魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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03:詩篇と蒼氷

 ――詩編の六。かくして王の帰還は成されること無く、大いなる王とその(しもべ)たちは闇の狭間で眠りについた。逃げ延びた僕は、王とその軍勢を探し彷徨い歩く……。

 赤いインクで――十中八九は血液だろうが――で書かれた古代ベルカ語の詩篇から目を上げて、渡辺零は修道騎士見習いのディードを見た。

 

「……で、何で俺に?」

「騎士零なら、何かご存知かと。オットーが無限書庫に行きましたが……こちらでも調べておくべきかと思いました」

「なるほどな」

 

 場所は修道騎士達が鍛錬に使う訓練場。その一角でディードと同じく騎士見習いのフェアクレールト・ナハトの訓練をしていた零のもとを訪れたディードは、あいさつもそこそこにティアナ、オットーから転送された古代ベルカ語の詩篇を見せた。

 

「ディード。言っておくけど、この人古代ベルカ語分からないよ」

「……そうなのですか?」

「否定はしねえよ。フェア、後でタイマン勝負してやろう」

「はっ。僕に勝てると思ってんの?」

 

 と勝手に火花を散らしあう師弟の様子に首を傾げ、ディードは口を開く。

 

「ですが先ほどの、詩篇の解読は……」

「ああ。聖王統一戦争付近の単語だからな。そこらへんなら何とか訳せるんだよ」

「はあ」

「……でもさ。この詩篇、オットーとディードの記憶にもないんだろ? 文献って線、外れてるんじゃないの?」

 

 手にしていたデバイスを待機形態――深紅色の大きな水晶のペンダントに戻して、フェアは首を傾げた。その様子に、零はフェアを見る。

 

「その心は?」

「僕……というより、ドクターが見せてくれた文献になかったから。犯人……マリアージュだっけ? そいつが狙ってるのって、古代ベルカ系の学者や発掘調査員でしょ? ディードは知らないかもしれないけど、ドクターはゆりかご関連の調査のために、古代ベルカ系の文献をあらかた調べ上げてるんだ。少なくともその中にはなかったって断言できるよ」

「……そうですね。私やオットーの稼動は最後でしたから、記憶にないのはそのせいかもしれません」

 

 オットーやディードの生みの親で、JS事件の首謀者、ジェイル・スカリエッティ。今も尚第9無人世界<グリューエン>の軌道拘置所に収容されている希代の天才科学者だ。事件に関しての協力は今もないが、野に下ることを決めた娘や協力者の詳細データを送りつけ、刑期の縮小を図ったという事実もあるらしい。

 そんなことはさておいて、「しかし」と零が口を開いた。

 

「だとしても、わざわざ詩篇を残す意味はあるのか? ……そもそも犯人が何をしたいのか、何を探しているのかがさっぱり分からない」

「誰かに宛てたメッセージでしょうか?」

「だとしたら、マリアージュ自身も古代ベルカ関係ってことになるよね。ただそれだけ」

「んー……フェア、お前後で深琴にメール入れろ。あいつもしくはディバインを使う」

 

 散々唸って出した零の結論に、フェアとディードは白けた視線を送る。自分で調べないのかよ、っていうか自分でメールしろよと言いたげな表情だ。

 それと同時に、深紅色の水晶――フェアのデバイス、アインザッツがメッセージの受信を告げる。立ち上げたモニターには本局の寮らしい場所にいる、黒制服の少女の姿があった。

 

「……噂をすればなんとやら、だな。なんつータイミングだよ」

『え? あ、すいません……』

「謝らなくていいよ、深琴。この人が勝手に言ってるだけだから」

「フェア様の仰るとおりです。……深琴、お久しぶりです」

『うん、久しぶり。っていうかあの、何の話?』

 

 言って、深琴は訓練場の片隅、三角座りで「の」の字を書く零を見る。一応彼女も師弟関係にあるはずだが、その視線はやや冷たい。

 

「さっきティアナからメールが来ました。古代ベルカ語の詩篇なんですけど……」

『それってあれ? 血文字で……かくして王の帰還は成されることなくーってやつ?』

「は、はい。それです」

『私にもさっき、ティアナから届いたんだ。ディードのところにも来たんだね』

 

 唇に右手の親指をやって、深琴は『そりゃそうかー』と納得したようだ。

 

「そういえばさ。深琴、事件捜査はもういいの? えっと、確か第5管理世界の……」

『うん。容疑者は現行犯逮捕できたし……それはよかったんだけど……』

 

 歯切れの悪い返事に、フェアとディードは首を傾げる。同時に、調子を取り戻した零が「何かあったのか?」と口を開いた。一連の出来事を思い出したらしい深琴が『そーなんですよー』とだらけた声を響かせる。

 

『こっちの方にもマリアージュが出てきたんですよ。で、バインドで捕まえたと思ったらいきなり自爆してきたんですよ!?』

「じば……っ、ええ!?」

「だ、大丈夫なんですか!?」

『私も容疑者も無傷だよ。で、ここからが本題なんだけど……そっちにデータ送るね』

 

 言い終わると同時に、複数のモニターが立ち上げられ、送られてきたデータが表示された。

 

『このデータね、さっきティアに送ったものと同じなんだ。詩篇のデータと入れ違いになったんだけど、ティアがディード達にも送っておいて欲しいって』

「では、オットーにも転送しておきます」

『ごめんね。で、あともう一つ。フェア、これから巡礼とかある? なかったらちょっと協力してほしいんだけど』

 

 言って、深琴は零を見る。

 

『実は私、明日から休暇でスバルのところに厄介になるんだけど、マリアージュが事件を起こしたらそのままティアの補佐につきます。で、今事件捜査を担当する港湾警備隊は人手が足りません。救助任務で手一杯です。私が前線に出られるとも限らないので、念のためにフェアをお借りしたいんですが……保護責任者、いかがでしょうか?』

「別にいいんじゃね?」

 

 間髪入れずに返ってきた言葉に、フェアも深琴もずっこけた。ディードはディードで「もう少し考えても……」と残念な視線を零に向ける。当の本人は意に介さない様子だ。

 

「ディバイン……法的後見人の許可を貰った上での話だろ? なら問題ない。手続きやカリムへの説得は俺が何とかするし」

『ありがとうございます、零さん。じゃあ、フェア。詳しいことはまたメールするね』

「うん。またね、深琴」

 

 ピッと、軽やかな音を立てて全てのモニターが閉じられる。

 

「……アインザッツ。さっき受け取ったデータ、纏めてもらえる?」

《All right,master.》

「……そういや、巡礼で思い出したんだけど」

「?」

 

 アインザッツがデータを纏めている様子を眺めながら、零が呟いた。

 

「いや、今回の巡礼の担当って、シャッハとセインだったような……」

「……大丈夫ですよ、騎士零。シスター・シャッハが一緒ですから……(セイン)の方は、どうかは分かりませんが……」

「そこは大丈夫、って言うべきところじゃない?」

 

 視線を逸らしたディードに、フェアがツッコミを入れる。「それもそうだな」と頷いた零は、そっと息を吐いた。

 

(……変わったな、こいつらも)

 

 たった3年前までは、刷り込みに等しい目標のため、命を賭けて戦った間柄だというのに。

 今ではそれぞれシスター姿や執事姿が板に付き、執事や修道騎士見習いとして自覚が芽生えたのか成長も著しい。

 

「俺も、年をとったなあ……」

「……まだ、22歳ですよね?」

「つーか、見た目は10代半ばの人間が言う台詞じゃないよねー。身長、今年で追い抜くよ?」

 

 零の呟きにディードが冷静にツッコミをいれ、フェアは嘲笑を浮かべる。零とフェアの身長差は、頭半分も無い。

 

「……よし、フェア。剣を取れ。その性根、叩き直してやる! 俺はもう22だ!」

「はいはい」

 

 刀を抜いた零に対し、フェアはアインザッツと防護服を展開する。集まり始めた修道騎士見習いの同期達はどちらが勝つかと盛り上がっていた。

 ――今日も、聖王教会は平和です。

 

 

 ◇

 

 

「失礼します」

 

 腰に届く赤毛を一つに結い、首都航空隊の制服を纏った少女・霜月秋葉は自身を案内してくれた職員に敬礼して、先に続く扉をくぐった。港湾警備隊のオフィスである。その奥にあるデスクにいた男性――港湾警備隊前線指揮官のヴォルツ・スターンが秋葉に気づき、軽く手を挙げた。

 

「本日より、首都航空隊から一時出向となりました霜月秋葉三等空尉であります。遅くなって、申し訳ありません」

「いや、こっちこそ急に悪かったな。早速で悪いが、これを見てくれ」

 

 言って、ヴォルツはモニターを立ち上げる。そこには先日火災が発生した大型デパート・フィリーズが映し出されていた。

 

「例の連続殺人事件と、放火の……」

「ああ。使われたのは燃焼剤で、知ってるとは思うが燃焼剤火災は消火しにくい、非常に厄介な火災だ。消火剤を用意するのも時間がかかるし、魔導師が運べるサイズじゃない」

 

 必要なデータを表示させ、ヴォルツは横目で秋葉を見る。熱心にモニターを見つめ、データの一つ一つを頭に叩き込んでいる様子だ。

 

「今後この手の火災が発生した時に備えて、空が飛べて、かつ凍結系の魔法が使える魔導師を……と思った時……」

「スバル……じゃない。失礼しました。ナカジマ防災士長が、私の話を?」

「そういうことだ。ちょうどこの時も、出動したと聞いてな。若いのにご苦労なことだ」

「それが仕事ですから。それに、今はどこの部署でも私より若い魔導師が大勢いますし」

 

 にこりと微笑んで、秋葉は答える。ヴォルツも苦笑していた。

 

「だな。話を戻そう。秋月三尉には前線に出てもらうつもりだ。メインは消火活動だが、時には犯人と交戦することもあるかもしれない。ここまでは?」

「問題ありません。指揮は前線部隊に?」

「ああ。だが今回の――マリアージュが関連する事件では、担当の指示に従ってくれ」

 

 言って、ヴォルツは三人の女性の写真を映し出す。

 

「ティアナ・ランスター執務官。それとこっちは108の捜査官の、ギンガ・ナカジマ。それからうちのスバル・ナカジマ。執務官とナカジマ姉――2人とも、もう知り合いだったな」

「はい。後ほど、通信でもして挨拶しておこうと」

「そうしてくれ。よろしく頼むな」

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 

 敬礼を交わし、秋葉は退室した。同時に深い溜息を吐く。

 

「スバルとティアナ、それにギンガさん……あと108のヘリパイはアルトだったよね……身内多いね」

 

 モニターを立ち上げながら、秋葉は手近のソファに腰掛ける。表示したのは、マリアージュが関与したと思われる事件の詳細データだった。

 

(<フィリーズ>で6件、<ヴァイゼン>で4件。そんでもってミッドチルダで1件かあ……)

 

 手口はどれも共通しているらしく、古代ベルカに詳しいとされる被害者を拉致し、脅迫し殺害。その後周辺を火の海に変えるという。

 

(被害者はいずれも、咽喉部を鋭利な刃物で刺突……傷の具合から、自殺の可能性が高いとされる……)

 

 被害者自ら死を選ばせるほどの脅迫か、それとも何らかの暗示、洗脳か。いずれにせよ拉致された被害者がただ一人を除いて死亡していることは間違いない。

 その例外――先日第5管理世界<アリエル>で発生した事件では、本局の執務官とその補佐に追われていた容疑者が被害者とされている。逃走していた容疑者をマリアージュが拉致し、脅迫していたらしい。だが追跡していた魔導師――担当の執務官補佐に場所を特定され、交戦。不利を悟ったマリアージュは体を破壊し、燃焼液を撒き散らして、自身ごと爆発に巻き込んだとされている。

 

「……まあ深琴ちゃんだしね。オーバーSランクは伊達じゃない、か」

 

 呟いて、秋葉はモニターを閉じた。

 

 

 ◇

 

 

「よかったー。じゃあ2人も、明日来れるんだね?」

 

 夜。出発の準備を終えた私、秋月深琴は映像通信を立ち上げた。モニターの向こうでは元六課フォワードのエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが笑っている。

 

『はい!』

『でも、みんなお休みなんて久しぶりですよね?』

「あ、そういえばそうだね……まあティアはお仕事だけど……」

 

 しかしそれでも、普段からそれぞれ忙しい部署に所属する私たちが一同に会することはほとんどない。本局に所属する私とティアはともかくだ。

 そして先ほどスバルから、秋葉さんが港湾警備隊に合流したこと、彼女もスバルの部屋に泊まると連絡が来た。……部屋のキャパシティは大丈夫なのか?

 

「せっかくだからさ、明日の夜は私とキャロで何か作ろうか? ティアの執務官祝いと、秋葉さんの昇進祝いに」

『あ、いいですね!』 

『じゃあ明日、スバルさんに頼んで買出しもしちゃいましょう!』

 

 私の提案に、エリオもキャロも乗った。それからは決めるべきことがテンポよく決まっていく。

 一先ず明日は、ミッド湾岸部の次元空港で待ち合わせ。外でスバルとアルトが迎えに来てくれることになっている。

 

『……でも、ティアさんの事件、早く解決するといいですね』

「……大丈夫だよ。ティアとギンガさんが担当だし、スバル達もいる。それにいざとなったら、私たちも協力させてもらえばいいんだし」

 

 不安そうに呟いたキャロに、私は笑顔で言った。

 そう。何かあれば、私たちが協力すればいい。機動六課のフォワードの5人が集まって、できないことは何一つないのだから。

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