魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
争いが繰り返される理由と、平和の「意味」。世界はずっと争ってばかりで、平和なひと時が与えられても、片隅では争いは続いていて。
国境問題や地域や民族差別。侵略。理由は異なれど、どの世界でも争いはなくならない。規模は世界によって異なるし、そもそも規模の問題ではないと思う。人は判断する時に、一番分かりやすい数字を利用するが……根本的な問題は数字ではなくて(武器や兵器産業の利益という点ではその通りなのだが)、価値観の相違とか、そんなもの。
とはいえ、今回の事件に関しては、私は声を大にして叫びたい。ミッドチルダの人々が何をした? 平和の価値を知らずに軽んじているから? それはどこの誰が判断したのか、ぜひ聞きたいものだ。
今この時だって、事件の早期解決に動く人がいる。同時に訳のわからない兵器や火事で、消えかけている命がある。他の世界がそうならないように、一生懸命働いている人たちがいる。
それでも尚、「争いをもって争いを制し、平和の価値を知らしめる」と言うのなら、問おう。あなたたちが壊そうとしている平和と、消そうとしている命は、その理想に値しないものなのかと。そんな神様気取りの言動は、認めたくない。
別に自分は、神様でも全人類の代弁者でもない。ただこの世界に生きる一人の人間として、そして力を持って生まれた者として、自分の意思で戦うと。一人の人間が出来ることは、いつだって限られている。だから人は言葉を交わして、時には拳を交えてお互いを理解できるはずなのだ。その過程に、「過度な武力を用いた争い」は必要ない。
だから、止めなくてはならない。全てが手遅れになる前に。
◇
マップに表示された、マリアージュを示すアイコンが消えてはまた現れる。北側で迎撃に入ったフェアとチンク、秋葉さんの元には10機。東側で迎撃に入った零さんと彼方さんの元には、15機。ジャケットの再構築を終えて、キャロと合流したエリオは現在西側で7機と交戦中。
そして遺跡観覧トンネルに突入したスバルは
(スバル……)
合間合間に通信ボタンを押すが、反応はない。
108のソナーによると、海底遺跡に眠っていたイクスヴェリアは既に起動しているとのこと。道に沿って移動しているとしたら、彼女を追うマリアージュがそちらへ向かっていてもおかしくはない。現にマリアージュはその材料をどこから調達したのか、増殖を繰り返しては移動をしている。
スバルのことだから大丈夫だとは思うけど、ロスト前に起こった天井崩落に巻き込まれていたら。いくら戦闘機人の体ではタダでは済まないだろうし、行動にも支障が出る。その上、もしもマリアージュに襲われたりしたら……。
「深琴!」
声に振り返ると、黒制服を纏ったアーウィング執務官がこちらに駆け寄っていた。そして挨拶もそこそこに、状況の確認を行う。
「炎の勢いは弱まっています。温度も600度前後で推移して、こちらは順調。ただ……」
「……マリアージュの数が多いな。死傷者は?」
「負傷者は若干名……要救助者2名、どちらも軽症とのことです。死者は現時点では確認されていません」
とはいえ、スカリエッティの証言によると、トレディア・グラーゼは新暦63年にスカリエッティと出会い、マリアージュの量産計画を開始している。イクスヴェリアの覚醒を待つことなく、マリアージュを量産できるように。
そしてイクスヴェリアが覚醒した今、マリアージュの生産はもっと容易に行えるはずだ。
『あなたとなら……分かり合えると、信じていたのに……!』
炎の向こうで、マリアージュを従えた少女――ガレアの『冥王』・イクスヴェリアの、涙混じりの声が脳裏に過ぎる。きっと彼女も、心の片隅では願っていたのかもしれない。平和な世界を。そして王とは名ばかりの、『兵器』からの解放を。
状況の確認と報告を終えると、執務官は管制モニターを引き継いだ。
「港湾本部の許可は得ている。お前は行って来い。――役目は、分かっているな?」
念入りに、執務官は確認する。ここまでされても、つい無茶をするのが私だ。思わず自嘲の笑みを浮かべてしまう。
「スバルと合流して、イクスヴェリアを保護。ついでにマリアージュは無力化、もしくは活動停止……ってところですね」
以前捕縛し、それでも自爆された身としては、無理に確保しようとは思えない。イクスヴェリアに、指揮・命令能力が残っていることを祈ろう。
「何度も言うが、絶対に無茶はするな。……行って来い!」
「はいっ!」
頷いて、私は走り出す。勢いに乗って軽く跳躍すると同時に、デバイスと防護服を展開した。もう一度念話でスバルに呼びかけるも、やはり反応はない。
(スバル……お願い、無事でいて……)
《W.A.S. Stand by.》
ぐっと唇を噛んで、私は通信モニターを呼び出す。相手――ティアは通話中とあったが、「横入りごめん!」と先に謝ってから通信を繋げた。モニターに映ったのは、スターズスタイルの防護服を纏ったティア。既に防護服を展開した私に驚いている。
『深琴、あんた……』
「こちら深琴。アーウィング執務官が管制を引き継いでくれた。今、東側アクアライン突っ切って、遺跡観覧トンネルに向かってる。そっちは?」
『……今、容疑者を護送したところ。ヴァイス先輩が引き受けてくれた』
そう寂しげに、けれど淡々と告げるティアの傍に、彼女は――ルネッサ・マグナスはいない。ティアの推理は正しかったようだ。ティアにとって、一番疑いたくなかった相手だっただろうに。私は「……そっか」と小さく頷いただけで、詮索はしなかった。それは全てが終わった後に、ゆっくり片付けるべきもので。
『容疑者が……ルネが言うには、稼動しているマリアージュは32機って』
「地上で迎撃中の合計がちょうど合うね。でも量産を計画してたってことは、イクスヴェリアがいなくても生産できるようにいくつかプログラムを弄ってあると思う。ヴィヴィオ達の話だと、元々マリアージュって二つのタイプに分かれるらしいから」
私達がこれまでに遭遇したのを『兵士型』と名づけるなら、もう一つのタイプは『軍団長型』と訳すらしい。兵士型に比べてずっと強いらしく、またその見かけはそう大差ない。多分判別がつくのは、イクスヴェリアくらいだろう。
『で、でも、深琴一人でしょ!? 無茶だよ、そんなの!』
『アルトの言う通りよ。今から私かティアナがそっちに向かうから……』
「大丈夫です。っていうか、最初から無茶だと分かってたらうちの上司が許可しませんよ」
『でも……』
心配そうな目で、アルトとギンガさんは私を見た。一方のティアは目を細めたまま――判断しかねている。
「それに、今手が空いているのは私だけだから。インドアでの機動力はスバルに劣るけど……でも、場所とか考えたら、私が向かうほうがいい」
そして生憎というかなんと言うか、正直に言うと私は止まる気はない。人がいないことをいいことに、戦闘中と殆ど変わらない速度で飛行を続けている。
「だから……お願い、ティア。私に行かせて」
『……分かった。というかあんた、駄目って言っても行くつもりでしょ? ほんとにもう……そういうところは、昔と変わらないままなんだから……』
深い溜息を吐いて、ティアが言った。六課の頃から、彼女に迷惑をかけっぱなしな身としては、非常に申し訳なく思う。とはいえ彼女の言う通りで、もし駄目だと言われたら盛大にごねてでも許可を出させるつもりだったし。
『あたしは地上で方法を考える。……スバルのこと、頼んだわよ』
「了解!」
モニターを切り、観覧トンネルまで一気に降下する。その途中に人の気配は無く、念のため先行させていたエリアサーチを確認するが……結果は変わらない。
(この辺りだけ、温度が一気に上がってる……それに……)
崩落したと報告があった瓦礫が見当たらない。黒く粘性のある燃焼剤の跡と炎の勢いから、「誰かがここを破壊突破した」と判断できる。まずスバルなら燃焼剤を必要としないし、他の隊員がここに来たという報告もない。もしそうだとしても、この付近に撒き散らされたジャミングの説明が出来ない。なら導き出される結果はただ一つ。
(この奥にマリアージュがいる……)
そして恐らく、イクスヴェリアも。
「……ロゼット。アルカディアに直接、データを送れそう?」
《Is possible.Please wait.『可能です。少々お待ちを』》
答えて、基本形であるショートソード型のロゼットは淡紅色のクリスタルを2、3回発光させた。
《Completed.》
「うん、ありがと。……それじゃ、行くよ!」
《Load cartridge.》
二回マガジンを回転させ、ロゼットは薬莢を排出する。それを確認して、私は奥へ突入した。