魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー   作:藤月沙月

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08:捜査、進展

 モニターの映像と送られてきた情報を整理して、私は捜査員の報告から得られた情報を纏める。彼らの現在位置と確認された反応は逐一確認した。もし何らかの――それこそマリアージュの襲撃があれば、彼らだけでは対抗できない。

 その辺りも考えて指示を出すのは執務官。補佐官の仕事は情報を収集・纏めて報告し、必要となる渉外やその他事務処理だ。この場合、補佐官は非魔導師の場合が多い。犯人との戦闘は協力部隊に所属する魔導師が殆どだ。執務官がエース級の魔導師である場合は、補佐官が前線管制を担当する。

 とはいえ、これは「一般的な」執務官と執務官補佐の場合で、当然例外は存在する。その場合真っ先に例に挙げられるのは私とアーウィング執務官のコンビだ。

 決定的な違いは、「交戦時に補佐が最前衛を、執務官が補助と前線管制を担当する」という一点だけ。協力部隊の魔導師は中衛や他アジトの制圧に向かわせることが多い。戦闘スタイルやポジションからしてこの配置が私達の「黄金パターン」だ。「補佐官を人質に取ったら実は魔導師で、返り討ちにあって自分が人質になった」というのは、この三年間で結構遭遇したパターンである。

 このため、私が「一般的な補佐官」として事務や渉外を担当することは滅多にない。あってもせいぜい、今回のように捜査中の場合が殆どだ。

 

「深琴さあ……お茶飲む時くらい、手、止めたら?」

「んー、そうしたいのは山々なんだけどねー」

 

 言って、フェアは椅子に座った。「座った」とは言っても背もたれに顎を置くその姿は、聖王教会に所属する修道騎士見習いとは思えない。背中に負った傷は今朝方には完治が確認され、本人の意思もあり捜査への参加は続行。予定としてはこの後、アルトやティアの臨時補佐官のルネッサ・マグナスと共にK267の地下街でトレディア・グラーゼの捜索に参加する。

 兄とオットー、ヴィヴィオからもたらされた情報を元に、彼方さんはトレディア・グラーゼの調査を開始。同姓同名のオルセア解放戦線の活動家との関係性等の調査だ。そのため入れ替わりでK267での調査協力に渡辺零さんが参加することになっている。ルネッサの代わりにティアの補佐を担当する私はこの場――湾岸特別救助隊や現場から離れることができず、フェアの道中の行動は私の監視から外れることになっていた。

 

「零さんとアーウィング執務官、それに彼方さんにはその旨を報告しとかないと駄目なの。今はその書類の作成中」

「ふーん」

 

 興味なさそうに、フェアは言う。

 まあ零さんや執務官なら、こんな形式ばった報告は必要ない。何だかんだ言ってフェアを信頼しているし、その成長を喜んでいるから。――ティアを庇って、フェアが負傷したことを報告した際、この二人は二重の意味で驚いたらしい。一つはフェアが負傷するほど、マリアージュは強敵だったのかということ。もう一つは、「フェアが誰かを庇った」という事実に。

 そこまで出来るようになった彼が、私の監視下から離れた途端に裏切ったりすることはないだろう――というのが、保護責任者と法的後見人の意見だ。

 そんなことを考えながら、私はキーを叩く手を止めない。誤字脱字や不備がないことを確認して、送信ボタンを押す。

 見計らったタイミングで、フェアが口を開いた。

 

「深琴ってさあ、あんまり『他人』を信じてないよね? 六課の関係者とかにはいつも通りなのに、そうじゃない人に対してさ」

「まあね。基本的に『他人を疑う仕事』だから」

 

 信じていない、という表現には語弊がある。信頼と信用の間、と言うべきか……ともかく、私の仕事は上司の指示に従い、早期に事件を解決することだ。行動中信じているのは上司と自分、そして付き合いのある協力者だけ。JS事件を含めて二度、内通者によって痛い目に遭った身としては用心に越したことはない。もちろん、周囲にはそんなこと悟らせないようにしている。

 

「でも、私はフェアのこと信じてるよ。『友達』だもの」

 

 かつては刃を交え、信じるもののために戦った間柄だし。

 友達、との単語を聞いて、フェアは目を輝かせる。嬉しそうに頷くその姿に、涙が出そうになった。純粋すぎるよ、この子……。

 秋葉さんに連れられて108隊へ向かうフェアを見送って、私は小さく溜息を吐いた。

 それと同時にティアのもとへ移動する。通信を終えたらしいティアは、モニターを閉じた。

 

「悪いわね、深琴。せっかくの休暇なのに」

「大丈夫だよ。もとより、そのつもりだったし」

「そう言ってくれると助かる。……あ、お弁当ありがとね。すっごく美味しかった」

 

 ティアの言う「お弁当」の中身は、彼女のお気に入りの野菜と鶏肉のサンドイッチやタマゴサンド。楊枝にも使えるピンで刺した一口サイズのハンバーグとか、プチトマトとか。保温効果が高い水筒には野菜スープ。当然スバル達の協力を受けたものだ。

 

「ルネも美味しいって言ってたわ。やっぱり深琴やキャロが作ると違うわね。色んな味が楽しめるっていうか……」

「出身によって好みとか違うしね。気に入ってもらえたなら何よりだよ」

 

 笑って、私は纏めたデータをティアに見せようとモニターを開く。――それと同時に、複数の足音がこちらへ近づいてきた。

 

「ティア!」

「スバル……それに、あんた達……」

「「お疲れ様ですっ!」」

 

 スバルの声に振り返ったティアが、スバルの後ろから近づいてきたエリオとキャロを見た。

 

「ギンガさんとスバルさんにお願いして、今回の事件についての協力許可を頂きました」

「所属の保護隊からも、オッケーを貰いまして」

「エリオ・モンディアル一等陸士と」

「キャロ・ル・ルシエ一等陸士」

 

 敬礼した二人は、笑顔。

 

「ランスター執務官の下で、事件に協力させていただきます!」

「よろしくお願いします!」

 

 二人の様子を見て、ティアは何故か私を見る。……私、何もしてないよ? 協力できたらしようね、とは言ったけど、二人の所属である保護隊やギンガさんに話はしてないし。

 それにこの二人も、一回言い出したら聞かない。お母さん譲りなのだろう。言うだけ無駄だと悟ったのか、ティアは肩を竦めた。

 

「ありがと。心強いわ」

「フォワードチーム、5人集合ですね!」

 

 ティアの言葉に喜んで、エリオが笑う。スバルも同じく笑顔で、エリオの言葉に頷いた。

 

「うん! アルトもいるし……それに、応援も呼んでくれるとか」

 

 元々の事件担当は湾岸特別救助隊で、救助隊の特性上担当窓口はギンガさん。第一の応援に秋葉さんが呼ばれ、ティアとルネッサが捜査担当で来て。私とエリオとキャロ、フェアが自主応援でやって来て、彼方さんと零さんも参加してくれる。ナカジマ四姉妹とアーウィング執務官は状況次第。

 横の繋がりだけでも結構な数の協力者の顔を浮かべて、私は小さく口を開いた。

 地上部隊で、横の繋がりで――ティアの要請で来てくれそうな人がもう一人。

 機動六課時代の先輩で、ヘリパイロット兼狙撃手――ヴァイス・グランセニック陸曹長が。

 

 

 ◇

 

 

『はい! 見えました! 再開発地区、K267です!』

「……下手くそな操縦ご苦労。つか、いちいち揺れがでけえんだよ、チビアルト!」

『はぁーい。荷物がパイロットに文句つけるのはご遠慮願いまーす』

 

 青空の下、JX705のキャビンは緊張感に欠ける空気に包まれていた。荷物扱いの言葉に苛立ったヴァイス・グランセニックが口を開く。

 

「言われたくなきゃ操縦替わるかぁ?」

『やーです! この子はあたしのー!』

 

 軽口を叩き合う二人と、我関せずで小さな窓から外を見つめるフェア。その空気に居た堪れなくなったルネッサは申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すみません、ヴァイス・グランセニック陸曹長。自分は……」

「あー。アルトから聞いてるよ。俺の後輩の補佐官殿だろ?」

『すいませんね、ルネッサさん。ガラの悪い先輩で……』

「誰のガラが悪いって!?」

「……管理局のヘリパイは、免許の他にも掛け合い必須なの?」

 

 アルトの言葉に噛み付いたヴァイスを見て、フェアが小さく呟く。『まあまあ』とアルトが取り成した。

 

『この人も六課の隊員だったんですよ。ティアナと深琴の先輩でもありました』

「秋月執務官補の……?」

『はい。特に深琴は、フォワード兼ロングアーチスタッフだったんで』

「そういうことだ。ま、よろしくな」

「こちらこそ」

 

 握手を交わし、ヴァイスは「ところで」とフェアを見る。一方のフェアは先ほどと変わらない様子で、窓の外を見つめていた。

 

「お前……この揺れで、よく外見ようと思えるよな」

「この程度の揺れで酔う程、繊細な神経してないみたい。それに、こうしてヘリに乗ることなかったから……記念に?」

 

 小首を傾げたフェアは、ヴァイスとルネッサを見る。気遣わしげな視線を送る彼らに、更に首を傾げて見せた。キャビンを包んだ沈黙に気づいて、フェアはアルトに「僕、何かまずいこと言った?」とモニターを繋げる。

 

「あー……フェア。何だったら帰り道、俺が操縦してやろうか? チビアルトに比べて、大分マシだとは思うけど」

『ちょ、ヴァイス先輩! この子はあたしのです!』

「え、いいの?」

『あー! フェアも乗っちゃ駄目だってば!』

 

 言ってアルトとヴァイスは、再びヘリの操縦権を賭けて争い始める。その様子を眺めていたルネッサを、フェアが深紅色の瞳で見つめた。

 

「ティアナが言ってたけど……君、射撃型なんだっけ? しかも今時珍しい本物の拳銃の」

「はい、一応は……」

 

 頷いたルネッサは、腰のホルスターから銀色に輝く拳銃を取り出した。弾倉を確認して、銃弾を詰める。

 

「しかもリボルバー!」

『なんて言ったっけ。デバイス扱いで、可愛い名前で登録してたよね?』

「……『シルバーダガー』……思い付きだけで、芸のない名前です」

 

 頬を染め、はにかんで、ルネッサは謙遜する。銀色に輝く牙の名は、銃によく合っていた。同じく射撃型のヴァイスが、銃を検分する。

 

「そのサイズのハンドガンってことは、レンジはショートからミドルだな……」

「そこまで分かるの?」

「まあな。……陸戦ポジはガードかセンター?」

「すいません。自分は武装隊の経験がないもので……」

 

 ルネッサの言葉に、ヴァイスは「こりゃ失礼」と即座に謝罪した。

 

「捜査官一筋?」

「本業は検死と鑑識です。……生きている人間より、死んでる人間相手の方が合うみたいで」

 

 ルネッサが言うと同時に、地上の警邏隊から通信モニターが開かれる。

 

『JX705一番機へ。こちら地上警邏。手配中の容疑者が出現、三名を確認』

 

 地上から送られたリアルタイムの映像に、全員が表情を引き締めた。間髪入れず、今度はアインザッツが通信モニターを開く。モニターの向こうには、騎士服を展開した渡辺零が映し出されていた。

 

『俺だ。準備は?』

「言われなくてもできてるよ」

『ならいい。――俺は先に地下街に突入する。お前は地上でマリアージュの相手を頼む。無茶するなよ』

「分かってる。深琴みたいなこと言わないで。……切るよ」

 

 モニターを閉じ、フェアは防護服とデバイスを展開させる。二振りのショートソードを手首で回し、状態を確認する。デバイスも自分も、問題はない。

 

「執務官補。三人相手、前衛やれっか?」

「陸曹長殿は地下でも狙撃弾丸を届けられると伺っています。フォローをして頂ければ」

「最前衛は僕が行くよ。注意を引くから、その間に無事に降下してくれたら――やれるよね? アインザッツ」

《No problem.》

 

 操縦席に座るアルトがポジションを確認し、ハッチを開く。

 

「行くぜ、ストームレイダー」

《Variable Barret.》

「……行こう、シルバーダガー」

 

 ハッチから飛び降りて、フェアはそのままの姿勢で攻撃を開始した。彼に気をとられたマリアージュが三体応戦している隙に、ルネッサもまた降下する。

 その姿を、一つの影が見ていた。影は呟く。機械染みた、感情の見えない声で。

 

「海に回った僚機達がいる。……どうか、イクスを……」

 

 

 ◇

 

 

 ――地上で戦闘が勃発する少し前。地下街へと突入した零は、集まっていたマリアージュを淡々と破壊していた。合計五体のマリアージュを苦戦することなく倒して、零は進む。

 マリアージュが来た方向、そして零の前に姿を見せた頻度から考えて、今進んでいる方向で間違いはないはずだ。

 

(死体によって生み出されるってことを考えると……事件が明るみになる前から、殺人は続いていたんだろうな)

 

 あるいは、戦地で調達したか。いずれにせよ非人道的なその行為に、零は唇を噛む。争いを、力で無理やり収めようとするからこうなる――と、自分たちの先祖が生きた時代を思い出した。

 

「……生きるためには殺さなければいけない……っていうんなら、まだ分かるけどな」

 

 それでも争いの根本は、戦火が広がる前に潰せるはずで。国境問題、地域や民族の差別、侵略――解決には、本当に争いが必要なのだろうか。話し合いでは何故駄目なのだろう。

 そう思うのは自分の甘さか、それとも受け継がれた後悔か。……いずれにせよ、このサイクルはどこかで止めなければならない。

 

(……何だ、この部屋……)

 

 足を止め、零は辿り着いた部屋を見回す。置かれているのは旧式のテープレコーダーだけ。再開発地区という割には、この部屋はひどくこざっぱりしていた。

 刀を鞘に納め、零はテープレコーダーを再生させる。テープを巻き取る耳障りな音が響いた。

 

『詩篇の九。時が訪れれば、王は帰還する。操主の姿は無くとも、冥府は再び開かれる』

 

 男の、くぐもった声は続く。

 

『舞い上がる炎と鬨の声は、そこに正しく、平和の価値を知らしめる。――この声に惹かれたのは、マリアージュか、捜査官か。……いずれにせよ、時は来た。何があろうと、私の悲願は、止まらない――』

「――っ、ふざけんなよ!」

 

 音を立てて、テープが止まる。同時に零の拳が、床を叩いた。音を立ててめり込んだ床に、赤い血液が滴り落ちる。それに構うことなく、零は言葉を紡いだ。

 

「何が悲願だ! 何が平和の価値を知らしめるだ! 恨む相手が違うだろうが! この世界の人間が、お前達に何をしたってんだよ! 好き好んで争う人間ばかりと思ってんじゃねえよ!」

 

 肩で息をしながら、零は怒鳴りあげる。

 確かに世界は変わらない。争い、傷つけて、何事も無かったかのように平和を享受する。そして再び人は争い、傷つけ――それだけをただ繰り返す。

 だが、と零はテープレコーダーを睨みつけた。

 そんなどうしようもない世界でも、人は一生懸命生きている。明日への希望を、平和な未来になることを願って戦い続ける人がいる。争いのためだけに生み出され、それでも今を笑って生きようとしている人だっているにも関わらず――彼らの努力を無に帰す企みに、零の苛立ちは増していくばかりだ。

 

「だったら、止めてやる……」

 

 証拠となるレコーダーを回収し、零は来た道を急ぐ。全てが手遅れになる前に、5人のストライカー達に伝えなければ――。

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