魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
「今日もお仕事、お疲れ様ー!」
機動六課隊員寮、休憩室。そこに集まった私達フォワード四人とアルトとルキノはお菓子やジュースをテーブルに広げていた。会話の中身は、卒業後の進路。
「フォワード5人とも行き先が決まって、これからまた少し忙しくなるねえ」
「特にティアナ。これから執務官に向かって研修と勉強で大変だー」
「頑張ります」
アルトとルキノの言葉に、ティアナは微笑みながら頷く。
「それ考えたら、深琴はちょっと楽だよね。戦闘特化の補佐官だし」
「あははー」
殆どの場合、魔導師が執務官補佐になるということは将来的には執務官資格取得を視野に入れるらしい。その必要が無い私は戦闘を得意とする「補佐専門」になる。執務官もその補佐官も数が足りないし、戦える補佐官はもっと少ない。一人くらいそんな人がいてもいいだろう――と、八神部隊長とフェイトさんがあの手この手を使って人事部を納得させてくれた。
「スバルも、まさかスカウトとはねえ」
「えへへ」
スバルには湾岸特別救助隊からスカウトが来たらしい。戦闘機人の体と、優しい心。救助隊向きのスバルにとって天職であることは間違いない。
「それに湾岸特別救助隊って……確か、スバルが目標にしてたとこだよね?」
「そうだよ。っていうか、災害担当局員全員の憧れだね」
「そうなんだー……?」
私は首を傾げ、ポテトチップスをつまむ。ちなみにこれらのお菓子は全て機動六課の購買で売られている。安いし美味しいし、ということで利用しない人は少ない。
「エリオとキャロも2人仲良く平和な職場!」
「フェイトさん喜んでたねー」
「ありがとうございます」
エリオとキャロは、キャロが所属していた辺境自然保護隊に。密猟者対策で魔導師は必要だし、キャロの召喚魔法は調査に必要不可欠だ。フリードもいるし、何より2人一緒なら六課で学んだことを活かせる――そう、前に話してくれた。
「なんかもー、おねーさんもうれしいよー」
涙を拭って、アルトが言う。アルトはヘリパイロットとして地上本部に、ルキノは次元航行部隊の事務官に転向するグリフィス准尉の補佐官をしつつ、艦船操舵の道へ。……グリフィス准尉の転向について、シャーリーは「ルキノの影響じゃないのかなー?」とニヤニヤ邪推していたが、本人の話によれば関係がないらしい。シャーリーは聞いてなかったけど。
「今日は飲むよ! 全員ジュースだけど!」
「おー!」
既にアルコールが入ってるんじゃないか。そう疑いたくなるテンションだった。
ただ一人だけ――スバルの横顔に元気が見えなかったのは、私の気のせいだろうか?
◇
それから、休憩室に詰めていたメンバーはそれぞれ部屋に帰り出す。その中で一人だけ、スバルは外を一回りしてくると言って走り出してしまった。
「……なんか、スバル元気ない?」
「あ、深琴もそう思う?」
ティアナと2人、非常にゆっくりとしたペースで廊下を歩く。
「何ていうか……目標だったところから話が来て、すごく嬉しいはずなのに……迷ってる……?」
「うん」
「寂しいっていうのもあるんだけど……それとは違う気がする」
六課に入って、初めて顔を合わせて。その中で私が理解したのは、どの人も「立ち向かうための意思を持っている」ということだ。悲しい事件とか、理不尽な痛みとか、全てに。
私を横目で見ていたティアナはちょっとだけ微笑んで肩を竦めた。
「あいつ……スバルはね。深琴も知ってるとは思うけど、バカでドジで時々情けなくて。でも、自分で思ってるよりずっと強い。あいつの言葉があったから、あたしもあの状況で生き残れた」
「うん。それ、ちょっとだけ分かるかも」
最前衛のフロントアタッカーを務めるスバルは、いつも真っ先に敵へと向かっていく。普段は書類が苦手だったりとか、助けを求めてティアナにあしらわれて泣きそうになったりとか、ちょっと驚くけど。でもエリオやキャロをいつも気にかけて、私にも優しく声をかけてくれた。同じ格闘型としても、先輩としても、そういうところは憧れる。年が近いお姉さんがいたらあんな感じなんだろうなって。
「あいつが悩んでるのは、六課を出たら、あたしたちと離れたら……あたしたちのことを、もう守ってあげられなくなるから……じゃ、ないのかなって」
「そっか……やっぱり、スバルは優しいね」
でも、きっとスバルなら。これからたくさんの人を助けることが、守ることが出来るはずだ。
だから……。
「あれ、深琴?」
「スバル」
場所は寮の少し裏手の方。ティアナと分かれてから、部屋に戻る気になれなかった私は一人で魔力弾操作の練習をしていた。
「やっぱり深琴はすごいよねー。ベースは古代ベルカ式なのに、射撃だって出来ちゃうし」
「習い始めた頃は全然上手くいかなかったよ。毎日伯父さんに怒られたもの」
一回だけ本気で頭に来たから、伯父に魔力弾を6発命中させたのはいい思い出だ。事情を聞いた伯母が私を怒りつつ、背景に般若が見えるくらいの勢いで伯父を怒っていたけど。伯母は絶対に怒らせてはいけない――そう私が心に誓った日である。
「……それに私から見たら、スバルの方が凄いよ? すっごい速いし、防御力も攻撃力もあるし。絶対凄い救助隊員になれるよ」
「深琴……」
「『安全な場所まで一直線に』、自分の力で助けること。それが、スバルの目標でしょ?」
だってそれは、もう既に叶えられている。
「もう叶えられてるよ。だってゆりかごに突入した時は、スバルがいたから救出できたんだもの。だから、もう大丈夫だよ。スバルなら絶対誰にも負けないし、たくさんの人を助けられる」
「……深琴……」
「年下だし、頼りない私が言うのもなんだけど……スバル・ナカジマはとても強くて優しい人だよ。六課で一年間一緒だった、秋月深琴が保証します」
えへへ、と笑う。一方のスバルは涙目で「深琴ぉ……」と泣きじゃくっていた。
「ご、ごめん! 私、なんかいけないこと言った!?」
「……ううん……ありがと、深琴」
涙を拭って、部屋へと帰るスバルの背中を見送る。泣かせてしまったのは申し訳ないし、反省するべきだけど。
それでも今、スバルの背中から、先ほど感じられたような迷いは見受けられない。
「……これで、いいのかな?」
《Yeah. I think so too,buddy.》
翌朝、ティアナと話して完全に迷いを振り切ったスバルは、特救への転属希望を出したそうです。
◇
別れを意識すると、季節はあっという間に流れていって。
それを「寂しい」と思ったのは、初めてだ。
(うん。変われたんだ。私も、みんなも)
24分間の全力全開の模擬戦の結果は、内緒。
けれど写真に映る参加者は全員ぼろぼろで、それでもなお笑顔を浮かべていた。
その写真もフォトパネルに納め、私は息を吐く。
初めて『家族』で撮った写真。初めての同窓会で撮った、酔っ払い同然のテンション。そして六課で撮り続けていた『友達』。
――一緒に過ごした時間と受け取った思い出があるなら、それはきっと「お別れ」じゃなくて新しい旅立ちだから。
終わりのない夢の途中。私たちはきっと、きっとどこかでまた出会う。
駆け抜けた日々はまた会う日まで大切に抱きしめる、愛しくて優しい――私たちの大切な宝物。