魔法少女リリカルなのはStrikerS もう一人のストライカー 作:藤月沙月
スバルとの出会いは、機動六課に配属初日。所属する分隊は違うけれど、同じ新人フォワードの顔合わせで知り合った。明るくて、優しくて――線を引いていた私にも、声をかけてくれた……誰よりも人らしい彼女の体は、人ではなかった。
鋼の骨格と人工筋肉。遺伝子調整とリンカーコアに調整を加えて生み出された、『戦闘機人』。ナンバーズと呼ばれる彼女達のプロトタイプとされている彼女は昔から、その力を怖がっていたらしい。
「痛いのとか、怖いのとか……自分がそういう目に遭うのも嫌いだけどね。誰かにそういう思いをさせるのは、もっと嫌いだった」
地上本部の襲撃と、機動六課襲撃から一週間。大破した愛機の修復とスバルの体の最終確認のため本局を訪れた私達が合流して、話題は自分達のことになっていた。小さい頃こんな場所に行ったとか、学生時代の思い出とか。
そして何より、ミッドチルダ臨海第八空港での火災。今に至る最大の理由を思い出して、スバルは微笑んでいたのを思い出す。
「『この人みたいになりたい』って思ったの。強くて、優しくて、かっこよくて……」
「うん」
「でもね。それに比べて、私は泣いてばかりで、何も出来なくて……情けなかった」
「……うん」
過去を振り返るスバルの隣に座って、私は頷いていた。その気持ちはよく分かる。自分も、同じだったのだから。
「生まれて初めて思ったの。『泣いてるだけなのも、何も出来ないのももう嫌だ』って。――強くなるんだって」
そう話すスバルの横顔を、私は忘れない。
その拳に宿る意思は固く、悲しい今を撃ち抜く力。誰よりも、何よりも「人らしく」生きるその姿は、とても眩しくて、とても綺麗だった。
◇
轟音が響き、閃光が通路を覆い尽くした。広がる硝煙と鉄の匂いに思わず顔を歪めた私は、その方向へと向かう。
目指していたその場所から、機械染みた声が響いた。
「――戦車を一撃で破壊する弾丸です。人の身で耐えられるものではありません」
「なんて……ことを……!」
徐々に輝きを失う空色のバリアの向こうで、少女が嗚咽を漏らす。外見年齢は、ヴィヴィオとそう変わらない。纏う白いワンピースにも似た衣装は、袖と襟、裾を金色で縁取られているもので、この時代では見かけない縁取りだ。素足のままの少女は、その顔を伏せる。その視線は、赤い血溜まりに向けられていた。
「あなたをずっと探していました。あなたがいなくては、我らの進軍は成り立ちません」
「進軍なんて、しなくていい……もういいの……私達は、目覚めちゃいけないの……」
肩を震わせて、少女は泣いている。マリアージュが左腕を伸ばした。
「導いてください。我らを、新たな戦場へ。冥王・イクスヴェリア……」
「っ……」
「――そこまでよ」
淡紅色のバリアでイクスを保護し、誘導弾で二人の距離を離す。間に降り立った私は、ショートソードの切っ先をマリアージュに向けた。
「連続放火殺人事件の容疑者として……そして先程の救助隊員殺人未遂の現行犯で、あなたを逮捕します」
「『未遂』……ですか」
「ええ。私の知ってるスバルは、あの程度の弾丸に負けはしない」
とはいえ、無事でないことだけは確かだ。……でも「スバルなら大丈夫だ」と私は自分に言い聞かせる。そして私の言葉に、イクスが目を見張った。
「例えそうだとしても、最早意味を成しません。そこをどいてください」
「そんなこと、すると思うの? ……武装を解除して、投降しなさい」
「それはできません。進軍は、我らの存在意義です」
言って、マリアージュは右腕の銃口を向ける。以前のものとは違う、大口径だ。生半可なバリアでは容易に破られる。
「マリアージュ、駄目! もうやめて!」
「せっかくです。あなたの屍は、我らの素体に利用しましょう」
「遠慮するわ。――刃王の末裔が屍兵器になるなんて、笑い話にもならないしね。それに……」
続く声を、掻き消す音があった。力強く回転するローラーの音。その事実に、私は微笑む。
「私は、一人じゃないから!」
そして音と共に、スバルがマリアージュへと向かっていった。その目は金色に輝いており、リボルバーナックルには空色の環状テンプレートが展開されている。
「深琴! イクスを!」
「了解!」
私はイクスに近づき、ロゼットを腕輪型へと変形させ、バリアの出力を上げた。同時にスバルの拳が、マリアージュの右腕を破壊する。
「私の戦槍を破壊……あの拳……」
「相棒!」
《Load cartridge.》
呆然とするマリアージュに追撃をかけるべく、スバルは愛機を呼んだ。ナックルのカートリッジが三弾分ロードされ、テンプレートは同色の近代ベルカ式魔方陣に変わる。
「戦槍、再構築……」
「――『振動拳』!」
拳がマリアージュに触れると同時に、圧縮した衝撃波を打ち込んだ。研鑽し続けた魔力圧縮技術とリボルバーナックルの性能とマッハキャリバーとの協力で編み出した、スバルが持つ「絶対破壊」の一撃である。スバルのISをより安全に、そして効率的に利用したこの技は、なのはさんのバリアを正面から一撃で破壊する程の威力があった。
そんな技の衝撃は、バリアで緩和したとはいえ、スバルの後方にいた私にもダメージを与える。爆煙が去るのを待ち、私はバリアを解除した。
「スバル!」
「っ……」
その場に膝をついたスバルに駆け寄る。防護服の外装は弾け飛び、上着は右袖しか残っていない。上半身左肩のインナーは意味を成さず、破片が刺さった白い肌からは出血が止まらず、所々機械骨格が露出していた。スバルの防御力はフォワード随一だ。だが彼女がここまでのダメージを負うほどの威力が、あの砲弾にはあったらしい。
「……深琴? イクスは!?」
「大丈夫。ここにいるよ」
ひとまず出血だけでも止めようと、治癒魔法を展開する。スバルの無事を確認するため駆け寄ったイクスは、瞳を見開いていた。
「その機械骨格……人工筋肉……。あなたも?」
「……うん」
「……あなたも、兵器ですか?」
イクスの言葉に、スバルは瞳を伏せた。
「……そうだね。鋼の骨格に、強化筋肉。戦闘機人の体は、兵器なのかも……」
けれど、それは違う。彼女はここにいて、生きている。人として生きたいと願って、ここにいる。思わず口を開こうとした私とイクスに、スバルは微笑んだ。
「だけど、今は人間だよ。……深琴、ありがと。もう大丈夫」
「マリーさんも呼んでるから、終わったらしっかり診てもらうからね」
「はーい。……じゃあ、イクス。脱出しますよ」
立ち上がったスバルは、その腕でイクスを抱き上げる。怪我を心配するイクスに「大丈夫」と告げて。……大丈夫なわけ、あるもんか。
「そんな無茶苦茶、許可できません。そんなわけで、イクス。私でもいいですか?」
「えっ? あ、いえ……あの、自分で……」
嫌がるイクスを無理やり抱き上げ、スバルのすぐ隣を飛行する。
「……あのね、イクス。うちは姉妹が六人いるんですが、みんな私と同じ体です。でも、みんな元気に……人間として生きてますよ。聖王陛下だって、ゆりかごなんて物騒な船とはバイバイしました。今は優しいママと一緒に明るく暮らして、楽しく学校に通ってます」
「本当……ですか?」
「本当です。帰ったら紹介しますよ。うちの姉妹や聖王陛下……昔のベルカのこと、色々知ってる人達に。みんなきっと、イクスによくしてくれます。……もちろん、私達だって」
イクスに優しく語りかけ、スバルは私を見た。すかさず私が頷くと、イクスは不安そうに瞳を伏せる。
「そんな……ことは……」
「大丈夫! 私が教えますよ。こんな炎の中じゃない、広くて青い空。イクスが生きてた時代とは、違う世界も」
力強くイクスの言葉を否定したスバルは、笑っていた。相変わらずの彼女に、思わず私も笑ってしまう。それはイクスも同じようだった。
「防災士長……あなたは少し、強引な方ですね」
「あはは、たまに言われます。『気弱なくせに、強引でワガママだ』って」
「そう思います」
六課にいた頃によく見た、スバルに溜息を吐いていたティアの姿を思い出す。そして一緒に笑っているエリオとキャロの姿は、非常に懐かしい。
「ワガママついでにもう一個。家族や友達は、私のこと『スバル』って呼びますので……イクスもよかったら」
「あ……」
「あ、そうそう。紹介が遅れましたが、この子は深琴です。私の友達ですよ」
スバルの言葉に、イクスは私に視線を向ける。その目が僅かに見開かれ、直後に困惑するように細められていった。
「……あなたは、まさか……」
小さい呟きは、私にも届かない。イクスの様子に首を傾げながらも、スバルは私を見た。
「深琴! ちょっと飛ばすけど、私が先導する。付いて来て!」
「了解!」
《Accel Fin.》
淡紅色の小さな翼が、足首付近に広がる。脱出劇が、始まった。