魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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StrikerS サウンドステージX
01:事件


 昔、大きな戦がありました。数百年以上も長きに渡って続いた「古代ベルカ戦争」。その終焉には、古きベルカの土地を、人の住めない場所に変えてしまった、忘れ得ぬ戦。そんな戦乱の歴史は、数えきれない命と可能性を奪いましたが、同時に、様々なモノを生み出しました。

 独自の魔法や技術。そして武器や兵器。忌まわしい記憶として消えてしまったモノ。今も受け継がれているモノ。大きな戦争が無い時代になって、暦が新暦を数えるようになってから、もうじき八十年。

 ――世界は概ね平和ですが、尽きること無い事件や災害と、今も戦い続けている人たちがいます。

 

 

 

 

 爆発音が響く。その轟音に目を細めながらも、男性は報告を続けた。

「爆発発生!二十七階中央、ショッピングフロアです!」

『ビル警備員の避難終了。ですが犯人以外にもう一人!』

「誰かいるのか……?」

 

 

「何だ……何なんだお前は!」

 自分に近付く影に、恐怖を隠せない声で男は問いかけた。しかし、返ってくる言葉は先程と何ら変わらない。

「答えてください。あなたにそれ以外の選択肢はありません」

「だから、なんのことだか分からんと!」

 男の答えに、納得できないのか影――ボディスーツを纏った女性は、男の首を掴みあげた。

「私達は、イクスの在処を知りたいだけです……あなたはそれを知っている」

「うぐ……知らない! 本当に知らない!」

「ならば、イクスの在処を知る者は?」

 男が首を振る。同時に介入者が声を発した。

「動くな! 管理局だ!」

 その声に女性はバイザーに覆われた顔を向ける。

 バイザーに映された介入者達の姿を見て、女性は呟く。

「時を経て、兵士たちも随分と様変わりをしたようです」

「ここは既に包囲されている! 人質を離して、投降しなさい!」

「……左腕、武装化。『形態 戦刀』」

女性の左腕が破裂し刀へと姿を変えた。その様子に恐怖を覚えつつも、リーダーらしき人物は一団に命令する。

「ショック弾、撃てー!」

 発射された何十発もの魔力弾が、女性の刀に弾かれた。

「あなた方を、イクスの墓標の元へ……」

 そう囁いて、女性はその場にいた自分以外の全員を薙ぎ倒し、息の根を止める。ただ命令を遂行するだけの人形のように躊躇いも無く。

 

 

 ◇

 

 

『ミッドチルダ、MBCニュースです。現場はここ、海岸沿いの大型デパート、フィリーズの27階。窓からは煙が上がっています。被害状況はまだ良く分かっていませんが、27階のイベントホールで爆発、男性一名の死亡が確認されています。ホールでは古代美術展が開催されており、男性は美術展の関係者であると……あ、武装隊のヘリが飛んでいます!やはりただの事故では無いのでしょうか!?フォルスやヴァイゼンで発生した一連のテロ事件との関係は未だ発表はありませんが……局からの発表が待たれます……』

 

 海岸線沿いの大型デパート、フィリーズのほぼ真上を、時空管理局陸士108部隊のヘリ・JX705が飛んでいた。

 

「あーあ……テレビ局、仕事速いのは良いけど、情報規制はちゃんと守ってるのかな……」

「まあ、彼らも自分の仕事に一生懸命ですから……」

 速報の内容を聞きつつも溜め息を吐いたヘリパイロット――アルト・クラエッタを、隣に座る女性――ギンガ・ナカジマ捜査官が宥めた。

 

「むぅ……ギンガ捜査官は今回の事件、どう見ます?」

 話を振られたギンガは瞳を伏せ、考えた。

「被害状況、殺害の手口、目撃された犯人像……いずれもフォルスやヴァイゼンの事件と一致します。一連の事件と見ていいでしょうね」

「そっか……今回も『一連の事件』くらいで済んでくれればいいんですけどね……三年前みたいな大事件は、出来れば御免被りたいです」

「大きくなる前に、解決しちゃいましょ。それが私達の仕事です」

「ですね」

 

 ギンガの言葉に、アルトは気を取り直して、続ける。

 

「じゃあ、降ります」

「はい。お願いします、アルトさん」

 

 ボタンを切り替えて、アルトは通信を繋いだ。

 

「こちら、陸士108隊JX705一番機。着陸許可願います」

『こちらヘリポート。着陸了解。二号パネルに降りてください』

「二号パネル、了解です」

 

 ヘリポートからの指示に合わせて、アルトはヘリを操作する。その最中、ギンガは小さく呟いた。

 

「この手の連続事件なら、本局の方で捜査官か執務官が事件を追ってるはず……その人と連携が取れればいいのだけど……」

 

 

 ◇

 

 

「被害者の男性、コーレル・マクバード。学士院出身の、古代文化研究者」

 

 真面目な声で、黒制服を纏った女性――ルネッサ・マグナスは画面を表示させていく。

 

「表立った犯罪歴はありませんが、法定保護遺跡の盗掘や、ロストロギアの転売に関する疑惑で捜査対象となっていました」

「やっぱり……今までと、同じ?」

 

 報告するルネッサに、黒の執務官制服を纏ったロングヘアの女性――ティアナ・ランスターが尋ねた。ルネッサは答えると同時に、新たな画面を開く。

 

「被害者と警邏隊員を殺害したのも、マリアージュで間違いなさそうです」

「あなたが……ルネがそう言うなら、間違いないんでしょうね」

「ありがとうございます。光栄です」

 

 はにかんで、ルネッサは次のデータを表示した。

 

「現地の捜査部隊は?」

「港湾警備隊、ですが対外窓口は陸士隊の捜査官になっています」

 

 表示されたデータに、一人の女性の顔写真が映る。

 

「この方です。ギンガ・ナカジマ捜査官」

「ああ……」

「お知り合いですか?」

「かなり、ね」

 

 ティアナの答えに、ルネッサは指示を仰いだ。

 

「では、交渉はお任せした方がいいでしょうか?」

「そうね。ミッドに降りる、準備の方は?」

「移動チケットと、初日の宿泊手配はもう済ませました。簡単な着替えや身の回り品は整いましたが……持っていかれる手荷物があれば、私が寮まで取りに戻ります」

「大丈夫よ。じゃあ、すぐに発てる?」

「いつでも」

 

 その答えに納得して、ティアナとルネッサは立ち上がる。

 

「これから、ミッドチルダ首都南部に拠点を移動。マリアージュ事件の捜査を続行します。ルネッサ・マグナス執務官補、引き続き同行補佐を願います」

「了解です。ティアナ・ランスター執務官」

 

 その様子に、ティアナは微笑んで歩みを進めた。

 初めて受け持った事件以降、凶悪事件をメインに担当してきたティアナについた、臨時補佐。非常に優秀な人材だが、いざ戦闘になれば彼女は危険に晒される。

 

(後で……深琴に連絡、入れてみましょうか)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 昔、大きな戦があった。数百年以上も長きに渡って続いた「古代ベルカ戦争」。その終焉は、古きベルカの土地を、人の住めない場所に変えてしまった、忘れ得ぬ戦。

 それはあまりにも身勝手で、無意味だった争い。

 国を支配し、侵略する王達は別世界を侵略してまでもベルカ諸国の領土を広げる。それが行き詰った時、王たちはその身を作り変え、強大な質量を操る兵器となって戦場で万騎を屠り続けた。

 血で血を荒い、大地を汚し、人の領分を逸脱したその時代。

 そんな時代、ひどく変わった王がいた。2人の王で国を支え、国と民を守るだけに全力を注いだ王。自分たちからは攻めること一つせず、侵略されれば全力で敵を屠る。2人が携えたのは、幾千、幾万もの刃。故に彼らは『刃王(じんおう)』と呼ばれ、争いを好まない一族として栄え、王達からは忌み嫌われた。

 

「別に構わないさ。俺たちアルティスは、必ず、誰一人他国を侵略しない。だが我が国が侵略された時は、全力をもってお相手しよう」

 

 その戦場を貶めるような言葉は諸国に届くことなく、アルティスの国は侵略を受け続けた。しかしその領土は一度も奪われること無く、刃を振るい侵略者を屠り続ける。

 そんなある日、アルティスを支えた王の一人はその予兆を感じ取った。

 ――このままでは、このベルカの地は、ベルカの民は消滅すると。 

 彼はその直感を、すぐさま兄であるもう一人の王に告げた。平和な世界へ、せめて民だけでも逃がそうと。もう一人の王は賛同し、急ぎ準備を整えた。

 

「……あなたは、民と共に。ここは私が食い止めます」

 

 数えるのも飽きる程の襲撃。それに乗じてアルティスの王と民は平和な世界へ――ミッドチルダへ逃げ出す計画だった。しかし侵略者の数は多く、2人の王が刃を取ったその時だった。兄である王を戦艦へ押し込んだ弟は、振り返ることもせず侵略者へと向かう。王がいなくなれば、誰が民を守るのだ。導くというのだ。

 それから、異世界に渡った王たちは世界の統一を計り始めた。ミッドチルダへ逃げたアルティスも、その標的だった。が。

 

「戦場を侮辱し、貶めた王の一族が口を出すな」

 

 ある一国の侵略。当時の王の発言に、兄たる王は激昂した。何度も何度も刃を振るい、ある者は串刺しに、ある者は顔の判別も不可能な程執拗に――たった1人で1000の軍勢を虐殺した。受けた傷はすぐ塞ぎ、鍛え抜いた魔法の力に為す術なく、諸国の軍勢はたった一人の王に屠られた。

 

「争いを嫌い、国と民のためだけに生きた我が弟が臆病者であるはずがない。力でしか物事を計れない愚か者……お前たちこそが臆病者だ! クオン・アルティスを侮辱すること、このゼロ・アルティスが断じて許さぬ!」

 

 盛者必衰、必滅は真理。例外なく弱体化の一途を辿ったアルティスの民は、自身を守り抜いた2人の王をこう語る。

 

「誰よりも強く、何者よりも美しく。あの漆黒の髪と黒曜の瞳は、どこの世界でもそう賞賛されるはずさ。我々は幸福だったよ。なんせここまで、王に守られ、共に生きてこられたのだから」と。

 

 アルティスの家は滅び、残された者は王の名をもじってその血を受け継いできた。全ての始まりにして終わりの数字――「零」と。

 

 

 

 

 そして時同じくして、遠い遠い異世界に一人の男が倒れていた。全身を血に濡らし、衰弱した状態で発見された彼は、海の波が心地よく響くその地を治める家に運ばれた。神や精霊と交信し、その御技を受け継いだと言われるその家は、彼を快く迎え入れる。

 その家の姫――秋月深雪は彼に名前を問うた。

 彼は答える。全ての望みにして全ての絶望である永久――「久遠」と。

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