑張らないと、と決意を新たにしたところで。分散したターゲットが2機、こちらへ向かってくる。空中でそれを確認して、デバイスを構え直した私はランスター二士へ通信を繋いだ。

 

「ロングアーチ04よりスターズ4へ。ターゲット2機の接近を確認。迎撃に移ります」

『……了、解。――確実にお願いできる?』

「了解しました」

 

 息も絶え絶えなランスター二士に答えると同時に、カートリッジを一発ロードする。逃走するターゲットを迎え撃つように、地面に淡紅色の近代ベルカ式魔法陣が展開された。

AMFへの対処法は、多重弾殻射撃だけではない。

 

(イメージは、分厚い氷でターゲットを覆うように……)

 

 周辺の空気が冷やされ、現れた氷がターゲットを捕獲する。Aランク試験の後、AMF対策で考案した設置型の凍結魔法。名前は(多分)まだない。私は魔力変換資質を持っていないので、凍結魔法というよりは温度変化魔法の一種というのが正しいかもしれない。

 

(あと一機!)

 

 待機中に展開だけしていた多重弾殻の魔力弾の内一発が、もう一機のAMFを貫いた。逃走を続けるターゲットを阻害するように、残りの魔力弾を誘導状態にしておく。右手に握ったデバイスの銃口に、魔力スフィアが形成された。

 ターゲットの直上に飛び降りて、アームドデバイスの実体刃を叩きつける。ターゲットの動きが止まったのを確認して、維持したままのスフィアの射線にターゲットを収めた。この距離なら、絶対に外さない。

 

「ディバイン……っ……バスター!」

 

 引き金を引き、淡紅色の魔力砲がガジェットを貫いた。

 

 

 ◇

 

 

 淡紅色の爆発が起こった。モニターで一連の出来事を見守っていたシャーリーが叫ぶ。

 

「うっそぉ! AMFの上から砲撃?!」

「んー、また無茶するなあ……『多重弾殻射撃で妨害』、『発生効果で足止め』、まではいいんだけど」

 

 一方なのはは、深琴の無茶は戒めつつ、対応手段に関しては評価していた。

 モニターの向こうには無傷の深琴と氷の檻に囚われたガジェットドローン、そして無残にも破壊されたもう1機の姿がある。

 

「確かに近代ベルカ式の術者って、ミッドチルダ式の魔法もそれなりに使うことはできるって聞きますけど……でもあの子、先天資質はないはずですよね?」

「うん。士官学校で温度変化魔法は習ってるから、可能といえば可能なんだけどね」

 

 一連のデータをまとめながら、シャーリーは溜息を吐いた。

 

「この子が例の……士官学校出身で、新人の中で唯一の空戦A+ランク……よく引き抜けましたね。あれだけ動ける子、他の部隊も欲しがってたでしょうに」

「魔導師ランクが高くても、実戦経験はないからね……はやてちゃんからも聞いてるとは思うけど、オフィス勤務はロングアーチだから。面倒見てあげてね、シャーリー?」

「もちろんです!」

 

 だが、先日のAランク試験から二か月も経っていない。その短期間で資質のない、それも凍結系の魔法を習得する魔導師なんて聞いたことがない。似たような事例にクロノ・ハラオウンがいるが、彼が闇の書事件で広域凍結魔法を使用した際は、彼が長年培った魔力変換・温度変化技能と氷結技能に特化させたデバイスがあったからだ。

 

(絶対に無理をするから、心配だけど……)

 

 内心で呟き、なのはは通信待機中のモニターに指を伸ばした。

 

 

 ◇

 

 

 訓練は一日中続き、空はすっかり暗くなっていた。

 

(想像以上に疲れた……)

 

 グロッキー状態のまま、サンルームまで何とか帰還したフォワード一同は、それぞれが一番休息できる体勢でぐったりと座り込んでいた。正直今すぐ、このまま寝てしまいたいのだが、そうもいかない。疲労を訴え、休息を求める体に鞭を打って立ち上がる。

 

(結構鍛えてたつもりなんだけど……やっぱり、まだまだだね……)

 

 シャワーを浴び、自室のベッドに倒れ込むと途端に睡魔が襲ってきた。動き回ってくたくたで、空腹のはずなのにまったく感じられない。

 

(……でも、ちょっと楽しかったかな)

 

 絶対嘘だ、化けものかと友人には言われそうだけど。目標があれば、ある程度の辛いことは乗り越えられる。

――何もないのにただ痛くて、辛かったあの頃に比べたら。

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。空港火災の後、伯父夫婦から魔法を教わり始めた日の夢を。

 教わった魔法の数々。それと平行して飛行魔法の練習と、『管理局入りした後』を見据えた戦闘技法の習得。どこに配属されても自分自身を守れるように。共に戦う仲間に迷惑をかけないように、と。

 そして夢の風景は4年前――インターミドル・チャンピオンシップのそれへと姿を変える。歓声を受けてフィールドに立つ私は、4年前の自分そのままだった。

 

(……また、世界代表戦か)

 

 何の因果か、初出場ながら都市本戦に進出し、最終的には世界代表にまで選ばれた、当時10歳になったばかりの私。しかし初の世界戦であっという間に敗退している。戦績は世界代表10位。

 そもそもの原因は、進学先で伯父と揉めたことだった。

 当時、私が希望していたのは航空武装隊、もしくは陸士訓練校――「魔導師」として認められるためには、その進路が手っ取り早いと思ったから。

 一方伯父は士官学校への進学を希望していた。あくまで「預かっている姪っ子」を、危険な部署に行かせられるかと伯父は繰り返していた。私を預かったのは、魔法に関してちゃんとした指導をするためだと。

 当然揉めに揉めた結果、「インターミドルで世界代表に入れたら、航空武装隊へ行ってもいい」という今思えば非常に無茶な結論に落ち着いた。インターミドルの出場者は全員魔導師であり、それでいて管理局やその関係機関に所属していない。その中で上位の成績で勝ち残れなければ、本局直属の航空武装隊に合格しても続かないだろう――と伯父が考えていたことを、伯母が教えてくれた。

 結果は条件は満たしたものの、なんやかんや紆余曲折の後に士官学校へ進学することになり、以降のインターミドルも辞退した。

 だが、ふと思う。何故伯父が私に対して過剰に反応するのだろうかと。

 

(父さんと母さんが、私のことを気にかけるはず無いのに……)

 

 それを、伯父は誰よりも知っているはずだ。

 目を開けると、暗闇に包まれた寮の自室。寝返りをうって、私はきつく目を閉じた。これ以上両親のことを思い出さないように。脳裏に過ぎる家族の姿をかき消して。

 ――ほら。少し耐えさえすれば、何も悲しいことなんて無いのだから。

 右手の黒い指輪がまるで慰めるように静かに輝いたことに気づかないまま、私は微睡みに沈んでいった。

 

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