魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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03.5:新しい日々

 ただ自分を縛るだけだった白一色の世界は、彩り鮮やかな自由な世界に。

 ただ自分を生かすだけだった機械は、魔法という名の力へと。

 ただ見上げるだけだった空は、今となってはとても身近なものに。

 ただ憧れていた日常は、あっという間に終わりを告げて。

 ――新しい日々を、「機動六課」で費やすことになる。

 

 

 

 時空管理局遺失物管理部対策部隊、機動六課。私・秋月深琴が所属するその部隊は特定遺失物の保守管理が主な任務であり、同時にそれらを悪用しようとする犯罪者と戦う対策部隊でもある。一年間という期間限定部隊でありながら集められた戦力(隊長陣)は、間違いなく時空管理局最強。そして選抜された新人は、その誰もが才能を秘めている。ほぼ反則に近いこの人事が通ったというのだから、部隊長・八神はやて二佐はよほどのやり手なのだろう――というのが、現時点での第三者評価だ。

 

「秋月三士、お茶をどうぞ」

「あ、ありがとうございます。ルシエ三士」

 

 そんな部隊に私が配属されてから、4日が経過しようとしている。隊員オフィスで、同僚のキャロ・ル・ルシエ三等陸士からお茶を受け取り、私は作成途中だった書類を一気に書きあげた。そんな私の様子を、キャロはぽけーっと見ている。

 

「え!? 深琴、もう終わっちゃったの!?」

 

 半ば悲鳴に近い声を上げたのは、スバル・ナカジマ二等陸士。デスクワークは苦手なのか、その目には涙が浮かんでいる。

 

「あの、ナカジマ二士。私でよければ手伝いますが……」

「ほんと!?」

「駄目よ、深琴。こいつを甘やかしちゃ」

 

 バックに花畑さえ見えるほど一気に表情を明るくしたナカジマ二士を、ティアナ・ランスター二等陸士が突き放す。

 

「うぅ……ティアぁー……」

「そんな目しても、駄目なものは駄目」

「ナカジマ二士、資料です。よかったらどうぞ」

「エリオぉ……」

 

 資料を差し出したエリオ・モンディアル三等陸士に、ナカジマ二士はまるで抱きつくようなテンションでお礼を言う。そして五人で書類を書き進めること数分、そのアナウンスは響いた。

 

『隊員呼び出しです。スターズ分隊 スバル・ナカジマ二等陸士。同 ティアナ・ランスター二等陸士。ライトニング分隊 エリオ・モンディアル三等陸士。同 キャロ・ル・ルシエ三等陸士。ロングアーチ 秋月深琴三等空士。10分後にロビーに集合してください』

 

 ……一体何だろう。呼び出しなんて、配属して初めてだ。そんなことを話しているナカジマ二士とモンディアル三士、そしてルシエ三士のヒーリングを受けるランスター二士。

 

「深琴は平気?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 ありがとうございます、と頭を下げると、ナカジマ二士、ランスター二士が眉を顰めた。……え、なんかまずいこと言った?

 

「あのさ、なんつーか、こう……」

「チームメイトなんだし、もうちょっと柔らかくていいよ。そんな敬語とか、気を使わなくても」

 

 そう言われても、正直にいえば困る。年齢は近いし、階級だってそう差はないのだから敬語はおかしいのかもしれないが……。

 

(昔、二人にも言われたっけ……)

 

 まだ士官学校に入学して間もない頃、数少ない友人のルーチェ、そしてレオンに言われた覚えがある。

 

『立場は対等なんだから、敬語を使う必要なんてない。……いやまあ、親父さんの教育方針は間違ってはないんだけど……』

『私たちがいいっていえばいいの! チームメイトなんだから!』

 

「名前でいいよ。スバルと、ティア!」

 

 困惑した私とエリオ、キャロにスバルは言う。

 

「ではスバルさんと」

「ティアさんで」

「うん!」

「さ、行くわよー」

 

 エリオとキャロの結論に満面の笑顔で、スバルは頷く。その光景を見守っていたティアナが号令をかけた。

 

 

 

「はい、みなさん集まりましたねー」

 

 ロビーで待っていたのは、機動六課部隊長補佐・リインフォースⅡ空曹長だった。

 

「今日の午前中は訓練なしということで、5人に六課の施設や人員を紹介していくですよ」

「「はいっ」」

「ほかのみんなは初日にオリエンテーションをやったですが、5人はずーっとなのはさんの訓練でしたから」

「みっちりやってました」

 

 スバルが笑顔で答える。

 

「でもおかげで最低限の基礎は終わって、今日からは本訓練のスタートだとか」

 

 ……最低限の、『基礎』? あれが?

 

 

 

 ◇

 

 

 機動六課、部隊長室。

 

「訓練ももう4日目か。新人たちの手ごたえはどないや?」

「5人共いいね。かなり伸びるよ、あの子たち」

 

 機動六課部隊長・八神はやて二等陸佐が、戦技教導官・高町なのは一等空尉に問う。はやての言葉に、なのははウインクを返した。

 

「取り急ぎ準備だけは終えたんだけど、伸ばしていく方向もだいぶ見えてきた」

 

 言って、なのはは新人魔導師5人のデータをモニターに表示させる。

 

「高速機動と電気資質。突破・殲滅型を目指せるガードウィングのエリオと」

 

 モニターの画像が、エリオからスバルへと変わる。

 

「一撃必倒の爆発力に頑丈な防御性能。フロントアタッカーの理想型を目指していくスバル」

 

 今度は、スバルからキャロへ。

 

二騎(・・)の竜召喚を切り札に、支援中心に後方型魔導師の完成形を目指していくフルバックのキャロ」

 

 そしてキャロから、ティアナへ。

 

「射撃と幻術を極めて、味方を生かして戦う戦術型のエリートガンナーになってくはずの、センターガードのティアナ」

 

 最後にティアナから、深琴へと。

 

「魔力運用の器用さを生かして臨機応変にポジションを変更し、単独でも高い戦闘力で敵を殲滅する『ポジションフリー』の深琴――チームでは一応ウィンドバックを担当するけどね」

 

 言って、なのはは満面の笑みを浮かべる。

 

「どこまで伸びるか楽しみでねー。5人がしっかり完成したら、すごいことになるよ!」

「楽しみやー。リーダーは誰になるんやろ?」

「ティアナで決まりじゃないかな。ちょっと熱くなりやすいところがあるけど視野は広いし指示も正確。自然と他の4人を引っ張ってるしね」

 

 

 ただ、となのはは続ける。

 

「ライトニングは経験不足以外は問題ないんだけど、スターズのコンビと深琴が3人揃ってすんごい突撃思考なんだよ」

「あー……なのはちゃんのちっちゃいころみたいな?」

 

 一撃必倒を地で行くスターズコンビと深琴、そして全力全開を地で行くエースオブエース(当時9歳)の映像がなのはの脳裏にも過ったらしい。複雑そうな顔で呻いた。

 

「今すぐでも出動できなくはないけど、全員まだあと1週間くらいはフル出動は避けたいかな。もう少し確実で安全な戦術を教えてからにしたいんだ」

「へーきや。そのための隊長・副隊長の配置やし、新人たちの配置についてはなのはちゃんの裁量に……」

 

 と、はやては言い直す。

 

「『高町教導官』に全面的にお任せや」

「ありがとうございます、八神部隊長」

 

 

 ◇

 

 

「はい! こちらの食堂で案内は一通り終了です。食堂の使い方はもうわかってますよね?」

「「はいっ」」

「ちょうどお昼休みです。これにて解散としましょう」

「「ありがとうございました!」」

 

「じゃあ、お昼食べちゃおうか」

「うん! エリオたちも一緒に……」

「スバルー、ちょっといいー?」

 

 言いかけたスバルを、アルトが呼んだ。

 

「先食べてて! すぐ合流するから」

「ん」

「はいっ!」

 

 そして残された私たちを、沈黙が包み込む――その瞬間だった。ポケットに入れていた携帯端末が着信を告げる。

 

「すいません。お昼、お先にどうぞ!」

「席取ってるわね」

「すいません、ありがとうございます!」

 

 足早に食堂を出て、一息つく。休憩室の一角で、ようやくモニターを繋いだ。発信者は、レオン・アヴァンシア。

 

『悪い、急に。そっちはどうだ?』

「なんとかやってるよ。今のところは大丈夫」

『……お前の”大丈夫”はあてにならないから聞いてんだよ。噂になってんぞ。Aランク試験のターゲットを完膚なきまでに破壊したって』

「やりすぎ?」

『分かってんなら自重してくれ』

 

 自重してたら落第だってば。内心でそう呟いていると、レオンが気まずそうに切り出した。

 

『本当に大丈夫か? 訓練もそうだが、同僚と上手くやれそうかとか……特にお前は、いろいろとアレだし』

 

 アレ、とぼかされたがその中身は言われなくても分かっている。地球出身で本局教育隊教官夫妻の姪、新人のくせにAランク、士官学校首席卒業――そして、インターミドル・チャンピオンシップ世界ランク10位。羅列するだけでも生意気な経歴だ。うち最初と最後だけでどれほどの人間を敵に回しただろう。士官学校に入学して間もない頃はやれコネだのやれお嬢だの言われてたっけ(腹が立ったのでそいつら全員実技訓練で叩きのめしてやった。今となってはいい思い出である)。今の居場所でも似たようなことになっていないか――レオンは、それを心配しているらしい。

 

「……余計なお世話」

 

 そんなことない、と言い切れない自分が腹立たしくてついぶっきらぼうな口調になる。こちらを真っ直ぐに見詰める、モニター越しの碧眼がその感情を更に駆り立てた。

 大丈夫だと思う。けれど確実かと問われたら否、と答えるしかない。

 私は秋月英史の姪で、同じ『秋月』を名乗る人間で。無力であることを理由に、秋月の姓を汚すわけにはいかない。無力であることをただ嘆くだけでは母さん(あの人)と、何一つ変わらない。そして何より、無力であることが嫌だった。私とあの人は違う。あの頃と今の私は違う。違うはずだ。違っていたい。――それが積み重なって、強くなりたかった。いったん入ったスイッチは、今に至るまで切れる様子はない。

 

(……私は、間違ってない)

 

 そうだ、と自分で自分に応える。あの黒銀と並び立つその日――いや、再び出会うその日まで、私は無力でいるわけにはいかない。そう考えれば訓練も全然苦しくなかった。

 それは同時に「ごく一般的な」14歳でいられないということだけど、それでよかった。少なくとも今の私はそう思っている。そしてそれは、自分だけが分かっていればいい。

 

『……ならいいけどな。ルーチェも心配してるし、メールくらい入れろよ』

 

 じゃあな、と通信が切れる。相変わらず過保護なチームメイト達だ。慣れないうちは二人の気遣いが苦手で仕方なかったほどだったのを思い出す。今では心地よくなっているのだから、時の流れというのは不思議だ。

 そう考え微笑んでいると、頭を軽く小突かれる。

 

「よ。お疲れさん」

「ぐ、グランセニック陸曹!? お、お疲れ様です!」

 

 大慌てで背筋を整え、敬礼する。その様子に陸曹は「相変わらず固ぇな、お前」と苦笑していた。

 

「オリエンテーションは終わったのか?」

「はい。つい先ほど」

 

 答えた私を、陸曹はじっと見ている。

 

「あの……」

「ん? ああ、悪い。……そういやお前、歳いくつだっけ」

「今年の夏で14歳になります」

「14ねえ……入局したての俺より年下かよ。まああいつはもっと年下だったか」

 

 天才は怖いねえ、と呟きながら陸曹は歩き出す。ちなみに呟く前に「昼飯まだだろ? 一緒に行くか」と言われたため、私はその隣を歩いている。

 

「さっきのは友達?」

「はい。士官学校時代のチームメイトで……」

 

 という振りから徐々に個人情報を暴かれていく。誕生日、血液型、趣味・特技エトセトラ。3年前にはよく雑誌のインタビューもあったから慣れてはいるけど、口にするのは苦手だ。

 

「あの……その質問に、何か意味があるんですか?」

「だってお前、ここに入ってから事務的な会話しかしてないだろ」

 

 耐えかねて口を挟むと、陸曹はこともなげにそんなことを言った。

 

「アルトが気にしてたぜ」

「クラエッタ二士が? ……あ痛っ!」

 

 聞き返すと、なぜか額を指で弾かれた。いけない、油断してた。

 

「他にもルキノやメカオタ眼鏡やお若い准陸尉殿やリイン曹長や八神部隊長がな。ついでにいえばなのはさんにフェイトさん、シグナム副隊長やヴィータ副隊長もだ」

「ロングアーチと隊長陣全員じゃないですか」

「そんだけ心配かけてんだよ、お前は」

 

 肩を竦めて、陸曹は説明した。曰く入隊してから私が誰ともろくに話をしてないとクラエッタ二士、リリエ二士が心配していて、というかよそよそしいよねーとフィニーノ一士が輪に入り、そこからロウラン准尉、リイン曹長と輪は広がっていってシグナム副隊長と陸曹に伝わり、ほぼ同時にヴィータ副隊長、八神部隊長、なのはさん、フェイト執務官に伝播していったとのこと。

 

「むやみに誰とでも慣れあう必要はねえけど、最低限のコミュニケーションは取れないとマズいんじゃねえの?」

「……そう、ですね……」

 

 けれど、どうすればいいのか。レオンもルーチェも私より四つ近く年上で、それでも同期生の中では私に次いで若かったのだ。けれど六課は違う。二人よりも私と歳が近い人が多い。

 

「……でも、分からないんです。自分とあまり歳が変わらない人との会話の仕方が」

「分からないって……」

 

 そう、分からない。地球ではずっと入院してたし、士官学校に入るまでは伯父夫婦の下でひたすら魔法の力を磨いていた。士官学校ではレオンとルーチェがずっと傍にいたし、二人より私と年が近いひとはいなかったから。

 

 何を話せば、相手は応えてくれるのだろうか。それさえ分からない。

 

「そう難しく考えなさんな」

 

 言って、陸曹は私の頭をぽんぽんと叩く。

 

「話していくうちに分かってくるもんだ。話なんて最初から合わないのが当たり前だしな」

「はい……」

「まずは敬語はやめろ。うちはそこまでうるさくないし丁寧語で十分だ、とは八神部隊長からな。ついでに言えば階級呼びもやめろ。せめてフォワード陣は呼び捨てでな。俺も『ヴァイス陸曹』でいい」

「はい。ヴァイス陸曹」

「その調子だ。……ほれ、行ってこい」

 

 視線の先には、宣言通り席を取って待っていてくれたフォワード陣がいる。 

 

「遅いわよ、深琴」

「ご飯冷めちゃうよー」

「メニュー、何にしますか?」

「深琴さん、お茶どうぞ」

 

 歓迎準備完了、と言わんばかりに4人は空席を示す。ヴァイス陸曹に背中を押された私はまずは一歩踏み出して止まり、今度は小走りで4人の元へ向かった。自然と頬は上気し、口角が上がる。

 

「――ごめん、お待たせ」

 

 

 ◇

 

 

「なのはちゃん的に、この機動六課はどーやろ」

「どうって?」

「いい部隊になりそうかなー、とか」

 

 はやての問いに、なのはは笑みを浮かべた。

 

「人材は本当にしっかり揃ったと思う。ロングアーチやバックヤードまで本当にいい子たちばっかりだし」

 

 が、そこまで言って、なのはの表情は曇る。

 

「新人たちも……特にフォワードたちはいろいろ重い子も多いけど……ライトニングの2人はもちろんスバルもティアナも、深琴も……」

「『立ち向かうための意志を持った子』。前線メンバー集める時に一番気にしたところや。あの5人はそこは絶対間違いない」

 

 言って、はやてはなのはを見た。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃんには苦労かけるし寄り道してもらって申し訳ないけど……」

「寄り道じゃないよ。前線で教官って立場は、私にとっては夢みたいな立場だし」

 

 それに、となのはは続ける。

 

「立ち向かうための意志に、撃ち抜く力と元気に帰ってくる技術をしっかり持たせてあげること。――それがわたしの仕事だからね」

 

 

 ◇

 

 

「さて、じゃあこれから第一段階に入っていくわけだけど」

 

 陸戦訓練場で、教導隊制服に身を包み、その手にデバイス・レイジングハートを携えてなのはさんは口火を切った。

 

「まだしばらくは個人スキルはやりません。コンビネーションとチームワークが中心ね。5人ともそれぞれ得意の分野をしっかり生かして協力し合う!」

「「はいっ!」」

「個性を生かして能力をフルに活用して、まずはチームでの戦いをしっかり身につけよう」

「「「はいっ!」」」

 

 準備体操に入りながら、私は空を見上げた。

 新しい居場所と、そこで過ごす日々。仲間たちと、エースたちと過ごせるこの瞬間を大切に。

 そしてきっかけを与えてくれたあの黒銀に、言いつくせないほどの感謝を胸に。

 

 ――秋月深琴、頑張ります!

 

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